第23話 砲弾
「だめです!防空司令部と連絡が取れません!近接防空部隊からも完全に連絡が途絶えています!」
「まず通信網から潰しに来たか……。本土の司令部とは連絡できるか?」
「それも完全に途絶しています……。」
日本軍との戦闘が始まってから早くも1日が経過した現在、我々はとにかく追いつめられていた。対空レーダー、通信基地、戦闘機、その他もろもろが殆どが撃破されてしまった。陸軍の機甲戦力を含めた一部の戦力はローサル島の防空壕に避難させてあるためほとんど損害は受けてはいない。
だが、その他はあまりにも被害を受けすぎた。そもそも中東のゲリラとの戦闘に慣れすぎていた軍隊がいざ本気で攻めてくる正規軍に対してどこまで優位を保てるか、そんなもの自明の理でもあるのだ。
確かに軍備は揃えてはいたが、ここ最近は国家間との戦争なんてついぞなかったせいでわが軍は正面装備の更新をあまりにも怠ってきた。
そんな中でこの戦争だ、我々が怠けていたのも一因だが、ここまで「正規軍同士の」戦争が激しいものなんて正直言って誰も想像していなかっただろう。
たったの一日でニシル軍の戦力のうち、全体の40%はすでに海に沈められたなど想像もしたくなかったが、泣き言を言っていても仕方がない。
日本軍はこの1日ですでに空母艦隊を出撃させ、わが国の海での最終防衛ラインすら突破してきている。陸軍自慢の1000発超の対艦ミサイル飽和攻撃すら敵に出血を強いることすら叶わなかった。
野戦対空レーダーを急いで展開させたが、恐らくだがすぐに日本海軍の空母艦載機による航空偵察と爆撃が開始されるだろう。短距離ミサイル群も展開が済んだものの、どこまで役に立つかすらわからないと来た。本当にこの戦争も嫌になる。
『レーダーに反応あり、高度7000、日本軍の偵察機と思われます!高度4000、速度100、数は……え?』
「おい、報告ははっきりと行え!数はいくつだ!?」
『か、数は……2000以上……、繰り返す、数は2000以上。』
「――――は?」
資料などはほとんどが機密文書化されていたが、日本軍はこの戦争において、いくつかの試作兵器の実戦投入を行った、といわれている。そのうちの一つがこの戦闘に使用された「超小型無人機群」である。
日本はこの超小型無人機を大量に投入することによって「敵の対処能力を飽和させる」ことを目的として転移前に計画として行っていた。
だが、いかに経済的に余裕がある日本としても予算の壁は大きくこの計画は中止されていた。だが、転移による情勢の変化がこの計画の運命を変えたのだ。これならば敵地への揚陸作戦時の砲火力支援での着弾観測などにむやみに偵察のために戦闘機を出さずに済むし、何よりミサイルでは撃墜不可能な極小サイズと数で敵の妨害は光学兵器でちまちまやるか、超強力な電子妨害ぐらいでしか墜とせないのだ。
日本軍はこの超小型無人機の開発を10年かけて行い、ようやく2033年に開発が完了。こうして実戦投入が叶った。
そして日本軍の目論見通りニシル軍はこの無人機の排除には非常に苦労することとなった。ニシル軍が持つ電子妨害装置では容易には墜ちはせずに悠々と飛び回られるこの無人観測機は最悪の兵器であった。
「2000機以上の偵察機……?いや、速度からしてどう考えても無人機だろうが数が異常すぎる。こんなものどうやって制御しているんだ?」
「少佐、とりあえずは後にしましょう。今はこれにどうやって対策するかです。」
「ああ、そうだな。――――ECM攻撃はどうだ?」
「先ほど行ってはみたそうですが、手持ちの装置では落とせなかったそうです……。ミサイルでは到底対処できませんし、光学兵器でもないと無理かと。」
「光学兵器、か……。本土にしかないうえ、まだ量産化できていないのでは話にならんしな。」
「これで彼らは弾着観測の手段を得てしまったというのが腹立たしいな。しかも無力化すらできないと来た。」
「仕方がありません、とりあえず日本軍がこの場所にこの無人偵察機を送り込んできた、ということはこのビーチに本格的に上陸を行ってくる、ということでしょう。できる限り防御を固めるべきです。」
「そうは言うがな、今のここはローサル島でも険しい山岳部に囲まれている強固な地形だし、屈指の防御陣地で固めてあるんだぞ?いくら何でもこんなところに来るとは……。」
「ですが、ここを獲られると隣の街の湾港まで一直線の道しかありません。それに、この一帯は山岳部に囲まれてはいますがここを獲られると奪還をするには標高の高い山に車両では越えられないため、ルートが限られてしまいますので至難の業です、ですのでここはなんとしてでも守らなければなりません。」
「まあ、それを日本軍もわかっているだろうし、わざわざ――――。」
突如響き渡る連続した着弾音――――そして衝撃波が目の前にある戦車陣地を蹂躙した。今の衝撃で戦車陣地はおろか戦車が跡形もなく消し飛んでしまったようだ。
「なに事だ!?」
「わ、わかりません!突然のことで……。」
「おそらく日本軍の攻撃、だろう。この攻撃は艦砲射撃か?だとしてもいったいどこから?」
「少佐……この掩体壕は大丈夫なのですか?」
「うちの工兵肝入りだぞ?まあ少なくとも1000㎏爆弾にも耐えられるだけの強度はある……だから心配せずに――――」
だがその直後、運悪く無人機によって場所を特定されてしまったこの掩体壕に2発の「APFSDS弾」が直撃し、中にいた数名の指揮官と将校は天井ごと崩れた掩体壕の下敷きとなり戦死してしまう。そしてこの攻撃は更にエスカレートすることになる。
☆☆☆☆☆
この攻撃を行っていた謎の物体の正体、それは日本海軍の『統合打撃艦隊』に所属する巡洋艦【足柄】、【羽黒】でありつい最近就役したばかりの最新鋭ミサイル巡洋艦だ。そして、この2隻が行っているのは300km以上離れた場所からの『155mm電磁投射砲』による対地砲撃支援であり、その威力はまさに現代に蘇った戦艦そのものであった。
「だんちゃーく、今!」
「観測機より座標修正。前に50、本射要求。」
「了解……調定よし、本射要求の準備完了。弾種、徹甲弾。4連射用意!」
「……撃て! 」
「だんちゃーく、今!――――目標ββ沈黙。本艦の射撃により、掩体壕を破壊。」
この『155mm電磁投射砲』、実はこうした掩体壕を撃ち抜くためのAPFSDS弾と少量の炸薬が詰まったAP弾しか撃つことができない。
だが、この電磁投射砲はこの砲弾をなんと2700m/sという凄まじい速度で発射することができるため、威力としては従来の艦砲よりも大幅に大きく、もはや面制圧力は戦艦にも匹敵しうるとまで言われていた。
本気で砲撃すれば『撃たれた場所の海抜が数メートル変化する』ほどの絶大な威力を発揮できるほど、と言えばその凄まじさがわかるだろう。そして、今がまさにそんな本気の砲撃を行っている最中なのであった。
「よし……これより、第5師団による揚陸作戦を開始する。指示があり次第すぐさま支援砲撃を行う。対地戦闘は維持せよ。」
「了解。」
「さて……ノーヴェンバーのお手並み拝見と行こうか。」
戦後、世界中の様々な資料においてこの一連の戦闘を「歴史上、世界最大規模の上陸戦」と呼ぶ戦闘はすぐそこまで迫っていた。
展開が似てばっかりでいろいろと描写するのが難しいと感じる今日この頃
ちなみにこの第23話のタイトルは本当は「とある科学の電磁投射砲」にするつもりでしたが自重しました
感想待ってマース




