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謁見と美しきヴァンパイアの王



 自己紹介をしてしばらく話をするうちに、フィリアたちの雰囲気は打ち解けたものになった。

 どんな経緯で【花嫁】に選ばれ、この国に来たのかはそれぞれ違いがあるとはいえ、フィリアたちは同じ境遇なのである。

 年齢が近いこともあり、話が弾む。



「みなさん、お待たせしました。」



 フィリアが部屋に着いてから数十分経った頃。

 ノックの音が部屋に響き、フィリアたちは会話を中断する。

 部屋に入ってきたのは、赤銅色の髪と瞳の青年だった。



「これから謁見の間へご案内いたします。どうぞこちらへ。」



 何の感情もこもっていない声だが、態度や言葉遣いは丁寧な青年。

 フィリアをここまで案内した男とは随分態度が違う。

 しかしよく見れば、青年の瞳にははっきりと侮蔑の感情が見え隠れしているのが分かった。

 これなら、フィリアをここまで案内した男のように無関心なほうがましだ。

 フィリアたち【花嫁】が歓迎されていないということを理解していても、悪意を向けられるのはいい気分ではない。



「行きましょう。」



 ジュリアが発した言葉をきっかけに、フィリアたちは部屋を出て、青年について行く。



「緊張します…。私、お城に入るのさえ初めてなのに。」



 カナの言葉にマリアが笑う。



「私もお城に入ったのは初めてですよ〜。」



「大丈夫ですわ。私たちは一応【花嫁】として参りましたが、実際はそんな立派なものではありません。また私たちは人間ですから、この国に歓迎されているはずがありません。つまり、あなたたちが考えているような立派な場は用意されていないと考えられますわ。」



「そうだな。つまり謁見と言ってもそんな立派なものではないだろう。そもそも一人づつ謁見の機会をいただけないということが、もうすでに歓迎する気はないと言われているようなものだ。」



 ジュリアとリサの鋭い見解に、フィリアも苦笑をこぼした。



「そうですね。【花嫁】は別名【生贄】とも言われているくらいですし、私たちの待遇は良いものではないでしょう。今回、謁見の機会をいただけたのは、私たち人間の立場についてお話があるのかもしれませんね。私たちは自分がどのような立場でこの国で暮らすことになるのかさえ、知らされずに来たのですから。」



 事実、フィリアたちは自分がこれから何をすべきなのか、分かっていなかった。

【花嫁】という表向きの名の通り、誰かの元へ嫁ぐのか、後宮に入れられるのか。

 何のためにフェノール王国から少女の要求が来るのか、その理由も知らない。

 女を要求してくるあたりからして、嫁ぐことは決まっているのだと思うが。

 人間の国からは何の説明もなかったので、ただ言われるままにフィリアたちはこの国に来たのだ。



 小声で会話しているうちに、目的地に到着したのか青年が立ち止まる。

 それなりに大きな扉だが、明らかに謁見の間とは言えない大きさだった。

 コンスタンティノ王国の謁見の間の扉より小さい。

 城の大きさからしてこれが謁見の間というわけではないはずだ。

 扉の見張りをしている男も一人である。



(どうやら私たちの予想は外れていなかったようです…。)



 青年が見張り番の男に何かを告げると、男は頷いて扉を開いた。



「どうぞお入りください。」



 案内役の青年はそう言って、フィリアたちが部屋に入るのを見届けた後、あの案内役の男と同じように一瞬で姿を消した。

 部屋は意外と広かったが、中にいるのは数人の騎士と玉座に腰を下ろした男、その側近らしき人物しかいない。

 フィリアは【花嫁】に選ばれた際、コンスタンティノ王城で謁見の機会をいただいたが、もっとたくさんの人がいたように思う。

 やはりここは、正式な謁見の間ではないということだろう。



 フィリアたちは玉座から数メートルのところで立ち止まり、淑女の礼をとった。



「おもてをあげよ。」



 姿勢を戻してフィリアが目にしたのは、美しい漆黒の髪と深紫の瞳の四十代後半くらいに見える美しい男性。



「遠路遥々よく来てくれた。余が国王、ジェイソン=フェノールである。」



 国王と名乗った男性は優しげな声をしていた。

 だが眼光は鋭く、目があったら萎縮してしまうような雰囲気があった。

 ヴァンパイアは人間とは違い、長い年月を生きるという。

 数百年も昔、ヴァンパイアと人間の戦争を終わらせたという賢王。

 瞬く間に戦争を終わりへと導いた王の名は、ジェイソン=フェノール。

 四十代後半に見える彼は、実は数百年も昔から生きているのだった。



(数百年も昔から生きているヴァンパイアの王…この人は、今、人間の国では歴史として聞かされるだけの戦争の時代を知っているのですね…。)



 数百年という年月で戦争の時代を生きた人間は一人もいなくなった。

 ただ、戦争の時代の悲惨さだけは歴史として語り継がれ、今も人間たちに伝えられているのだ。

 フィリアは不思議な気持ちでヴァンパイアの王を見る。

 何百年も生きるとは、どんな感じなのだろうか。

 もしかしたら、この王よりも長い年月を生きているヴァンパイアも存在しているのかもしれない。



 実を言うと現在、人間の国にヴァンパイアのことを詳しく知る者はいなかった。

 ヴァンパイアは滅多にこの夜の王国から出てこないのだ。

 そもそもこの夜の王国がいつから存在したのかも諸説あり、はっきりしていない。

 数百年前の戦争で人間の国はあらかた燃えてしまい、それより前の文献はほとんど残っていないと聞く。

 戦争の時代から伝えられたヴァンパイアの特徴は様々で、太陽の光を浴びると死ぬとか、十字架が大の苦手だとか、銀のナイフで刺せばヴァンパイアに致命傷を与えられるだとか、人の血を飲むだとか。

 だが、そもそも数百年前は国から出て、ヴァンパイアたちは人間と戦っていたのだから太陽の光で死ぬはずがない。

 他にも夜の王国から出て、旅をしている物好きなヴァンパイアもいると聞いたこともある。

 十字架や銀のナイフ、血のことはよく知らないけれど。

 人間が知っているヴァンパイアのことなんて、真偽も分からないようなものばかりだ。

 戦争が終わってもう数百年経つというのに、人間とヴァンパイアはまだ何もお互いのことを知ろうとしていない。

 この数百年の間、フィリアたちの前にこの国に来た何人もの【花嫁】たち。

 一度、この国へ嫁いでから人間の国へ戻って来た者はいないと聞く。

 きっと彼女たちは、この国で一生を終えたのだ。

 彼女たちはどのような気持ちだったのだろうか。

 何も知らないままこの国へ来て、死ぬまでに、ヴァンパイアの何を知ったのだろうか。

 昔、サラからヴァンパイアと人間の関係についての話を聞いたときからずっと、フィリアはそれが知りたいと思っていた。



「まず、そなたたちにはこの腕輪をつけてもらおう。」



 挨拶もそこそこに国王は本題に入る。

 国王に合図されて臣下がフィリアたちに差し出したのは、何やら複雑な魔法式が刻まれた腕輪。

 手に持つと微かに魔力を感じる。



(これは…古代の魔法式?見たことがないですね…。)



 おそらくこれは魔法具だろう。

 フィリアもコンスタンティノ王国に住んでいた頃、幾度か目にしたことがある。

 でも、こんな複雑な魔法式は見たことがない。

 フィリアは魔法具についても少し勉強していたことがあるので、腕輪に刻まれた魔法式の複雑さをすぐに理解した。



「気づいた者もいるようだが、それは古から伝わる魔法式が刻まれた魔法具だ。きっとそれが、そなたたちを守ってくれるであろう。」



 守る、というのだからきっと結界関連の魔法式なのだとフィリアは考えた。

 しかし何からフィリアたちを守るというのか。



「まず、はじめに言っておく。そなたたちの安全はこの城の中でのみ、保障される。そなたたちにとって、外は非常に危険であるため、外出を一切禁止する。どんなことが起ころうと、例外はない。」



 フィリアたちの間に動揺が走る。

 価値ある古代の魔法式が刻まれた魔法具を渡された時に違和感は感じていた。

 一応、フィリアたちは【花嫁】という立場だが、この国では立場の低い人間だ。

 それなのに、なぜこんな高価なものを渡されるのか。

 つまりそれほどのものを渡しておかないと、安心できないような敵がいるのではないか。

 つまり、私たちは何者かに狙われている?



「どういう、ことですか…。今後、一切外出をすることが出来ないって…。」



 カナの震える声が突然、聞こえた。

 無理もないだろう。

 いきなり外に出たら命の保障がない、つまり何者かにフィリアたちが狙われているのだと言われたようなものなのだから。

 フィリアもカナ以外の三人も態度に出していないが、動揺している。

 カナの顔は青ざめていて、完全に謁見の間での礼儀を忘れているようだった。



「教えてください…!」



 静まり返った謁見の間。

 そこに悲鳴のようなカナの声が響き渡った。



「そう慌てることはない。何も知らされていないと、こちらも理解している。今までの【花嫁】も皆、そうであったからな。」



 てっきり無礼だと罵られるかと思っていたが、意外にも王や側近たちは冷静だった。

 今までの【花嫁】たちは、フィリアたちと同じく、ここへ来てからいろいろと詳しいことを聞かされたらしい。

 お前たちは命を狙われているため、城から一切出ることを禁じる、と。

 当然、混乱して、泣き叫んだだろう。

 ちょうど今、カナがそうなっているように。

 当たり前のことだ。

【花嫁】たちは何も知らされずにこの国へ来たのだ。

 まさか、身の危険があるとは思わないはず。

 たとえ【生贄】のようなものでも、表向きには【花嫁】なのだから。



 ヴァンパイアたちは冷静なのは、今までも、ずっとそうであったから。

 長い時を生きる彼らは、今までの【花嫁】たちにも、同じように説明をしてきたのだろう。



「それでは、話を始めよう。」



 そう言って、美しきヴァンパイアの王は静かに笑みを浮かべた。





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