その5
プロローグとやっとつながり始めるかなぁ…という回です
「な、にを、言っているのかな?」
とりあえずしらばっくれることにした。しかし、そんなことで許してくれる子じゃなかった。
「じゃあ、屋上に行こう!そこでなら話せるでしょ?」
や、話す気ないって!
彼女はまた俺の腕をつかむと、そのまま廊下に引っ張り出した。
まずい。放課後の廊下はだめだ!
抵抗するのが遅かった。俺は廊下に出てしまった。
目の前に現れる球体。廊下中に浮かび上がっているそれが、俺の視界を埋め尽くした。視覚から強い吐き気を覚える。思わず壁に身を預けるが、その際にいくつかの泡に触れてしまった。
「ごめんねぇ!今日一緒に帰れなくてさぁ」
『ってか、あんたあんま好きじゃないんだよね』
「中間テストどうするよ?おれ全然勉強してなくてさ」
『ま、ばっちり勉強してんだけどな』
「え、代わってくれるの?助かる~!今日塾でさぁ」
『本当は彼女とデートなんだけど、そういったらこいつ代わってくれるしな』
様々な声が頭の中に響き渡る。頭が痛い。だるくて全身から力が抜ける。
「紫合君?!」
最後に聞いたのは、あの変な美少女の声だ。驚いた声も可愛いことで…
はっと目を覚ますと、目の前は真っ白だった。泡の姿はない。どこだ?ここ。上体を起こそうとするがけど、体が重たくて持ち上がらない。かろうじて持ち上がった右腕を、目の上に乗せた。視界が一転、真っ暗になる。
「あー…、やっちまった…」
「何を?」
びくっとして声のほうを見ると、空木空が立っていた。相変わらず、外見だけは目の保養。俺を介抱してくれてたんだろう。まさに天使。うん、絵だけなら十分に天使。
俺は博愛主義だ。自他共に認めるフェミニストでもある。でも、平穏を崩されて怒らないでいられるほど大人じゃない。
「君のせいで!俺の高校生活はもう終わったってこと!」
「なんで?」
…イラッとしてくるぞ、これは。
でもなんでかガツンと怒る気がしなくて、大きくため息がふぅと出た。
放課後の保健室で美少女と二人。なのに喜べないって、どういうことだよ?
勘の鋭い人は、もう泡の正体がわかってしまったかも…。