そこは異世界。ゲームの始まりだった。
「ここは、いったい……どこなんだ?」
車一台が、やっと走行できるくらいの道幅だった。
野道の両脇に茂っている雑草が、そよ風に吹かれて、眩しい太陽の光を仰いでいる。
「……青臭い」
夏草なのか、つんと臭う。湿った土の匂いもした。
あたりに目をやる。
この野道に沿って左側は、樹木が密生している鬱蒼とした森で、小鳥のさえずりが微かにきこえる。
一方、右側には湖があった。
その湖の中央に、石造りの大きな城が浮かぶようにあって、陸地へ架けた跳ね橋も見える。BS放送で特集を組んで放送されるような、中世ヨーロッパふうの城だった。
「いや、マジでどこ……?」
僕は確かに自分の家で、自分のベッドで、寝ていたはずだ。
なのに、気がついたらまったく知らない、見知らぬ土地にいた。
「誰かあ! 誰かいないのかあ!」
叫んでみるも、虚しいほどに返事はない。
と、思ったら。
「おーぃ……ユッキー……」
聞き覚えのある声だ。
僕の名前、羽柴優希のあだ名であるユッキーと声を張っている。
振り向いてみると、こちらに手をふって駆けて来る人影が。
ん、あの美少女は……。
「真衣?」
近所に住む、保育所から一緒で幼馴染みの朝倉真衣だ。
黒髪のショートヘアを靡かせて、この上なく整った顔立ちにうれしさを浮かべて駆けて来る。
精気みなぎる血色の良い肌を、やや紅潮させて、
「やっぱりユッキーだったのね! 会えてよかった!」
息を切らして真衣はそう言った。
が、僕は、真衣の格好におどろいた。
「真衣……いつからコスプレが趣味になったんだ?」
これまた中世ヨーロッパふう。
当時の騎士が着用するような鎧で身を固め、左手に逆三角形のまるみを帯びた盾を持ち、腰には剣を装備している。
まるで本物のような銀色の鎧は、非常に扇情的で露出度が高く、真衣の、こぼれ出そうな立派な胸の膨らみを、ゆたんゆたんと揺らして艶かしく演出。とってもセクシーだ。
みずみずしい色気にみちた胸をガン見して僕は、
「でも結構、似合ってるよ。うん」
「ばかっ! コスプレじゃないわよ!」
「じゃあ、それ私服? 僕の知らないところで、そういう性癖を開花させたのか……」
「ちがうわよ!! 私のはなしをしっかりきいて! 大事なだから!」
卵形の小顔を真剣な表情にして、革のグローブをはめた手で前髪をはらった真衣は、
「ここはゲームの世界よ。しかも、RPG!」
「……はい?」
「ここは、ロール・プレイング・ゲームの世界なの!」
僕はまだ、夢の世界にいるようだった。