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レジェンドソード

 恵の学校の近くの喫茶店に恵と紫影の姿があった。

「封印された神剣を解放するねえ」

 胡散臭そうな顔をする恵に紫影が頷く。

「恵ちゃんだったら、朝飯前でしょ?」

「却下、そんなくだらない事をしている時間なんて無いの。大体、前回のお詫びにケーキを奢ってくれるって言うから来たのに、また仕事の話をするなんて仁義に外れてない?」

 恵の冷たい対応にも紫影は、めげない。

「そんな、ちゃんと確りとお詫びをするわよ。ほら、ここのレアチーズケーキは、美味しいって有名でしょ?」

 事前にクラスメイト(紫影の占いの常連)から聞き出した好みを突いてくる紫影に呆れ顔になる恵。

「大体、神剣が封印されている理由ってなんだと思ってるの?」

「悪用を恐れてじゃないかしら?」

 紫影の一般的な言葉に恵が首を横に振った。

「大半の神剣が、その強大すぎる力を制御出来ないから。解放なんてしたら、使用者の命をあっという間に奪っておしまいだよ」

「そうなの?」

 驚いた顔をする紫影に強く頷く恵。

「元々神剣の類は、神様が人間では、勝てないオーバーロードを倒す為に与えた物だからね。人間には、荷が重い代物だよ」

「それは、流石に問題ね」

 腕を組み考え込む紫影だったが、その時、ゴルフバックを持った一人の男が入ってきて、紫影に近づいてきて言う。

「おい、例の件は、どうなった。もう時間が無いんだぞ!」

 トゲトゲした雰囲気の男に迫られ顔を引きつらせる紫影。

「丁度今、出来そうな人間に声を掛けていた所よ」

 男は、恵を一瞥してから机を叩き割る。

「ふざけるな! これには、仲間達の命が使われているんだ!」

 その横顔は、真剣そのものだった。

「でも……」

 言葉を濁しながら見る紫影だったが、恵の変化に驚く。

「あのー、一度見せて貰えませんか?」

 恵の言葉に、男が睨む。

「何も解っていない小娘は、黙っていろ!」

 集まってくる店員達も怯む怒気を浴びながらも恵は、コップの水を空中に振りまく。

『沈静を司る水の精霊よ、我が声に答え、この場に安らぎを与えよ』

 恵の呪文に答え、さっきまでざわめいて居た店内が静まる。

「場所を変えましょう」

 恵の言葉に思わず従う男と紫影であった。



 紫影が用意したホテルの一室。

 そのリビングで幾重にも魔方陣が描かれる中心で神剣と相対する恵。

『汝を捕らえん、束縛の鎖、その使命を我に伝えよ』

 神剣の不規則の輝きを確認した後、恵が後ろに控える男、亜弗アドルに告げる。

「この神剣は、確かに強力な魔に止めを刺す力が封じられてます。しかし、それを使えば、亞弗さんの魂を著しく消耗します。下手をすればそのまま死ぬ可能性もありますよ」

 紫影は、緊張するが、亞弗は、平然と応える。

「最初から覚悟の上だ。本当に封印を解けるのならやってくれ!」

 難しい顔をする恵。

「覚悟は、理解しましたけど、でもこの神剣だけでは、足らない」

「この神剣でも俺が戦おうとしている魔王を倒せるだけの力が無いと言うのか!」

 亞弗の叫びに恵が首を横に振る。

「この神剣の一撃が決まれば倒せると思う。だけど、その一撃をどうやって決めるんですか?」

「そんなのは、正面から戦いを挑んで、斬りかかって……」

 亞弗の言葉を遮り恵が告げる。

「魔王を甘く見てないですか? こっちの常識なんて通用せず、人間の魔法なんてあっさり無効化し、どんな戦士より強靭な体を持っています。どれ程、防御を固めてもその攻撃を防ぎ続ける事なんて出来ません。そんな規格外の化け物が魔王。それに無策で戦うのは、蛮勇ですよ」

「だったらどうしろと言うんだ?」

 亞弗が苛立ちを籠めて言うと恵が微笑む。

「罠に嵌めるんです。あっちが想像もしない罠を」

「魔王を罠に嵌めるなんて、そんな事が出来るの?」

 紫影の問い掛けに恵が頷く。

「あっちは、絶対の実力があり、自信満々なんですよ。だから自分の力を発揮できる場所を用意すれば、そこで戦う事に何の疑問も持たない。そこがつけいる隙」

「そんな相手の力を発揮できる状況なんて、そんな場所で勝てるわけがないじゃない!」

 反論する紫影に恵が苦笑する。

「それじゃ、どれだけ相手の力を弱めれば、勝てるの?」

「それは……」

 答えに詰まる紫影に対して恵が断言する。

「まともに戦って勝てる相手じゃないんです。だからまともにやりあわない。こっちの勝利条件は、一つ、その神剣を突き刺す事。その為に相手の油断を突いて、一気に勝負を決めます」

「俺の家族を殺した奴を殺す為だったら何だってやってやるさ!」

 亞弗の宣言に恵が言う。

「だったら、魔王を倒した後、あちきと付き合って貰えますよね?」

 意外な展開に亞弗も戸惑う。

「何でそうなるんだ?」

「あちきのやる気の問題です。それだったら、あちきは、全力で神剣の力の発動までの時間を稼ぎますよ」

 恵の答えに亞弗が一瞬だけ考えてから言う。

「良いぜ。もしも生き残れたら、結婚でもしてやる」

「その思いっきりのよさが良いですね」

 満面の笑顔になる恵を見て紫影が呟く。

「何となーく、恵ちゃんの男の趣味が解って来た気がする」



 そして、魔王との決戦の夜。

「奴は、この館の地下で眠っていた。その復活の為に俺の家族が生贄にされた。奴を殺す為ならこの命も要らない」

 壮絶な覚悟を語る亞弗に恵が優しい顔で言う。

「駄目ですよ。魔王を倒した後は、あちきと付き合う約束でしょ」

「本気なのか? あってからまだ数日しか経っていないぞ?」

 怪訝そうな顔をする亞弗に恵がその手を撫でながら答える。

「人生は、手に出るんですよ。亞弗の手は、ごつごつしていて、傷だらけ。でもそんな手をしている人は、真面目な人だと解る。だから、そんな人となら幸せになれると信じてますから」

「しかし、俺なんかと一緒に居ても幸せになれない。俺には、幸せになる権利なんて……」

 暗い表情をする亞弗に恵が昔を思い出すような顔で語る。

「あちきは、異界で様々な人と会いました。中には、魔族に国を滅ぼされ、たった一人生き残った王子も居て、その人が言っていました。自分が明るく元気で幸せに生きなければ、死んでしまった人間が幸せになれた証が残らない。死んでしまった人の未来が明るかった筈だと証明できるのは、自分ひとりだけだと。そういって周りには、馬鹿とも思える程、明るく自分勝手に生きていましたよ」

 亞弗は、恵の話に嘘を感じなかった。

「お前は、見た目と全然違うな?」

「異界での七年がありますから。それよりそろそろですよ」

 恵の言葉に亞弗が神剣を構える。

『我らが偉大なる創造主、数多の世界にその力を示す者、邪な意志で、世界の理に抗う者を討つ力を我らに貸し与えたまえ!』

 恵の呪文で神剣の封印が解かれ、亞弗の顔が険しくなる中、魔王がその姿を現す。

『矮小なる者よ、則を用いて我をここに導きし事を後悔するが良い』

 邪悪な気配だけで亞弗と恵の体力が削られていく。

 歯を食いしばり恵が叫ぶ。

「残念ね! 後悔をするのは、貴方よ! 死にたくなければ逃げたら?」

『安い挑発だ。しかし、闇虹の魔王と呼ばれる我は、如何なる挑発も正面から受けてやろう!』

 魔力を練り上げた闇虹の魔王の手から獄炎が放たれる。

 しかし、同時に恵が残像の残りそうな程のスピードでくみ上げていた手印が完成する。

『炎、汝は、ここに有らざる物なり。その理に従い、全ての炎よ立ち去れ』

 絶対火炎防御の魔法が発動し、闇虹の魔王の炎が消失した。

『面白い、如何なる炎も消し去る魔法など、初めて見たぞ。しかし、それで七種の力を持つ我に勝てるかな?』

 余裕たっぷりの態度でその手から天から落ちる雷と変わらぬ威力を持つ電撃を放つ。

『雷よ、そは、自然の理に従い、その全てを大地に帰せ』

 恵の詠唱と共に地面に描かれた魔法陣が発動し雷撃が地面に吸収されていく。

 流石に苛立つ闇虹の魔王。

『人間の分際で多少は、やるようだが、人の身で我が魔力の波動に抗えるかな!』

 今度は、直接魔力を撃ち出す。

 目を瞑り、呼吸を整え、向かってくる魔力の塊に手を伸ばし、それを受け流す恵。

 目を見張る闇虹の魔王。

『まさか、我が魔力を凌ぐなど……。まだだ! 空間を充たす毒の前に貧弱な人間の体では、保つまい!』

 毒の雲が発生し、空間を覆いつくそうとする。

『氷結符』

 恵の魔力を籠めて放った術符は、毒の雲を凍りつかせて地面に落下させていく。

 ここに至り闇虹の魔王も相手が只者でない事を知る。

『貴様何者だ!』

 恵は、悠然と立ち答える。

「ただの人間よ! どう足掻いたって、魔王である貴方に魔力で勝る事は、出来ないただの人間。だから、貴方の力を調べ、対応する策を貴方が自分に有利だと思わせる魔素に満ちたこの場所に張り巡らせた。自分の力に慢心し、相手の力を探ろうともしなかったそれが貴方の敗因よ!」

「家族の仇!」

 神剣の力を高めきった亞弗の一撃が闇虹の魔王を貫き、滅ぼした。



 数日後、この前と同じ喫茶店。

「よく聞こえなかったんだけど?」

 殺意すら篭った目で見てくる恵に怯みながら紫影が答える。

「だから、亞弗さんは、私に仲介料を払った後、旅行好きだった家族の夢を叶える為にもって世界一周の旅に出ちゃったのよ」

「約束が違うじゃない!」

 新品のテーブルにヒビが入る程の力で叩く恵から視線を逸らしながら紫影が小さな声で伝言する。

「世界一周が終わったら、付き合うから待っててくれって」

 暫く沈黙していた恵がいきなり立ち上がるのを見て紫影が嫌な予感がした。

「何処に行くの?」

「あの館。あそこだったらまだ魔素が満ちてる。あれだけの魔素があればメテオを放てる」

 淡々と告げる恵に紫影が慌ててしがみつきながら問う。

「メテオってまさかあの隕石落しの魔法?」

 否定を期待した質問に恵があっさり頷くのを見て紫影が慌てる。

「駄目よ! そんな魔法を使ったらどれだけ被害が出るか解らない!」

「安心して、ピンポイントで落とすだけ。これでも攻城にメテオを使える唯一の使い手だって言われていたんだから」

 怖い事実に紫影が力の限り妨害をする事になるのであった。

魔王が出てきたのは、自分のサイトのお勧めにニコニコ動画にもある大魔道士がの最新作を見たからでした。

恵って単なる魔王くらいだったら何度か対戦してるんですよね。

因みに出る事が無かった残り四種類の力は、氷結・地震・竜巻・闇波動でした。



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