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クエスト名称:いざ、女風呂へ!!


 僕たちは水の都・ロームルに到着した。


 到着したときには僕はレベルが上がって、レベル10に。

 真衣もレベルが上がり、レベル20に。

「ここが、ロームルか……」


 女性の裸の像で飾った噴水が街のあちこちにあって、石畳で舗装された街道はひっきりなしに人々が往来し、荷物を運搬するコロンロ(スズランキャラバンで見たロバのようなモンスター)のカッポカッポと響く蹄の音、露天商の呼び込み、それら街の喧騒が、ポポ村とは桁違いだ。ド田舎と地方都市くらいスケールがちがう。

 そして何より、宿屋が多い。

 例のごとく、街の入り口にいたNPCに尋ねたところ、ロームルは飲み水としての清水もそうだが、温泉も有名なのだという。


「真衣、もう宿に泊まっちゃおうぜ。疲れたよ……温泉で癒されたい」

 街の中を探索しながら僕がそう言うと、

「日も暮れてないのに早いわよ。〔力のしるし〕についての情報を聞き取りしないと」

「えぇ……ロームルの街はひろいぞ……1人ひとりに尋ねまわったら、魔王軍がきちゃうよ……」

「ユッキーはRPGの基本を知らないわねえ」

「……母さんに教えてもらっていないからな。真衣は知ってんのか?」

 もちろん、と真衣は自信ありげに、

「情報を得るための場所といえば『酒場』よ。客や店の主人が情報を持っているのは王道。鉄板で、約束ごとよ」

「ふーん。このゲームが古典的パターンを採用していることを願って、近くの酒場に寄ってみようぜ。未成年だからって入店拒否はされないだろうしさ」


 と、ここで嬉しいサプライズがあった。

 ロームルでは、酒場と宿屋が一緒になっているのだ。事業統合というか経営統合ってやつだ。聞き込みをしたら、宿に泊まれる。

 早速、酒場兼宿屋に入る。

 するといきなりヒットした。

 なんていうか、もう、店の主人が、

『俺のはなしをきいてくれ!!』

 そんなオーラをガンガンぶつけて来る。


 真衣に脇腹を小突かれた僕は、

「あの……」

 尋ねざるを得ない。

「松葉館にようこそ」

 すごく和風な宿名だった。


「打倒魔王をかかげて旅をしているんですけど、このあたりで最近、変わったことはありませんか?」

「冒険者か。おう、いまロームルで起こっている変事を小耳に挟んでいる」

「……それは?」

「知りたいか? だったら、うちの宿に泊まんな。はなしはそれからだぜ。2人で80Gだ」

 したり顔の主人。

 くそ、なんて商売上手なんだ。NPCのくせに生意気だ。

「だってさ、真衣、80Gだしてよ」

「完全に足下見られてるわね……でも80Gで有益な情報が得られるんだから安いわ」


「まいどありっ!」

 ゴールドを勘定した主人が、

「4日ほど前だったな。ここから北へ行ったところにある『雨滴の洞窟』に、魔物が住み着いたらしい。みんなが不安に思っちまって、このロームルを治める市長の命令によって討伐隊が結成され、これが昨日、洞窟に向かったんだぜ。なーに、魔物なんてすぐに退治しちまう。討伐隊は選りすぐりのタフガイだからな!」

 この情報に、僕は真衣と顔を見合わせ、うなずいた。


「魔王軍が来てるっぽいぞ。雨滴の洞窟、ここに〔力のしるし〕があるにちがいない」

「どうやらそのようね。討伐隊が派遣されたようだけど……」

「討伐隊が魔王軍を蹴散らすことはないだろうなあ」

 やはりここは、勇者真衣の出番だろう。


 すると、宿屋の主人が、

「あんたたち、討伐隊に入隊したかったのか? ま、そりゃそうか。なんてったって、魔物を退治した者には、褒美として気球が贈られるそうだ」

「気球? あの、空を飛ぶ? へえ……」

 もっとマシな褒美があるだろうに。しみったれてるなあ。100万ゴールドとかくれよ。


「で、どうする? これから洞窟に向かうか?」

 僕の問いに、真衣は首をよこにふって、

「装備を整えたりしないといけないし、魔法の書物も購入して、魔法を修得しないとね」

 言って、腰に下げた鉄の剣をベルトから解いた。

 どうやらこのまま宿泊して、明日、装備を整える考えのようだ。

「んじゃ、温泉で疲労回復して、洞窟に備えようぜ」






 そう。温泉なのである。

 ポポ村では、真衣に目隠しをされて、個室でシャワーを浴びただけ。

 今日は、興奮を抑えられない。

 早速、部屋着のワンピースに着替えると、お風呂セット片手に温泉へ!!

「ちょっとユッキー! あんた、女湯に入るわけ!?」

「なにをいまさら。当たり前じゃないか。この世界で、僕の体は女の子なんだから、女湯の湯船に浸かる権利がある! 女の子の体で、男湯に入浴できるわけないだろ!」

「くっ……。それは、そうだけど……」

 ぐうの音も出ない様子で、悔しそうにギリリと睨んでくる真衣の表情からは、

『この変態がっ!』

 という罵りと、

『けど、言い返せない! 悔しい!』

 という歯がゆい感情が綯い交ぜになっているのが見て取れる。

 僕の野望をどうにかして打ち砕く気でいるようだ。


「待ちなさい、ユッキー」

 女湯に堂々と向かう僕に、真衣が、

「私も同伴させてもらうわ」

「な、なんでさ……?」

「ユッキーをこの世界に召還させた私は、謂わばユッキーの保護者。保護者には監督責任があるからね!」

「ねーよ!」

「あるの!!」

 ぶわっと、顔を紅潮させて真衣は、

「ほら、バスタオルを持って。これで体を隠してお湯に入るんだからね!」

「なんでだよ!?」

「いいからっ! 保護者の言うことを守りなさい!!」


 真衣は謎の権限を行使し、今回もまた、目隠しを強制。

 僕は体にバスタオルを巻かれて目隠しという意味不明のスタイルで脱衣所から湯船へ。


「これ、なんていうプレイなんだよ……ちっとも興奮しない」

「興奮するために温泉に入るわけ? バカじゃないの!?」


 真衣に手を取ってもらって、湯船まで歩く。

 目隠しによって、あたりの景色がまったくもってわからない。

 かぽーん、という銭湯で耳にする音、お湯のながれる音、そして女性の声が反響する。ここは室内浴場のようだ。

「ユッキー、ここに座って。腰かけがあるから。私が体を洗ってあげるわ」

「は? それくらい自分で洗えるってば」

「いいから! ユッキーに女の子の体を見せたくないし、自分の体を自分で触ってほしくないのよ」

「僕の体なのに、僕が触れちゃいけないと!?」

 なんという理不尽な文句!!


 と思ったけれど、これがその、人に体を洗われるというのが、

「うははっ、いひひひひ、こちょこちょするなって! ひゃははっ、くすぐったい!」

 とても気持ち良い。そしてこれは、僕の新たな性癖が産声を上げた瞬間でもあった。

「ちょっと、動かないでよ! しっかり洗えないでしょ!」

 そう言って、真衣が体をグイッと寄せて来たのを背中で感じた。


 背中に密着する肌と肌。とても熱い。

 ぽくぽくに茹で上がった、むきたてのゆで卵のような弾力と質感を背中にうけて、

「まっ、真衣!」

「ん、なに……?」

 うしろから抱きつくようにして真衣は、僕の体の前を洗っている。


「ひょっとするとひょっとして、真衣、バスタオルをつけてない……!?」

「それが? どうしたって……」

 胸をぐいぐい押し当てて、体が密着していることに気がついた真衣が慌てて、

「ああ!! 信じらんないっ! これが狙いだったのね!」

「なにがだ!?」

「最初っから、私に体を洗わせる計画だったんでしょ! まんまと騙されたわ、卑怯者!」

 これこそ意味不明な解釈をされて、

「スリラン!」

 相手に不利な効果を与える状態異常魔法スリランという『眠り』を唱えられて、

「うわわ、わ……わ…………わ………………」

 成功率の低い魔法なのに、僕は見事に眠りに落ちた。






 気がつけばベッドの上で、外は朝だった。

 なぜか後頭部が痛い。タンコブができていた。

「あら、起きたの? おはよう」

 ニコニコ微笑んで、真衣が朝の挨拶した。

「なにか……悪い夢を見た気がする……」

「そう? 夢で良かったわね、ふふふ」


 真衣の目は、笑っていなかった。

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