魔法少女
一人の魔法少女が居た。
『逢歌、マジックビートルは、あそこだよ』
不自然なデフォルメされた猫のぬいぐるみの言葉にフリルいっぱいのドレスを着た少女が応える。
「わかったよ、ネコー」
マジカルステッキを振るって、悪い魔法を撒き散らしていた異形の獣を鎮める。
『やったね。これでまたひとつ世界が平和になったよ』
猫のぬいぐるみ、ネコーの言葉に少女、逢歌が笑顔で微笑む。
「良かったよ」
彼女、逢歌は、マジックビートルとの戦いに傷ついていたネコーと出会い、そして救うために魔法少女になった。
それから彼女は、魔法少女としてマジックビートルと戦い、世界の平和を護っていた。
そんな逢歌にも日常生活は、ある。
「遅刻しちゃう!」
トーストを銜えて通学路を走る逢歌。
『だから、何度も起こしただろう』
猫のぬいぐるみのふりをしてついてきているネコーの駄目出しに逢歌がテレパシーで応える。
『昨日もマジックビートル退治で夜が遅かったんだからしかたないじゃん』
『それは、申し訳ないと思うけど』
ネコーが困った風なテレパシーを放つ中、逢歌が教室に駆け込む。
「間に合った」
「おはよう、逢歌」
「おはよう、恵」
クラスメイトの恵に逢歌も挨拶を返す。
「今日も危なかったね」
恵の言葉に逢歌が頭を掻く。
「早く起きようと思っているんだけどなかなかうまく行かなくって……」
恵がネコーを軽く見る。
「あんまり夜更かししないんだよ。ほら、宿題」
差し出された宿題を受け取り逢歌が喜ぶ。
「ありがとう! 帰りに奢るよ」
「みんな席に着け!」
担任がやってきて逢歌達の学校生活が始まる。
下校時、逢歌は、約束通り恵にアイスを奢っていた。
「ねえ、恵は、魔法って信じる?」
逢歌の何気ない質問に恵が苦笑する。
「この世界で魔法に頼るなんて馬鹿だよ。もっと現実を見るべきだね」
ほほを膨らませる逢歌。
「恵は、夢が無いんだから。でも小さい頃は、魔法少女に憧れたりしなかった」
恵が苦笑する。
「まあ、若い頃わね」
眉を寄せる逢歌。
「それじゃ、いまが若くないように聞こえるよ」
気にした様子も見せずアイスを舐める恵。
「テレビでやっている様な魔法少女って虚像だよ」
逢歌がネコーを横目で見ながら言う。
「そうかな、もしかしたら本当に居るかもしれないよ?」
恵がアイスを突きつけて言う。
「このアイスは、百二十円。対価があって存在しているんだよ。でもね、テレビの魔法少女は、対価を必要としていないそれって異常なんだよ」
「皆を護るために頑張っているんだからしかたないんじゃない。ほら警察や自衛隊みたいなもので」
逢歌の言葉に恵が呆れる。
「公務員は、税金って対価があってなりたってるんだよ。正確に言えば、国ってシステムの中に組み込まれる事で法律の従事と引き換えにその保護を受ける権利を国民は、持っているんだよ」
顔を引きつらせる逢歌。
「なんか、難しい事を言っていない?」
恵は、即断する。
「言ってない。平和を護る正義の味方や魔法少女なんて存在しない。もしもそんな真似事をしているとしてもその対価は、何処かで必ず発生している筈だよ」
大きなため息を吐く逢歌。
「もう、難しく考えすぎだよ。皆の幸せを護りたいって純粋な思いが力になっているんだよ」
そんな逢歌の胸を指して恵が告げる。
「もしそれが対価だとしたら、その対価で失われた想いは、どうなるんだろうね?」
「想いは、無くならないと思うけど?」
戸惑いながら返す逢歌に恵が苦笑する。
「想いは、消耗品だよ。強くなりたい、良い学校に行きたい、幸せになりたいって思っていてもそれで何かをすれば、その思いは、消えていく。その中で新たな思いを手に入れていかなければ思いが消えてしまう。正義の味方や魔法少女は、平和を護りたいって思いをどうやって補給し続けているの? 怖い思い、痛い思い、そんな物を続けていて、いつか限界に来るんだよ」
戸惑う逢歌の鞄からネコーを掴み出して恵が言う。
「所で、何でこんな所に下級悪魔が居るのかな?」
ネコーが冷や汗を流す。
「恵、何を言っているの? それは、ただのぬいぐるみだよ」
引きつった顔でフォローする逢歌に恵が告げる。
「あのね、こんだけ派手に魔素を撒き散らしてたら、すぐに気づくよ。あんた逢歌に偽りの契約をさせたよね?」
ネコーが飛びのき、ファンシーな姿からリアルな黒猫の姿に変化する。
『まさか、本物の魔法使いが傍に居るとは、油断した。しかし、契約は、成立している。そいつは、自分の魔法少女願望を叶える代わりにその魂を俺に差し出す事になるんだよ!』
怪しい笑みを浮かべるネコーに目を見開く逢歌。
「どういうことなの?」
恵がネコーを睨む。
「紫影から話を聞いてたけど、悪魔の僕達が悪さしているっていうのは、あんたが逢歌に退治させる為にやっていた自作自演だよね?」
嘲笑するネコー。
『悪いか? 平和を護る為には、最初に平和じゃなくすれば良い。真実だろ?』
「嘘! それじゃ、あたしがして来た事って……」
愕然とする逢歌をやさしく抱きしめて言う。
「大丈夫、あいつを倒せば終わるから」
『倒すだって? たかが人間の魔法使いが本物の悪魔を滅ぼせると思っているのか? 魔素が少ないこの世界では、悪魔を倒す大魔法なんて使えるものか!』
高笑いをするネコーに恵が微笑む。
「あるじゃん、魔法少女のステッキが」
恵は、逢歌が使っていたステッキを手に取る。
『冗談は、止す事だ。それは、俺の力だ。俺の力で俺を倒す事など出来ない』
ネコーが慌てる。
「騙せると思った? あんたは、逢歌の魂を得る代価としてこの力を与えた。つまりこの力も既に貴方の物じゃないんだよ」
恵は、ステッキにこめられた力を収束し始める。
『お前、その魔法は、何だ!』
叫ぶネコーを他所に恵が呪文を唱える。
『汝は、悪意の象徴、人の邪な想いを育む者。汝は、汝が求める悪意を喰らい続けよ』
急速に巨大化していくネコー。
『力が、力が暴走する!』
「何をしたの?」
腕にしがみつく逢歌に恵が説明する。
「悪魔って本気で滅ぼしづらい存在なんだよ。だから、逆に活性化させている。さてさて、このまま活性を続ければどうなると思う?」
『止めろ、俺が俺で居られなくなる! 止めてくれー!』
ネコーが悲鳴を上げる中、恵が肩をすくめる。
「さっきので魔素を使い切ったからあちきには、何も出来ないよ」
その余裕の態度にネコーは、察知する。
『何か方法があるんだな! 言え、今回だけは、特別に無償で願いを叶えてやる!』
半眼になる恵。
「今更悪魔と契約するつもりなんてまるっきし無いよ。方法だけど簡単。さっきも自分で言った、自分の力なら自分で操れる。逢歌との契約を破棄すれば、その力は、元通り貴方の物だから、その魔法を無効化出来るよ」
『やってくれたな! 仕方ない!』
次の瞬間、恵の手にあったステッキが消えてネコーは、元のサイズに戻るとさっさと消えていくのを見て逢歌が俯く。
「悪魔に騙されていたなんて……」
「悪魔は、狡猾だからね。ところで助けたんだから代価は、よろしくね」
恵の軽い台詞に逢歌が声をあげる。
「お礼を要求するの!」
恵が笑顔で言う。
「何事にも代価が必要だってさっき解ったでしょ?」
「友達じゃない。友情は、永遠に不滅な筈だよ」
逢歌の要求に恵が告げる。
「想いは、消耗品。補充の為にもクレープを奢る事を薦めるよ」
「チョコバナナで良いよね?」
財布の中身を見ながら言う逢歌に恵が告げる。
「プリン入りが良いな」
「えー」
仲良く帰る逢歌と恵であった。
まどかを見た後、一気に書きました。
それだけの話だったりします。