第11話 騒ぎ
2033.2.11
日本国 総理官邸 地下危機管理センター
15:23 日本標準時
『危機管理センター』、そう呼ばれるオペレーションルームは地下50mの位置にあり分厚い金属と、鉄筋コンクリートからなる装甲に守られており、日本国における災害やテロ、または国家との突発的な戦争が起こった際の指揮、そして平時にはNSC(国家安全保障会議)がこの場所で開かれ、もしもの場合には核シェルターとしても機能するまさに日本の中枢部分に当たる場所である。
現在、そんな場所では蜂の巣をつついたような大騒ぎとなっていた。それは30分ほど前に起こった東ロート海(東シナ海)の洋上で起こった日本軍機がニシル国の戦闘機によって撃墜されてしまった大事件が原因であった。
「それでは、これよりNSCを始める。事態は今より30分前にさかのぼるが、東ロート海においてわが国の戦闘機2機がニシルの戦闘機によって撃墜されたことが判明した。幸い、パイロットはミサイル攻撃が当たる直前に脱出しているそうだ。大村 国防大臣。」
「はい、総理。現在、第73航空隊をこの当該空域に派遣させる準備を進めており、それが準備出来次第すぐに脱出したパイロットの救助を行えます。また、沖縄の那覇基地から第304飛行隊がこれを護衛するために目下準備中であります。」
「よろしい、護衛の航空部隊の準備が終わり次第すぐに発進させたまえ。平山 官房長官、ニシル国の大使にはこのことを伝えたかね?」
「ええ、すでに10分前に。ただ、反応としてはあまりにも驚いていましたので今回の攻撃は大使などには伝わっていないようですね。もしかしたらこの攻撃は予期せぬものだったかもしれません。」
「――――その予想、おそらく正解ですよ官房長官。諜報部からの報告では、攻撃が行われるまではかの国では通信は活発な状態ではなくいたって普通。また国内のデフコン体制は『平時態勢』で特に物資の集積も行われず、『戦争には程遠い』とうちの諜報部は判断しておりました。これはかの国の戦闘機のパイロットによる独断行為の可能性が最も高いですね。」
「ありがとう林 統合参謀長。――――はぁ……だとしても『我が国の領空で』『国民を意図的に攻撃』したのは事実なんだ。悪いがニシル国にはそれの代償を払ってもらわなくてはならないな。」
「抗議と賠償金の請求だけにとどめてはおかないのですか?」
「あのな、そんなことしてみろ。『日本は腰抜けだ』と舐められるぞ?ただでさえ我が国は『新興国扱い』なんだ……。下手したらこの世界でも精々が地域大国扱いになってしまうだろうさ。」
「だから、ここでこの世界での大国であるニシル国を叩きのめし、日本の地位をより強固なものにしていく、と?」
「そういうことだ。――――パックス・ジャポニカ。この世界で日本による新たな秩序を構築し、日本をこの世界での不動の立場にしてゆく、そう、この世界における日本が最終的に達成しなければならない『目的』だ。ニシル国には悪いが、日本の踏み台になってもらうぞ。」
「日本による世界征服、かなりの悪者っぷりですね……。」
「ふふ、なんとでもいえばいいさ。それに、国家は正義の味方などではないのだ。正直者が馬鹿を見る……日本がこの世界で大人しくしている必要なんてないんだ、存分に暴れさせてもらうさ。あと、この国は元いた世界じゃ精々が発言力だけが無駄にあるだけの地域大国だったんだ。あの白人共は黄色人種というだけでいまだに差別していたからな。この世界でも若干その気はあるが、幸いここには正義気取りのアメリカはいない。いまこそ、この日本が世界の覇者となる時が来たのだ。」
「ニシル国はわが国をよく悪の親玉なんて言っていましたが、あながち間違いではなかったですね……。まあ、そんな綺麗ごとばかりでもないですからね。せいぜいニシル国はわが国のために散ってもらいましょう。」
「ああ、そういうことで若干の計画修正をしないといけないな。日本文化による姿無き侵略をはじめとして長い年月をかけて行って徐々に新秩序を作り上げるつもりであったのだが、これは実に好都合だ。それじゃあ統合参謀長、これからの予定の説明を頼む。」
「わかりました。――――ではこれからのことについてですが、現在の国内のデフコンレベルを2に引き上げます。その後はニシル国との戦争を想定したプラン『長安作戦』を発動させたいと思います。これは順次戦備体制を進めるとともにニシル国に陸軍の特殊部隊を隠密に潜入させ、国内の反政府勢力を刺激、それと並行して破壊工作を行って国内を混乱させます。そして準備が完了したらローサル島(台湾)への攻撃と強襲上陸と占領、その後はこれを交渉材料としてニシル国と講和交渉を行い終戦となるプランです。詳しい作戦内容に関しては今後に詰めていきますが、本戦争においては大まかにはこのような流れとなります。」
「ああ、説明をありがとう。……日本はあくまでもニシル国にはある程度の国力を残して存続してもらわないと困るからね。中途半端に滅んでもらっても日本が奴らのために金を出すのは御免だし、完全に滅ぼしても残された土地の扱いが面倒だ。それに民衆がゲリラ化なんてされたらそれこそアメリカの二の舞だ……。そこのとこ、上手いこと頼んだよ。」
「はっ、承知しました。」
「さて、それじゃあこれでNSCを終わりとする。『各員一層奮励努力せよ。』これが私から君たちに贈る言葉だ。君たちならうまくやれると信じている。」
日本、真っ黒ですねぇ...作中でも書きましたが、日本は大きな野望を秘めており、この世界ではそれの達成のためにはいかなる障害も容赦なく粉砕していきます。
あと地域大国と書いた理由ですが、この世界の日本はあまりぱっとしなかったからです。白人国家と血で血を洗う様な壮絶な戦いを繰り広げてはいなかったからですね。
史実でも日本は『文化侵略』を行っています、ついでに日本円の地位の確立や工業製品に使われる部品のシェアをいくつも牛耳って日本に安易に戦争を吹っ掛けられないようにも仕向けています(無自覚ですが)。こうした先人たちの努力によって日本はあるわけです。
感想待ってマース