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魔女っ娘コスのこずみさん

 夏休みというのは、時間がありそうで無い。これが俺、八千草徹流(やちくさとーる)が生きてきた15年間で学んだことだ。


 小学生のころは、馬鹿げたほどの宿題を出されて、それを消化する作業に追われていた。

 つまり、物理的に時間が無かったのだ。

 そして中学、高校と進むにつれ、宿題に加えて補修などという時間の使い方まで増え、やはり時間が足りない症候群は深刻化する一方だ。


 ただし、その質、は、序々に変化しているのかもしれない。

 子供の頃に感じていた『やりなさい』といった強制感はいくらか和らいで来ている気がする。

 その代わりに頭をもたげて来たのが、『どのように時間を使うか』という問題だ。


 『モラトリアム』という言葉は、学校で習ったのか、自分で調べたのか。

 Webをひも解くとこういうことらしい。

 俺たちは、社会のひとつの歯車となることを余儀なくされるが、少なくとも、自分がどのような歯車となるかは選べる、らしい。

 その選択のために与えられている猶予期間が『モラトリアム』なのだと。


 というわけで。

 どんな歯車になるか、という『自分の在り方探し』などという魑魅魍魎の類に時間を割く必要にまで迫られ、夏休みの時間の足りなさは加速する。


 そう。

 このネットサーフィンも、『自分の在り方探し』の一環なのだから仕方無い。

 うん。わかってますよ。

 夏の日差しの強い、こんな昼下がりであれば、外に出てもっと有効な時間の使い方もあるでしょう。人として!

 でもこれも、社会に対するギムなのだから仕方ない。


 と、そんなことを考えながら、ブラウザ上で張り巡らされたページリンクをポチポチして行ったところで、某大手の動画配信サービスに辿り着いた。


 なんとなくランキング上位っぽい、てきとーな動画をポチってみる。

 それは個人制作の楽曲に、(プロデューサー)と呼ばれる人たちが動画を付けた『ボーカライズ』楽曲のひとつだった。


 軽快な音楽が流れ始める。

 動画に現れるキャラクターは、そのリズムに合わせて、躍動感たっぷりに踊る。

 縦横無尽なカメラワークやカット切り替えで、それが効果的に演出される。


 と、その背後で、なにか別のキャラがチラチラと、映り込むのが目に留まる。

 カメラの切り替えや、ズームインやパンなどの具合で、見えたり見えなかったりするのだが、メインのキャラの背後で、なにかのキャラが、チラチラと映り込むのだ。


 背格好は、新手の魔法少女っぽい(初見)。

 が、その画面端にチラチラ写る感じが、果てしなくウザい。

 演出の一部だとしたら大成功だ(視聴者をイラつかせるという意味で)。


 ちっ。

 舌打ちしながらにらみ付けていると、そのキャラが『カメラに気付きましたよ』的な演出が入った。

 こちらを向いて手を振ってくる。

 いったいこの動画の趣旨はなんなのだろう……。

 あ、カメラ切り替わった。うむ、ヤツが消えた。

 ん?

 なんか画面奥から……。そのキャラが走ってくる……。

 て、画面ぶつかるんですけど?

 って!!!


 という、お約束を踏まえて。

 俺、八千草徹流(やちくさとーる)の部屋に、新手の魔女っ娘が駆け込んできました。

 ちなみにぶつかりそうになったんで、そこは華麗にスルーしときました。

 そこはぶつかっとけ、とか? 当たったら痛いから嫌だよ。現実考えろよ察しろよ。


 で。

 魔女っ娘さんはいま、部屋中央に置いてあったローテーブルに、むこうずねをしこたま打ちつけて、カーペット上でごろごろともんどり打ってます。

 痛そう……。


 あれ。

 俺、こいつの顔見たことあるな。

 えらい若作りしてる(なにせ魔女っ娘)から判んなかったけど。こいつって。




 「もう! 徹流(とーる)は、もうちっと部屋整頓しときいや!? 部屋入ったまん前にちゃぶ台置いとくとかないわー。ほんまないわー!(バンッ)」


 魔女っ娘さんはそう言いながら、立て膝をつき、真っ赤になった打撲跡(※痛そう)をフーフーしてます。

 あと、ローテーブル(ちゃぶ台)、バンバン叩いたりしてます。

 てか、パソコンのディスプレイから飛び出してくるヤツに非常識問われたくないわー。ほんまないわー。


 「……ん。とりあえず聞いておくけどさ、なんで俺のパソのディスプレイから飛び出してくるわけよ? ……幼馴染のこずみさん」


 そこで少し考え込む、魔女っ娘コスのこずみさん。ちなみにこずみさんは、俺とタメだ。

 こいつ、身長低い(145cmくらい?)からそれほど違和感ないけど、魔女っ娘コスはちょっと勇気のいるチョイスなお年頃だと思う。


 「……それを聞いたら、おぬしもう、もとの世界には戻れぬぞ」

 「なにそれどんな時代劇?」

 「むしろファンタジーやろが!? 超王道ファンタジーやろが!?(バンッ)」

 「王道じゃないんじゃね?」

 「……む。そうやな……。さいばーぱんく、てきな?」

 「てきとーこいてんじゃねーぞ。フィリップ・K・ディックとかシド・ミード(※1)、ディスんなや!?(バンッ)」

 「……あらま。わりとマニアックな所いくんやね」

 「わかった。わかりやすく虚淵玄(※2)で行こう。で、百歩譲ってもサイバーパンクじゃねーぞコレ」

 「……うむ」


 ※1.関連作品:アンドロイドは電気羊の夢を見るか/ブレードランナー

 ※2.関連作品:PSYCHO-PASS


 そうやって茶化してはいたが、あまり俺を巻き込みたくなかったのは本心らしい。

 なにせ、魔女っ娘コスでディスプレイから飛び出してくるような酔狂な事案なのだ。

 (こずみが魔女っ娘コスの時点で酔狂だと思うが、さすがにソレは口には出さない俺紳士)


 「……徹流(とーる)は、『ボーカライズ』にまつわる都市伝説は、聞いたことあったか?」


 こずみは真面目な顔になり、そう切り出した。

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