1.邂逅。(2)
「……よい、しょっと」
両手に持ったゴミ袋をゴミ捨て場に置いて、トーラは額の汗を拭う。ついで、もう片方の手で腰を叩く。我ながら、年寄り臭いと思うが、目の前に積まれているゴミの半分を一人で運んできたのだから、それぐらい許して欲しいと誰が聞いているわけでもない言い訳を心の中で呟いた。
夜もとっぷりと暮れて、副都ルシンバの外れに位置する繁華街のここも、そろそろ明かりを落とし始める時間だ。つい最近トーラが住み込みで働き始めた酒屋兼レストランも看板を下ろしたところである。
休日の前夜であったから酒場は大いに人で賑わい、忙しかったが、めまぐるしく働いた後の不思議な充足感がトーラを包んでいた。
「労働、バンザイってね」
トーラはゴミを囲むレンガに腰かけ、空を見上げる。
明かりの途絶えた時間のせいか、こんな都心にいても星がよく見えた。
流れ者であるトーラが、この町に来て約一ヵ月。身元も知れないトーラを、酒場を経営する女主人が拾ってくれ、雇ってくれた。まぁ賃金は安いし血の汗が出るほどこき使われるが、住み込みで置いてもらえるだけで十分すぎるほどだ。女主人には感謝してもしきれない。
厳しく口うるさいが懐の広い女主人、噂話が大好きな優しい同僚、気のいい労働夫たち。
いつまでここにいられるかわからないが、出来ることなら長くここにいたい、とトーラは思った。
びゅう、と吹いた風にトーラの赤い髪が煽られる。遮られた視界にトーラが髪を押さえつけた次の瞬間、黒い外套を身に纏った男達が目の前に立っていた。
「……トーラ・ケルンだな?」
低い声が、そう尋ねてくる。しかしそれは問いの形を持ちながら、確信をもった響きを内包していた。
無駄だとは思いつつ、トーラは跳ねるように後ろに駆け出そうとした。が。
「痛っ」
背後からすかさず伸ばされた手に腕を掴まれ、捻りあげられる。関節がきしみ、酷い激痛にトーラは顔をしかめた。
「間違いない。情報にあった通りの赤い髪だ」
「では連行しよう」
抵抗しようとする前に、腹に打ち込まれた拳の衝撃でトーラの意識は呆気も無く暗転した。