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 昇天の日から、2日後の夜。

 ロスヴァル公国の首都、ウルツァイト。


 街の東外れに住む一家は、一日の務めを終え就寝の支度をしていた。


「さあ、おちびさんたち! もう外は真っ暗だよ。ランプのオイルが勿体無いから、もう寝ましょうね」


 未だ年若い母親は、3人の息子たちに声を掛けた。


「はあい」

「はあい」

「はあい」


 それに良い子の返事を返した3人のおちびさんたちは、一人用の素朴なベッドを5つほど繋げて並べたベッドに大の字で飛び込んでいった。


「こらこら、そんなに手足を広げたら、お父さんたちが寝れないじゃないか。ほら、行儀良く寝なさい」


 父親がそう(たしな)めると、子どもたちはきゃらきゃらと笑いつつ、もぞもぞとベッドの真ん中に集まって、川の字に並んだ。


 両親は子どもたちへふわりと毛布を掛けてやると、子どもたちを挟むように自分たちも身体を横たえ、ランプの灯りを消した。



 いつもと何も変わらない夜だった。


 だから、目を覚ましたとき、おちびさんの一番上の子が何処にも居なかった時の家族の驚きようは、大変なものだった。



 家族は、子どもがふらふら外へ遊びに行ってしまったのだと、最初は思おうとした。そして、1日経っても帰ってこないとなると、今度は人攫(ひとさら)いを疑った。


 だが、ここは他国との交通の便が劣悪なロスヴァルである。わざわざロスヴァルくんだりまで子どもを漁りに来る人攫いなど、あまり聞かなかった。



 しかしその日から、このような奇妙な子どもの失踪事件が相次いだ。


 親と一緒に寝ていたはずの子どもが、朝になると忽然(こつぜん)と消えているのだ。

 事件の震源地である首都ウルツァイトでは、日に何人もの子どもが消えた。そして、奇妙なことにそれは6歳前後の子どもに限定されていた。


 いなくなった子どもたちは、その殆どが帰ってくることがなかった。


 いや、稀に家に戻ってくる子どもはいた。

 しかし、恐ろしいことに帰ってきた子どもの身体は、一部が青白い鉱石に変質していた。

それはどんどん身体を蝕んでいき、しまいにはその子どもの身体は完全に鉱石に変わった。


 同じ様な現象は何件か起こっていた。

 そうした子どもの身体は何らかの鉱石へと変質しており、医者にもその原因は知れなかった。

そのうちに、この現象を「鉱石病」と呼ぶようになった。



 6歳前後の子どもを持つ親たちは、子どもが居なくならないよう、厳重に戸締りをした。


 ある親は心配する余りに、傷をつけた手にに塩を塗り込んで寝ずの番をした。

 しかし気がつくと何故か眠りこけていて、目を覚ました頃には子どもは家の何処にもいなかった。

そして、何重にも鍵を掛けたはずの外への扉は、無情にも開け放たれていたのだった。


 ある人は、子どもが真夜中に外を一人で徘徊するのを見たという。

 夢遊病のようにふらふらと歩く子どもに、「こんな遅くに何をしているんだ」と手を掴むと、およそ子どもの力とは思えない勢いで振り払われた。

 そしてその人が茫然としているうちに、子どもは東の山の方へ歩いて行ってしまったという。


 また、ある人は子どもが何処に行くのかを、子どもに気づかれないよう確かめに行ったという。

 しかし、鬱蒼とした東の山の森に入っていく子どもを見たかと思ったら、子どもがぱったりと見えなくなった。

慌ててそこらを探しても、確かにさっきまでそこにいたはずの子どもは、もう何処にもいなかったと言う。




 そのうちに、人々の間にはある噂が流れはじめた。


 悪魔が復活したのだと。

 そして、その悪魔が真夜中に子どもたちを集めて、鉱石に変えているのだという。


 悪魔はとうの昔に滅んで、今はいないとされている。

 聖人レグルスが己が身を代償に全て打ち滅ぼしたからだ。


 しかし、悪魔の業とでも言わなければ、人々が一連の不可思議な事件を説明できる術はなかった。



 こうして、悪魔が真夜中に子どもたちを(さら)い、鉱石に身体を変えてしまうという(おぞま)ましく奇妙な噂は、ウルツァイト中にまことしやかに染み渡っていくのだった。


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