◆第三十一話『謀』
側部の扉を横にずらし、飛空船に乗り込む。
操縦席にエリアス、補助席にメルザリッテ。
何もすることのないベルリオットは後部座席についた。
乗り込んだのは速度重視型の小型飛空船だ。
騎士団専用の貸出機らしく、昨日のうちにエリアスが手配してくれたものだった。
エリアスが紫の燐光を纏い、操縦用に取り付けられたオルティエ水晶を通じて飛空船内部へとアウラを注ぎ込む。
手を通じてアウラが放出されているため、操縦時には光翼は出ない。
飛空船は音もなく静かに離陸、垂直にゆっくりと上昇し始めた。
周りを見れば、他にも垂直上昇する機体がある。
今日は《災厄日》なので充分に高度を取らなければならない。
逆に言えば、高度さえ取ればシグルに強襲される、なんてことはまずない。
だから《災厄日》でもポータスの利用者が大勢いたのである。
メルザリッテも補助席前に取り付けられた水晶に、エリアスと同じ要領でアウラを注ぎ込む。
複数者によるアウラの注入で、飛空船は一気に加速する。
「まもなく大陸圏外に出ます」
言いながら、エリアスが自身の左側にある梃子を手前に引いた。
ガンッという重い音が機体下部からひびく。
同時、下部から溢れ出ていたアウラが見えなくなった。
《飛翔核》の影響が及ばない大陸圏外ではアウラが極端に薄くなる。
そしてアウラがなければ飛空船も飛行することはできない。
解決手段はある。
それが、今しがたエリアスが行った操作である。
機体内部にアウラを閉じ込め、滞留させる。
つまりアウラを使い回すのである。
ただ、使えば使うほどアウラの質は落ちていくため、速度は出せない上に長時間の飛行も出来なくなる。せいぜい大陸間を渡るぐらいの距離が限度だ。
ポータスが視認できなくなるまで上昇すると、急激に気温が下がった。
操縦席、補助席周辺以外の硝子が曇る。
大陸圏外に出たのだ。
気温の上昇にアウラは少なからず影響している。
ゆえにアウラが薄い大陸圏外は気温が低いのである。
「相変わらず冷えるな」
「アウラが通っているので、わたしはほとんど感じませんが」
「羨ましい限りで」
飛空船は弧を描きながら東へと向き直り、ゆっくりと前進し始める。
あとはディザイドリウム大陸まで真っ直ぐに進むだけだ。
安定したところで、メルザリッテが「そう言えば」と口を開く。
「昨日、ベル様にお話を伺ったときからずっと気になっていたのですが、リズアート様の護衛はよろしいのですか?」
禁句だった。
ベルリオットは思わず右手を額に当てた。
当の本人……エリアスはというと、後部座席からでは耳をぴくりと動かしただけしかわからなかった。大した動揺はないように見える。
「話していなかったのですか?」
「いや、まあ。必要ないかな……と」
こちらを見ずに語るエリアスを目にしながら、こんなことになるならメルザリッテにも話しておけばよかった、と今さらながらに後悔した。
どう説明しようかと悩んでいるのか。
エリアスが黙り込んでしまった。
そんな空気を察してか、メルザリッテがおずおずと訊く。
「あの~……もしかして聞いてはいけませんでしたか?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
そう言いつつも、エリアスは口ごもってしまった。
ベルリオットが答える義理はない。
だが、放置していては空気が重いまま長旅を過ごすことになる。
それだけは勘弁したかった。
「政治的な問題が色々あって、エリアスが勅使をするしかなかったんだよ。ちなみに、あいつの護衛はイオルって奴がやることになった」
「イオル・アレイトロスさんでしたよね? その方って、たしかベル様と同学年の訓練生だったはずでは……」
「よく知ってるな」
「はいっ。ベル様のことならなんでも知っていますから」
そう、得意気に言ってのけた。
我がメイドながら危ない奴である。
「まあ、俺もよくわからないんだけどな。聞かされたときは、なんでイオルがって感じだったし」
「実はそうおかしいこともないんです」
間髪を容れずにエリアスが淡々と言った。
「おかしくない? ってか、そういや昨日は意外とあっさり引いたよな。俺はてっきりもっと抗議するもんかと思ってたんだが」
「そんな、まるでわたしが聞き分けの悪い子どものような言い方はやめてください」
子どもとまではいかないが、頑固なのは間違いない。
まだ納得がいかないようだったが、言いたいことを呑み込むようにため息をつき、エリアスは続ける。
「あまり広く知られていないことなのですが、彼……イオル・アレイトロスの父君は、今の元老院議員の遠戚に当たる人なのです。ですから、訓練生から王城騎士への昇格だけでなく、姫様の護衛役まで任せるという強引な手を今回使ってきたのは、そこに元老院の介入があることを示唆しているのです。そのことは姫様ももちろん知っておいでですから、お気づきになっているでしょう」
エリアスから語られた、驚くべきイオルの出自。
たとえ遠戚であったとしても、元老院の関係者となれば、王族までとはいかないまでも格式は相当に跳ね上がる。これまで公になっていなかったのは、本人が隠していたからだろうか。
わかりやすい形で後援がなされていれば、もっと早くに気づくことは出来たはずだ。
とすれば、今、この機会になって初めてイオルを手頃な駒だと判断し、背景――つまり元老院が手を加えてきたということも考えられる。
「もし断ってたら……どうなってたんだ?」
「レヴェン様が亡くなられてしまった今、リヴェティアの立場は非常に弱いものになっています。もし断りでもすれば、それは元老院に好意的ではないと見られ、様々な面でリヴェティアが孤立するのは間違いないでしょう。それでも王家が滅びる、なんてことはないのですが、民がその皺寄せの被害を受けるのは間違いありません。だから姫様も……」
仕方なく了承したのか。
と、エリアスが口にしなかった言葉を、ベルリオットは心の中で続けた。
イオルがリズアートの護衛を任じられたあの一件に、そのような裏があったとは思いもしなかった。道理でエリアスがあっさりと引いたわけだ。
ふと、脳裏にある疑問がよぎった。
たしかにリズアートの決断のおかげで、リヴェティアは孤立せずに済んだかもしれない。
しかし彼女自身はどうなのだろうか。
父親を亡くした。
信頼するエリアスが護衛から外れた。
リヴェティアが孤立しなくなった代償に、リズアートが孤立しているのではないか、と。
とはいえ、リズアートは寂しがるような素振りを一切見せなかった。
いや、見せないように強がっていたのかもしれない。
彼女がそういう人間だということを、ベルリオットは短い付き合いながらも知っている。
あいつ、大丈夫なのか……。
などと柄にもないことを思ってしまった。
軽く頭を振って気持ちを入れ替える。
エリアスの話は続く。
「以前から、我々王城騎士の中でもイオル・アレイトロスの出自は一部で話題になっていました。実力とは別に、いつか序列上位に食い込んでくるだろう、と。ですから、そうおかしくはない抜擢だったんです。たださすがにこの機会で、姫様の護衛まで任命されるとは思いもしませんでしたが……」
「あいつの矜持は半端ないからな。実力関係なしで選ばれたって知ったら……いや、知ってるのか。内心、穏やかじゃないだろうな」
「前回の南方防衛線で彼の実力を見させてもらいましたが、たしかに相当なものでした。ヴァイオラ・クラスは目前といったところでしょうか。今はともかく将来が楽しみな逸材であるのは間違いありません。だからこそ、このような介入が不必要であったという思いも拭えません」
イオルを認めていたから尚更なのだろう。
ひとりの騎士として、その言葉には哀れむ気持ちが透けて見えた。
エリアスらしい優しさだ、とベルリオットは思った。
「まあ、《災厄日》つっても前みたいに防衛線にいるわけじゃないしな。それに団長もいることだし、イオルだって初めての大任だから張り切ってるだろうし、大丈夫だろ」
「そう……ですね」
後ろからでははっきりと見えなかったが、エリアスはどこか煮え切らない複雑な表情をしていた。
「心配なら、さっさと終わらせて帰ろうぜ。それで任務とか関係なしに、あいつの傍にいてやれよ。たぶん、あいつもそれを望んでるだろ」
「そうですよ、エリアス様。ベル様だって、いつも嫌がっていてもメルザに傍にいて欲しいと願っているのですから、リズアート様だってそう思っているに違いません」
「なに勝手なこと言ってんだよ。それにメルザとエリアスじゃ色々立場が違うだろ」
「いいえ、違いません。どちらも愛し愛されの関係です」
「あのなぁ。ったく、お前は……」
せっかくエリアスを励まそうとしていたのに台無しだ。
ベルリオットが呆れていると、操縦席から笑いが漏れ出た。
見れば、エリアスがくすくすと笑っていた。
「いきなりどうしたんだ?」
「いえ、お二人は本当に仲が良いのだな、と」
「はいっ、もちろんです。ベル様が生まれてから……いいえ、生まれる前からずっと一緒ですから」
「生まれる前からってなんだよ」
「そのままの意味です」
意味がわからなかった。
「まあ、メルザは置いておいて」
「置かないで下さいっ」
「エリアスたちも一緒にいた時間、長いんだろ。お互いが望んで一緒にいたら、それはもう血とか関係なしに家族だって俺は思うんだよ。それで……あいつにとっての家族は、今はお前だけだから。それで……家族は一緒にいるもんだから……その、なんつうか」
上手く言葉にならなかった。
それになにか自分でも恥ずかしいことを言っているような気がして、つい後ろ髪をかいてしまう。
だが気持ちは伝わったらしく、
「貴方らしくない発言ですね。……でも、ありがとうございます」
エリアスは笑みを零した。
らしくないは余計だったが、そんなものはどうでもいいと思えるほど良い笑顔だった。
すでにリヴェティア大陸とはかなりの距離が離れ、その姿は小さくなり、ぼやけるように薄くなっていた。
このときのベルリオットは、エリアスがいっとき見せた複雑な表情のことなど、頭からすっぽり抜け落ちていた。そして、その意味するところが、懸念していたものとは違うものだったということに、すぐに気づかされることになる。
景観を重視した大陸がリヴェティアであれば、ディザイドリウムは効率を重視した大陸と言える。
大陸人口のほとんどが集中する王都ディザイドリウムには、高層建築物が林立している。
リヴェティアのように城壁などはない。
外側に向かって好き勝手に建物が築かれているのだ。
真上から見下ろせばさぞ無骨な形をしていることだろう。
王都全体を構成する三つの階層には、高層建築物の間を行き来するための空中通路がそこかしこにある。加えて飛空船が王都内を飛び交っているため、かなりごみごみとしている。
ベルリオットも初めて目にしたときは度肝を抜かれたものだ。
「もっとも発展してる国ってだけはあるよな」
前方に王都ディザイドリウムの姿が見えてきたとき、ベルリオットは感嘆しつつ呟いた。
まるで巨大な生き物のような高層建築群は、まさに圧巻の一言である。
男としての性だろうか。
見ていると不思議と昂揚感が湧いてくる。
しかしそんなベルリオットとは裏腹に、メルザリッテが不快だとばかりに口を開く。
「この大陸はあまり好きになれません」
「貴方が意を唱えるなど珍しいですね」
「いえ、決してベル様に反論しているわけではないのです。ただ満ちている空気がどうにも」
うっと呻くメルザリッテの表情は、見てわかるほど青ざめていた。
エリアスに訊く。
「そういうの、わかるもんなのか?」
「わたしにはそこまではっきりと不快な感じはありませんが……リヴェティアとは違うという感じはたしかにあります。もしかしたら緑が少ないことも関係しているのかもしれませんが」
現在、飛空船が飛行している真下にはちらほらと緑があるが、王都周辺にはまったくと言っていいほどない。
荒野と言ってもいいぐらいだ。
「ディザイドリウムは以前より問題視されているように常循環アウラが多いですから。他大陸よりも平均高度がわずかに下回っていますし、それが原因かもしれない、というのは以前から学者間で言われている説ですね」
「わかっててもやめられないんだろうな」
「人は快適な生活を一度覚えてしまうと、なかなか抜け出せませんから」
「そう考えれば、リヴェティアって恵まれてるんだろうな」
他国に触れることで、改めて母国の良さを知ることができた。
ベルリオットが誇らしい気分に浸っていると、王都がすぐそこまで迫っていた。
高層建築群の姿があらわになってくる。
と、王都前に、二十人ほどの人影が待機しているのが見えた。
全員、黒味の強い緑色の服を着ている。
「あれってディザイドリウムの騎士だよな。演習でもしてるのか?」
「それにしては、なにもしていませんが」
「てか、こっちを凝視してるような」
「……なにか様子が変ですね。一旦、ここで飛空船を降ろします」
エリアス、メルザリッテが纏うアウラが薄くなっていくにつれて、飛空船が緩やかに下降していく。わずかな振動と砂上を擦る音と共に、地上に着陸する。
「あいつら、こっちに来てるな」
「わたしが出ます。お二人は残っていてください」
「あ、ああ……」
なにやら剣呑な雰囲気を纏ったエリアスが飛空船から降りた。
状況が把握できないながらも、ベルリオットは嫌な予感がひしひしとしていた。
飛空船側部にある扉を開け、外の様子を窺う。
先ほどまで冴えない顔をしていたメルザリッテも気になるのか、同様に顔を出した。
アウラを纏ったディザイドリウム騎士たちが、立ちふさがるようにエリアスの前面に舞い降りた。
遅れて、赤色基調の瀟洒な衣装に身を包んだ男がひとり降りてくる。
まるで威嚇でもするかのように騎士たちがエリアスににじり寄る。
「これはどういうつもりでしょうか? 我々が、リヴェティア王国が主、リズアート女王陛下の使いと知ってのことですか?」
「ええ、知っておりますとも。エリアス・ログナート殿」
「知っていてなお、このような歓迎をした、と。そう、仰られますか。ビシュテー宰相閣下殿」
騎士たちの前に歩み出てきた瀟洒な衣装を男――ビシュテーは、どうやらディザイドリウムの宰相らしかった。歳は五十ほどか。小柄で、恰幅の良い体型。おだやかな笑みを崩さないため腹の底が読めない。
不気味な感じだ。
「おやおや、お好みではなかったかな。あなたには相応しい歓迎だと思ったのですが」
「ふざけないでいただきたい!」
「ふざけてなどおらんよ。我々には、こうする義務がある。ある信頼できる筋からあなた方が勅使を装い、我が国王陛下の暗殺を企てている、との情報が入りましてな」
「なっ! ありえない! 第一、そのようなことをして何の得が!」
「ええ、そうでしょうな。しかし、この情報源は信頼できるものだ。一時、貴方がたを拘束させていただく」
ビシュテーが前に出した右手を横に払うと、ディザイドリウムの騎士たちが一斉にアウラを纏い、光翼を放出させた。
「横暴なっ!」
「大人しく同行していただけますかな? 我々も手荒な真似はしたくないのでね」
ビシュテーの口元が、見てわかるほど不敵につりあがる。
「くっ……そうか……そういうことですか……っ!」
少しの間、微動だにしなかったエリアスが肩を震わせた。
かと思うと彼女は肩越しに、こちらに向かって叫び声をあげた。
「ベルリオット・トレスティング! 今すぐリヴェティアに――姫様のもとに向かってください!」
悲痛な叫びだった。
それだけに真剣さがひしひしと伝わってくる。
だが、その意味することがベルリオットには理解できなかった。
「なんであいつんとこに……。意味が――!」
「説明している暇はありません! 早く!」
「お、お前はどうするんだよ!」
「わたしはここで彼らを食い止めます! ですから――」
「そうはさせん!」
エリアスの言葉を遮り、ビシュテーの声がひびき渡った。
黄色アウラを纏ったディザイドリウムの騎士三人が飛翔し、エリアスを通り抜け、ベルリオットがいる飛空船へと向かってきた。
その手には結晶武器が握られ、飛空船ごと破壊することも厭わない気迫を纏っていた。
しかし彼らが飛空船に到達することはなかった。
彼らの飛翔した軌跡をなぞるように紫の閃光が迫り、接触。
同時、紫の光から煌きが奔る。
気づいたときには、濃緑衣装の騎士たちが一斉に中空に投げ出され不恰好に落下していた。
握られていた結晶武器が粉々に砕け散り、霧散する。
「食い止める、と言ってしまいましたが、どうやら力量を見誤っていたようですね」
一瞬にして濃緑騎士を斬り抜いたのはエリアスだった。
ビシュテーたち側に向き直りざま、結晶武器についた血糊を振り払うと、エリアスは自身の胸前に剣を構え、切っ先を天に向けた。
「我が名はエリアス・ログナート! リヴェティアが騎士、王城を守護する者なり! わたしに剣を向けた者は命がないと知りなさい!」
エリアスの名乗りが、びりびりと空気を震わせた。
その気迫に、ビシュテー含むディザイドリウムの騎士たちが怯み、一歩二歩と後退さる。
「う、後ろの飛空船は後回しだ! ログナート卿さえいなくなれば問題ない! お前たち、一斉にかかれ!」
恐怖に呑まれたか。
弾かれるようにビシュテーが合図を出した。
濃緑の騎士たちがエリアスに飛び掛かる。
つい先刻三人を倒したとはいえ、濃緑騎士たちはまだ二十人近く残っている。
一振りのみの突撃が、多方向から無数に浴びせられる。
それらをエリアスは弾き、ときには受け流す。
だがその顔はすでに苦痛に変わっている。
いくらエリアスでも、あの数が相手じゃ無茶にも程があるだろ……っ!
なにができるかわからない。
いや、アウラが使えない今の自分ではなにもできないだろう。
だが、あのまま放っておけなかった。
ベルリオットが今にも外へ飛び出そうとしたとき、
「ベル様、行きましょう」
飛空船の中からメルザリッテの声が聞こえてきた。
見れば、いつの間にかメルザリッテが操縦席に座っていた。
「お、おいメルザ。エリアスを置いてくのかよ!」
「エリアス様はそう簡単にやられるお方ではありません。それにここに留まれば、エリアス様の決断が無駄になります」
決断。
命を賭してまで、この場に残ると決めた、エリアスの心境はどのようなものだったのか。
それほどの価値があることなのか。……彼女にとってはあるのだろう。
姫様が危ないという言葉。
何者かの手によってリズアートの命が危険に曝されているというのならば、エリアスにとってはなによりも優先されるべきことなのだ。
だとしても……!
「なにをしているのですか! 早く!」
悩むベルリオットの思考に、エリアスの声が割って入った。
その必死の形相と彼女が身に受ける傷を見て、ベルリオットは迷うのをやめた。
「……くそっ!」
扉を勢いよく閉め、飛び込むように補助席に座る。
「メルザっ、頼む!」
「はい!」
威勢のよい返事とともに、飛空船が荒々しく発進した。
リヴェティアポータスを離陸するときとは違い、地面の上すれすれの移動から徐々に高度を上げていく。
ベルリオットは振り返れなかった。
振り返れば、エリアスが目に入ってしまう。
目に入れば、メルザリッテに戻るよう命令してしまうからだ。
真面目過ぎて自分とは合わない奴だな、と初めの頃は思っていた。
それが、いつの間にか気を許せる人間になっていた。
彼女を失いたくはない。
切実な願いが、心の底から込み上げる。
エリアス……絶対死ぬなよっ!




