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星が流れた夜に

作者: シュウ

 今夜は大きな彗星が見えるらしい。

 なんでも天文学的に貴重な彗星だとか、これを逃すと300年も後にならないと見れないだとかで、一週間ぐらい前から世間の話題はそれで持ちきりだった。

 大きな彗星は昔、地球が滅んでしまうとか不吉なことの前兆だと言われたらしい。

 彗星の光が地球をかすめるとき彗星は空気を奪っていく、なんてバカみたいなことをたくさんの人が信じていたと聞いたことがある。

 科学が発達した今だから笑えるけど、きっとその時代の人たちにっては真剣な問題だったんだ。今の私なら、なんとなくだけど分かる気がする。

 まあ不吉なことは過ぎ去ってしまったんだけど。


 半年ぐらい付き合った彼に、今日、別れを告げられた。

 なんでも私のわがままなところが許せなかったんだとか。

 お互い疲れてる自覚はあったし、別れはスムーズだった。悲しかったけど。

「さよなら、また縁があったら会おう」

 唐突に今日の言葉を、夕日をバックにした彼のシルエットと一緒に思い出す。思い出と一緒に涙も出てくる。……私って、弱いんだな。

 有名な歌じゃないけれど、悲しくなったら空を見上げることにしている。涙が頬を伝い始めたら、どうなるのか分からないから。

 目に入った満天の夜空は、私には優しすぎた。

 ……そういや彼、星が好きだって言ってたな。今、私が立ってるマンションのベランダで、二人で夜空を見上げながら、将来のこととかと一緒に冗談交じりに。

 月明かりのない新月の晩のせいか、私の心は思い出の中に深く沈んでしまいそうになる。


 そんなとき、光が私を照らした。

 ぼやける視界を必死にクリアにして、目の前で起こったことを確認する。

 彗星の輝きが、ほんの少しだけ夜を明るくしたらしい。

 よく見てみると、そんな騒ぐほどのことかって思うぐらい彗星は小さくて、頼りなかった。

 たしか2,3時間ぐらい現れているらしいけど、こんなに頼りないものなんだったら次の瞬間には消えてしまいそうだ。


 彗星を眺めていて10分ぐらいしただろうか。

 彗星はどんどんと見えずらくなり始めていた。


 彗星が流れても、私は世界が滅んだりしないことを知っている。

 この人が人を好きになれる素敵な世界が、そう簡単に消えたりしないことを知っている。

 

 同じ体勢に悲鳴を上げる始めた体をほぐす。

 大切だった瞬間は思い出となって、いつかは記憶になるんだろう。

 でも私が死ぬまで、その記憶は消えることはない。そして私を支えて、成長させてくれる。

「もう大丈夫」

 そう夜空に呟いて、私はベランダから部屋に戻った。

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