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タロットマジック

 その世界は、光と闇が長い戦いを続けていた。

 神剣を授かった勇者アアアが、大魔王バーマと最終決戦に挑んでいた。

『愚かな人間、お前等の貧弱な力で我に勝てると本気で思っていたのか?』

 勇者アアアは、大魔王バーマと正面から向き合い宣言する。

「僕達は、絶対に勝つ。勝って世界を救う!」

『実力差も解らぬ愚か者め』

 大魔王バーマが放った強力な火の玉を放つ。

『神よ、大いなる加護で我々を護り給え!』

 僧侶ウウウの防御魔法で火の玉を防ぐ。

『多少は、出来るみたいだが、我が触手を防ぎきれるかな?』

 大魔王バーマから伸びる無数の触手が、勇者アアアに襲い掛かる。

「アアアには、指一本触れさせないぜ!」

 戦士オオオがその身を盾にして全ての触手を防ぐ。

『小癪な、しかし、我が防御は、誰にも破れわしないぞ』

 大魔王バーマが防御陣を生み出す。

「魂の全てを籠めた一撃、これで貫けぬ物は、ない!」

 武道家エエエの魂の正拳突きが、大魔王バーマの結界を貫き、勇者アアアに道を作る。

 神剣に己の力を籠める勇者アアア。

『確かに神剣ならば我にダメージを与える事が出来ようしかし、無駄だ。我が生み出した『闇の深淵』がある限り、我は、無限に復活する』

 大魔王バーマが指差す先には、夜よりも暗き闇、光すら食らう絶対の負を撒き散らす、破壊不可能と言われた、力の源があった。

 だがその前には、七年前、異界より来て勇者アアアと共に過ごす中で全ての魔法を極めた奇跡の少女、ミラクルマジシャンメグミが居た。

『太陽の光、そして月の輝き、今こそその永久の絆をここに示す時なり、エターナルソルナライトニング』

 太陽が生み出された様な光の玉が生み出される。

『無駄無駄無駄! どれほど強力な光でも『闇の深淵』は、喰らい尽くす!』

 大魔王バーマは、自信たっぷりに告げたが、光は、吸い込まれながらも周囲の月に反射を繰り返し、無限に増殖していき、遂には、『闇の深淵』を覆い尽くした。

「滅びよ大魔王バーマ!」

 勇者アアアの神剣が大魔王バーマを両断し、世界は、救われた。



 戦いが終った。

 しかし、勇者達には、一つの懸念事項があった。

「メグミ、本当に帰らなくて良いのか?」

 勇者アアアの言葉にメグミが何処か憂いを含んだ笑顔で答える。

「良いのよ。七年、人生の三分の一は、この世界で過ごした。もうここがあちきの生きる世界」

「そうだよな」

 嬉しそうにする戦士オオオ。

 そんな時、僧侶ウウウが大魔王バーマによって幽閉されていた王女イイイを連れてきた。

「王女も無事でした」

 全てがハッピーエンドで終わると誰もが思った。

 その通り、ただ一人以外は、ハッピーエンドを迎える。

「アアア!」

「イイイ!」

 抱きしめあう勇者アアアと王女イイイ。

「二度と放さない! 僕は、君と一生一緒に居るよ」

「私もです! アアアと再会できるこの日をどれだけ待ち望んだ事か……」

 その風景を見ていたメグミの顔が強張った。

「……どういう事?」

 手を叩く武道家エエエ。

「そういえば、メグミは、知らなかったのだな。アアアとイイイは、婚約者同士で、ずっと愛し合って居た」

「でも、アアアは、あちきの事を大事な人間だって……」

 勇者アアアは、真顔で答える。

「当然だ。大切な仲間じゃないか!」

 その場に崩れるメグミに慌てて駆け寄る僧侶ウウウ。

「気を強く持って!」

「それに俺だって居るしな」

 顔をそっぽに向けながらも自分をアピールする戦士オオオであったが、メグミは、立ち上がり力の限り叫ぶ。

「もう帰る! 元の世界に帰るんだから!」



 結局、メグミこと天野アマノメグミ十四歳の女子中学生は、元の世界に戻ってきていた。

 そこは、今の日本とほぼ同じ世界。

 時間の流れの違いから、恵が失踪していたのは、たった一週間の事であり、元の世界に戻った恵は、体まで元の姿に戻っていた。

 そして、極めた魔法の力も、魔法を使う源、魔素が薄いこの世界では、手品くらいにしか役立たないのであった。

 恵は、七年越しの失恋に深く傷ついていた。

「あちきは、二度と男なんて信じない! 弁護士になって、女を騙す屑男達を撲滅してやるんだ!」

 変なベクトルにその才能を伸ばし始める恵は、日が暮れるまで図書館で勉強をしていた。

 暗い夜道を独り歩く恵。

 周りの人間は、危ないと止めるが、異界で闇との戦いを繰り広げた恵にとっては、都会の暗闇など昼間の街道より安全な場所でしかなかった。

 実際、何度も一般で言う危険は、あった。



「おじょうちゃん、いいもの見せてあげるよ!」

 コートを広げる変態。

「良くそんな子供サイズのを見せる気になるわね。羞恥プレイ?」

 恵の一言に再起不能になる変態。



「大人しくしろ、大人しくしてれば気持ちよくしてやるぜ!」

 ナイフを突きつける不良。

「ナイフの持ち方がなってないわね」

 あっさりナイフを奪い取ると、玄人にしか見えないナイフ捌きで、不良の髪を切り裂き、泣き帰らせた。



 そんなこんなで、恵は、平然と夜の道を歩いていた。

 しかし、その夜は、違った。

「これって殺気?」

 元の世界に戻ってから感じた事が無い強い殺気に眉を寄せる恵の目の前に突如男性が現れた。

「やはり、『世界』の力には、勝てないのか?」

 拳を地面に叩きつける男性。

「空間転移の魔法だけど、どうやってそれだけの魔素を?」

 首を傾げる恵に気付き慌てる男性。

「これは、そう、手品なんだよ」

 あからさまな誤魔化しに恵が呆れる中、追撃者が現れる。

「何処まで逃げても無駄だ、お前の持つ『戦車』のカードを渡すんだ!」

「渡せるものか! お前らに全てのアルカナカードを渡したら、世界は、闇に堕ちる!」

 男性は、強い決意を持って返す。

 そんな状況に場違いな物を感じる恵。

「あのー、大変申し訳ないのですが、あちきは、無関係みたいなので通らせてもらいますか?」

 その一言で初めて恵に気付く両者。

「しまった、一般人が居たんだ!」

 男性が慌てる中、追撃者達は、カードを取り出す。

「見られた以上、始末するしかないな。見るが良い、俺のアルカナの力を見せてやる」

 剣が三つ描かれたカードを掲げ唱える。

『剣の三、破壊を意味する剣よ、その効果を示せ』

 常人には、見えない力がカードから放たれ、恵に迫る中、男性は、即座に恵の前に立ち、古代ローマの戦車が描かれたカードを掲げ唱える。

『戦車、守りと戦い象徴よ、守りの力を示せ』

 不可視の力がこちらも不可視な力で弾かれた。

「流石は、大アルカナ、簡単に弾きやがる。だが、小娘を背後に庇いながら何時まで戦えるかな?」

 追撃者が、男性と恵を囲む。

「すまない。危険な事に巻き込んでしまった」

 男性の真摯な顔に恵が顔を赤らめる。

「構いません、夜道を独りで歩いていたあちきも悪いんですから」

 四方からカードを突きつけられ、男性が窮地を実感している中、恵は、じっくりと観察していた。

「あちきの名前は、天野恵と言います。貴方のお名前は?」

「俺の名は、カケル。揃えれば世界を思うままに出来ると言われるアルカナカードのマスターの一人。奴らは、そのアルカナカードを集めて、世界を自由にしようとする組織、『世界ワールド』だ」

 男性は、油断無く構えながら答える。

「自己紹介とは、暢気なものだな。死に行く奴等には、名前など関係ないのにな」

 嘲る追撃者には、視線も向けず恵が続ける。

「どうして、命を懸けて戦っているんですか?」

 翔は、自分のカードを強く見つめる。

「それが、このカードに選ばれた俺の天命だからだ」

 惚けた顔をする恵。

「さて終りだ!」

 カードを構える追撃者達に翔もカードに力を籠め始める中、恵が空中に複雑な印を描く。

『剣の二、破壊を意味する剣よ、その効果を示せ』

『剣の三、破壊を意味する剣よ、その効果を示せ』

『剣の四、破壊を意味する剣よ、その効果を示せ』

『剣の五、破壊を意味する剣よ、その効果を示せ』

 追撃者達の攻撃が放たれた瞬間、逆に追撃者達が吹き飛ぶ。

「何が起こったんだ?」

 戸惑う翔に恵が答える。

「アンチマジックです。魔法の発動を抑制する印を刻みました。それに気付かずに魔法を使えば今みたいに逆風が起こるんですよ」

「アンチマジックって、君もアルカナカードに選ばれた者なのかい?」

 翔の問い掛けに恵は、首を横に振る。

「違います。そのアルカナカードは、使用者を選ぶタイプの魔法具みたいですけどあちきは、持っていません」

 恵の言っている意味が解らず首を傾げる翔。

 そこに背の高い男性が駆け寄ってくる。

「大変だ、美幸ミユキが奴らに捕まった」

疾風ハヤテ、本当なのか?」

 目を見開き、聞き返す翔に背の高い男性、疾風が悔しそうに頷く。

「私がついていながらすまない」

 拳を強く握り締める翔。

「助けに行く」

「私も一緒に行く。美幸が捕まったのも私が不甲斐ない所為だ」

 疾風の言葉に翔は、首を横に振る。

「お前の所為では、無い。美幸は、俺にとって一番大事な人間だ。俺が自分の手で護るべきだったのだ」

 硬い決意をする翔を見て、慌てる恵。

「その美幸ってまさか、恋人ですか?」

 翔が恵の事を思い出す。

「違う、妹だ。しかし、君には、関係ない、今夜の事は、忘れて、普通に生きるんだ」

 ガッツポーズをとる恵。

「家族を助けようとする人を見捨てるなんて出来ません、あちきも手伝います!」

「この子は?」

 疾風の問いに困った顔をする翔。

「それが、俺にも良くわからないんだ」

 怪訝そうな顔をする疾風と翔を引っ張って恵が言う。

「今は、考えるより行動が先です。相手は、多分、こっちの方向に居る筈です」

 魔素の流れを読み的確に導く恵であった。



「本当にここに居るみたいだ」

 信じられないって顔をする疾風に目を瞑っていた恵が告げる。

「相手の数は、三十前後、多分大アルカナって奴を持っているのが五人くらい。中でも一人、強力なカードを持っている人が居ますね」

「どうして解るんだ?」

 翔の問い掛けに恵が倒した相手から回収したアルカナカードを見せて言う。

「このアルカナカードは、魔素の集合体で、恒常的に魔素を放出しているんです。ですから魔素の流れをみれば相手の数とかが解るんです」

 顔を見合わせあう翔と疾風。

「本気で何者だ?」

「魔素とか、アルカナカードの力とか、我々でも知らない事をどうして知っているんだ?」

「とにかく、美幸さんに万が一の事があったら大変ですから急ぎましょ!」

 一人、やる気を滾らせ、進む恵。

 そして、恵達は、翔の妹、美幸が囚われている部屋にやってきた。

 だが、そこには、敵の首領も居た。

「逃げずにやって来たとは、褒めてやろう。しかし、私の持つ『世界』のカードの前では、全てのアルカナカードの力は、無力だ」

 自信たっぷりの首領の言葉に恵が腹を抱えて笑う。

「馬鹿、おもいっきりの馬鹿!」

「何だと! 全てのカードの力を使える『世界』の力を貴様から思い知らせてやる!」

 首領は、四匹の獣の中心に一人の人間が描かれた『世界』のカードを突きつける。

『世界、死神、死の象徴よ、死を知らしめよ』

 人を即死させる力が恵に向かって放たれた。

 しかし恵がその術式を自分に当たる前までに解析を終了する。

『逆位置』

 その短い呪文だけで魔法を無効化してしまった。

「馬鹿な! 『世界』の能力は、絶対の筈だ!」

 愕然とする首領に恵が解説する。

「その『世界』ってカードは、他のカードの力を強制的に借りられるだけのカード。だからアルカナカードの制限以上の事は、絶対に出来ない。そして、アルカナカードって、ある程度は、使用者を選ぶけど、素質があれば誰にでも使える。あちきは、ここから貴方のカードを使えるって言ったら驚く?」

「ハッタリだな!」

 首領が嘘と断じるが、恵が目を瞑り、集中して唱える。

『世界、節制、抑制の象徴よ、全ての動きを戒めろ』

 体を完全に硬直させる首領。

 恵は、そんな首領から『世界』のカードを奪い取り周りの敵に言う。

「まだあちき達と戦う?」

 一斉に逃げ出していく『世界ワールド』のメンバー。

 無事に救出され翔と抱き合う美幸。

 そんな二人を見て疾風は、満足そうに言う。

「これで、二人も結婚できるな」

 恵の目が見開く。

「どういうこと? 二人は兄妹じゃなかったの!」

 恵に詰め寄られ疾風が顔を引きつらせる。

「えーと、親が再婚どうしで、血が繋がっていないんだ。今までは、『世界ワールド』との戦いで結婚出来ないでいただけなんだ」

 脱力する恵に翔と美幸が幸せオーラを発しながら近づく。

「ありがとう、この恩は、忘れないよ」

 恵は、『世界』のカードを床に叩きつけて泣きながら駆け出す。

「男なんて、全員、詐欺師よ!」

 言っている意味が解らず首を傾げる翔と美幸。

 何となく恵の気持ちを察知した疾風は、呟く。

「きっと彼女は、これからもこんな失恋を繰り返すんだろうな」

 その一言が恵の、ミラクルマジシャンメグミの未来を見事に的中させていたのであった。

このストーリーは、その技術の熟練者じゃないのにその技術の熟練者に勝つって展開を作る為に考えました。

バーマの名前は、バーンとゾーマをくっつけました。

因みに恵は、異界で大人な体験も済ませています。

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