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 恵は、クラスメイトの女子と占いの館に来ていた。

「あちきは、占い師って信じてないんだよね」

 恵の言葉にブーイングが起こる。

「もう恵ったら、この頃、冷めてるよ! 前だったら恋占いとか大好きだったのに」

 恵は、遠い目をする。

「あの頃は、初心だったわ」

 冷めた目をするクラスメイト。

「あの頃って、一ヶ月も経ってないわよ」

 そんなクラスメイトがはしゃぐ様子を見ながらため息を吐く恵。

「この世界の占い師の大半が、詐欺師の類だってどうして気付かないのかな?」

「随分の言い草ね」

 美人占い師が微笑を浮かべながら話しかけてくる。

 その手に持っている水晶玉を一瞥して恵が告げる。

「その水晶は、相手を軽い催眠状態に陥れる道具だよね」

 驚いた顔をする占い師。

「貴女、只者じゃないわね?」

 真剣な顔で問いただす占い師に対して気を払わない恵。

「この世界では、ただの女子中学生だよ」

「へーどの世界だったら、有名なのかしらね?」

 占い師から僅かに感じた殺気に恵が振り返り、観察する。

「その指輪は、マジックアイテムなんだ。この世界にも意外と魔素を溜め込んだアイテムって多いのね」

 占い師の頬から冷や汗が垂れる。

「見ただけで解る訳?」

 恵が肩をすくめる。

「魔素が見える訳ないじゃん。軽く魔力を放って、その反応で解ったんだよ」

 顔を引きつらせる占い師。

「冗談は、止めて。触れずに魔素を反応させるなんて、伝説クラスの魔法使いじゃなければ無理な話よ?」

 恵が手を叩く。

「そうか、この世界では、魔素を触れずに反応させられる人間って少ないんだ。魔素が満ちたあの世界だと、魔素に触れてない状態なんて意識した事無かった」

 占い師は、唾を飲む。

 恵の底がまるで見えないからだ。

 全てがハッタリの様にも見えたが、彼女の感がそれに危険信号を出していた。

 恵は、占い師の方に指を向けて呪文を唱える。

『大気に遍く雷の精霊よ、我が呼び声に答え、その力を示せ』

 占い師の頬を静電気が走った。

「多少でも魔法を齧った事があれば今のがどれだけ凄い事か解るんじゃない?」

 恵の言葉に滝のような汗を垂らす占い師。

「大気に偏在する魔素だけで魔法を発動させる。それは、人類の長い歴史の中でも数えるしか居ない真の魔法使いの証明」

 自分の目の前にいるのがとんでもない存在と知って戸惑う占い師に軽い口調で恵が言う。

「さっきも言ったけど、この世界では、ただの女子中学生。それ以上でもそれ以下でも無い。だからほっておいてよ」

 何も言えない占い師を残しクラスメイトと合流する恵であった。



 数日後、下校中の恵の前に占い師が現れた。

「天野恵さん、ちょっと良いかしら?」

 大きなため息を吐く恵。

「何のつもりか知らないけど、関わらないでって言った筈だけど?」

 それに対して占い師が自分の乗ってきた車のドアを開けて言う。

「先日のお詫びにご飯を奢らせて貰いたいだけなんですけど?」

 恵は、思案した。

 彼女は、これが何かしらの企みだと言うのは、明確で付き合ったらなし崩しで付き合う嵌めになるのが目に見えていた。

 無視したいのが本音だったが、問題が一つあったのだ。

 占い師は、恵のフルネームを知った上で下校を待ち伏せしていた。

 それは、個人情報が完全に把握されている事を示していた。

「この後、夕飯は、家で摂ることにしてるんだけど?」

 恵は、乗ると占い師が車を走らせた。

「家の人には、連絡すれば良いでしょ? それなりのご馳走を期待してね」



 高級中華レストランの個室に恵を連れてきた占い師がようやく自己紹介をする。

「あたしの事は、紫影シエイと呼んでね。それがオカルト業界で、紹介屋をする際の通り名よ」

 並べられる料理を見ながら恵が言う。

「その紫影さんが、ただの女子中学生に何の用ですか?」

「貴女の事は、調べたわ。少し前に一週間行方不明になっているわ。丁度その時、異界との扉が開いた痕跡があった。貴女が言っていた世界とは、本当に異世界だったのね」

 苦笑する紫影に恵が肩をすくめる。

「そっちは、勝手にオカルト業界とかそういう意味だと勘違いしていただけでしょ」

 あっさり頷く紫影。

「そうね。貴女のその脅威の魔法技術は、異界で習得した物。その技術を利用する気は、無い?」

 大体の流れが読めた恵が即答する。

「ありません」

 頬をかく紫影。

「勿体無いと思わないの?」

「思いません。魔法を覚えたのは、全部あの人の為にだったのに……」

 恵が手に持っていた箸を折るのを見て紫影も何となく事情を察知してしまう。

「男絡みって訳ね。なおの事勿体無いわよ。折角身につけた技術なんだからせめて金儲けに使うべきよ」

 恵は、店員が慌てて持ってきた代わりの箸で料理を食べながら言う。

「知っていますか、大きな力は、大きな災いを呼ぶんです。あちきは、平和な日常を遅れればそれで良いんです」

 取り付く島も無い恵の態度に紫影も唸る。

「会うだけ会ってくれない? 彼に掛かっている呪印をもしも解ければ莫大な報酬が約束されているのよ」


 そういって差し出された写真を見て、恵は、手に持っていた箸を落とした。



 一時間後、二人は、写真の男性の住む館に来ていた。

「誰を連れてきても無駄だ。俺の呪印を解除出来る人間なんて居ない」

 その顔には、絶望に埋め尽くされていたが恵は、その顔を凝視していた。

「信じられない。アアアとそっくりな人がこの世界に居るなんて!」

 目を輝かせる恵に顔を引きつらせる紫影。

「そんなに向うの世界で好きだった人に似ているの?」

 強く頷く恵。

「瓜二つ。これって運命って奴よ!」

 自信たっぷり断言する恵を冷めた目で見る男性。

「何だ、このガキは?」

 紫影が困った顔をする。

「貴方の呪印を解いてもらおうと連れてきた子なんだけど……」

 恵の異常な反応に紫影も戸惑っていた。

「無駄な事だ。俺に呪印をつけたのは、魔神だ。人間の魔力でどうにか出来る訳が無い」

 諦めきったその言葉に恵は、笑顔で答える。

「大丈夫、魔力の大小なんて、解呪には、関係ないから」

 そう言いながら恵は、その男性、阿亞アアの服を脱がして、背中を覆いつくすような巨大な幾何学的な刺青を観察する。

「なるほどね、普通の魔法使いじゃ手が出ないわけだ」

「そこが余り良くわからないんだけど、どうして普通の魔法使いじゃ駄目なの? 今までも何人かの魔法使いを連れてきたけど、全員がギブアップしているのよ」

 紫影の質問に恵が刺青を指差しながら言う。

「一番の問題は、この呪印の力が、阿亞さんの心臓と直結しているって事。呪印に何かしらの影響を与えれば阿亞さんの心臓が止まる可能性があるわけ。その上、解呪に必要な手順がまるでパズルのように入り組んでいて、間違いは、即阿亞さんの死に繋がるのよ」

 目を見開く阿亞。

「今見ただけでそこまで解ったのか?」

 恵が頷く。

「この手の呪印は、魔族が人を苦しめるのによく使っていたから直ぐに解った。解くのも得意よ」

「解けるの?」

 紫影の確認に恵が刺青に指を這わせる。

『巡れ、巡れ、呪いよ、巡れ。巡り巡りて、出口に至れ!』

 阿亞の刺青が光り輝いたと思うとどんどんと消えていく。

「今まで、何十人という魔法使いに依頼しても無駄だったのに。ありがとう!」

 強く恵を抱きしめる阿亞。

「大した事じゃないですよ」

 恵が照れていると買い物袋を持った一人の女性がやってくる。

「阿亞、どうしたの?」

 その女性を見て阿亞が掛けよる。

伊衣イイ、長い間冷たくしてすまなかった。俺の呪印が解けたんだ。これでお前と結婚出来る」

「本当! 良かった!」

 抱擁を交わし、口付けまでする二人に恵の殺意を籠めた目で紫影を見る。

「来る途中に確認したよね。恋人も婚約者も居ないって?」

 視線を合わせず紫影が言い訳する。

「ほら、さっきまでは、相手の事を思って、付き合ってなかったのよ。まさか、こんなにあっさりと解呪出来るなんて思わなかったから……」

 恵がやり場の無い怒りを覚えていると阿亞が伊衣と戻ってきて言う。

「結婚式には、出てくださいね」

「誰が出るか!」

 力の限り叫ぶ恵を見ながら紫影が呟く。

「相手の事を思って遠ざけていた彼女が覚悟を決めてやって来た日にぶち当たるなんて、恵ちゃんって本当に男運が無いわ」

占い師もどきの紹介屋、紫影は、このシリーズのレギュラーの予定です。

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