クエスト名称:白銀世界
「さささささ、さむいぃ!」
「北に向かって、飛んでるからね……コールドビークも近いわ……ユッキー、私にもちょちょを抱っこさせなさいよ」
僕は気球の籠の中でブルブル凍えていた。
真衣も、凍えていた。
僕は、包まった毛布の中でちょちょを抱いて、ホッカイロ代わりにしている。
「いやだよ。もふもふの毛が、あったかいんだ。手放せないよ」
「バカ。私なんか、肌の露出度が高い装備をしてんの。いまは、それに毛布だけ。ユッキーより私のほうがさむい! ちょちょを出しなさいよ」
「僕だって毛布だし」
海を越えて、眼下に流氷を眺めてからは、ずぅっと、白銀の大地が続く。
風任せの気球は、ゲーム理論によって、気球の持ち主である勇者の進みたい方向へ進行することが可能だ。
だが、体の芯まで冷えるこの寒気は、どうにもならない。
僕たちは、気球の熱で、なんとか耐えている。
「むかし読んだ本でさ。冬山で遭難した男女が山小屋で、お互い、裸になって、温め合って、難を逃れたそうだよ。僕たちも、肌を寄せ合おう」
「肩を寄せ合う程度までなら、妥協するわ」
高空を飛行しており、風もつよいので、体感温度は絶対零度。
尋常でない冷気に、歯の根が合わない。
そんでもって空腹ときている。腹が減りすぎて思考力も低下してきた。
「ユッキー! 見るのら!」
毛布から抜け出たちょちょが、籠の縁から地表を見下ろす。
「町があるのら! いい匂いが立ちのぼってるのら!! これは……パン! シチュー!」
「なんだって!? 本当か!」
ちょちょは、鼻も利くようだ。
「コールドビークに間違いない! 真衣、着陸だ!」
これには真衣も異論はなく、すぐさま降下する。
高度を下げてゆくと、町のかたち、その様子が見えて来る。
燃えるような真っ赤なレンガ造りの建物が、大小様々に建っている。ローレムとちがい、その規模は小さい。けれど、ポポ村とは異なる。あんな掘建て小屋の集まりではなく、コールドビークの町は、まるで寒波に耐えるための要塞だ。
民家だと思われる、あちらこちらの建物の煙突から、白い煙がのぼっている。
ふと、地平線を見れば、
「おお、御来光だ。いまは朝か。時差ぼけしちゃったな」
両手を合わせ、御来光を拝む僕に、真衣が、
「アレ、日の出じゃないわね……あの方角で、太陽の高さがちがうもの。どう考えたって、白夜でしょ」
「なに!? 白夜って太陽が沈まないやつか!」
これも、僕にはなじみのない現象なので、有り難い。拝んでおこうと思ったら、
「……ん?」
遠くの彼方に、白夜の陽光に重なるかたちで細くて長い、塔のような建設物が見えた。
「真衣、あれはなんだ?」
「あのね、はじめて来た場所にある物を、私が知るはずないでしょ?」
「……そうだけどさ」
まってくもって正論なのだが、なんとも釣れない返事である。
「町で尋ねたらいいでしょ。ほら、降りるわよ」
颯爽と籠から降りて真衣は、白銀の大地に立った。
そのあとに僕とちょちょが続く。
町の入り口へ、何気なく、ふと目をやると……。
そこには身なりはちがえど背の低い華奢な爺さんが立っていた。
「あの人ってさ。ポポ村にいた、村名を言うだけの爺さんに瓜二つだな。双子か?」
「キャラバンリーダーとおなじで、グラフィックの使いまわしだわ」
……そういうことか。
とりあえず僕は、
「あの、ここはコールドビークですか?」
尋ねなくても容易に予想できる返答なのだけれど、約束事なので、村名を尋ねる。
「おや? 旅のお方かね。よくまあ……こんなところへ来なさった」
しゃがれた声まで一緒だ。
「ここはコールドビークじゃ。マジックアカデミーのあった土地じゃよ……」
遠い目をして、爺さんは空を見上げた。
「マジックアカデミー? なんだそれ?」
「町で、いろいろ情報が集められそうね」
ちょちょを抱っこした真衣が言った。




