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2(改稿)

前提となるゲームの設定を変更しました。

 その夜、(ようよ)う眠りについた私は、数多の気がかりな夢を見た。

 押し寄せる夢たちの中で、名状し難い感情が私の胸に去来(きょらい)していた。

胸が締め付けられるような、身体が(えぐ)られるような、激情。


 しかしそれは、目覚めた途端どこかへ掻き消えてしまった。

 

 目を開けた途端、私が『私』の意識を得ていることに気づいたからだ。




 『私』は、前は日本人の女性だった。名前は大森優子、だったはずだ。

 ならば私はどうしてここにいるのだろう。


 ファンタジーの世界にトリップしてしまったのだろうか。それとも、死んでこの世界へ転生でもしたのだろうか。

 だとしても記憶が(おぼろ)で、いつ死んだのか、どうやって死んだのかの記憶もなかった。


 私は、日本ではごく普通の……本当に取り立てて言うこともないような人間だった。学校に通って、進学して、就職して。

 あえていうなら、少し家族への情が薄かった、気がする。決して仲が悪い訳ではない、穏やかな家庭だった。でも、どこかよそよそしさを覚えていたと思う。

 もっといえば、そもそも人とのつながりが希薄だった気がする。

 今思えば、なんだかとても空虚な人生を送っていたようだった。

 



 ……(シャーリィ)の前世については今はおいておきましょう。

 思い出したことの中にはもっと、シャーリィに関して重要なものがあった。


 前世でプレイしていたゲーム「アルカナ・キャッスル ~五珠の守護者(ガーディアン)~」の記憶。

 これは内容としてはファンタジーRPGで、前世の私が何度もプレイしていたものだった。


 このゲームがどうして重要かと言えば、作中に出てくる国や土地や、人名が、シャーリィのいる世界とぴたりと合致していたからだ。


 加えて、ゲームに出てくる「シャーリィ」というキャラクターの容姿が、シャーリィのものにそっくりだったのだ。

 暗い色味の赤髪に、翠玉(すいぎょく)のような青緑色の瞳。何より顔立ちが、6歳である今の私が、ゲームの中の「シャーリィ」の幼少期に、本当によく似ていたのだった。


 今の私がゲームのシャーリィ(の幼少期)かもしれない、と気づいたとき、私はそれはもう盛大に(くずお)れた。

 (シャーリィ)=シャーリィなんて! 最悪だ。

 

 何故って、このゲームにおけるシャーリィ――ロスヴァル公国公女シャーリィ・デ・ラ・ロンズデーライトは、「災厄公女」として悪名高いキャラなのである。


 このゲームには5人の主人公がいて、5人分の序章をクリアすると本編に進められるようになっている。

 その時に5人の中から1人操作する主人公を決めることになるのだが、操作キャラを誰にするかによって、本編のストーリーも少しずつ変わってくるといった寸法である。


 そして、主人公にはそれぞれに一人のヒロインが宛がわれている。

 ヒロインは、序章ではそれぞれの主人公のパーティに加わるが、本編では、選択した操作キャラのヒロインのみが本編のメインヒロインとして同行することになる。


 ゲームの中での公女シャーリィは、5人いる主人公の一人「リヒター」のをメイン主人公として選択すると、その幼馴染として登場するヒロインキャラである。

 一国の姫でしかも主人公の幼馴染と、かなりのテンプレヒロインキャラなのだが、しかし公女シャーリィは、このゲームをプレイした人々から「最悪ヒロイン」と揶揄されている。

 他にも、悪魔公女だの、災厄公女だの、散々な言われようである。

 


 何故シャーリィがここまでこき下ろされているかというと、「リヒター」編のメインヒロインの癖にいとも簡単に魔王側に寝返るからである。


 ゲーム終盤まで、散々主人公(リヒター)との恋愛フラグを立てていたのにもかかわらず、あっさり魔王に攫われたかと思えば次はボスキャラとして再登場するのだ。


 最初は洗脳されたのか?とか、身体が乗っ取られた?とかプレイヤーも考えるだろうが、そんな様子は一切ナシ。

 (あまつさ)え主人公一行を(なじ)り、素面(しらふ)で「自分は魔王と共にあるのだ」などと言い出す始末。

 あまりの豹変ぶりに、プレイヤーは揃って口をあんぐりと開けたことだろう。


 プレイヤーの心情と呼応するように茫然としている主人公達から、シャーリィは主人公たちが集めてきた“五珠の供物(くもつ)”を奪い取る。


 この“五珠の供物(くもつ)”と呼ばれる五つの宝珠はゲーム中のキーアイテムだ。

 これら全てを集め、宝珠に願えば、持ち主には歓喜が、世界には大いなる嘆きがもたされるという。


 シャーリィはこの“五珠の供物(くもつ)”を用いてその『大いなる嘆き』を引き起こそうとするのである。

 それを止めるべく戦闘になるのだが、ボスになったシャーリィはえげつなく強い。


 味方のときはせいぜいだだの補助魔法キャラだったのに、敵になると一転して複数石化魔法だの、即死魔法だのをバンバン打ってくる。

 「そんな力あるなら味方の時に使えよ!」と誰もが胸の内で叫んだことだろう。

 

 そんなトラウマメーカーぶりならば、シャーリィが「最悪ヒロイン」だの呼ばれるのも至極納得と言える。



 ゲームのシャーリィとの違いを挙げるとすれば、私の身分と年齢だろうか。私は身寄りのない孤児だが、ゲームのシャーリィはこの国……ロスヴァル公国の公女だった。


 それに、シャーリィが初登場したのは主人公の一人「リヒター」の序章の中であり、その時シャーリィは12歳だったはずだから、6歳の私がいるこの世界はストーリーの序章が始まる6年前の世界ということだろう。


 公女になるなんて、いったい6年の間に何があるのだろう。いや、そもそもゲームとこの世界は設定が違うのかもしれないが……。




 さて、思い出せたもので重要そうなのはこれくらいだ。

 正直言ってゲームについても記憶が定かでなく、記憶違いのところもあるかもしれない。

 しかしシャーリィと言うキャラクターのイメージはあまりに鮮烈で、故にかなりはっきりと覚えていた。


 だがそれ以外の記憶は断片的で、まだなにか大事なことを思い出していない気がした。 


 足りない記憶。

 それを思い出そうとする度に、今朝みたあのきがかりな夢(・・・・・・)の存在が、何故かちらつくのであった。



近日中にまた毎日投稿を始めたいと思いますのでどうかよろしくお願いします。

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