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MakotoP

 「……徹流(とーる)は、『ボーカライズ』にまつわる都市伝説は、聞いたことあったか?」


 こずみは真面目な顔になり、そう切り出した。


 「うんにゃ?」

 「とある、市内の男子の話なんだけどね」

 「うむ」

 「パソコンの前で、絞殺死体で見つかったんだ」

 「む」


 俺は数ヶ月前、男子高校生が変死体で見つかった、というニュースを思い出した。あれか!?


 「そのパソコンでは、MakotoPの新作楽曲が再生されたままになってたんだって」

 「ふーん。……で、それがお前の魔女っ娘コスと関係あんの?」


 そう言って、俺はこずみの格好を一瞥する。

 頭は魔女っ娘のシンボル、件のとんがり帽子。

 胸の部分が大きく開いた、ピンタック入りの白ブラウス。

 スカートはフリフリフリル。てか、服装の全体にフリフリのビラビラが取り憑かれたがごとくあしらってある。

 で、そこを丈短めのローブで(しめ)た按配だ。

 まあ、似合ってるっちゃ似合ってる、と言えんこともない。


 「……うん。MakotoPは私の盟友みたいなもんだからね!」


 そこでこずみは何かを思い出すかのように伏し目がちになる。盟友、か。俺これまでの人生でそんな言葉使ったことないわ。


 「MakotoPにも連絡とろうとするんだけど、繋がらないんだよ……」


 まだ色々と良く判らない。


 「うん? とりあえずその、都市伝説の件から片付けようか?」

 「あ、うん……。でね、その男子なんだけど、死亡現場の有様から、MakotoPの楽曲に取り殺されたんじゃないか、て噂になったんだよ」

 「……それって、荒唐無稽もいいとこなんじゃね?」

 「……でもね。私たちボーカライズPの間では、あながち冗談にならないんだ」

 「そこがなんでやねん」

 「なぜなら……」


 そこでこずみはひとつ溜めを作って、こう言った。


 「なぜなら、私たちボーカライズPは、みんな魔法使いなのだから!」


 なんやねんそれ!?

 てか、こずみ、お前、関西弁キャラやなかったんかい! 今回ちかっぺ(※1)標準語やがな!!


 ※1.『力いっぱい』の意。なおこれは福井弁。




 まず前提として、

 『ボーカライズ(プロデューサー)は、みな、魔法使いである』

 という認識でことにあたる必要があるらしい。


 「ほら、ボーカライズみたいな映像付きの楽曲なんて、実際問題、魔法使いでもなきゃ、作れないっしょ。無理っしょ」


 あ、うん……。確かに。

 なんでこの人ら、個人でこんなん作れるんや!? て思いは確かにある……。

 でもそれは、十分条件(?)であって、魔法使いである必要はないやろ(?)。

 てか、そもそも魔法使いなんておるんかいな!?


 「そうなのです。今日び、魔法使いはいるのです。そして私もその末席に名を連ねる者なのです」


 こずみはそう言って、指揮棒みたいな魔法の杖(ワンド)をつまんで、その場でくるりと一回転してみせた。

 ノリノリだ……。重症だ……。


 「お、おう……。じゃあさ、その魔法の杖(ワンド)とか何処で取り扱ってるんよ」

 「ア○ビ製」

 「ふぁ!? フォトショ○○とかの画像編集ソフトで有名なあのア○ビのこと!?」

 「so、so~」

 「(うわめっちゃ腹立つわこいつ何人やねん)なるほどね~。グラビアの修正技術とか魔法みたいやもんね~。って!」

 「ん?」

 「そんなノリでいいんかい!?」

 「まあまあ……、大分わき道それてるから、そろそろ話進めようよー」


 おちつけ、とばかり、両の手で俺をなだめようとするこずみ……。

 諭されてしまった……。

 妙齢の魔女っ娘さんに諭されてしまった……。


 「(おう妙齢って言葉の使い方間違ってんぞコラ)でね、MakotoPと同じくして魔法使い(プロデューサー)だった私は、ボーカライズの世界に潜って、その真相を探っていたのです」


 こずみ、そこでまたくるりと一回転。


 まあ……。

 魔法使いだったら、ボーカライズの世界、くんだりに行けたとしても不思議はないよね。

 (巻き進行なのでツッコミ入れない)


 「……それで判ったのは、死亡した男子の再生したMakotoPの新作楽曲、この中から、主演のlu-rabbit(ルラビット)ちゃんが姿を消してたの」


 シュールな展開やのう……。


 「私はこの事件の鍵は、消えたlu-rabbitちゃんが握ってると思う! だから徹流(とーる)、力を貸して!」


 と。

 こずみは右手を胸に、左手のひらをこちらに差し出しながら、創作バレエみたいなポーズをキメる。

 その先にいるのは、作業椅子に腰掛けながら幼馴染の狂言に付き合っていた、空気読めない俺だ。


 「(このまま放置して幼馴染があっちの世界(ネバーランド)に行ったきり帰ってこないてのも寝覚め悪いから)いいよ」

 「(いまおっそろしく辛辣な独白あった気がするけどまあいいや)じゃあ、いっくよ~♪」


 くるくるくるぅ~。

 本日3度目の、こずみのくるくるくる~、が出た(※むこうずね打ち付けたときのはノーカウントで)。

 なんか今度は、花吹雪とか特殊効果まで付いてる……。

 なんか、その花吹雪が、俺の体に集約して……。


 その儀式が終わると。

 俺は、宝塚(ヅカ)の男役みたいな格好をしていた。


 「な、なんじゃこれェ~!!!」


 ……うん。

 俺、この格好、見たことある……。

 ボーカライズの花形は、どっちかってーと、女性ボーカルだが、中には男性ボーカルのシリーズもあるわけで。

 これは、あれだ。

 女子ボカラファンに絶大な人気を誇る『quite(クワイト)』君のコスだ……。


 「…………」


 情けない面持ちで、自分のきらびやかな服装を眺める俺。そんな俺を、ためつすがめつ見つめてくる、こずみだった。

 唐突に。

 こずみは俺の両肩に手を掛ける。

 椅子に座ったままだった俺を、立ち上がるように促す。


 んで。


 棒立ちの俺を立たせたまま、自分はポーズをとって、スマホでツーショット写真をパシャパシャ撮りだした。

 十数枚ほど撮っただろうか……。

 こずみはスマホのサムネをくりくりしながら眺めていたが、相変わらず渋い顔で……。

 第2ラウンドに突入するつもりらしい……。

 俺にスマホ持たせて、自分はダブルピースのポーズ付きで撮らせたりとか……。

 俺に中腰になるよう促して、顔くっつけてツーショットとか……。


 「むふふふふふふ……」


 そないして、ようやくこずみは満足したらしい……。

 今はスマホのサムネを眺めてご満悦タイムだ……。


 「なー……。そろそろ話、進めよか?」


 進行滞ること著しい。

 しゃーないので、俺はそう言った。

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