第17話 始動
深夜のニシル国、その中でも各地にある空軍基地では蜂の巣をつついたような騒ぎであった。十数分前に国内各地の空の目ことレーダーサイトがミサイル攻撃によって完全に破壊されたとあれば当然のことだろう。
国内最大規模であるエドワード空軍基地の中では複数の将校と兵士たちがその対応に追われていた。
「――――その情報は事実なんだろうな?」
「はい、この攻撃はまず間違いなく日本軍による空爆であります。」
「だが我々はそれを察知できなかったじゃないか、もしかして日本の連中はステルス機でも持ち出してきたのか?」
「現にこうして我々の目をすり抜けてレーダーサイトをすべて破壊したのですから、彼らの仕業でしょう……。」
「本部からは?」
「早期警戒機を総動員すること、それと各空軍基地の警備を強化して対空火器を待機させよとのことです。」
「日本軍の航空爆撃にはすぐに対応できるか?」
「恐らくは不可能かと、ですのであらかじめ戦闘機を飛ばしてしまう、という手で戦闘機たちを守るしかありません。地上待機している時が弱点なのです……もし今襲われたらここの基地としての機能は完全に喪失してしまい、陸軍への航空支援が滞ってしまいます」
「だろうな……なら今すぐ――――。」
とたん、辺りに内臓まで響くような猛烈な爆発音が轟いた。それに驚いた将校たちが戦闘機が格納されているハンガーがある外を見ると、そこには信じられない光景があった。
炎上する戦闘機、ぐしゃりと歪んでしまいその本来の機能を完全に失った格納庫、大きくえぐれた地面、炎に巻き込まれ地面を転がり二度と動かなくなった人間の姿が彼ら将校の目に映ったからだ。
「――――日本軍による空爆だ……。」
「は、はい?」
「日本軍による空爆といったんだ、私は!何をぼさっとしている、すぐにここから退避するぞ!外に出て救護活動だ、急げ!」
「り、了解!」
レーダーサイトを完全に破壊し、空の目を彼らから奪い去った日本軍。彼らが次に行ったのは戦闘機を多数駐機させている空軍基地への猛烈な爆撃だ。補助AIの活用によって効率的な爆撃を行い、目標を破壊しつくしてなおも爆弾が大量に残っていた【B-4】による大規模爆撃だ。
精度に関しても、特殊部隊によるセミアクティブ・レーザー・ホーミングだとCEP(半数必中界)は1メートル程度であり、GPS誘導では5メートル程度と確かに劣ってはいた。だか、それでも5メートルという数字は「戦闘機」という人に比べて大きな目標に比べると非常に正確なものであった。
それゆえにこういった精度が高く物量的にも大規模な爆撃は彼らには効果てきめんだった。このエドワード空軍基地、ここは国内最大規模というだけあって実に400機以上もの多数の戦闘機と輸送機を含む航空機が待機していた。だがこの爆撃によって95%もの戦闘機が破壊されてしまったのだ。本来ならばここまで被害は大きくならないはずであったが、なまじ空軍基地自体のキャパシティーが大きかったのと日本から比較的離れていたためにここを基幹とした後方基地として戦力を集積していたのが仇になった。
他にもこうした日本軍による爆撃によっていくつもの航空機たちが破壊され、ニシル国の航空戦力は日本と直接的に戦う前にその戦力のうち60%を一度に消失、大打撃を食らうのであった。
ただ、この攻撃によって学習した彼らは極力戦力を分散し、結果的に日本軍に兵站的な負担を強いることになったので必ずしもこれが悪いことではなかった。
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2033.2.14
太平洋沖 強襲揚陸艦【択捉】艦内
05:40 日本標準時
『統合打撃艦隊』 日本海軍がもつ艦隊であり、また平時は存在しない艦隊でもある。これは有事に航空母艦を中核として対空能力が高い巡洋艦数隻とそれをさらに護衛する数隻の駆逐艦、2隻の攻撃型原潜などで構成される「日本の本気」が込められた艦隊であり、今回の戦争にはミサイル攻撃などを警戒し、空母が3隻に巡洋艦が12隻、さらに駆逐艦、揚陸艦などが合わせて30隻以上がいる「超」大規模な艦隊である。
これは、ミサイル攻撃に対する抗堪性がアメリカの1個空母打撃群が500発ほどなのに対し、今回に限っては2000発を優に超えるほどにまで達している。また、対地火力投射の面からみてもこの艦隊には3隻の空母に搭載された100機以上にものぼる【F-10B】によって凄まじいものになっているといえるだろう。
この世界においてはまさしく『世界最強の艦隊』である。
そんな艦隊の中の何重にも守られた中心には今回の『長安作戦』の前線における司令塔である満載排水量が4万トンにも達する強襲揚陸艦【択捉】がおり、その艦内ではある男たちが会話していた。
「作戦の第1,2,3段階は無事成功したようだ……これから第4段階である第5師団の上陸作戦が始まる。本段階においては巡洋艦【足柄】、【羽黒】の2隻による電磁投射砲の対地砲撃支援に加え、【松型】沿岸用駆逐艦たちの砲撃支援も行われる。一応は戦略爆撃機隊による爆撃でかなりの航空戦力を削ったが、まだ完全に削ったわけではないので上陸前に一度航空偵察を行ってからCAS(近接航空支援)をしながら上陸を支援する。」
「ああ、それと現在『ノーヴェンバー』の海上戦力はいまだ健在であり、かなりの戦力が港から出港しているのが確認された、注意されたしとのことだ。。また、諜報員たちの報告によると、本土からだいぶ前から姿を消している何隻かの潜水艦がいて、太平洋側にひっそりと潜んでいる可能性が高いそうだ。一応、本土からも哨戒機を出しているからいずれは捕まえられるだろうが、くれぐれも油断しないように。」
「了解しました。……質問ですが、彼らはどうやら核巡航ミサイルを何発か保有しているようであります。これらはその消えた潜水艦には搭載されているのでしょうか?」
「ああ、それなんだがまだわかっていないそうだ。彼らも巧妙に偽装しているようでな、巡航ミサイルの弾頭がほとんど通常弾と似ていることもあって情報軍もそれの割り出しに苦労しているそうだ。」
「それだとかなりまずいですね……。なんとしてでも見つけ出さないと、彼らが何をしでかすかわかりませんよ。もしかしたら指令として本土への核攻撃を行う可能性もあります。」
「通信などを情報軍が割り出したが、それらしいものはなかったから気にしすぎとは思うがな……。まあ、この艦隊に核攻撃を行う可能性だってあるから油断するのはよくないな。」
「ええ、この艦隊とて核攻撃を食らったら流石に危険ですからね。」
「ああ、そうだな。」
「さて――――そろそろ作戦時間だ、気を引き締めていくぞ。『統合戦闘指揮システム』をオンラインにしろ。」
「了解……通信システム、並びに艦隊制御システム、統合火器制御システム、対潜哨戒システムの接続を確認。全システムオールグリーン、『統合戦闘指揮システム』起動します。」
『システム、正常に起動しました。これより、作戦行動に入ります。』
「よし、無事に起動したな。――――それにしてもこの電子音にはどうにも馴染めないな、私も歳かな?」
「私も若干苦手ですよ、少将……。なんだって技本はこんな音声にしたんでしょうね。」
「こういうのを趣味にしている奴がいるって噂らしいけどな、まああからさまなアニメキャラの音声じゃないだけましだ。」
「ですね。」
統合戦闘指揮システム=「俺たちが、イージスだ!」
こういう先進技術はACDS/JSWANなどでも徐々に実用化されていますし、海自も最終的には艦隊すべてを制御する代物を作りたいんだろうなあ、と妄想しながら書きました。
(システム戦の概念難しすぎぃ)
感想待ってマース