第26話 陸戦
「――――徹甲弾、目標に命中!されど効果は確認されず!」
「2号車、4号車、撃破されました!第4戦車中隊も行動不能、もはや機甲部隊の残存戦力は壊滅状態です……。」
「ハァ?ここにいたのは4個戦車大隊分だぞ!?それが何で2個戦車大隊程度にこんないいようにあしらわれている?このままでは全滅するだけだ、吶喊するぞ!」
「ですが、相手を殆ど視認すらできていない状態です、これは撤退すべきです!」
「クソが、いったい日本軍はどういうマジックを使っていやがる……?」
丘に囲まれたその地形ではニシル陸軍の第3機甲師団に所属する4個戦車大隊のほぼすべての車両――――200両にものぼるニシル国が誇る最新鋭の主力戦車群がその主砲を使うことなく屍を晒していた。
これは、ほんの少し前に起こった謎の猛攻撃に晒された結果だ。
もちろんそれを引き起こしたのは日本軍である。そしてそんな蹂躙劇を引き起こした者の正体――――それは【10式戦車】だ。
【10式戦車】、これは2010年に日本で装備化された5代目の国産戦車であり、最先端の技術が詰め込まれた世界初の第4世代主力戦車である。また、本車両は2030年が過ぎた現在でもいまだに生産が続けられており、今もなお改良され続けている戦車でもある。
そして、この戦車はいまでは第4世代主力戦車の「お手本」とも呼ばれ各国の戦車開発に深い影響を与えている。その「お手本」とは、10式戦車が装備化された時から搭載されている機能で、ある能力である。
それは「リアルタイム交戦能力」である。
この能力は言葉の通り、1両でも同戦車が敵を観測すればその位置や諸元などをすべての車両と共有でき、なおかつ見えない位置にいようがお構いなしにその諸元をもとに射撃すら可能、という代物である。それが建物越しに見えない車両であっても他の車両が観測さえしていればその建物ごと撃ち抜くことができるということだ。
しかも、この『データリンク』は歩兵のもつ端末、有人機・無人機からの観測情報のいずれからもデータとして「リアルタイム」で共有でき、なおかつ戦車自身の観測結果からミサイル攻撃の終末誘導にすら使用できるほどのデタラメな性能を持つ。
そう、相手がどれほど強力な主砲と硬い装甲を持っていようが1度でも観測されたらその瞬間に視認範囲外から一方的に打ちのめされるということであり、これは前世界においてもすべての戦車乗りから恐れられる程だ。
――――よくインターネットやマスメディアなどでも言われる話であるが、10式戦車は確かに目立つ性能として防御力や新開発された主砲などが取りざたされる。だが、本当に恐ろしいのはこの圧倒的な『データリンクシステム』なのだ。
それは今まさにニシル軍の戦車部隊に襲い掛かる。
事の始まりは丘の上から僅かに露出したペリスコープだ。もちろんこれは稜線の向こう側から出された小さな観測装置であるために熱シグネチャが発することがなかった。それゆえにニシル軍が持つIRセンサーではまったく感知できなかった。
そして、それを感知できなかったのが彼らの運の尽きであった。その数十秒後、稜線からいきなり突き出した何十もの鋼鉄の筒――――44口径 120mm滑腔砲が突如自分たちに向けて発砲、200両はいた戦車たちがかなりの数が無力化され一気に数を減らした。
このいきなりの奇襲にはさすがの精鋭ぞろいのニシル軍も大混乱であった。気が付いたら「主力戦車」の半分が一瞬で吹き飛んだのだ、無理もない話である。
彼らにとっての「戦車」とは硬く強靭なフレームに覆われた車体に自車の主砲すら防ぐ分厚い装甲板を溶接し、中にいる乗務員の命を守り抜く動く要塞のようなものである。そんな戦車が一瞬でスクラップになる光景はいくら精鋭とはいえパニックになるのは必然であった。
ただ、それでも数両は反応し、攻撃を行ってきた10式戦車に対して反撃するなど勇敢な行動をとるが残念ながらこの戦車の装甲を撃ち抜くことはできず、ただその砲塔に刺さったのみであり被害は一切与えられなかった。
【T-21A】、ニシル軍が誇るこの最新鋭戦車は前世界でいえば確かに第3.5世代主力戦車にカテゴライズされるほどの総合的な性能を持っていた。主砲も45口径 125mm砲を積んでおりほぼすべての戦車に甚大な被害を与えられ、防御性能についても同主砲の直撃を防げるほどの強靭さだ。攻撃を食らっても即座に反撃できるほどのセンサーを搭載しているし、機動性も出力重量比にして28を超えており主力戦車としては世界最高水準の戦車である。
だが今回は相手があまりにも悪すぎた。
10式戦車はその登場時ですら防御力にして対KE弾(APFSDS弾)防御が1000mm以上の装甲を持っており、また年月が経つにつれての装甲技術の上昇に伴い、モジュール装甲を新型に交換している。その直接防御力は砲塔正面の主要防御区画ではRHA換算にして1400mmを超えるのだ。
これほどの装甲を正面から撃ち抜くには、前世界で運用性に難があるとして試作段階にとどまっていた140mm砲ですら貫徹は困難であり、もはやこの転移後の世界ではいかなる戦車の主砲をもってしても貫徹不能だった。
そのうえ自身の搭載する主砲にしても、新開発されたAPFSDS弾は常温環境下ですら砲口初速1800mm/sを超えており貫通は驚異の1000mm以上にまで達している。その破壊力は当たり所によっては第3.5世代主力戦車ですら1発で行動不能にするほど強力だ。残念ながら彼らにとって敵うはずがなかった。
「20分」
この数字はただの1両も10式戦車を撃破できず、ニシル軍の戦車部隊が1両残さず破壊されるまでの時間であった。
現実でも本職が歩兵では倒せないと言う10式戦車だしこれぐらいはっちゃけてもいいかなと思った次第
感想待ってマース




