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第25話 鹵獲



 「中佐、12,000m先に防御陣地が確認された、と作戦本部から連絡が来ました!目標地点A(アルファ)へはこの陣地が完全に障害となっており、このままだと歩兵部隊が火点に晒される危険性あり、とのことです。」


 「了解した……。分かっているとは思うが特科大隊の支援の下、我々戦車大隊による敵部隊の防御陣地への突破攻撃を行う。我々が殿だ、気を抜くなよ。」


 『了解であります!』


 「よし、それでは行くぞ。」


 上陸戦が終わり、ついに顔と顔を向き合わせての直接戦闘。ニシル国にとっての先の見えない絶望的な戦闘であり、日本にとっては油断できない戦いである。


 一般的に≪上陸戦を行うには防衛側の3倍の戦力で攻めなければ上陸戦は成り立たない≫というのがこの世界での常識であったが、日本軍はなんとただの1個師団だけで上陸に成功し、あまつさえ防御側の戦力を完全に撃滅したのだ。それも、僅か1日で完全に戦闘が終了するという結果付きでだ。

 

 ニシル軍にとってはこの時点で完全に戦局予想が破綻する結果となっていた。本来であれば上陸戦といえど自分たちはかなり縦深の深い地形で待ち構えていたし、いかに日本軍といえどこれを突破するには数日はかかるだろう、と予想されていたのだ。

 そう、時間稼ぎをしているうちに大部隊を一気に集結させこの防衛線に投入する、というのが当初の目標だっただけにこの絵に描いた餅が見事に失敗したのには彼らにはかなり焦らせる結果となった。


 日本軍は一気にこの上陸戦に決着をつけ、その上もうすでに市街地に突入、国内でも最大規模であったメルデン軍港を完全に占領してしまったとあってはもはや軍上層部にとってどうしようもなかった。



2033.2.16

ニシル軍 臨時野戦司令部

16:14 日本標準時


 「閣下、あまりよろしくはない知らせですが報告によると日本軍は早くも3個師団を揚陸、そして現在もここを目指して進撃中であるそうです。」


 「地雷原はあまり頼りにならなかったか……。日本軍の進撃速度はどのくらいだ、いつ頃ここにつく?」


 「遅くても5日もあれば第1哨戒線に到達するとみられております。付け焼刃程度でしたが相当数の地雷を敷設しておきましたので、時間稼ぎ程度にはなるかと。」


 「ふむ……。そういえば、戦果としては敵の対戦車砲を積んだ装甲車を数両破壊した程度と聞くが……。」


 「ええ、彼らの偵察部隊が運よく対戦車陣地の近くに接近したため隙を突いて撃破できたそうです。その際彼らは撃破された車両を爆破処分したのち、撤退したそうですが、その際に処理がうまくいかずに状態が比較的良好であった車両を1両鹵獲できました。現在この基地に何とかそれを持ち帰ることができましたので、よければ見てみますか?」


 「おお、ぜひ頼むよ。」


 そうして彼らが案内された先にあった【車両】は、車内はミサイルの直撃によってほとんどが焼き焦げており、外観も酷くひしゃげていた。そこでは数人の技術者たちが鼻息を荒くして熱心に【車両】を調べている姿が見受けられた。


 「それで、これが例の車両かね?なんだかとても面白そうな装輪装甲車だが。」


 「はい、日本軍についてまとめたレポートにもありましたが、これは【16式機動戦闘車】と呼称されている装輪装甲車であるそうです。スペックとしては低圧式などではない通常の105mmライフル砲を搭載し、従来の戦車と同等のAPFSDS弾を使用、なおかつ時速100km程度の速度で機動できる兵器であります。我々の見立てではこれはあくまでも直接戦闘などではなく戦略機動性を重視した装備である、と分析されております。」


 「……この塊は?」


 「ああ、それはこの装甲車のサスペンションですね。かなり複雑な構造のように思われますが、彼らはあえてこのように強度を持たせながら簡単に取り外せるようにむき出しにしているようです。我々がこうして簡単に取り外せましたので、彼らも対地雷防御と整備性を両立させようとした結果だと思われますね。」


 「他にも、日本軍が使用しているAPFSDS弾も少数ながら鹵獲することができましたが、現在本土にある研究所に最優先で送ってしまったために今はありませんがね。後はこの砲塔正面にあった装甲板も一緒に手に入れることができたので、かなりの収穫ですよ。」


 「だろうな。……それで、これらを見てどう思う?ああ、好きに述べても構わんよ。」


 「――――正直に言いますと、このサスペンションに使われている技術だけでも我が国にとって扱えない代物である、と考えております。見たところ、これは全車輪制御かつ油気圧式ショックアブソーバーを全輪に備えており相当なコストがかかった足回りになっています。105mm砲を装備するからにはこれぐらいの足回りが必要だ、というのはわかりますが、これを消耗前提の車両に平気で搭載するということは正気の沙汰ではありませんね。その上、この車体全体に使われている特殊鋼ですがこれも相当な代物に見えます。恐らくですが、これほどのものになるとかなりの工業力がないと量産できないものですね……。」


 「つまり、とんでもない相手と戦っているという訳だな?」


 「ええ、はい。いち技術者として言わさせていただきますと、この装甲車はこの短時間で軽く見ただけでも相当高度な技術が詰まっております。敵ではありますが、これほどのものはかなり興味深いですね。」


 「……わかった、ありがとう。」


 やはりというべきか、その男にとってあまりいい知らせとはとても言えないような感想であった。


 ――――外は土砂降りの雨であった。



偵察部隊に配備されるなどの違いはありますが、史実の16式MCVと同じものです。

対戦車陣地に見つかってやられるとかだらしねぇな。



感想待ってマース

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