第9話 憂鬱
2031.5.14
ニシル国 統合軍司令部 地下会議室
15:49 日本標準時
「それでは、これより定例会議を行いたいと思います。……本日の議題は、日本軍の戦力評価です。皆さんもご存じのとおり、わが国は現在日本国とはほぼ敵対状況にあり、日本軍の情報について知ることが専務となっております――――。それでは、こちらの資料をご覧ください。これが日本軍に関する詳細な報告とまとめとなっております。」
「――――これは本当のことなのかね?大佐。随分と誇張されているように感じるが……。」
「いいえ、マルタ中将、これらのことはかなりの精度で事実です。それも、諜報部が苦労しながらやっとのこと集めきった情報であり、なるべくあやふやな情報はすべて切り捨てたものです……信じられないとは思いますが。」
「それにしてもだよ、特にこの【ジェーン年鑑】に関する情報は驚愕に値するよ。なにせ、これが君の言う通り事実なら、日本海軍は4万tを超える巨大正規空母が練習艦を除いて6隻もいるそうじゃないか。更にはこの――――銀河システムとかいう弾道弾(?)とやらの防御を行えるエリアディフェンス(区域防空)艦が日本には18隻もいるんだ。なおかつポイントディフェンス(個艦防空)を行える防空艦も40隻以上、そして極め付けには【DE】と言われる艦種だったか?多種多様な任務を行い、さらにはいざというときの通報艦すら担当している……日本海軍はこんな艦を使い捨てにすらできるんだぞ。ありえないだろうこれは、彼らは何と戦うつもりでこんな軍備を整備しとるんだ?正気じゃないぞこれは。」
「ええ、おっしゃる通りです。……日本海軍はどうやら『中国』、『ロシア連邦』、という国との2正面作戦を想定してこの艦隊を整備していたようですね。彼らは常に膨張主義を国体として掲げており、日本はこれの正面からの粉砕を目的としております。ここにあるこの日本のシンクタンクが発表している報告書には数週間で敵の艦隊戦力を粉砕し、彼らの継戦能力をくじかせるとされています。これらが空母の日本海軍航空隊と連携したらそれはもう恐ろしい結果になりそうですね。」
「はあ……全く、日本という国を知れば知るほど嫌になるよ。それにこの資料のぶ厚さだ、まだ他にもあるんだろう?」
「はい。今度は日本海軍からいったん離れて、日本本国の防空能力に関する報告をさせていただきます。数年ほど前から、わが国は日本国に対する防空能力の有無や、それの正確さを【Y-11】戦闘機や【Z-3】ステルス爆撃機をかの国の領空近辺まで偵察飛行を行って調査をしてきました。1531ページにこの件に関する報告があるのでご覧ください。」
「ああ……それで、これも本当のことなんだろう?――――日本は現在、ステルス性を持つ航空機に対し、何らかの探知方法が存在している。先日の我が国による【Z-3】の偵察飛行には領空にたどり着く前にはすでに捕捉されており、彼らにエスコートされながら『丁重に』追い払われた、とある。ステルス機は今までは絶対無敵な航空機だと思っていたが、日本にとってはどうやら違うらしい。まったく、本当に末恐ろしい国だよ日本は。早期警戒レーダーに関しても我が国より数歩先を進んでいると来た。」
「ただ、日本は巡航ミサイルに関してはそれほど脅威を持っていない、と諜報部から報告が上がっていますので、まだ我々にも優位な点は残っていますよ。少なくとも我が国の巡航ミサイルは世界一の性能ですからね。万が一の時には重厚な防空網を持った日本とはいえ痛手を負わせることができます。」
「どうだかな……少なくとも我が国にとって日本は絶対に戦いたくない国家なんだ。戦わないことのほうがよっぽど利益があるがね。」
「それもそうですね。」
☆☆☆☆☆
一方の日本軍も諜報部から挙げられてきた情報に非常に頭を悩ませていた。それはなんと、この世界におけるあまりにも多すぎる【核兵器】の存在であった。
この世界は一度世界大戦によって大きな痛手を負った、負ったのはいいのだが非常にまずいことにこの戦争が起きた頃には核兵器はまだ開発されなかったのだ。
これによって、【核兵器】はこの世界にとっては使用に対して忌避感をあまり持ち合わせてはおらず、戦争時には最悪の場合、戦況が不利になった途端に大量の小型核爆弾による戦術使用が起こりうる、と報告があげられてきたのだ。
日本がもといた世界では、核兵器は禁断の兵器の象徴であった。第二次世界大戦中にアメリカによって生み出された``それ``は当時の敵対国であったドイツの頭上に3発、首都とその周辺の都市に降り注ぎ独裁者アドルフ・ヒットラーを含む数十万人が核の炎によって命を落とした。戦後数十年がたった2000年代に入ってもこの放射能による被害が一部報告されていたほどだ。
地球ではこれが惑星全体で起こり人類そのものが滅ぶことを恐れ、戦後に核不拡散条約が締結されるほどであったのだが、恐るべきことにこの世界では核実験が開発過程に行われる程度で、ほとんどこの兵器に関してトラウマを持っていなかった。一部専門家はこれを警告はしていたようだが、そんなものは焼け石に水であり、むしろこの世界でなんで核兵器によるパイ投げ合戦 で滅びなかったのか不思議なぐらいであった。
もしもニシル国が核兵器を数千発単位で持っていたら――――そして、もしも彼らがこれを一切の躊躇なく戦場や国土に対して使って来たら。
日本軍にとってまったくもって憂鬱な情報であった。できればこんなことを知りたくなかった程度には、だ。
そしてこれに危機感を覚えた日本は国連会議の場で必死に核兵器の危険性や、そのあまりの恐ろしさを実際にそれを体験したドイツの資料などとともに長い年月をかけて根気よく発表しつづけた結果、ようやくこの世界でも核不拡散条約に等しい条約が日本を筆頭に締結され、核兵器の保有数が大幅に減少し、いくつもの世界の危機を救うことになるが、ここではあまり関係は無かった。
はい、この世界でも核兵器など日本は非常に悩まされることが起こっています。これらは日本が掲げる『目的』の邪魔になるため排除の対象です。
核兵器がポンポン使われるほど引き金が軽い世界とか嫌ですよね。幸いこの世界ではまだそのようなことは起こっていませんが。ちなみにあくまでも核爆弾は一般人による認識はただの大きな爆弾程度であり、史実において有名な相互破壊確証もこの世界にはない考えです。
DEに関する設定などはこちらにありますのでよければ併せてご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n6466di/
感想待ってマース




