第10話 撃墜
「絶対押すなよ?絶対だからな?!」
「(゜∀゜)!!!」
ニシル国のとある飛行場、そこでは数十分後に行われる『日本旅行』へのブリーフィングが開かれていた。ダニエル・ハアム少尉は今回それに初めて参加するパイロットであり、また彼にとってこの『日本への偵察飛行』が初めての実務としての飛行であった。
彼はこのブリーフィングには若干飽きていた。上官曰く、これは日本への挑発行為であり、決してレーダー照射などの危険行為を行なうな、と何度も言ってきた。だが、いままで訓練ばかりであって初めての実務としての飛行に非常に興奮しており、この上官の発言はあまり頭には入っていなかった。
もともと彼は若くして飛行適正を筆頭とし、さまざまな適性検査における検査において最優秀な成績を収め、ニシル空軍の中では彼を有望な若者として認識されてきた。
今回の実務から経験を積ませ、将来は幹部としての道を歩ませよう――――そうした思惑があったのかは定かではないが、異様ともいえるスピードで少尉にまで昇進していた。
彼は、自分の趣味としてインターネットにかなりのめりこんでいた。動画サイトやSNS、まとめサイト……そうしたインターネットは娯楽がほとんどない軍での生活にはもはや欠かせないものとなっていたのだ。
その中でも、彼を刺激したのは日本をこてんぱんに叩きのめすネット小説であった。正義の鉄拳が悪の親玉日本を粉砕する。そうした勧善懲悪ものに彼は毒されていた。
そんな小説にのめりこんだ理由、それはこの日本国に対して若干――――いや、かなりの恨みを抱えていた、ということが原因であった。
彼の父親がこの日本によって職を追われたから、というのもあるがこの国は日本が現れてから目に見えて衰えている――――実際は移民政策によるしわ寄せが一気に来ただけなのだが、それをかなり深刻にとらえていた。
彼のような若者にとって自国がそうした事態を招いたということ自体、認識すらされなかった。本来ならば、こういった思想は矯正されるはずであった。だが、なぜか行われなかったのだ。
それが悲劇につながると知っていれば、行っただろうがそれは後の祭りである。
☆☆☆☆☆
【Y-11】戦闘機に乗り込み、日本国の領空へと差し掛かったダニエル・ハアム少尉は、地上でブリーフィングを聞いていた時よりもかなり興奮していた。
ここが日本の空――――思ったよりも普通であった。彼が読んでいる小説であれば日本の航空機と熾烈な戦いを繰り広げられていた空よりも何もない、ごくごく普通な空であった。
だが憎き日本の空を我がもののように飛び、主権を侵害している。それはこの上なく彼を興奮させたのであった。
そんな彼であったが、上官からの警報によって現実へと呼び戻されることとなる。
『おっと、日本の戦闘機がお出ましのようだぞ……この空域でもう少し飛んだら基地へ帰投するぞ、聴こえたな?』
『了解であります。』
『ならよし、だがくれぐれも余計なことをするんじゃないぞ!俺たちが日本軍機を落としたりでもしたら即開戦なんだからな。』
『ええ、了解であります。』
その数秒後、自分たちの防空識別圏の侵犯を察知してスクランブル発進してきた日本軍機からおなじみの無線通告がされてきた。
『――――貴機は日本領空に接近しつつある。速やかに針路を変更せよ。』
日本軍機が、自分たちに見せつけるように翼を振ってきた。彼らはにとってはこれを「我に続け」の合図として使っており、わが国も最近これを導入しているのだが、上官に従いこれは無視する。
しばらくは彼らもこういった警告を続けている。我々が領空を侵犯するまでのお約束らしい。すると領空を侵犯したとたん彼らはこう言ってきた。
『警告。貴機は日本領空を侵犯している。速やかに領空から退去せよ。』
『警告。貴機は日本領空を侵犯している。我の指示に従え。』
上官曰くいつもこのように日本軍機とこういったやり取りを続けており、もはやこれが慣習化しているのだそうだ。それで、しばらくしたらそのまま基地に帰投し、任務が終わる。
だが、この飛行に非常に興奮して正常な判断を見失い、本来の任務を完全に忘れていた彼はこの後信じられない行動に出た。
なんと日本軍機に対してミサイルの照準を合わせる行為――――すなわちロックオンを行ってしまったのである。
これに最初に慌てたのは彼の上官だ。部下が任務を忘れて勝手に日本にむけて銃の撃鉄を起こしている……そんな状況に陥った上司は必死に無線で止めにかかった。だが、どうやら彼は興奮しており上司の必死の無線をほとんど聞いていなかった。
次に慌てたのは今回の防空識別圏と領空の侵犯を行ってきたニシル国の空軍機を追い払いためにやってきたF-6Dを操縦していた日本空軍のパイロット達だ。
いつものようにこの後警告を受け取ったニシル人たちが踵を返し国に帰ってゆく、そんな慣習を破ってけたたましく鳴り響く『Locked!』という警告音。
これにはパイロット達も慌てたが、すぐさま冷静に対処した。フレア射出によるロックオンの妨害を行い、即座に『電子妨害装置(改)』を起動し妨害電波を発信してロックオンから回避しようとした。
だが、ニシル国の戦闘機はこれで終わらせる気はなかったらしい。もう1機の方は何やらこれを止めようとしていた様だが、どうやら止められなかったのかロックオンをしていたもう片方がこちらに向けてミサイルを発射してきたのだ。
ロックオンをされたF-6Dは必死の回避行動を行ったが残念ながらニシル国が開発した最新の空対空ミサイル――――S-500は寸分違わずF-6Dの機体翼部を粉砕しその機体を日本の領海へと叩き落した。
これに対し、ついに日本空軍側も反撃を開始。ニシル空軍の戦闘機隊の後方で待機していたもう1機のF-6Dは機体に搭載してあったAAM-5C、正式名【04式空対空誘導弾(改)】を発射した。
このミサイルを発射した結果は、お察しのように彼らニシル国の戦闘機たちは必死の妨害に関わらず粉砕され、撃墜された。そしてこの突発的に発生した空戦は何とか日本側の勝利に終わったのであった。
お待たせしました、ようやく戦争編です。
かなり無理やりな展開ですしグダグダ感が強いですが、古今東西戦争というものは時代背景はともかく、耳やサッカー、お菓子に「ジョルジェ・マルティノヴィッチ事件」といった変な事件で戦争になったり亡国の原因になったりするグダグダ展開は多々あるので大目に見てもらえると助かります。
ちなみにこの「ジョルジェ・マルティノヴィッチ事件」は絶対に検索はしてはいけません、あまりのアホさに後悔しますよ。…絶対に検索しちゃダメだぞ!
感想待ってマース