第24話 激戦
『-第5師団は先頭にあり-』
日本陸軍には「近衛大隊」「第7師団」「第101特別陸戦隊」などの日本を護る盾と矛の中でも非常に優秀な集団がいくつか存在する。
そして、その中でも最も強力な矛であり転移前の地球を見渡しても右に並ぶ存在は片手で数えられる程度しかいないほど精強な集団として常に数多くの人々によって称賛と栄誉を贈られてきた者たちが存在する。
それが広島を拠点とする「第5師団」だ。
彼らはそのモットーである『-第5師団は先頭にあり-』の通り、日本陸軍が誕生し今まで日本が関わってきたすべての戦争に参加し、なおかつそのすべての戦争において多大なる戦果をもたらし続けてきた日本陸軍でも正面戦闘、および上陸戦闘のスペシャリストである。
転移後の世界においても彼らは戦闘の中核として、そしてそのモットーの通り初の大規模戦闘の切り込み隊長として参加している。
☆☆☆☆☆
「――――君たちはこの戦争において初の上陸戦の先陣を切る存在だ。本来ならば危険すぎる作戦であるが、他にこのような手段がない以上君たちだけが頼りだ。期待しているぞ。」
『了解!』
「上陸開始まで30分だ。各員乗車を開始せよ!」
その掛け声と同時に、彼らは走り出し揚陸艦に搭載された【21式水陸両用輸送車】、通称【AAV8】に乗り込むのであった。
【AAV8】これはかのAAV7の後継車両であり、日米が半分共同開発することによって生み出された車両である。なぜ半分なのか、それは要求の違いが主な原因であった。
アメリカはかつてAAV7という世界中に輸出されるほどの傑作車両を開発したが、そんな車両でも時が経つにつれてやはりというべきか陳腐化が否めなかった。とにかくこの車両、陸上はともかく水上が遅すぎたからだ。その速度はなんと最高でも13km/hしか出せない程度。これでは1980年代ならともかく、2000年代にも入ればミサイルで狙い放題である。
AAV7を配備していた日本はこれに危惧し、自国のみでの新規車両を開発することが決まったがそれにアメリカが横槍を入れてきた。「自分たちもかませろ」と。
そうしてしぶしぶ共同開発として始めたが、早くも要求性能に齟齬が生じていた。日本は完全武装した1個分隊が確実に陸に上がれるように重装甲かつ高速を求めていたのに対し、アメリカはとにかく速く、かつ沢山の兵員を詰め込めるような設計を求めていた。
そんな中、アメリカは軍事予算削減を理由に共同開発を一方的に打ち切り、後に残されたのはガワとして設計として残された車体だけだった。
だが、日本は一人残されても根気よく開発を続け、2020年にようやく実用レベルの車両として本車両が完成した。性能としては要求通り1個分隊を確実に護り、かつ48km/hもの速度で上陸させられる理想的な性能に出来上がったのだ。
そして、この戦争でもその性能が遺憾なく発揮されておりニシル軍に牙を剥くこととなった。
『――――上陸開始時間になりました。ドックの注水を開始します。』
「よーし、行くぞ!発艦開始!」
1000馬力を超える高出力ディーゼルエンジンが一斉に唸りだし、ついに水上へと進みだしたAAV8。そして「水上走行モード」と言われる形態に変形しローサル島の北部にある浜辺を目標に次々と橋頭保を確保するためにその巨体に見合わないほどのスピードで進む100両以上のAAV8。だが彼らを阻む存在がローサル島には大量に存在した。
その一つが何重にも覆われた分厚い鉄筋コンクリート製の掩体壕に隠された戦車からの猛烈な砲撃だ。これによって実に6両ものAAVが撃破され、その中にいた隊員たちは海に放り出されることとなった。
そこに襲い掛かったのが同じく掩体壕に隠された機銃群だ。
この僅かな一連の攻撃によって実に50名もの精強な隊員たちはローサル島にたどり着くことなく命を散らしていった。
だが、それを見逃すほど日本軍も馬鹿ではなく、その攻撃から場所を割り出すことに成功した彼らは空母から出撃させた【F-10B】から放たれた2000lb JDAMの精密爆撃によって掩体壕は木っ端みじんに吹き飛んだ。
次に彼らに押し寄せたのは大量の対戦車ミサイルであった。しかしこれらは残念ながら車両に到達する前に日本が新規開発した【アクティブ防護システム】と呼ばれるAPSによってほぼすべて無効化された。それでも一部の車両に無力化が追い付かずに着弾してしまい数量のAAV8は中の隊員ごと海の底へと叩き込まれることとなる。
そんな10数輌を犠牲にした上陸であったが、やはり40km/h以上の速度で水上を走ることができる的をすべて撃破する、ということは流石のニシル軍にとって叶うことはなかった。
実に200両以上のほぼすべてのAAV8が20mm以上の大口径機銃や小銃クラスの銃弾、重砲の曳火射撃によって何らかの被弾を負うも、その中にいた隊員たちを誰一人ケガをさせることなく完全に守り切って無事に上陸を果たしたのだ。
「――――降車開始だ!GOGOGO!」
後部ハッチが開き切り中にいた12名の完全武装した隊員たちは一斉に降車した。だが、そんな彼らを歓迎したのは沢山の声援と掲げられたプラカードなどではなく雨あられと降り注ぐ銃弾の雨であった。
「近いな……なんでこんな場所の銃座をまだ潰せてねえぞクソッタレが!――――CP!こちらサムライ08、砲撃支援を要請する!方位6000、グリッド 455024、弾種榴弾!」
『こちらCP、サムライ08、了解した。方位6000、グリッド 455024に直ちに砲撃支援を開始する。近迫距離に注意せよ。』
「こちらサムライ08、CP、了解した!オレ達ごと巻き込まないでくれよ!」
その数十秒後、風を切るような音とともに【松型駆逐艦】から放たれた4発の127mm砲弾は第8分隊を狙っていた機銃座に正確に着弾し、爆炎と血肉をあたりにばらまきその機銃座を完全に沈黙させた。
「こちらサムライ08、CP、目標の沈黙を確認!good job!」
『こちらCP、サムライ08、了解した。同目標への砲撃支援を中断する、貴隊の幸運を祈る。』
戦闘が開始してから1時間が経過した現在、ついに日本軍への攻撃は完全にストップした。なぜならニシル軍の防衛部隊が完全に「無力化」されたからだ。
戦闘後の海岸はもとに美しい砂浜からは一転し辺りには血や肉がこびりついた鉄の塊が散乱し、酷いと臓物がひっついた鉄筋コンクリートの塊や、地雷によってずたずたに切り刻まれた車両の残骸が残るのみであった。
また、日本軍側でもこの戦闘で被害が発生しており、その数はおよそ26個分隊――――300名近い隊員が戦死した。そしてそのうちの130名は上陸時の攻撃によって命を落としており、上陸後では敷き詰められた地雷が主な戦死要因であった。
「こちらサムライ、CP、上陸戦は完全にこちらが勝利した。これより地雷の除去作業に移る。空は任せた。」
『こちらCP、サムライ、了解した。』
戦闘時、最も恐ろしい兵器は何かといわれると口々にこう言うだろう。
「地雷である」と。
対人、対車両の両方があり防衛戦においては最も効果を発揮する兵器こそが地雷だからだ。これを仕掛けられれば完全に除去できなければ一切侵攻を開始できないうえ、何より地雷はその威力に反して非常に安価である。ゆえにこうした上陸戦時にはどんな軍隊でも甚大な被害が発生するし、その侵攻を妨げられるためにニシル軍は「置き土産」として何千もの地雷を埋めていた。
一応日本もこうした地雷は頻繁に使用するし、その対処には米軍と並んでトップクラスの処理能力を保有していたが、ある程度の安全性を確保するその処理が完了するにはほぼ半日ほどかかってしまった。
だが、処理を終わらせればもうこちらのものだ。海上に待機していた機動揚陸プラットフォームや揚陸艦から次々とエア・クッション型揚陸艇が砂浜へと押し寄せ、今回の揚陸戦のために用意していた戦車大隊や特科大隊などをすべて吐き出すのに、処理を開始した時間を合わせても1日はかからなかった。
「全部隊の揚陸が完了しました!これより、北へ進んで30kmの場所にある湾岸施設へと侵攻。これを奪取します。」
「了解、では全部隊を発進させるとしようか……。」
上陸作戦が開始されて約1日がたった現在、幾人もの戦死者を出した第5師団はそのディーゼルエンジンが奏でる重低音と共についに陸上での侵攻を開始した。
(上陸戦のセオリーとか知らないです。)
人名を考えるのが面倒なのとあまりその手の話の描写が得意でないのでこの小説には心理描写が含まれるドラマ(?)はほぼ出しませんし、もっと言うと恋愛()とかいうものは絶対に出しません。戦闘には砲弾と泥臭さと汗臭いおっさんがいれば十分なんじゃ!と自分が考えているからです
※ちなみに機雷も敷設されていましたが航空爆弾や艦砲で薙ぎ払ってから上陸してます
感想待ってマース