その4
変な子、というよりは、まだ空気が読めないみたいな感じだなぁ
「その目の傷、どうしたんですか?」
…へ?
目の前に美少女の顔があるのに、顔を真っ赤にするのも忘れた。プレイボーイでもないんだけど。
この距離で聞こえなかったとでも思ったのだろうか?もう一度、同じセリフを彼女は言った。
「あの、その目の傷、どうしたんですか?」
…ひとまず読者の皆様に説明させていただこう。俺の目に傷なんてない。そんな海賊漫画みたいな特徴は一切ない。いたって普通のイケメンだ。某男性アイドル事務所系というよりは、俳優系かもしれないけど、そんな、顔に傷があるほどワイルドじゃない。
「えー…と」
今解った。さっきのあの視線。あれは「羨望」じゃない、「同情」だ。この俺が憐みの目を向けられたんだ。本来羨むだろう状況で、こう思うなんて思わなかった。
誰か助けて!
俺が困っていることに彼女が気付いてくれた。ネクタイから手を離し、ごめんなさいと謝ってくる。そして彼女は眉をハの字にして笑う。
「自己紹介もなしに、失礼でしたね」
うん、自己紹介があっても驚くけどね?
「あたし、空木空っていいます」
…え?彼女が吉野の言ってた、隣のクラスの美少女?
バッと振り向くと、少しずれて吉野が俺から視線をそらした。そのまま、わざとらしくカバンを漁りだす。
もしかして、なんか大切なことを聞き逃したんじゃないか?
困り果てた俺の腕を、グンと勢いよく引いた。
「クロウ以外に初めてなの!目に傷のある人」
クロウって誰やねん。あまりに意味のわからないことをいうから、思わず関西弁になったじゃないか!がっつり関東人なのに。
でも。
目に傷のある人。
この表現は、地味ィに気になった。ちょっと、心当たりがないというわけではないのだ。
しかし、次の一言が決定打になった。
「ねぇ、あなたには何が見えるの?」
すっと血の気が抜ける気がした。まるで幽霊が見えるというような彼女の発言に、クラス中がざわめいた。幽霊は確かに怖い。霊能者なんて、正直テレビの中だけでいい。
けど、俺が驚いたのはそこじゃない。
なんで知ってる?それは誰にも言っていない、俺だけの秘密のはずだ。
手の体温がなくなる。足もどんどん冷える。とっさに、これだけは理解できた。
この子と関わってはいけない。
どうする?どう逃げる?
頭がフル回転する。回答が出るより先に、彼女が自分の口をふさいだ。
「あ、これ人前じゃダメ?」
今さら解ったかとか、そんなことも思えない。
女の子の前で立ち止まったまま、動きもせずトークもできないなんて、柄じゃない。だからクラスメートが見ているのだと、心から信じた。
主人公ピンチのまま次回へ続くっていう、ありがちな展開で申し訳ない(笑)