その1
一人称でがんばります
私立彩城学院。関東圏内ではあるけれど、都市部から少し離れたところにある広い教育施設の名前だ。学校というのが早いか。小学校から大学まであり、今目下幼稚園まで校内に作ろうと、理事長がたくらんでいるとか。
その中にある光塚高校が、俺の通う高校だ。
入学から一カ月。それは新入生もある程度環境に慣れ、少し崩れ出す頃合いだと、個人的に思っている。
おっと、紹介が遅れた。俺の名前は紫合祥平、少し崩れ出した新入生の一人だ。
今は授業中で、教室内には黒板の音がカツカツと響いている。それ以外の雑音がないのは、まじめな奴しか起きていないからだ。俺の隣の女の子はまじめにノートをとっているけど、そのさらに隣の男子は爆睡していた。寝方があからさま過ぎて、「気付かないふり」という教師の優しさを、第三者が感じ取れるくらいだ。
かくいう俺は、起きてはいるものの、ノートが真っ白という特異なケースである。まじめに受ける気もないのに、寝る度胸はないという半端者だ。
時計を見ると、そろそろ授業が終わりそうだった。思わず秒針に合わせてカウントダウンを始める。
3・2・1…
ピッタリのタイミングで校歌が流れた。持ち上がり組の話によると、この学校は小学校からずっと、あのメジャーな「キンコンカンコン」ではなく、校歌をチャイムとして利用しているという。そのためか、彼らの「一般的なチャイム」へのあこがれは半端なく、入学したての頃はその話を別々の人から何十回も聞かされた。
「今日の授業はここまで」
無愛想な男性教師が、教科書を持って教室を出て行った。
「ユウ、ユウ!ちょっと!」
後ろの席の吉野が、こそこそと話しかけてきた。
「なに?」
「知ってるか?隣のクラスの美少女!」
入学後一カ月、新入生が隣のクラスまで制覇するには、ちょっと短い期間だろう。美少女なら確かに情報は得やすいだろうけど…
「内部生じゃないし、さすがに情報網はまだ狭いって」
だいたいそんな情報を誰かれ構わず教えて回るのは、持ち上がりの中でも吉野くらいだ。
「いや、空木空って言ってな…」
「ホームルーム始めるぞー」
…後半が威勢のいい担任の声にかき消されてしまった。
「わり、今何て…」と聞き返そうとしたら、
「紫合ー、ちゃんと前向け」と注意されてしまった。
仕方がないので、「また放課後教えて」とだけ言って、向きを戻す。
俺だって男だし、美少女の話ってのは気になるんだよな。
美少女はもう少し先になります。パソコンを開いたときに更新するので、間が空いてしまうかもしれません