第22話 巡航ミサイル
「対空ぅー戦闘用意!」
『統合打撃艦隊』、本戦争においてはローサル島を攻略するために編成された艦隊の中でも輪陣形のほぼ中心に位置し、本作戦における防空の司令塔である六甲型巡洋艦【鞍馬】、その艦内中枢部にあるCIC――――戦闘指揮所では現在、非常に慌ただしい様相となっていた。
それは、つい10秒ほど前にこの艦隊の周りを哨戒していたE-2Dから統合戦闘指揮システムを通じて≪未確認飛行物体≫が本艦隊に接近しているとの警報が通達されたからである。
そしてその≪未確認飛行物体≫の飛翔速度などからこれを対艦ミサイルと判断した艦隊はこれを迎撃するためにこのような騒ぎとなった、という訳だ。
「主砲、ミサイル、光学兵器準備よし。」
『目標探知065度、距離285、数は1200、そのまままっすぐ突っ込んできます。』
「了解、右対空戦闘用意。CIC指示の目標!――――DEW攻撃(指向性エネルギー攻撃)はじめ。」
「了解。対空ミサイル TrackNo.40から70、Recommend Fire……発射用意、撃て !」
直後、轟音とともにRIM-7――――長距離艦対空ミサイルが飛び立ちローサル島から放たれた対艦ミサイルを粉砕すべく飛翔するのであった。
『目標命中まであと300秒。』
「了解、続けてEA攻撃(電子攻撃)を開始せよ。」
「目標群、210発が海面に着弾。DEW攻撃成功しました。」
『――――F-10B飛行隊が【蒼龍】、【飛龍】から出撃しました。当該空域の到着までおよそ200秒』
どこか軽い雰囲気を持ち合わせた電子音と共に空母から航空隊が出撃したことが伝えられた。
『――――目標、EA攻撃によりさらに200発を撃破。』
『F-10B、U-1、AAM-6を600発発射……目標に全弾命中。』
『RIM-7、460発全弾命中を確認。』
『TEHL-2(戦術高エネルギーレーザー)の照射を開始……目標200発の撃破を確認しました。』
『目標、残り260発。各艦シースパローを発射せよ。』
「了解、シースパロー発射。」
――――これが日本軍の対空戦闘か。この戦闘の中、ランカー連邦国軍の将校であるその男はそうひとりごちた。……流石に1200発もの対艦ミサイルと聞いて肝が冷えたが、日本軍はどうやらこれをすべて退けられるらしい。一応、観戦武官としてこの【鞍馬】に搭乗しこのCICと【統合戦闘指揮システム】とやらの説明を受けてはいたが、実際に目の当たりにするとかなり先進的な装備であるということが分かってしまった。
「これわが軍にも欲しいな、売ってはくれないだろうか?」
そう考えてしまうほどあまりにも戦闘を変えてしまうシステムといえよう。従来ならば人が必要なところをAIが肩代わりしてくれるのだ。そう、あまりにも効率的過ぎるほどに。これさえあれば今までの戦闘の無駄や些細なミスが極端に減り、艦隊ごと一つのシステムで制御できるとあらば継戦能力も大幅に向上するだろう、とその男が一目見ただけで推測できるほどの代物であった。
『目標、全撃破を確認しました――――。!距離150にて水中にて魚雷発射音を確認しました。』
「やはり潜水艦も潜んでいたか。」
『はい。照合の結果、目標は巡航ミサイルであることが確認、迎撃を開始します。――――DEW攻撃(指向性エネルギー攻撃)はじめ。』
『目標の撃破を確認しました。――――潜水艦の位置を特定。当該水域にSH-60L、【SSN-402】が急行しています。』
ニシル海軍はどうやらこの対艦ミサイルの飽和攻撃に交じって潜水艦から巡航ミサイルを放とうとしていたらしい。だがそれもすぐに気づかれ、残念ながら巡航ミサイルは艦隊の姿すら拝めずにあえなく撃破されてしまったようだ。そして数十分後には潜伏していた潜水艦も巡航ミサイルの跡を辿っていったのであった。
なぜニシルはわざわざ巡航ミサイルを飽和攻撃に忍び込ませようとしたのだろうか、その時点では気付いた人間はごくわずかであったが、その数分後、艦隊のもとにとある通信が入るのであった。
――――沖縄に対しEMP攻撃が行われた、という通信だった。
☆☆☆☆☆
ニシル国は本戦争において万が一不利な状況になったら日本の軍事施設に対し核攻撃を行い、日本軍や日本国民に対しショックを与えることで少しでも厭戦意欲を与えるつもりであった。
リワン島(史実の海南島)基地が壊滅し、潜水艦の行動が大幅に制限されてしまった現在も変わらない行動目標の一つでもあり、「もしもの時のために」こっそり開戦前に核巡航ミサイルを発射できる潜水艦を退避させていたのだ。
そして日本軍が戦闘を開始した直後、案の定というべきかリワン島の潜水艦基地は破壊されてしまい、そのうえニシル国は窮地に立たされることとなった。元々が作戦としてある程度想定されていたし、大統領の命令もあってか、極スムーズに日本に対する核攻撃は行われることとなった。
沖縄の勝連海軍基地に向けて発射された核巡航ミサイルであったが、結論から言うと残念ながら勝連海軍基地には着弾はしなかった。そう、P-1の定期的な哨戒任務の途中にたまたま出くわしてしまったからだ。
事前に情報軍から核巡航ミサイルによる攻撃の可能性を示唆されていたため、この巡航ミサイルを核兵器とほぼ断定した日本軍は即座にF-10A 1個飛行隊を出撃させ、全力でこれの迎撃に当たった。
そうした迎撃によって巡航ミサイルは沖縄本島に届くまでにそれがすべて撃墜された、はずだった。迎撃したのはいいが、なんとそのうちの1発がEMP攻撃によって誤作動し海水に着弾、そのまま核爆発を起こしたのだ。
幸い、これに巻き込まれた軍用機はおらず、本島からかなり離れていたために直接の爆熱による被害はなかったが核爆発の影響で電磁パルスが小規模ながら発生し、沖縄本島において電子機器類が破壊や事故、病院の電源が停止するなどの事故によって数十名の民間人が亡くなってしまったのだ。また、この攻撃によって経済にも影響は少なからず発生し、のべ数十億円規模で被害が発生してしまうのであった。
世論はこの攻撃を防げなかった日本軍に対して批難が起こるが、事の真相を知るとこの核攻撃を行ったニシル国に対する怒りの方が大きくなり、このEMP攻撃に対して日本国内の世論はさらに過熱してゆくのであった。
BMDと巡航ミサイル対策をガッチガチに固めた日本相手にそんなもの通用しません、というお話
ただ日本人の感情を逆なでしただけの彼らの明日はどっちだ
感想待ってマース




