優羽に彼女がいた!?
それから1週間が経って、春休み終わりに近づいたある日、アラームをしっかり切って、寝ていた俺とその隣で俺が起こさないことをいいことにぐっすり俺の腕を抱き枕の代わりにして寝ている咲。そんな静寂に包まれた部屋に1人、白いワンピースに白のハンドバッグ。身の回りを白一色に固めた透き通るような銀髪を腰あたりまで伸ばした綺麗な女性らしき人物が優羽のアパートに向かって歩いていた。
ピーンポーン ピンポーン
チャイムが鳴った。俺はまだ半分寝ている状態で枕元に置いているスマホを探す。あ、あった。幸いスマホはすぐに見つかった。たまに、寝落ちした時とか朝からパニックだからな?(笑)まあ、それは置いといて、誰だよこんな朝早くに来るやつは。そう思いながらスマホの画面の時計を見る。画面に表示された時間は9時50分。もう少しで10時になろうとしていた。
「まだ朝の10時じゃないか」
俺が時間を確認している間も数秒おきにチャイムがなっているのだが、どうしたものか。チラリと隣を見ると、咲がぐっすり寝ていた。すごいなと少し感心しつつ。また、別のとこではこの状況をどうするか考えて、よし、と気合を入れて、
ーーーーーーテレビの前に置いていたイヤホンを手に取ったーーーーーー
そのまま、スマホのイヤホンジャックに差し込み、ゲームミュージックのメドレーを流す。イヤホンからゆったりとした睡魔を誘うメロディーが流れてくる。そして、耳にはめようとした時、玄関の方でドアの鍵がガチャりと音を立てて空いた。
(まさかの合鍵持ち・・・だと・・・?だが、合鍵を持っているということは大体誰なのか絞れたな・・・・・・)
さぁ、寝るか。俺はイヤホンをはめ、布団に入った。
ガチャ、ギィィィ、バタン、
玄関の戸が開き、誰かが部屋に入ってきた(まぁ、予想はつくけど)。その入ってきた誰かは、俺の足元まで来ると、止まり、いきなり布団の中に入ってきた。
(なっ!?)
流石にこれはやりすぎだろ、俺はたまりかねてかけていた布団をめくった。そして、俺の隣にいたのは、
銀髪の凄く可愛い女の子だった
「はぁ、何をやってるんだ。お前は、雪」
「あ、ゆっくん、おはよ?」
「何がおはようだ!!まったく・・・」
こいつは、結城雪奈。俺と同い年の20歳で、従兄弟で、幼馴染みで、仕事仲間で、美人で、あとは男子ということだな。他には・・・・・・
「恋人♡」
・・・・・・はぁぁぁ!?
「お、お前。何言ってんだ!?勝手に変なの付け加えるなよ!」
いきなりこいつは何を言い出してるんだ、俺は男子を、好きになる特殊な性癖はない!!
「えぇ〜いいじゃん。僕とゆっくんの仲だよ?」
いや、一体どんな仲だよ。
「いや、ダメだ!これだけは渡せん!お前の仕事はイラストを描くことだろ!!」
そう、こいつは、うちの編集部というか、ラノベ業界では知らない人はいないと言われるイラストレーターなのだ。女装癖も合わせて有名なのだが。だから、何故か男の娘(性別は男だが外見が女の子の格好をしている人のこと)として通っている。それに、親戚以外ではこいつの男の時の姿は見たことがない。
「うぅ、わかったよ・・・じゃあ、恋人だけにしてあげる・・・」
「いやいや、まてま―――」
「パパ・・・?どうしたんですか、大きな声出して・・・」
げっ、咲起こしちゃった。これはまずい、非常にまずいぞ。どうする!?どうしたらいい!?
咲は俺が内心で焦っているとはつゆ知らず、寝ぼけ眼で辺りを見渡している。ふむ、どうやら俺の大声の原因を探しているようだ。いや、何冷静に分析してるんだよ、俺は。
そして、その視線がとうとうというか必然的に俺の隣に座っていた雪を捉えた。咲が雪を見つけたと同時に雪も咲を見ていた。まぁ、目が合ったんだね。あ、やばい、荒れるかも・・・。
2人は、
「えっ、あ、どう、」
と声にならない声が漏れている。
これは、逃げた方がいいかな。俺はそう思いトイレに逃げようと立ち上がり歩きだそうとした時、
ヒシ ヒシ
右腕を雪に、左腕を咲につかまれた。
「「パパ(ゆっくん)」」
2人の優しい声が後ろから聞こえてきた。俺は背中に冷たい汗を感じながら振り返って一言、
「はい・・・説明いたします・・・」
とだけしか言えなかった。とほほ、情けない俺。
咲のことを説明し終わると、雪は安心したように、
「ふ~ん、そういうことなんだ。焦って損しちゃった」
「ん、何故お前が焦るんだ?」
「てっきり、相手がいるのかと……ポッ」
「いや、お前、男だろ!」
「えっ!?」
俺の発言と同時に咲が驚きの声を上げた。
「雪菜さんって、女性じゃなくて男性なんですか!?えっ、だって、その髪にその格好・・・・・・」
まぁ、そうだよな、と思いながらも改めて雪の格好を見る。雪は名前に雪と入っていることもあり、大の白好きなのだ。だからなのか、髪は白(まぁ、シルバーだが)で染め、服はなんと!白のワンピースなのだ・・・・・・男は普通着ないものだろ・・・・・・まぁ、可愛いんだけどな。と、ここで雪が俺の視線に気づいたようでニコッと微笑んできた。はぁ、と俺は頭を抱えながらも、まだ俺の隣で通常運転に戻れていない咲を助けることにした。雪はこの際放置!
「咲、少しは理解追いついてきたか?まぁ、これから慣れてくれよ」
やはり、この反応が普通なんだよな・・・・・・アリスは普通に接していたのに。ま、いっか。
「はい・・・・・・」
なんか、いま、デジャヴったような気が。
「ねえねえ、ゆっくん〜」
「あ、忘れてた。そういえば、雪はなんで今日来たんだ?遊びに来た――格好ではないよな?」
「そうそう、今日、何の日が覚えてる?ってか、知ってる?」
俺は少し考えて、
「覚えてない、というか、知らんし、わからん!答え教えてくれ!」
「ねえ、ゆっくんさぁ、2次元のモノ以外は興味が無いことは諦めてるけどさ、せめて、自分が関わった人のことぐらい知ってないとダメだよ!」
「ん、どういうことだ?俺と関わった人?誰のことだろう」
俺の頭の中で今までに出会った人の顔がグルグルと回っていく。アニメ化の時?それとも編集社の人?普通に友達とかか?うーーーむ。
頭をひねって考え込んだ俺を見て、雪は諦めたように、ため息をついて、
「だから!今日はルナキラが13:30からライブするの!しかも、初のワンマンライブ!なんで、知らないの?」
「へぇ〜〜・・・・・・で?」
あ〜なんかそんな事をアリスが言っていたような・・・でも、外出したくないな・・・・・・咲もいるし。そう思い、咲を見ると・・・・・・目を輝かせて俺と雪の方を見ていた。
「雪菜さん、その話って、本当ですか!?」
ど、どうした、咲!?なんで急に・・・・・・あ!そういえば、咲って俺の本の大ファンだったっけ?
ちなみにルナキラというのは、俺の初アニメ化作品のオープニング曲を歌ってくれた2人組の声優ユニットだ。
なるほどな、だからか。にしても、ほんと、咲は好きなことの話題になった時のキャラの変化ってすごいよな。雪も驚き隠せてないし。俺は、咲に恐る恐る聞いてみた。
「咲、もしかして、行けるなら行きたかったりする?」
「はい!行きたいですっ!」
「まぁ、行けないことはないけど・・・・・・」
と雪の方を見るというか助けを求める。雪は俺の視線に気づくと、
「そういえば、ゆっくんには届かなかったの?チケット」
「へっ?チケットが届く?何の話?」
「えぇーーーーー!?」
と驚く雪を見て、流石に大げさだろうと思いながら、机の下に置いている箱を取り出す。この中には郵便物(ファンレター以外)を適当に放り込んでたまってる状態なのだ。いや、まぁ、めんどいし?許して?
しばらく経って、「あ、これかな?」そう言って、一枚の豪華な装飾が施された封筒を手に、それを雪に見せる。それを見た雪は、呆れたように頭を抱えて、
「そう、それ。僕が言ってたのは。そのチケット、特別招待券だからね?」
「へぇ〜そうなのか、全く気づかなかった」
とそこまで言って、横からの咲の少し怒っているような視線に気付き、急いで弁解しようとする。(ほとんど効果は無かったが)
「あ、このライブまであまり時間ないじゃん。ほら、行くなら咲、急いで準備するよ」