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◆第二十三話『王家の秘密』

 二十八日(ティーザの日)


 リヴェティア王城は、そのすべての建造工程において天才芸術家ベッチェ・ラヴィエーナが関わったとされている。

 後にも先にも、彼女が関わった王城建築はリヴェティア王城のみ。

 その事実がリヴェティアの格を高めているのは言うまでもない。


 リヴェティア王城は三階層から成る。

 多くない階層だが、すべての階層が天井高のため、王都ではもっとも高い建築物となっている。

 主に第一階層には、巨大な大広間、叙勲式なども行われる王室礼拝堂など。

 第二階層には、来賓を持て成す晩餐の間、舞踏の間など。

 第三階層には、国王への謁見の場である玉座の間、前庭を見下ろせる天空の間が存在する。

 各部屋を繋ぐ通路に見られる白壁。そこに彫られた幾何学的模様や壮大な絵画には、一切の妥協が見られず、美しいとしか言いようがない。


「一度訓練校の制服に慣れちゃうと、この格好が窮屈に思えて仕方ないわ。どうにかならないかしら」


 大階段を使い、リズアート・ニール・リヴェティアは二階層から一階層へと向かっていた。

 髪は後ろでひとつに結い上げていた。輪型の耳飾り、胸元に垂れた豪奢な首飾り、身体の線がくっきりと見える若葉色のドレスは、リズアートの外見を王女たらしめていた。

 右後ろに続くエリアスが、困惑の表情を浮かべる。


「そう仰いましても……。姫様は姫様なのですから、仕方ないかと」

「ねえ、エリアス。前にも言ったけど、あんまり真面目すぎるとモテないわよ」

「別に男になど興味はありませんから、なにも問題ありません」

「そっ。せっかく良い生地してるのに勿体ないわ」

「結婚して子を持ってしまえば騎士を辞めなければなりません。それは困ります」

「どうして?」

「姫様の護衛ができなくなりますから」


 言って、エリアスは微笑を浮かべた。

 エリアスからは、剣術やらアウラの扱い方など、戦いにおいて必要な技術をたくさん教わってきた。付き合いも長く、もっとも信頼を寄せている騎士だ。

 そんな彼女から、「姫様のために騎士を続けている」ともとれる言葉をもらって、心が温かくなった。

 ただ、不意を突かれたのは面白くない。

 仕返しをしたくなった。


「はっ、まさかそういう趣味っ?」


 両手で自分の体を抱き、リズアートは大げさに演技してみせる。

 初めは首を傾げるエリアス。

 やがて意味を理解したのか。一気に顔が赤らんだ。


「ち、違います! わたしは普通に異性が好きです!」

「へー、エリアスって実は男好きなのね」

「あっ、いや、あの、違います! 異性が好きというわけではなく、あ、そうなのですが、いや、あ、あっああもう、とにかく違うんです!」


 取り乱したエリアスはとても可愛かった。

 とはいえ普段の真面目な彼女を鑑みると、笑いが止まらない。


「ごめんごめん、冗談よ」

「ひ、酷いです姫様……」


 からかわれていたのを理解し、エリアスはようやく平静を取り戻した。

 恨みがましい目を向けられながら、リズアートは階段を下りる足をふたたび進める。


「そういえば、ベルリオットの容態はどうなの?」


 ふと、口から疑問が漏れた。


「数日前に目を覚まされたようです。もともと怪我らしい怪我はありませんでしたから。起きてからは問題なく過ごされているようです」

「そっ。なら良かったわ」


 表には出さなかったが、本当は心の底から安堵した。


「直接は見てないけど……彼、使ったのよね。赤いアウラを」

「はい。以前、姫様が襲撃にあったときに赤いアウラの話は伺っていましたが……信じられないほどの力でした。我ら王城騎士が束になっても敵わなかったモノセロスをたった一撃で葬ってしまったのですから」

「わたしが見た赤いアウラ使いの力もすごかったわ。報告したとき、実は控えめに言ったの。でも、たぶん、あの赤いアウラ使いの実力はグラトリオよりも数段上だわ」

「ベルリオット・トレスティングと同一人物だった、という可能性はないでしょうか?」

「ないわ。知り合いという線も薄いわね。だって彼も驚いていたもの。あのときの顔に嘘偽りはないと思う」


 それにリズアートが膝を折ってしまったとき、ベルリオットは自分が死ぬかもしれないのに助けようとしてくれた。

 あのときの必死な顔は本物だった。

 そしてそんな顔をする人間が、わざわざ実力を隠していたとは思えない。


 ちょっとひねくれているけれど……。


「彼、根は真っ直ぐだから。隠し事するのは向いてなさそう」

「わたしにはただの不真面目人間にしか見えませんでしたが」


 と口にするエリアスとは、たしかに正反対な人だった。

 なんだかそれが可笑しくて、つい口元を緩めてしまう。


 ……あー、だめだなー。


 あの雑な話し方なんて、本当に彼の父親であるライジェルにそっくりで。

 接していて他人という感じがしない。

 不思議な空気を持つ人。

 もう少しの間、近くで彼を見ていたかった。

 それは、トレスティング邸を出てから何度も浮き出た心の声だ。

 けれど叶う願いではなく。

 また、今回も心の奥底へと無理矢理に仕舞い込む。


 長い大階段を下り終えたのち、一階層回廊へと出る。

 ここから窺えるのは来賓用居住区前の中庭だ。

 綺麗に刈り込まれた芝、周りを囲む色とりどりの花々、中央に配された控えめな噴水は、目にするだけでも清涼感を覚えさせてくれる。


「それにしても礼拝堂にこいだなんて。お父様、いったい何の用なのかしら。今日は《災厄日》。しかも時間は正午前。最悪の時間帯じゃない」

「とはいえ防衛線がある限り、王都は平和そのものですから」

「まあ、そうなんだけど」


 面倒な話じゃなければいいなー。


 と、ため息をつきながら、リズアートは心の中で悪態をついた。

 回廊から城内通路へ。王室礼拝堂前に到着すると、入り口の重厚な扉前には王城騎士六名が見張りに就いていた。


 ……変ね。いくらお父様がいるとはいえ、少し多すぎないかしら。


 不信に思いながらも、リズアートは追求しなかった。

 国王に会えば、おそらく事情がわかると確信していたからだ。

 王城騎士から敬礼を向けられる中、扉を開けた。

 ひんやりとした空気が肌を撫でる。


 一度に二百人の収容が可能な王室礼拝堂は相応に広い。

 着色された窓硝子から広間に陽の光が差し込む。

 それが礼拝堂に静謐な空気をもたらし、また神秘的な雰囲気を醸し出させる要因となっていた。

 赤絨毯の敷かれた幅広の身廊の先には、精緻に掘り込まれた像が飾られている。

 サン・ティアカ教が祀る女神ベネフィリアである。

 その像の手前、祭壇近くに二人の男性が立っていた。


 レヴェン・タキヤ・リヴェティア国王と、その護衛ユング・フォーリングスである。


「待っていたぞ」


 重みのある声で、レヴェンが迎えた。

 レヴェンは精悍な顔立ちをしている。

 知らぬ人が見れば、騎士と間違えてもおかしくはない。

 とはいえ今は一国の王らしく豪奢な衣服を身に纏っているため、そうはいかないが。


 一方、護衛騎士のユングは深緑の制服に身を包んだ長身痩躯。

 眼鏡をかけ、腰まである髪を後ろでひとつに結っている。

 中性的な顔立ちで、女性に間違えられることも少なくないという。

 見た目から想像できないが、その実力はグラトリオに次ぐ騎士団序列二位と確かである。


「では、陛下」

「ああ。頼んだぞ」


 恭しく頭を下げたユングが、早々にレヴェンの傍を離れた。


「殿下。失礼いたします」

「え、ええ……」


 思わず呆気に取られてしまい、リズアートは開いた口がふさがらない。

 レヴェンがユングを離れるところなど、就寝時を除けばほとんど見たことがない。

 就寝時にしたって、過剰な数の王城騎士を見張りに就けるのだ。

 いくらリズアートの護衛であるエリアスがいるとはいえ、異例の事態だった。

 これから話されることに関係しているのか。

 それとも他の大きな問題が関係しているのか。


「では行こうか」


 推理し始めたリズアートの脳に、レヴェンの声が待ったをかけた。

 背を向け、レヴェンは先を行こうとする。


「お待ちください。事情を説明していただけないでしょうか?」

「なんの事情だ?」

「ユングを傍から離したことです」

「いやなに、ユングにしか頼めんことを頼んだだけだ。護衛のことを気にしているのならいらぬ心配だ。代役はあとでちゃんと誰かに頼む」


 平然と言った。

 やましいことがあったとしても簡単には顔に出さない。

 それがレヴェンという男だ、と娘であるリズアートはよく知っている。

 煙に巻かれてしまうことも多い。

 

 けれど今回ばかりはそうはいかない。

 嫌な予感、というものをここまで覚えたことは生まれて初めてだった。

 レヴェンの瞳をじっと見つめる。

 無言。


「……ふむ」


 呆れた風に装いながらも、態度ほど困ってはいなさそうだった。

 まるで聞かれるのを待っていたような、そんな感じだ。


「いいだろう。但し道すがら話す。ついてきなさい」

「陛下。わたしも同行して構わないのでしょうか?」

「もちろんだ、エリアス。もしユングがいなければ、そしてリズアートの護衛の任がなければ、わたしは君に頼んでいた。それほど信頼している」

「勿体無いお言葉……」

「それに今は君ひとりだ。わたしの護衛も頼む」

「はっ!」

「……では、行こうか」


 リズアートたちは、先行するレヴェンに続く。



 礼拝堂を区切る石柱の脇を通り、身朗から側朗へ。

 もっとも奥側にある木造扉を抜け、階段を下りると細長い部屋に出た。

 ここはちょうど礼拝堂祭壇の下部分に当たる。

 古びた長机や椅子、書棚があるだけの物寂しい感じがする部屋だ。


 部屋の最奥にある、もっとも大きな書棚。

 その前に立ったレヴェンが、書棚の最上段の左端の本と、最下段の同じく左端の本を手前に倒す。と、書棚の左側から、右側へと押した。

 書棚がゆっくりと右側へずれていく。


 そこに石造扉があった。

 扉の中心部にはオルティエ水晶が埋め込まれていた。

 レヴェンが水晶に手を当てる。

 水晶が発光し、扉が上方へとずれていく。

 現れたのは、人一人が通れるほどの穴だった。

 先には、うっすらと下り階段が見える。


「こんな仕掛けがあったなんて……」

「知っているのは、騎士団ではユングのみだ」


 リズアートは生まれたときから城に住んでいる。

 だから城のことはレヴェンの次に把握しているつもりだった。

 駄々をこねて騎士たちにかくれんぼをしてもらったときだって、誰にも見つけられたことがない。

 それだけ色々な隠れ場所を知っていた。

 いつまで経っても見つからないから、王城騎士による大規模リズアート捜索部隊が組まれたのは良い思い出だ。


 足を踏み入れていない場所なんてない、とそう思っていたのだが……。

 自分の知らないところがあったことに驚きだった。


「暗いから足下に気をつけなさい」


 燭台がいくつかあるだけで、灯りは心もとない感じがするが、見えないほどではない。

 石に囲まれた階段。

 薄ら寒い。

 戸惑いながらも、レヴェンのあとを追う。


「さて、先ほどの話だが」


 下り始めて間もなく、レヴェンが話を切り出してきた。

 リズアートはごくりと喉を鳴らした。


「黒導教会は知っているな」

「……はい。シグルを信仰している邪教ですね」


 忌むべき存在として、知っている者は少なくない。

 死によって人は救われる。

 自らを、人を死へと誘う者だと信じて疑わない彼らは、数多くの殺人事件を起こしてきた。

 黒導教会。

 その名を口に出すことは憚られている。


「先日、お前が王都内で襲撃を受けたことがあっただろう。あの件、どうにも腑に落ちなくてな。知己の聖堂騎士に調べてもらったのだが……どうやら黒導教会の仕業らしいことがわかった」


 聖堂騎士はサンティアカ教会の私兵であり、メルヴェロンド大陸を護る騎士でもある。

 黒導教会が絡んでいるとなれば、対立関係にある教会は協力を惜しまないだろう。


 だが、なぜ聖堂騎士なのだろうか。

 調べるだけなら騎士団でも問題はないはずだ。

 ふと自身が抱いた疑問にリズアートは違和感を覚える。

 しかし会話がすぐに再開されたため、そちらに意識が向いてしまい、違和感の正体を突き止めることはできなかった。


「黒導教会が……。ですが、姫様が襲われたのはシグルそのものだったはずでは?」


 エリアスが言った。


「ええ。ただ思い出してみると、あのシグルたち変だったのよね。妙に統率が取れていて……。でも、もし黒導教会がシグルを呼び出し、操ることができたとしたら説明がつくわね」

「ですが奴らにそんな力があるとは見たことも聞いたことも――」

「だから、最近できるようになった。そういうことじゃないの? どう、お父様」

「断定はできないがな。わたしも、調査をした聖堂騎士も同じ意見だ」

「そんな……」


 エリアスは驚きを隠せないようだった。

 もちろんリズアートも同じだ。

 その気になれば、黒導教会は王都にシグルを出現させることができる。

 考えただけでも恐ろしかった。

 リズアートは訊く。


「奴らの所在は掴めているのですか?」

「うむ」

「ならば今すぐにでもっ!」

「まだ手を出せん」

「どうしてですかっ?」

「思っていたより奴らの戦力が大きいようでな。国内外でかなりの人数が関わっている。奴らの捕縛には、各大陸の王にも協力してもらわなければ対処できないのだ」


 レヴェンは続ける。


「それに、これほど多くの情報を掴めたことは過去に類を見ない。これは奴らを一網打尽にできるまたとない機会。それゆえ慎重に事を進めようというわけだ」

「では、フォーリングス卿にお与えになった任とは」

「ああ。各大陸の王への協力要請。その旨をしたためた密書を届けてもらうためだ」


 動かせる力という一点において、国王であるレヴェンに敵うものはいない、と。

 リズアートはそう思っていた。

 いや、リズアートだけでなく、王国のほとんどの者がそう思っているだろう。

 しかしそのレヴェンが、迂闊には手を出せない。

 それほどの力を黒導教会は持っているというのか。

 想像以上の存在に、リズアートは恐怖よりも不安が募った。


 しばらくすると階段の終わりが見えてきた。

 下方からは光が漏れている。

 階段を下りた先には、円形の広間があった。

 古びた石壁には、腕ぐらい太さの線が下から上へ向かって幾状にも彫られていた。

 窪みから薄い白光が明滅し、広間を照らしている。


「ここは……」

「この光、アウラに似ていますね」

「似ているもなにも、アウラそのものだ」


 白いアウラなんて見たことがない。


 これがアウラ……?


 リズアートが気を取られている間、レヴェンが壁に手を当てた。

 手の平大の水晶。

 それは飛空船の操縦席に見られる半球型のオルティエ水晶と酷似したものだ。

 レヴェンの身体から水晶へと緑色の光が伝わる。

 と、音もなく緩やかに地面が下がり始めた。


「さて、そろそろ本題に入ろうか。リヴェティア王室。いや、すべての大陸の王が、各大陸を二千年近くも統治できているのはどうしてかわかるか?」


 レヴェンからの問いかけ。

 それは王であるから。

 という理由が真っ先に出てきた。

 なにも考えていなかったというわけではない。

 当然の事実として、リズアートは受け止めていたのだ。


 少し考えたい。

 時間稼ぎではないが、エリアスに考えがあるなら答えて、という目を向けた。

 頷いたエリアスが、口を開く。


「シグルという明確な敵がいるから、ではないでしょうか」

「たしかにそれも理由の一つだろう。ただ、そのシグルの対応について責を問われることもあるはずだ。王政も疎かにして良い理由にもならない。王たちも人間。失敗もある」


 そう答えてから、レヴェンはリズアートに目を向けてくる。

 お前はどうなのか、と。


「原初の王に力があったのだと思います。そしてそれから原初の王の血筋の者たちによる統治が長く続いたために神格化され、決して犯してはならない存在となっていった。……違いますか?」

「少し違う。犯してはならない存在となっていった。ではなく、初めから犯してはならない存在だったのだ。もっとも、今ではその理由を知らぬ者ばかり。その点ではお前の意見――神格化された、と言うのもあながち間違いではないだろう」

「初めから犯してはならない存在だった……? 教えてください、お父様。いったいどんな理由が」

「そう焦らずとも教えてやる。王たちが王であらねばならない理由。それが、これだ」

「なっ!」


 視界が開けた途端、リズアートは目を瞠った。

 レヴェンの背後に広がる空洞。それも王城がすっぽりと入ってしまうほどの巨大なものだ。

 そして広間中央にある台座には、圧倒的な存在感を放つ巨大な結晶塊が鎮座していた。

 結晶は白い靄をまとい、ほのかに白光を発している。

 その白光と似たものが、台座からまるで樹木の根のように上へ上へと伸び、周辺の壁で明滅する。


「これは《飛翔核》……?」

「いかにも」


 大陸を浮かす動力機構――飛翔核。

 知識として誰もが知っていることだが、実物を見たものはほとんどいないだろう。

 その役割自体は教わりながらも、飛翔核がどんな形をしていて、どこにあるのかという情報は秘匿されていたのだ。

 幼い頃からそういうものであると割り切り、興味を持つこともしなかったのだが……。


「まさか城の地下にあったなんて……」

「なんて巨大な……」


 エリアスも目を丸くしていた。

 やがてリズアートたちが乗っていた床が空洞の地面に接触するとともに、その動きを止めた。

《飛翔核》の元へ、レヴェンがすたすたと歩いていく。

 リズアートたちは周囲を興味深く窺いながら、あとを追う。


《飛翔核》の置かれた台座前までやってきた。

 しゅるしゅると風を切るような音が耳をつき、思わず顔をしかめてしまう。

 台座の手前には腰ほどの高さの円柱が二つ、下から伸びていた。

 上部には、人の顔よりも少し大きいぐらいの水晶がはめこまれている。

 円柱の間に立つと、レヴェンはこちらに振り返った。


「王にはひとりしか子を作ることができないという制約がある。そしてその制約のもとに、王たちはある力を継承してきた」


 円柱にはめ込まれた二つの結晶。

 両手を左右に伸ばし、触れる。


「それがこの力。《運命の輪》の大量のアウラを《飛翔核》へと注ぐ力だ」


 直後――。

 白い光がレヴェンを包み込んだ。

 いや、違う。

 右手から左手へと、大量のアウラが流れている。

 そう、リズアートは直感した。


 うっすらとしていた、《飛翔核》の白光。

 それが、みるみるうちに眩い光へと変わっていく。

 連動するように台座から周囲の壁に伸びていた、樹木のような白光も強さを増した。

《運命の輪》から大量のアウラを注ぎ込まれる《飛翔核》は、まるで生き物のように喜んでいるようだった。


 今日はもっとも大陸が下降する《災厄日》。

 そして今は、下降していた大陸が上昇を始める正午。

 いつも自然と《運命の輪》から《飛翔核》へとアウラが注ぎ込まれるのだと思っていた。

 けれど違った。

 王が、その二つを繋いでいたのだ。

 それはつまり、王が大陸を生かしているのだということ。

 その事実を知ったとき。


 リズアートは自分の命の重みを知った。

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