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魔法使いに大切な事

「魔法使いに大切な事ってなんだろうね?」

 図書館で勉強する恵に逢歌が尋ねる。

「どっかで聞いたタイトルみたいな事を聞いてくるね」

 恵がノートを見ながら聞き返すと逢歌が頷く。

「だって恵って魔法使いでしょ? 知ってるかなって思って」

 恵がようやく顔を上げる。

「元魔術師。こっちの世界では、魔術師として活動しているつもりは、無いよ」

「でも、最強の魔法使いって呼ばれているわ」

 何故か居る紫影を見て恵が嫌そうな顔をする。

「何で居るかは、聞きたくもないけど、何の様?」

「前回、約束したじゃない。こっちの仕事を手伝ってよ」

 笑顔での紫影の言葉に恵がため息を吐きながら席を立つ。

「仕方ないな。詳しい話は、そっちの奢りの食事をしながらで良いよね?」

「もちろん」

 紫影が頷き場所を移すことになるのであった。



「あたしまで良いんですか?」

 高級中華料理店の個室で緊張する逢歌。

「構わないわ。それより、この魔法書の解析をお願いしたいの」

 紫影が一冊の古びて、今にも崩れそうな本を差し出す。

 恵は、フカヒレを口に入れながら問題の本を捲って行く。

「恵って異界で魔法を習ったのにこっちの魔法書の解析なんて出来るの?」

 逢歌の質問に恵が口の中の物を飲み込む。

「魔法の仕組みって世界に関係ないよ。魔法書も同じ。日本語版か英語版かの差ぐらいしか無いから、流れを追っていけば解る」

「あたしは、英語の本なんて読めないよ」

 逢歌が首を傾げると恵が少し考えてから告げる。

「文字が解らなくても単語の並び方や頻度でどんな内容なのかは、段々わかって来るの。そうすると単語の内容も解析できる。そうすれば必然的に内容がハッキリしてくるわけだよ。文字も言葉もまったく通じない異界で何とか意思疎通する為には、そういう技術を身につけたの」

「古文書の解析に近い感じかしらね。それで解析できそう」

 紫影の質問に恵が魔法書を閉じる。

「解析する必要あるの?」

「どういう意味?」

 紫影の視線が鋭くなる。

「これ、誰かを騙すために作ったブービートラップだよ」

 恵の答えに紫影が小さくため息を吐く。

「その顔からして、その可能性があった訳だ」

 恵の指摘を紫影が肯定する。

「出所は、言えないけどこの本は、ある高名な魔導師の弟子が死蔵していた物なの。何故死蔵されていたのかのがわからない上、かなり高度な魔法が書かれている様子なので、本格的な解析の前の事前調査を頼まれていたのよ」

 そんな二人に割り込むように逢歌が手を上げる。

「その本がブービートラップってどういう意味ですか?」

 恵が魔法書を突付きながら言う。

「魔法使いの大切の事って質問していたでしょ。その答えの一つ、研究成果。それを盗みあうって事が実は、結構あるんだよ。それに対する報復方として、業と間違った、もしくは、物凄く危険な魔法の技術をそれと解らないように混ぜる事があるの」

「それと知らずにそれを使って命を落とす魔法使いは、未だに後を絶たないわね」

 紫影の苦笑に恵が遠い目をする。

「魔法使いに多くが強い探究心を持っているからね。逆言えば、魔法使いとして成功するには、それが無いと駄目って事なのかもしれないね」

「恵は、どうだったの?」

 逢歌の質問に恵が肩をすくめる。

「あちきの場合は、さっきも言ったとおり、死活問題だったから是が否も無かったんだよ」

「命懸けだと成長が早いって良い見本ね」

 紫影が問題の本をしまう。

「これで前回の貸しは、無しだからね」

「了解。でも、また力貸して貰えると助かるわ。料金は、払っておくからゆっくり食べて行ってね」

 紫影が席を立つ。

「良い人だよね」

 ニコニコと言う逢歌に恵が冷たい視線で忠告する。

「あの人は、絶対に信頼しちゃ駄目。いざとなったら平気であちき達の命を売るタイプだよ」

「冗談、あたしの分まで奢ってくれる人だよ」

 甘い逢歌に恵が呆れる。

「あのね、あの本の解析で得るあの人の報酬は、最低でも百万は、下らない。ここの食事代なんて大した事ないの。大体、あの人の本名すらあちき達は、知らない」

「紫影って名前じゃないの?」

 驚く逢歌に恵が頷く。

「用心の為に、言霊を手繰ったけど、辿れない。間違いなく偽名だよ」

 眉を寄せる逢歌。

「うーん、そんな風には、見えなかったんだけどな」

「そういう察知し辛い危険が一番危ないの」

 恵がそういいながら食事を平らげていくのであった。



 数日後、逢歌がショッピングをしていると偶々紫影を見つけた。

「紫影さんだ。どうしてこんな所に居るんだろう?」

 紫影は、厳重に包まれた物を一人の黒服の男に託していた。

 黒服が直ぐ去っていたのを見て、逢歌が声を掛ける。

「紫影さん、この間は、ご馳走様でした」

「逢歌ちゃん、今の見てた?」

 顔を引きつらせる紫影に首を傾げる逢歌。

「えーと見ちゃ不味い物だったんですか?」

 紫影は、少し思案した後、微笑む。

「何か欲しいもの無い?」

「いきなりどうしたんですか?」

 逢歌が問い返すと紫影が耳を寄せてくる。

「この事を恵ちゃんには、黙っていて欲しいの。詰まり買収って事」

 瞬きする逢歌。

「よく解らないですけど、それっていけない事だと思います」

「別に逢歌ちゃんが悪いことする訳じゃないのよ、ただ見たって事を言わないだけ。それも警察相手に黙っていろって事じゃない。犯罪性は、全く無いことよ」

 紫影の妖艶の笑みを見せる。

「でも……」

 躊躇する逢歌に紫影の瞳が輝く。

「大丈夫、これは、本当に大した事じゃないわ。そして、貴女は、欲しいものが手に入る。皆が幸せになる事よ。さあ、欲しい物を言って」

「あたしは、新しいワンピースが欲しいです」

 半ば無意識に逢歌が告げると紫影が無邪気そうな笑顔で告げる。

「やっぱり女の子、おしゃれが大切よね。ワンピースだけじゃなくて、一揃えしましょうね」

 誘われるままに逢歌は、紫影についていくのであった。



 翌朝の教室。

「逢歌、オハヨウ」

 軽い口調で挨拶する恵に逢歌が視線を逸らす。

「……オハヨウ」

 恵が、逢歌を引っ張る。

「何をするの?」

 戸惑う逢歌を女子トイレに連れ込むと恵が額に指突きつける。

『我が求めるは、異なる理の痕跡』

 逢歌の瞳が淡く光るのを見て、舌打ちする。

「やってくれたな。あのオバハン」

「何のこと?」

 顔を引きつらせる逢歌の前で恵が複雑に指を動かし、最後に指を鳴らす。

「あれ、どうしてあたしあんな物を貰っちゃったんだろう?」

 慌てだす逢歌に恵が不機嫌そうに言う。

「逢歌は、気にしなくても言い。あの女狐の催眠術に操られてただけ。それで、何があったの?」

 逢歌は、少し考えながら答える。

「昨日、紫影さんに会って、その前に紫影さんが、黒服の人に何かを渡していた。それを恵に教えないでって言われたの。それでそのお返しって服を買ってもらっちゃったの」

 恵は、少し考えてから気がつく。

「そういうことか」

 すぐさま携帯を取り出す。

「どういうことなの?」

 不安そうな顔をする逢歌に恵が少し困った顔をする。

「さっきも言ったけど、逢歌は、何も悪くない、このまま教室に帰って良いよ。買ってもらった服も迷惑料だって思って構わないから」

「そんなの嫌、はっきりしないとあたしが一生後悔する!」

 いつに無く強気な逢歌に恵が諦める。

「逢歌が見たのは、前回の魔法書の受け渡し現場。紫影さんは、あれを悪用しようとしてるのよ」

「嘘、どうして!」

 意外そうな顔をする逢歌に恵が複雑そうな顔をする。

「簡単に言えば、それが紫影の仕事だから。紫影の仕事って何だと思っていた?」

「占い師じゃないの?」

 逢歌の答えに恵は、首を横に振る。

「それは、表向き。裏じゃオカルト絡みの取引のエージェントをやってるの。その業務内容に、ブービートラップを張るのも入っていたんでしょ」

 携帯が鳴り、紫影と繋がる。

『早かったわね。やっぱり何もしないのが正解だったのかしら?』

「そうだね。逢歌に手出ししなかったら、気付いてもあちきは、関わることは、しなかったよ。あの本を渡した相手を教えて」

 恵の注文に紫影が朗らかな口調で答えた。

『解ったは、メールで直ぐに送るわね』

「最初に言っておくけど、あちきを騙してただで済むと思わないでね」

 恵が釘を刺す。

『嫌だわ、私が恵ちゃんを謀ると思ったの?』

 他意の無さそうな声で返す紫影に恵も笑顔で告げる。

「魔法使いに大切な事って何だと思う?」

『探究心って言ってなかったかしら?』

 恵の当たり障りの無い答えに恵が聞くだけで凍えるような冷たい言葉を紡ぐ。

「事前準備。どんな強大な魔力、深遠な知識と知恵、絶大的な神器を持とうと、事前準備を行わない魔法使いなんて無力。その意味を身を持って知ることに成らない事を祈っているわ」

 長い沈黙の後、緊張した声が紫影から放たれる。

『……どんな仕掛けを施したの?』

「あちきを裏切らなければ問題ない事だから気にしないで」

 恵の言葉に紫影の深いため息が漏れて来る。

『騙したペナルティーを支払うわ。だから教えて』

「あの本を解析した時にあれを媒介した人間にも返り風が向くように手を加えただけ」

 恵の答えに紫影が叫ぶ。

『儀式をもう始めているわ! 今すぐメールするから、急いで止めて!』

「やっぱり。このペナルティーは、高いからね!」

 そういいながら恵が携帯を切り、逢歌の方を向く。

「ごめん、ちょっと用事が出来たから先生達には、体調が悪くなったって伝えておいて」

「解った。結果を教えてね」

 不安そうな逢歌に恵が笑顔で答える。

「あちきが何とかするから安心しなさい」

 そして、恵が駆け出していくのであった。



 超高級中華料理店。

「発動しかけていたトラップブックの効果を全て正しい動きに変化させて、返り風を無効化した。これで紫影には、何の影響が出ないわ」

「そう良かったわ」

 全然良さそうな顔をしていない紫影。

「紫影のミスは、謀れない相手を謀ろうとした事。その痛みは、今後に生かしなよ」

 恵の淡々とした言葉に紫影が天井を仰ぐ。

「そうさせてもらうわ。しかし、よくあんな短時間でそんな細工施せたわね」

 恵が微笑む。

「本当に出来たと思う?」

 思わず立ち上がる紫影。

「まさか、フェイク!」

 恵は、トイレに向かいながら言う。

「ご自由に想像して」

 完全に姿が見えなくなったところで紫影が漏らす。

「本当に種まきに余念が無いわね」

「どういう事ですか? 本当だって思わせた方が怖くないですか?」

 一緒に奢られていた逢歌に紫影が肩をすくめる。

「自分の底を見せてないようにしているの。深さが解れば、どんなに深くても対応があるわ。それを知っているから、あえてそこを曖昧にする様にしていた。一枚も二枚も上手ね」

「恵って色々考えているんですね」

逢歌の何気ない言葉に紫影が目を細める。

「それだけの事を乗り越えてきたんでしょうね。私なんかでは、想像も出来ないほどね」

 逢歌も深刻そうな顔をする中、恵が駆け戻ってきた。

「紫影、ここの責任者と知り合い居ない! そこに居たスタッフの男性、物凄くあちきの好みなの!」

「まあ、恋愛遍歴も大変そうだけどね」

 苦笑する紫影であった。

あのアニメのタイトルを意識したサブタイです。

紫影って裏の人間って奴です。

そんな人間の対応も慣れてる恵って肉体年齢十四歳ですが、色々と経験豊富です。



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