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無口な護衛と気づいた幸せ



 それは、遠い記憶。



『ねえ、フィリア。大切な秘密をあなたに教えてあげるわ。でもこれは絶対に誰にも話してはいけないの。私とフィリア、二人だけの秘密にすると約束してね。』



『宝石のように輝く星空が見える、ある国にはね、永久不変の塔があるらしいわ。』



『その塔の一番上の部屋には、永遠の世界への鍵が眠っているの。』



『そして永遠の世界にはーーーーがいて、ーーーーーをずっと待ってるのですって。』



『フィリア、忘れないで。』



『永久の夢をあなたと共に』



『こう唱えれば、永遠の世界への扉は開かれる。』



『ーーーー。』



 遠い遠い、朧げな記憶。



 あの日ー……。



 お母様が私に残してくれたメッセージで、私はある秘密を知った。



 ーーーーー



 ふ、と目が覚める。

 視界に映るのは、もう見慣れた自分の部屋の天井だった。

 とても、懐かしい夢を見た。

 まだフィリアが四、五歳の頃だったと思う。

 誕生日の日にサラから渡された魔法具。

 それには録音の魔法がかけられていた。

 フィリアの母であるセイラからフィリアがある程度成長したら渡すよう頼まれていたらしい。

 亡くなる前にセイラはフィリアに向けてメッセージを残していたのだ。

 初めて聞いた母の声。

 告げられた秘密。

 あれから様々な国の塔について調べたけれど、結局そのメッセージにある「永久不変」の意味は分からなかった。

 かなり昔のことで、あまり覚えていないけれど。

 今ではもう遠い、記憶だ。



 思いきり伸びをして、ベッドから起き上がる。

 めまぐるしく過ぎて、フィリアに多大な疲労を与えた昨日の疲れはとれたようだった。

【血に狂った者たち】から助け出されたフィリアはあれからたくさんの質問攻めにあった。

 気を失っていたカナはすぐに部屋へ帰されたというのにひどいものである。

 フィリアだって倒れてしまいそうなくらい疲れていたのに、彼らは少しも気づきはしなかったのだから。

 結局、部屋に戻れたのは明け方のことだった。

 フィリアは眠い目をこすりながら、ベッドから起き上がり、洗面所へ向かう。

 顔を洗い、髪をとかし、着替えをすませて一息ついた時、時間を見計らったかのように部屋の扉が叩かれた。



「フィリア様、おはようございます。朝食をお持ちいたしました。」



「ありがとう。どうぞ、入ってください。」



「失礼いたします。」



 音を立てずに扉が開き、現れたのは緑髪を持つ小柄な少女。

 使用人のエマである。



「おはようございます、エマ。」



「おはようございます。」



 常に無表情のエマはてきぱきと部屋のテーブルに朝食を並べ始める。

 話しかけたら返してくれるし、仕事もきちんとしてくれていて、手を抜かれているわけでもない。

 だけど、どうしてもヴァンパイアであるエマと人間であるフィリアとの間には越えられない何かがあるようだった。

 フィリアは交友関係が狭いし、滅多に城の方へは行かないので忘れかけていたが、この国での人間の立場は限りなく低いのだ。

 仕事だから仕方なくフィリアたちの世話をしてくれてはいるが、きっと内心は人間に仕えるのが嫌なのだろう、とフィリアは思っていた。

 不思議なことに、エマから他のヴァンパイアたちから感じるようなフィリアたちを見下した視線を感じたことはなかったが。



「本日の朝食は、白パン、フルーツサラダ、きのこ入りチーズオムレツ、コーヒー、ヨーグルトになります。ごゆっくりどうぞ。」



 フィリアがぼんやりと考えているのをよそに、エマはさっさと支度を終えて部屋を出て行ってしまう。

 我に返ったフィリアは慌てて退出するエマにお礼の言葉を投げかけると、テーブルに向き直った。

 まだあたたかい白パンを手に取る。

 ちぎって口に入れると、ほんのりとバターの味がした。



(さてと、これからどうしましょう……。とりあえず、今まで先延ばしにしてきたトワの所へ行かなくてはいけませんね。聞きたいことがたくさんあります。)



『アイツに伝えておいてくれ。』



『次こそはお前の息の根を止めてやる、と。』



 不意に蘇るシュヴァリエの言葉と不気味な紅。

 そうだ、あの言葉の意味を必ず問い詰めなくてはいけない。



(あとはルイスのところに顔を出さないといけません。きっと心配をかけてしまっているでしょうから。)



 結局行くことの出来なかったお茶会。

 理由があったとはいえ、約束を破ってしまったことを謝らないと。

 あたたかいコーヒーを口に含む。

 苦いけれど、どこか甘い味。

 初めて飲んだ時から、コーヒーの苦さはほんの少し苦手だ。



「よし、まずは図書館ですね。」



 フィリアはひとつ、息をついて立ち上がった。



 いつものように準備をして、いつものように塔の外へ出る。

 さあ、行こうと歩き出そうとした時、フィリアは穏やかな声に呼び止められた。



「フィリア様、どこかへお出かけですか。」



「えっ……?」



 振り返った先にいたのは、一人の老人。

 緑がかったグレーの髪と瞳を持ち、ローブのようなものを着ているので、おそらく魔術師なのだろう。

 見覚えのない老人に声をかけられたことに首を傾げながら、フィリアは返事をした。



「はい。友人のいる第二図書館に行くところですが……何か私に用でしょうか?」



「おお、間に合ったようでよかった。フィリア様、先日の誘拐事件で【血に狂った者たち】が城内に侵入した件なのですが、まだどこから侵入したのかが分かっておりません。一応、結界は強く張り直しましたが、まだ侵入経路が判明していない以上、城内であっても危険があります。そのため、本日より【花嫁】様方にそれぞれ護衛をつけることになりました。」



「……?護衛、ですか?」



「はい。【花嫁】様方の身をお守りするために必要な事なのです。どうかご理解くださいませ。……ギルバート。」



 ふわり、と空気が揺れる。

 瞬きをした次の瞬間にはもう、その男は気配もなく現れていた。

 老人と同じくローブのようなものを身につけた、背の高い男。

 深い紫の髪と瞳。

 濃密な魔力を纏ったその男にフィリアは見覚えがあるような気がした。

 しばらく記憶を探ってようやく気がつく。



(……ああ!私がこの城へきた時、案内してくれた方ですね。どうりで見覚えがあると思いました。)



「ギルバート=スウィアーノ。宮廷魔術師です。無口で無愛想な奴ですが、腕は一級品ですのでご安心を。」



 男、ギルバートが小さく頭を下げる。

 そういえば案内をしてくれた時も、必要最低限しか話さなかったとフィリアは思い出していた。



「えっと、お話は分かりました。では私は今から図書館へ行くので、ついて来てもらえますか?」



「……承知した。」



「それではフィリア様。私はここで失礼いたします。」



「はい。わざわざありがとうございました。」



 老人は一礼すると、ふっと姿を消した。



「えっと、ご存知かもしれませんが……フィリア=マキアートといいます。よろしくお願いしますね、ギルバートさん。」



「……ああ。」



 ギルバートは紹介通り、無口な人だった。

 その後は特に会話もないまま、フィリアたちはルイスのいる第二図書館へ向かった。



 ーーーーー



「ほんっとーに心配したんですよ!だからいくら城内でも一人で歩くのは危険って言ってたのに……。」



「う……申し訳ありません。私が軽率でした。」



 第二図書館を訪れたフィリアを待っていたのは、ルイスの説教だった。

 確かにルイスは前から、いくら城内で安全といっても、人間であるフィリアが一人で外を出歩くのはやめたほうがいいと忠告してくれていたのだ。

 それを聞かずに好き勝手一人で動き回っていたのはフィリアである。

 怒られるのも当然と言えた。



(でも本を借りに行くだけなのに、使用人を連れていくなんて面倒臭いじゃないですか……。)



「何か反論があるんですか、フィリアさん?」



「いいえ!何もありません!」



 まるで心の中を読んだようなタイミングでルイスに睨まれて、思わず背筋を伸ばしてしまう。



(まるで口うるさいお母さんのようです。ルイスは怒らせてはいけない人だったんですね……。)



 くどくどといまだ説教を続けるルイス。

 フィリアはもう二度とルイスを怒らせるようなことはしないと、心に誓ったのだった。



(長い説教はもうこりごりです……。)





「まあとにかく、フィリアさんに怪我がなくてよかった。無事でよかったです。」



 フィリアは、はっと顔を上げる。

 ルイスの表情は本当にフィリアを心配していてくれたのだと物語っていて、胸がいっぱいになった。

 人間が蔑まれるこの国で、ルイスのような友達が出来たこと。

 それは、とても幸せなことなのだと改めて感じる。

 じわり、とフィリアの瞳に涙が滲んだ。

 だって誰もフィリア自身を心配なんてしてくれてなんかいなかった。

 少なくとも、昨日出会ったヴァンパイアたちは。

 もしかしたら、デヴィンやレオンあたりは心配してくれていたのかもしれない。

 でも昨日、無事でよかった、なんて声をかけてくれた人は誰一人としていなかったのだ。



「……っ、う……。」



 目の前が霞んで見えなくなった。

 不意にふわりと頭の上があたたかくなり、それがルイスの手だと分かった時には、もうフィリアは泣き出していた。

 みっともないと思う。恥ずかしいと思う。

 でも止まらなかった。

 本当は不安だった。

 起こることだと分かっていても、実際に捕らえられた時は怖かった。

 泣きたかったけれど、泣いてもどうにもならないことくらい知っていたから。



「よく頑張りましたね。もう、大丈夫です。」



 結局、フィリアが泣き止むまで、ルイスは優しく頭を撫でていてくれたのだった。



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