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◆第三十七話『剣聖の子』

 飛翔しながら、ベルリオットは右手にアウラを凝縮する。

 思い描くのはいつも使っていた長剣。

 必要以上にアウラの燐光が集まり、収束する。

 できたのは切れ味鋭いとはとても思えない、無骨な長剣だった。

 酷く言ってしまえば、鉱石を適当に砕いた程度にしか見えない。

 赤のアウラとは随分と勝手が違うようだ。

 いや、要領は同じなのだろうが、力加減が難しいと言った方が正しいか。

 造り直そうとしたそのとき――。


「行かせるかぁっ!!」


 得体の知れないベルリオットのアウラに戸惑っていたのか、或いは様子を見ていたのか。これまで静観していたグラトリオが背からアウラを噴出させ、天空の間から飛び立った。

 その先には、城内へと向かうリズアートたちがいる。が――、


「それはこっちの台詞だ!」

「ぐぬぅっ」


 ベルリオットが遮る。

 圧倒的なまでの移動速度に自分でも驚いた。

 全身が恐ろしく軽い。

 アウラが体内を流れ、外へと放出されるまでの感覚が細かに伝わってくる。

 本当に風になったようだった。

 滑らかに空を飛ぶ感覚は、赤のアウラを使っているときにはなかった。

 アウラが満ちた空中を泳いでいる。

 そんな感じだ。

 眼前では、剣を撃ち合せながらグラトリオが戦慄いていた。


「なんだ……なんなのだその青いアウラはっ! そんなもの、わたしは見たことがないぞ!」

「俺にもよくわからない。けど、これであんたとまともに戦えそうだ。いや、まともってのは違うかもしれないな」

「どういう意味だ?」

「たぶんだが……これが、赤んときの比じゃないってことだよ」

「なんだと……。そんなことがあるわけが――」

「降参、してくれないか? 団長」


 暗に勝てないと言われたためか、矜持を傷つけられたグラトリオが激情を露にする。


「調子に乗るなよ! 若造がぁあああああ――ッ!!」


 上手く挑発に乗ってくれた。

 完全に意識がベルリオットに向く。グラトリオが猛烈な勢いで迫り来る。互いの剣を撃ち合わせ、競り合う。

 その隙に、リズアートたちは城内へと入っていった。

 見計らいベルリオットは剣を弾き、グラトリオとの距離を取る。

 高度は同じ。城を背負う形だ。

 空気を切り裂くようにグラトリオが向かってくる。


「やっぱだめか……。なら――」


 ベルリオットも中空を翔ける。

 互いに剣を右肩に背負う構え。間合いは即座に縮まる。振り下ろされる二つの結晶武器がガキン、と甲高い音を奏でる。刹那の拮抗。歯軋りをするグラトリオの顔が映る。

 表情を観察している場合ではないのに、力の差が余裕を生み、ベルリオットの視野を広くさせる。

 ぐっと押し込む力を加え、思い切り振り切る。


「ぬぉあああああっ」

「なにぃっ!?」


 青色結晶が、紫色結晶を砕いた。

 グラトリオが驚愕に目を瞠っていた。

 無理もないだろう。

 これまで最強と言われていたヴァイオラ・クラスの武器が折られるという事態はなかったのだから。


 生まれた一瞬の隙を逃さず、ベルリオットは振り抜いた剣を斬り上げる。

 はっと意識を取り戻したグラトリオが右手を胸の前で構え、アウラを凝縮させる。

 造られたのは盾。

 構わずベルリオットは撃ち込む。盾が弾ける。

 追い討ちとばかりにベルリオットが更なる攻撃を加えんとすると、グラトリオが今度は左手で盾を造った。が、それすらも破壊する。


「ぐぬ――っ」


 呻くグラトリオに、ベルリオットは容赦なく連撃を繰り出す。幾度となく盾で凌がれたものの、空中で徐々に押し込んでいく。そして二十回ほど振り抜いた頃か。グラトリオの盾製造速度を、ベルリオットの剣速が上回る。


「終わりだっ!」


 あまりに無骨な形状のせいか、斬る、ではなく、叩くに近かった。破砕音とともにグラトリオの心窩周辺の紫色の膜が弾け飛ぶ。


「ぐぁお――っ!?」


 グラトリオの身体が猛烈な勢いで落下する。

 地面に激突し、前庭に大きな穴を造った。轟音が響き、湿った土が飛び散る。

 上空から、ベルリオットは地上を見据える。

 あの程度でグラトリオは倒れたりはしない、と確信していた。

 アウラで、それもヴァイオラ・クラスの鎧を纏っているとなれば生半可な丈夫さではないのだ。

 ベルリオットの予想通り、グラトリオがのそりのそりと起き上がった。

 よろめきながら、二本の足で立ち上がる。


「はぁ……はぁ…………どう、やら、はったりではないよう、だな……」

「あんたがアウラの鎧を纏うように、俺にもこの青いアウラの鎧がある。こいつの硬度は、破壊されたあんたの盾で身を持って知ったはずだ」


 言いながら、無骨な剣を見せつける。


「なあ……本当に降参してくれないか」


 今度は、ベルリオットの心からの言葉だった。

 もちろんグラトリオを許したわけではない。

 そもそもベルリオットが許したところで、他に許さない人間は大勢いるはずだ。

 ただ、こうしてまた強大な力を持って余裕が生まれたのか。

 ベルリオットが倒し罪を償わせるのではなく、グラトリオ本人が自発的に罪を償って欲しいと思ったのだ。


「相手を慮らんその甘さ……本当にあいつに似ているぞ……」


 息も絶え絶えに、グラトリオが言った。


「ただの出来損ないだからとこれまで捨て置いてやったが……やはりお前も奴の子だったというわけか……」


 そこでグラトリオの言う“奴”の正体が、ベルリオットの父親であるライジェルだということに気づいた。

 ただ、そのライジェルを語るグラトリオからは溢れ出んばかりの怨念を感じ取れた。


 なぜだ? あんたは親父を尊敬していたはずじゃ――。


「いいだろう。あのような忌々しい力、二度と呼ぶまいと思っていたが……お前もライジェル同様、あの力で葬ってやる」


 親父を……葬った……?


 その意味をすぐに理解できず、疑問となって脳内を駆け巡る。

 そんなベルリオットの様子を意に介さず、グラトリオが声高らかに咆える。


「来い、シグルよ! その大いなる力を今一度我が身に貸し与え給え!」


 足下。いや、遥か彼方の地上へ向けて叫んでいるようだった。

 突然、グラトリオの全身が痙攣しだした。

 筋肉が膨張する。眼球が、ぐりんと上方向へ回転する。白目が紫色に変わり光を宿すと、突如として禍々しいアウラが突風となってグラトリオを包み込む。弾けるように突風が四散すると同時、グラトリオの痙攣が止んだ。

 紫の眼球、膨張した筋肉。

 纏った黒のアウラ。

 およそ人の姿とは言えない化け物がそこにいた。

 化け物が、ぐぐもった吐息を漏らす。


「シュゥゥ…………」


 大城門前にいた黒導教会とは明らかに違う。

 あれは体そのものがシグルと化していたが、今のグラトリオは人間の体を基本としている。

 だが、人間でありながら、人間でない。

 言うなれば、禍々しいアウラを纏いし魔人。

 心臓が跳ねた。全身が強張った。

 熱く煮えたぎった血が、底から湧いて出るような感覚に襲われる。


 俺は、こいつを知っている。


 遠い過去の記憶が、映像となって脳裏に蘇っていく。

 ライジェルが死んだとき、近くにいた黒い化け物。

 眼下のグラトリオの体格が、過去の“あの化け物”と重なっていき、完全に一致する。

 脳が弾けたような感覚に見舞われる。


「あっ……あっ……」


 そしてようやく、グラトリオの口にした“ライジェルを葬った”という言葉をベルリオットは理解した。

 堕ちていくベルリオットの思考を醒ましたのは、グラトリオの咆哮だった。


「グァアアアア――ッ!!」


 飛翔し、猛烈な勢いで向かってくる。

 その手に握られた一振りの黒剣が、怪しげに光る。

 ベルリオットは咄嗟に身構える。

 今から迎撃では間に合わない。

 ならば、と右手に持った剣を胸の前で横に構え、刀身に左手を添えた。途端、すでに眼前に迫っていたグラトリオから黒剣を振られ、激突する。

 壮絶な衝撃が全身に響いた。

 思わず顔が苦悶に歪む。


 悲鳴を上げながら結晶同士が競り合う。

 相手が勢いをつけていたせいか、ベルリオットは緩やかにだが上空へと押し込まれる。

 いや、違う。

 明らかに先ほどまでのグラトリオと比べて段違いに力が上がっている。結晶の硬度も比べ物にならない。それを証明するかのように、青色結晶に黒色結晶の刃が食い込んでいた。ガリガリと削られていく。

 向けられた鋭い眼光も手伝ってか、ベルリオットは思わずたじろいでしまう。


「ぐっ――」

「先ほどまでの威勢はどこにいった? これではお前もライジェルと同じように死ぬことになるぞ?」


 幾つにも重なったグラトリオの声が響いた。

 ライジェルの死を使った敵の挑発が、ベルリオットの全身を活性化させる。


「うぁああっ!」


 力任せに剣を振り抜いた。

 間合いが生まれる。二つの剣が入り乱れ、結晶独特の衝突音が響く。譲ることのない撃ち合いに、どちらともなく大振りをかまし、互いに弾かれるようにして距離を取った。


「はぁ……はぁ……。あんたが親父を殺した奴だったんだな……」

「そうだ。わたしに嬲られるしかなかったあのときのライジェルは酷く無様だったぞ。ずっとわたしの前を行っていた奴が、足下で転がっているのだ。あれは最高の気分だった」


 酔いしれるようにグラトリオが語る。

 そこにはライジェルへの純然たる嫉妬が感じ取れた。

 最強と謳われたライジェルに勝てない、追い越せない。その想いが募り募ってシグルを呼び寄せ、グラトリオを狂わせたのだとベルリオットは悟った。


「わたしが憎いか、憎いだろう!」


 まるで憎まれることを望んでいるかのように叫ぶグラトリオを前にして、ベルリオットの中に、ある感情が込み上げてきた。

 それを明確に意識した途端、思わず苦笑してしまう。


「なにがおかしい……」

「いや、嬉しくて」

「嬉しい……だと? 正気か? 自分の父を殺されたのだぞ!」

「ちゃんと親父のために怒れる自分がいることに気づいて、嬉しいんだ」


 ライジェルが殺されたと聞いたとき、全身から沸々と怒りがこみ上げて来た。

 それは、ずっとライジェルを恨み続けていたベルリオットにとっては衝撃的なことだったのだ。


「あんたも知っての通り、俺もずっと親父を憎んでた。

 親父の奴、色んな英雄譚を残すだけ残して死にやがってさ。

 その功績がそっくりそのまま期待に変わって俺に向けられて。

 そんでアウラを使えない出来損ないだって知った途端、周囲の落胆具合ったら半端なくて……。

 そりゃもう、なんで俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだって。

 俺の怒りは全部親父に行ったよ。

 どうしてそんな強かったんだ、すごかったんだって。

 今思えばとんだ見当違いだよな。

 でも幼い頃の俺は上手く心が整理できなくて……」


 同情、なのかもしれない。

 けれどそれだけで言い表せないほど、ベルリオットの胸中は複雑に絡み合っていた。

 その想いが、表に出る。


「だから……俺もあんたの気持ち、少しわかるんだ」


 直後、グラトリオの全身が硬直した。

 やがてわなわなと震え始める。


「……違う……違うっ! お前などに、奴の子であるお前に、わたしが味わってきた苦しみがわかってたまるかっ!!」


 その叫びが再開の狼煙となった。

 ベルリオットは青の燐光を散らしながら。

 グラトリオは黒の燐光を散らしながら。

 互いにぶつかり合い、交差する。勢いそのままに後ろへ流れ、振り向き、二合目へと向かう。三合、四合目。五合目を撃ち終ったとき、ベルリオットの結晶武器が破砕した。すかさず新たな剣を造り出すが、やはり過剰なアウラが集まってしまい無骨な形になる。


「どうやらまだその力を使いこなせていないようだな、ベルリオットよ!」

「くっ――!」


 グラトリオの言うとおりだった。

 ベルリオットは、まだこの青のアウラを使いこなせていない。

 息つく間もなくグラトリオが襲い掛かってくる。

 ベルリオットもそれに応じる。

 だが、やはり無骨な剣は間もなく壊れてしまう。


 もっと……もっと鋭く。洗練された剣を、刃を想像しろ!


 自分を叱咤しながら、撃ち合いの最中に新たな剣を造り続ける。破壊されてはまた生み出し続ける。何度も繰り返すことで脳が無駄な思考を省いていく。削られ、細くなっていく剣は、やがて洗練された形状へと変化を遂げる。

 陽光を受け、青色結晶の剣が美しい輝線を描いた、そのとき。


 視界に、粒状の仄かな白光がふわり、と浮かんできた。

 異変を感じ取る。

 ベルリオットはグラトリオともども、中空にて動きを止める。

 自分の周囲だけかと思ったが、違った。

 王都中……いや、リヴェティア全土から無数の燐光が上昇していく。

 身体を優しく包み込んでくれるような、温かな空気に満たされていく

 周囲を見回しながら、グラトリオが信じられないといったように眼を剥く。


「こ、これはっ――」


 そう、《飛翔核》から大陸にアウラが注がれているのだ。

 地鳴りとともに大陸が上昇し始める。

 浮遊するベルリオットたちと地上の距離が縮まっていく。


「どうやら、あいつらがやってくれたみたいだな。……どうする?」

「…………ならば、お前もろとも陛下を殺すまでよ!!」

「やれるもんならやってみろっ!!」


 異なる光は再び撃ち合い、昇っていく。

 決め手が欲しい。

 なにか――。

 そのときベルリオットの脳裏に、遠隔攻撃を使うメルザリッテの姿が過ぎった。

 通常、凝固したアウラの結晶は人の手を離れれば、その形状を維持できないと言われてきた。

 だがメルザリッテは、手から離れても結晶としての形を維持させ、それをまるで弓で放たれる矢のごとく扱っていた。

 自分にもあれができるのだろうか、と自問する。


 そもそも手を介してしか、アウラを凝固できないと言われていたのはなぜか。

 それは頭で思い描いた明確な想像を、もっともアウラに伝えやすいのが手だったからに他ならない。


 ――もし明確な想像を、手を使わずに……体のどの部位も使わずに空気中のアウラに伝えられるとしたら。

 ――明確な想像を伝え続け、離れた場所にある結晶を固体として維持できるとしたら。


 生まれた疑問を試すため、ベルリオットは製造する剣の硬度向上を一旦意識の外へと追いやった。

 空いた脳内の思考回路を使い、集中する。

 離れた場所に明確な想像を伝えるためには、大気に満ちるアウラを感じられなければ話にならない。そしてそれは、ベルリオットがずっと行ってきた訓練に似ていた。

 風を感じる。

 体に触れる風。

 少し離れたところにある風。

 もっと離れたところにある風。

 どんどん外へ外へと広がっていく感覚が、意識の一部を満たしていく。


「グァアアアアアッ!!」


 ガキンと撃ち合いが終わり、互いに背を向けたその瞬間を見計らい、ベルリオットは即座に意識をやや下方に向けた。

 明確な想像を、その空間に伝える。

 思考を働かせるだけなのに、表情筋にも力が入ってしまう。

 意識した場所に燐光が集まっていき――やがて結晶ができあがった。

 やはりというか綺麗な刃ではなかったが、充分だった。

 結晶は落下し、すっと霧散する。


 やれるっ!


 たしかな感触を得たベルリオットはすぐさま振り返り、再び向かってくるグラトリオへと向かう。直後、すでに片手に持っていた、壊れかけの剣をグラトリオへ向かって勢いよく投げた。

 投げられた結晶へと意識を向け、形状の維持を試みる。


「っ――!」


 脳が焼き切れそうな痛みが走った。

 これほどまでに脳を刺激するのか。

 だがその痛みは、相応の結果をもたらす。


「なにっ!?」


 顔面に向かって飛んでくる結晶の剣に、グラトリオの顔が驚愕に変わった。

 咄嗟に飛行速度を落とし、黒の剣で打ち払った。


「はは……できたぜ……」


 どうやらベルリオットにも遠隔攻撃は可能なようだった。

 だが、とてもではないがメルザリッテのようにあれほど速く製造し、あれほどの数を飛ばすなんてことは到底できそうになかった。


「神の矢を使いこなすのか」

「神の矢って言うのか、これ。大層な名前だな」

「し、知らぬまま使ったというのか……」

「メルザが使ってたのを見て、俺にもできるかなって」

「見ただけだと!? ……つくづくトレスティングの血はわたしに泥を塗ってくれる」


 怒り狂ったようにグラトリオが憤怒の形相を浮かべた。

 かと思えば、なにやら低い声で笑い始めた。


「だが、神の矢を使えるのがお前だけだと思うなよ、ベルリオットッ!」

「な――っ!」


 グラトリオが振り払った左手から二本の刃が放たれた。

 驚異的な速度で刃が飛翔してくる。

 剣で迎え撃つ。一振りで二本の刃を砕く。

 刃の破片が、霧散するよりも速くベルリオットの頬を傷つけた。

 かすり傷だ。

 痛くはない。

 だがグラトリオの攻撃によって、ベルリオットは外傷よりも精神的な損傷を被った。


「どうやら遠距離ではわたしに分があるようだな」

「強がりなんじゃないのか、辛そうな顔してるぜ」

「それはお前とて同じだろう」


 グラトリオの言うとおりだった。

 脳を刺激したからなのか、連鎖するように腹部の痛みが蘇ってきたのだ。

 おかげで脂汗が全身ににじんでいた。

 顔に出ないよう我慢しているのだが、どうにも誤魔化せない域にまできているらしい。

 接近戦を挑むしかないのか。

 必勝の策だと思っていたものが失敗に終わってしまい、もどかしかった。

 神の矢は、刃としての形状を維持するのはもちろん、投擲した結晶の移動する空間を把握していなければならないのがなにより難しい。


 投擲した結晶が重力に負け下がっていくなどという二方向の動きがなければ。

 形状を気にしなければ。


 問題点を整理した途端、ある策が浮かび上がってくる。

 それは賭けではあるが、最大の隙を作る機会ともなるものだった。


 だが、やれるのか? 俺に?


 自問自答したそのとき。

 本当は誰よりも尊敬していたあの人の手が、力強く背中を押してくれたような気がした。


 ああ、やれる……。やれるさ……。なんてったって俺は――。


 対峙するグラトリオを見据え、ベルリオットは心の中で叫ぶ。


 ――ライジェル・トレスティングの息子だからな。


 それはずっと溜まっていたわだかまりをすべて吹き飛ばす言葉だった。

 決意を固めたベルリオットは、意識を遥か上空へと向けた。



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