その10
俺の隣を通り過ぎたクロウが、そのまま女の子たちの前へ行く。そして、何かを取るような動作をした。とたん、バランスを失った。
「おいっ!」
慌てて彼を支える。が、力が抜けてだらりとしており、異常に重い。支えられないほどじゃないけど。
突然出てきた男がわけのわからないことをしてぶっ倒れるという、可哀想な光景に合った女の子たちは、さっさと逃げてしまった。
「ちょ、どうすんの?ソラちゃん!」
「待って!あと三十秒だから」
「は?」
ぽかんとするものの、このままクロウを放置しておくわけにはいかない。ソラちゃんには支えられないだろうし。
仕方ない。保健室に連れてくか。
「状況はよくわからないけど、保健室行こう」
クロウを背負い、昇降口のほうへ向かう。彼が細身でほんとよかった。ここで背負えなかったらカッコ悪かったし。
ソラちゃんは何か言いかけたが、すぐに追いかけてきてくれた。
脱靴場で靴を履き換えたころ、もぞっと後ろが動いた。クロウが目を覚ましたのだ。
「んにゃ…、って、ここどこ?」
「目ェ覚ましたか!」
「うちの学校の脱靴場だよ。それよりクロウ、当たった?」
「まぁね。主犯は教室だよ。たぶん今頃、ここから一番遠い階段にいる」
「は?どういうこと?」
クロウを下す前にソラちゃんが走り出す。
「クロウ!お前走れる?」
「走るのは無理、置いてっていいよ」
…知らない学校で、学祭でもないのに一人になるのは、俺だったら絶対に嫌だ。
「文句は言うなよ!」
幸い、体力には自信がある。クロウを背負ったまま、ソラちゃんを追って駆けだした。




