4(改稿)
若干の改稿を行いました。
私たちはバケツの水を洗い場に運ぶと、洗濯用の大きな盥目掛けてひっくり返した。
シュザは盥の横へしゃがみこむと、水の中へそっと指を入れ、すぐ驚いたように手を引っ込めた。
「ううっ! ……冷たあい」
春の初めは、日光は暖かいが風は冷ややかだ。
地下から汲み上げたばかりの水は、まだまだ刺すように冷たいらしい。
「でも今日はお日さまが出てるから、お水もすぐ温まるわ。見て、日の光でお水がキラキラしてる」
すると、盥の中を眺めていたシュザが突然、あっと声を上げて立ち上がった。
「そうだ! シャーリィ、シュザすごいものみつけたの!」
そう言うとシュザは、作業用の前掛けのポケットをごそごそと探り始めた。
「あった! ねえ見て、綺麗でしょう」
彼女が嬉々として私に差し出して来たのは、小さな岩石にくっ付いた、子供の親指の爪ほどの青い石だ。
「どうしたの、これ?」
私は渡された青い石を眺めながら言った。
「えへへっ、きらきらしてるでしょう?」
「本当……綺麗」
一見してただの綺麗な石のようだったが、不思議となにか吸い寄せられるものがあった。
研磨すれば、もしかすると宝石のように輝き出すかもしれない。
「ね、そうでしょう、綺麗でしょう? 私の目の色よ! 」
私が石を褒めたのが余程嬉しかったのか、シュザははしゃいだように笑った。
シュザは、自分の青い瞳が大好きだった。
お父さんやお母さんの瞳とお揃いの色だからだ。
きっと、何も残すことが出来なかったシュザの両親が、彼女へ唯一置いていってくれた贈り物なのだろう。
「あのね、この石はね、昨日森へ木の実取りに行った時にシュザがみつけたの!」
彼女はそういうと、大発見をしたとばかりに胸を張った。
「シュザ、昨日木の実取りの当番だったでしょう? 昨日はきのこも採るからって、近くの森じゃなくて、少し行った山の方までいったの。それで、先生や他の子たちと木の実やきのこを取っていたら、青い光を見つけてね、近づいてみたらこの青い石が落ちていたの」
「そうなんだ。青い石なんて、ここらへんではあまり見たことないわよね」
山の方へは私も行ったことがあるが、そんなものは見なかった気がする。
「綺麗……本当に」
日の光にかざすと、青い石はまるで中に閉じ込めていた光が溢れだすように輝きを増した。眺めれば眺めるほど、何故か心が騒いだ。もっと見ていたい、もっと……。
「ねえ、シュザ。これ私にちょうだい」
私は知らず、そう口走っていた。言ってから、自分の言葉に驚いた。
しかしそう思ったのはシュザも同じだったらしく、彼女はびっくりしたように目をまんまるくした。
「なんだからしくないね、シャーリィ。そんなに気に入っちゃったのね、それ!」
そういいながら、シュザは悩むようにううんと唸った。
「……お願い、私の分の砂糖菓子あげるから」
私の懇願に対しシュザは更に逡巡した後、うん、と何かを決めたように頷き、私に向かってにっこりとほほ笑んだ。
「もう、仕方ないなあ。それ、あげる!」
「えっ、いいの?」
自分からお願いしておいて何だが、シュザが存外あっさりとくれたことに私は驚いた。
「いいの。落ちてる所は覚えたから! 明日の木の実取りの当番、誰かに交換してもらって、そしたらシュザもっと大きなものをとってくるんだあ。だからあげるね。特別だよ」
シュザのその言葉に、私はかすかな不安を感じた。しかし、私が何かを言う前に、シュザは青い石を持つ私の手を両手で握ると、
「そんなに気に入っちゃったなら、今度シャーリィにも落ちてた場所教えてあげるからね。秘密だよ、秘密!」
と言って、その目を青い石のように輝かせると、楽しそうにステップを踏みながら走り去っていった。
少しあっけにとられた私は、手の中で転がる小さな青い石を眺めた。石は、太陽に照らされて仄かに青い陰影を手に落としていた。
それを見つめる私の胸には、喜びと胸騒ぎが同時に去来していた。
そして次の日、木の実採集に出かけたシュザはそのまま帰ってこなかった。