第20話 海戦③
「――――それで、潜水艦数隻を犠牲にして得られたのが彼らの駆逐艦を1隻沈めただけ、ということか?」
ニシル海軍第一艦隊 旗艦 ミサイル巡洋艦【D-213】で数人の男たちが口論をしていた。内容は、数時間前に発生した『統合打撃艦隊』との戦闘についてだ。
【β-201型】3隻の犠牲に対し、日本は3000t級駆逐艦を1隻失った。
これは彼らにとって初の戦果であると同時に、非常に不愉快な結果でもあった。ニシル海軍におけるシミュレーションでは3隻が深海からの不意打ちの形で同時攻撃を行えば1波だけでも3または4隻は撃沈可能となっていたのに、この少なすぎる戦果である。彼らには到底満足できるものではなかった。
……彼らは知らなかったが、日本はこの艦隊行動において対潜ヘリを常時展開しつつ、さらに【松型】沿岸用駆逐艦の簡易版を含めほぼすべての艦艇が搭載しているマルチスタティックソナーと呼ばれる画期的なソナーシステムで各艦が連携していたためにここまで被害が抑えられていたのだ。
ゆえに【松】1隻だけの被害で済んだのだ、これがもしも2010年代の日本海軍なら想定通りの被害が出ていたであろう。
ただ、それでもはるかに自分たちよりも格上の相手に被害を与えられた、ということはニシル人にとっては素晴らしい戦果であり、その事実に浮かれた【D-213】の乗務員たちはほんの少しではあるが浮ついていた。
「いえ、それでも日本に対して被害を与えられたのです、大佐。それに、このままだと彼らは恐らくローサル島に上陸してくるでしょう。ですので、その戦力を1隻でも減らすのは喜ばしいことです……空母を沈められなかったのは少々残念ですがね。」
「まあ、そんな簡単に空母をつぶせる訳でもないしな。せいぜいこの艦隊で弾薬を消耗させて、陸からの対艦ミサイルで苦しめさせればいいさ。」
「ええ、そうですね。」
――――そうは言うが、何か嫌な予感がする。そう考えた副艦長はそんな予感を振り払うために話題を変えることにした。
「そういえば、日本軍にはなかなか面白い航空機がいるそうですね。【B-1】という戦術爆撃機なんですが、なんでもこいつはいざというときは対艦ミサイルを大量に積んで海上にいる艦艇に超低空攻撃を仕掛けられるそうですよ……しかもこいつは大型の爆撃機なのでかなりの対地支援攻撃も行えるそうです。わが軍も是非とも欲しい装備だと思いませんか?」
「ほお、日本軍もなかなか面白い航空機を開発するんだな。爆撃機なのに、対艦攻撃も想定されているのか……確かにわが軍にも欲しいものだな。」
「他にも対戦車ヘリに小型のレーザーアクティブ防御システム?というものが搭載されているらしく、対空ミサイルにも一定の耐久性を確保できているそうです。紛争に役立ちそうな兵器が日本には沢山あってうらやましいですよね。」
「ああ、確かレーザーでミサイルシーカー部分を壊して無力化するとかいうやつか。確かにヘリに搭載できるなら便利だな。」
「それと他にもですね――――。」
だが、2人の会話はそれ以上長続きしなかった。なぜなら魚雷反応……それも複数が突如表れたからである。それと同時にオペレーターの絶叫するような声が艦内に響き渡る。
「方位0-8-0、距離13に魚雷反応あり、数は20以上!距離10…9…7、早すぎます!回避行動、間に合いません!」
「なっ……総員、対ショック姿勢用意!自走デコイ散布後、できる限り回避行動をとれ!面舵80、魚雷と並行になるようにしろ!」
そしてその数十秒後、【D-213】に艦が丸ごと持ち上がるような衝撃が襲い掛かった。あまりの衝撃に転覆すらありえたかもしれないぐらいの衝撃であったが、1万tはあるこの巡洋艦はどうやら持ちこたえられたようだ。それに、当たった魚雷も運が良かったのか艦底部で直撃せず、僅かにずれていたために【D-213】は奇跡的に沈むことはなかった。
奇跡的に沈むことがなく、なおかつケガも負わなかった艦長はすぐにこの攻撃の報告を聴き始める。
「――――全員無事か?艦の被害を報告できるなら頼む。」
「は、はい艦長。先ほどの攻撃により、機関部が故障し緊急停止してしまいました。幸いすべて故障はしていないので対空戦闘などには支障はありませんが、それでも全速力で戦闘機動は行えない状況です……。」
「そうか……今の攻撃は恐らく日本海軍の潜水艦だろう。対潜警戒していてもこれとはなかなか手厳しいな。」
「艦長!通信によると、今の攻撃で、【D-132】、【D-133】、【D-211】、【D-214】、【D-217】が轟沈したそうです……。戦術ネットワークにも反応ありません。」
「そう、か。くそ、今ので【D-131型】はおろか、200番台の艦隊防空艦が3隻も沈められてしまったのか。――――これはまずいぞ。」
「はい、現在本艦は防空システムが一部動かせないままの状態です。対空核ミサイル搭載艦も本艦のみで、あとはもう海に沈んでしまいました……そのうえ本艦の火器管制システムも現在停止中のため使用不可。今この状況でさらに突かれると非常にまずいです。」
「くそ……しかたがない、対空警戒を厳にせよ!何もしないわけにはいかない、なんとしてでも空から目を離すな、恐らくだが奴らは絶対に来るぞ。」
奇しくもその艦長の言葉は正解であった。なぜなら、【B-1】1個飛行隊が『空母殺し』の異名を持つASM-3を機体に詰め込み、狩りに来ていたからだ。潜水艦がまず艦隊防空艦を優先して潰し、即座に対艦ミサイルによる飽和攻撃。これが日本海軍お得意の戦術であり、ニシル海軍はまんまとひっかかってしまったのだ。
そして引っかかった彼らに待っていたのは、【B-1】1個飛行隊から放たれる超音速対艦ミサイル720発であった。
「――――新たな目標を探知!本艦より40°距離30よりまっすぐ突っ込んできます!」
「数は――――100、200、400、600、いえ、700以上!?距離25…17…10…速すぎる!」
「CIWS起動、オールファイア!なんとしてでも撃ち落とせ!」
「距離5…だめです、間に合いません!」
「くっ、総員何かにつかまれ、来るぞ!」
前世界においてイージスシステムに匹敵するといわれる防空能力を持つ【D-211】型ですら、全力で対応しても恐らく30秒程度しか反応する時間がないほどの超音速で突っ込んでくるASM-3の飽和攻撃にはまるで対応できなかった。……そもそも魚雷によって戦闘力を封じられていた彼らにはもはや防ぐ手段は残っていなかったのだが。
日本が誇る画像認証システムによってもはや艦の弱点部すら正確に着弾させ、最終的にマッハ3という速度で着弾することで6万tを超える空母すら莫大な運動エネルギーによって一撃で戦闘不能にまで陥れることができる大重量、超音速対艦ミサイル――――ASM-3は正確に【D-213】の艦の煙突部に着弾、そしてそれを狙っていたかは不明だが、【D-213】に搭載されていた自衛用の対艦ミサイルに引火し、大爆発してしまった。
魚雷によって半身不随の状態にあった【D-213】はASM-3の着弾とこの大爆発によって完全に止めを刺された形になり、爆発の衝撃によって艦内にいた全員が死亡。1万tはある大きな船体はものの数分で沈んでしまったのであった。
その後は【D-213】に続くかのように次々とASM-3は数々の妨害を物ともせずにすべての艦を平等に海底に送りこみ、ローサル海戦と呼ばれる戦闘は始まってから20分以内に終了した。
そう、ニシル海軍の主力艦隊――――20隻以上いたその堂々たる艦隊はわずか20分で姿を消すこととなったのだ。その後日本海軍に救出された生存者はわずか20名ほどであった。
目をつぶしてからフルボッコ、悲惨ですねぇ
感想待ってマース




