クエスト名称:クエストは世のため人のため
ポポ村から東へ。
それはそれは険しい道のりであった。
べつに端折るわけではなけれど、ロームルに到着するまでの冒険は、まさにRPGだった。
本筋を韋駄天走りで駆けている僕たちは、その途中で遭遇したサブクエストを見て見ぬふりで無視した。
そのサブクエストとは、たとえば……。
昨日の橋をわたった直後に発生した、肉食水獣被害に頭をかかえる漁師たちからの依頼、
小型草食獣に畑を荒らされて困っている農家からの依頼、
ビードルの巣を発見した男に持ちかけられた、蜜の収獲依頼、
大食いと早食いのどっちが偉いかでケンカしている、双方のチャンピョンの仲裁依頼、
〔青のノコギリ刀〕が欲しい剣士からの、染め粉の原料となる〔青の粘土〕の採取依頼、
などなど……。
だが、これはまだ氷山の一角みたいなもの。
それでも唯一、僕が真衣にお願いをして、サブクエストを遂行したものがある。
それは……。
亜人超獣・フォークンに攫われてしまった娘を連れ戻して! と老夫婦からの依頼だ。
攫われたというのが李里ちゃんと重なったし、娘ということばの響きに心が躍ったので、二つ返事で依頼を引き受けたのだ。
「こんなサブクエスト、やってるヒマなんてないのに」
真衣は不満顔だった。
僕はやる気満々で『娘』を捜索したのだが……。
サブクエストのストーリーが進行していくにつれ、このクエストは、僕の予想していたベクトルとは真逆に進行していった。
娘を攫った亜人超獣とは、その名から察せられるように人間の姿に近くて、知能も高い。その中でもフォークン族は、エルフ族のように人間とおなじように会話もするし、独自の文化を築いている。
また、彼はモンスターと呼ばれることに差別感を抱いているようだった。
『だった』というのは、実は、娘は自らの意思で老夫婦の家を出たのである。
つまりは、フォークンとの駆け落ちだった。
しかも娘は、今年38歳になる女性であった。
まぁ……。老夫婦から見れば、何歳であっても娘である。それも箱入り娘。
種族が異なる、モンスターに娘はやれん、というのが老夫婦の意見のようだ。
この展開に、僕は裏切られたの一言。
精神的苦痛を受けたのは言うまでもないだろう。
ここで、このクエストは分岐する。
力ずくで娘を老夫婦のところへ連れ戻すか、このままフォークンと駆け落ちさせるか、である。
「もし見逃してくれるのであれば……〔ネスティックのワンド(スタミナ消費率15%減)〕を差し上げます」
亜人超獣・フォークン族の彼、ネスティックが言ったので、
「それじゃ、杖をもらう……」
老夫婦には悪いが、駆け落ちさせることにした。
スタミナ消費率15%減とは、魔法を唱えた際に消費するスタミナを、15%も抑えてくれることを表している。つまり、特殊効果付きの杖だ。杖といってもワンドの名の通り、指揮棒型の棒だが。
現在装備している魔女見習いのワンドと比べると、ネスティックのワンドは魔法攻撃力が約2倍も上なので、これ幸いと僕は〔魔女見習いのワンド〕から〔ネスティックのワンド〕に装備を変更した。
その後、老夫婦はどうなったかって? んなもん知るか。




