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クエスト名称:職業によるステータスバランス

「さあ、レベル上げをはじめるわよ」


 ポポ村からすこし離れた原っぱで、真衣は鉄の剣を抜いた。

 作戦はやはり、前線の真衣・後方の優希、である。


 レベル1の僕は魔法も使えず、戦闘においてお荷物状態だから、真衣の守備範囲内で大人しくする。闘うのも恐いし。

「ちまちまやってたんじゃ日が暮れちゃうから、こちらからモンスターを呼び寄せるわよ」

「へ?」


 呼び寄せる……だと……!?。

 小さな布の袋から真衣は、紐のついた小瓶のようなものを取り出した。

「虫笛よ。10Gで、道具屋に売ってたわ」

「わざわざモンスターを呼ぶなんて!」

 ちまちまやろうぜ! と言う僕の意見は即却下。


 真衣は紐を片手にスナップを利かせ、頭の上で虫笛をクルクル回転させた。

 ピィーー!

 たちまちに風を切るような高音が原っぱに鳴り響く。

 真衣の腕を軸にして円を描く虫笛に、さらにスピードが加わったとき、


 ――ギギギィ!

「わわわっ! ビードルだ!」

 黄と黒の縞模様で羽音を轟かせる巨大蜂が2匹も現れた!

「まだいるわ」

 慌てた僕のことばに、真衣の余裕の台詞が続く。

 モンスターはビードルだけではなかった。


《爬虫モンスター・一角蟒蛇うわばみ。頭部の一角は毒針。低確率で毒に感染する》


「また勝手にメッセージが! てか、大蛇だ!! 毒を受けるのかよ!」

 地面をぬるぬると這って来る蛇の大きさときたら、胴体は人間の太ももくらいあって、全長は5メートルを超えるぞ。

 しかも、額には20センチくらいある、ぶっとい毒針がギラギラ光っている!


「ぬはー! これはヤバい!」

 ひょろ長い魔女見習いのワンドでは、到底太刀打ちできない! ポッキリ折れちゃう。

「ユッキー! 私のうしろに隠れてて!」

 叫ぶ真衣が、ビードルへ猛然と斬りかかる。


「言っている事と、やってる事がちがう!」

 斬りに行ったら、うしろへ隠れることができないじゃないか!

 それでも僕は、必死になって真衣の背中を追う。

「とりゃッ!」

 真衣の気合声。


 2匹のうち片方のビードルの、左方の羽をバッサリはねた。

 羽ばたけずに地面に落下したビードルにトドメを刺し、振り返りざま、

「ユッキー、伏せてっ!」

 言われて僕は頭を抑えて地面に突っ伏した。

 僕の背後で、空気をふるわさせる羽音があったのだ。

「ファイア!」

 ビードルに向かって腕を翳して真衣が唱えた。

 刹那に、その掌を中心にして魔方陣が宙へ浮かび上がり、真っ赤な炎が吹き出した。


 炎は帯状に噴出し、

 ――ギギギィ!!

 残るビードルにダメージを与える寸前で、

「あっ、よけられた!」

「まだまだっ!!」


 ファイアを躱したビードルのうしろで這っていた一角蟒蛇にヒットした!

 ドタンッ! バタンッ!

 七転八倒の一角蟒蛇。

「これは倒せるぞ!」

 押せ押せムードに思わず興奮した。


 ――ギギッ!

 背後で、いやな鳴き声が……。

 振り向くと、

「わっわっ! 真衣、ビードルが残ってるぞォ!」

 叫んだが遅かった。


 ビードルは僕に照準を定めたらしく、尻のドリルがグルグル回転し、

 ボズゥン!

 ドリルが発射された。

「よけてユッキー!!」


 一角蟒蛇にかかりきっている真衣のことばが僕の鼓膜をふるわせた。が、どうにも僕の体は言うことを利かない。

 恐くて硬直してしまったのだ。

 一気に汗が引いた。

 うなりをたてて飛んで来たドリルが、

 ズブっ!

 僕の左側のお尻に突き刺さった。


「ぎゃああァ!」

 その痛さに飛び跳ねる。

「第2射、来るわよ!」


「もうやだあ!」

 半泣きで僕は、お尻に突き刺さったドリルを抜き、

 ――ギギギィ!! ボズゥン!

 ビードルの攻撃を真横へ飛んで回避。

 超回転のドリルが脇腹をかすめる。ギリギリだった。

 イタチのシッポを装着していなかったら直撃していた。


「ヤアァ!!」

 や声を発した真衣、ふりかぶった鉄の剣をビードルの脳天へ叩き下ろす!

 スパーンッ!

 ビードルの体を一刀両断にした。


「おお! クリティカルヒット!」

 どさ、どさ、とビードルの体が地面に落ち、ゴールドに変わった。

 ひー、ふー、みー、やー、……8Gだ。

「一角蟒蛇は!?」

「倒したわ」


 チャキンッ、と剣を収めて鍔音を響かせた真衣のうしろ、

「丸焦げよ」

 一角蟒蛇が、二股に分かれた舌をベロリと出して燃えつきていた。

 これも、ゴールドに変わって12Gだ。


 と……。

「ん? ゴールドのほかに、なにかあるぞ?」

「あぁ、それ。モンスター素材ね」

「なんだそれ?」

 僕はお尻を擦りながらモンスター素材というものを拾い上げた。

〔そこそこの毒針〕だった。


「武器や防具、アクセサリーを作る材料になるのよ。モンスターを倒すと、ときどきドロップするわ」

「こういうのを……?」

〔そこそこの毒針〕を、しげしげと眺めて僕は、ふと思い出した。


「そう言えば、りんちょのメッセージに『もふもふした毛は高級品』ってあったな。あれが採取できれば、お金持ちになれるんじゃないか?」

「よく気づいたわね。私はNPCからの情報で知ったのに」

 ほう……。普通にゲームをプレイしていれば、そういう情報がゲットできるのか。


「城や町、村とかでNPCに声をかけると、たまに、『こういった素材系アイテムが必要だから持って来て。お礼はするから』って感じのサブクエストの依頼を受けることができるわ」

 言いながら真衣が、小さな布の袋の口をあけたので、僕は〔そこそこの毒針〕を袋に入れた。

「りんちょの毛皮は高級品なんだけど、あんまりドロップしないのよね。りんちょの出現率は高いんだけど」

「へぇ……。その、素材集めの依頼を、真衣は受けたことあるのか?」

「ないわよ。そんなヒマないし。それに、素材が必要な武器や防具は作成してないわ」

 と、ぶっきらぼうな言い方で真衣は答えた。


 気になった僕は尋ねる。

「なんでさ? 攻撃力のつよい武器や防御力の高い防具が作れるかもしれないのに」

「李里を助け出さなくちゃいけないでしょ。素材集めをすると、どんどん時間が経っちゃって、本来の目的を見失うわ」

「それ、あるあるネタだ。僕もクエクエのプレイ中に、サブクエストばっかりやって、本筋を忘れちゃう」

「でしょ? だから、素材集めも素材を使った武器・防具の作成もしないの。ちなみに、集めた素材を武器屋、防具屋、道具屋に持って行くと、それぞれに作成してくれるわ。お金も必要だけどね。それと、いまある武器・防具の強化とか、派生もできるみたいよ」

「おお! それいいじゃん! 魔女見習いのワンドを、こん棒みたいに頑丈にしてもらおう! こんなんじゃ折れちゃうよ」

 言いさして僕は、真衣が最初に倒したビードルのゴールドを拾った。


 そのとたん。

 どこからともなく大音量のファンファーレが!


《女賢者・ユッキー。レベル2》


「また勝手にメッセージが!! てか、ユッキーって僕のあだ名じゃん! そこは本名で表示してよ!」

「べつにいいじゃない。『ああああ』じゃないだけマシよ」

「そ、それはそうだけどさ。なんか釈然としないな……」


 どうやら、ゴールドを拾い集め終わると戦闘が終了、ということになるらしく、戦闘終了と同時に、僕のレベルも上がったようだ。

 これで、ファイア使用可能レベルに達したことになる。


「無駄撃ちだけどさ! ファイアを唱えてもいいかな!?」

 僕は心が躍る心持ちで、真衣に使用許可を願う。

「はぁ……お好きなように」

 まるで教室の机に頬杖したような顔で、真衣は呆れて言った。


 そんなことはどうでもいいので早速、僕は魔女見習いのワンドをふりかぶって、

「ファイア!!」

 大空へ向かって唱えた。


 瞬時に、杖の先っぽに小さく魔方陣が描かれて、それがすぅーっと大きく展開して巨大化。

 杖の先に魔方陣が浮かび上がって轟音と共に火柱があがった!


「うおぉ!? すごい炎だ! 真衣のファイアより威力が増してる! 1.3倍くらい!」

「ユッキーが賢者だからでしょ。勇者の職の私でも、魔法の扱いに長けている魔法使いや僧侶には敵わないわよ。その2つを掛け合わせた賢者なんだから、おなじ魔法を唱えても、ステータスの差で威力が増すのよ」

 杖の補正もあるわ、と真衣は説明した。


 そるほど、これはチート並につよい! イケイケだぜ!!

 と、調子に乗っていると……。

「はぁ、はぁ、……なんか、疲れて来た……はぁ……はぁ」

「スタミナ切れよ。あんまりバカやってると倒れるわよ」


 そうだった。

『マジックポイント』という概念がないかわりに『スタミナ』があるんだった。

「賢者は、魔法使いや僧侶よりもスタミナ切れになりやすいっぽいから。気をつけてね」

「ええ!?」

 それを、職業を決める際に言ってほしかった……!


 真衣の説明によれば……。

 賢者という職業は、魔法使いと僧侶のいいとこ取り、かと思ったら、そうでもないらしい。

 攻撃魔法の威力は、賢者よりも魔法使いのほうが高い。

 回復魔法の効果は、賢者よりも僧侶のほうが良い。

 スタミナの減りも、賢者より専門職のほうが減りはすくない。

 やっぱり、餅は餅屋ということらしい。


 また、魔法使いと僧侶の職業上のちがいもある。

 僧侶の分野である回復魔法を魔法使いが唱えた場合、その効果は、僧侶に及ばない。

 魔法使いの分野である攻撃魔法を僧侶が唱えた場合、その効果は、魔法使いに及ばない。


 そして……。

 賢者は、回復魔法の効果は魔法使いより上だけど僧侶より下、攻撃魔法の攻撃威力は僧侶より上だけど魔法使いより下という、中途半端に位置する。

 ステータスとしては、どっちつかず。

 アイスクリームも食べたいし、ソーダも飲みたい! といって作られたクリームソーダみたいな存在であり、しかも賢者は、スタミナの回復スピードも遅い——という事実を真衣は、湖上の城にいる魔法使いに教えてもらったそうだ。


 未だに名前の知れない湖上の城は、このゲーム世界のチュートリアル的な場所らしい。

 途中参加の僕は置いてきぼり状態だ。


「さ、これでユッキーも戦力になったことだし、呼吸が整ったら、どんどんレベル上げをするわよ! 修行、修行!」

 ニコニコ微笑む真衣は、新たな戦力に胸をふくらませ、物理的にも、その豊満な胸をはずませる。ゆたん、ゆたん。

 鉄の鎧の胸もとから、こぼれてしまいそう。はみ乳しそうだ。


 そんな勇者サイズの胸に勝るとも劣らない、賢者サイズの胸をした僕が、

「……過度な期待をしちゃいけないぞ」

 いちおう、念を押しておく。


 なんてったって僕は、緊張するとお腹が痛くなるタイプなんだから。

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