1.邂逅。
なぁんでこんなことになってしまったのか、と通算101回目の自問をトーラは繰り返した。遠い目である。今なら千里先を見通せるぐらいの遠い目をしてしまう。心ここにあらず、あるべき魂はこの現実から遠く離れ、国内でも最高の塔と言われる首都アレッセレナの時計台の辺りを浮遊しているに違いない。
「――おい、トーラ・ケルン」
トーラはうん、と自分に頷いてみせる。あたしが見ているのは夢だ。
「聞いているのか」
手に引っかかっている黒くて重くて冷たくて固い輪っかとか、その先に伸びたじゃらじゃら音がなる鎖とか、目の前の光景を区切るこれまた黒い檻とか。
「おい」
その檻の向こうに見える、目が痛くなるような光を放つシャンデリアとか。赤いビロードの絨毯とか。その絨毯の先にある――これまた豪奢な椅子に座る、男だとか。
「いい加減に返事をしろ! 王の御前であるぞ!」
耳をつんざく怒声。鋭い音が鳴り響き、檻の近くに立っていた男がその手にある鞭を振るったのだとわかった。そうしていやいや前を向く。
白と金を基調とした服に身を包み、肘掛に頬杖をついた黒髪の男がそこにいる。その服の胸元に刻まれた火の鳥の紋、そしてこちらを冷ややかに見下ろす紫の瞳が――この男がこの国で頂点に立つ現国王であるのを何よりも示していた。
それを見て、トーラはまた気が遠くなる。
何故。どうして、こんなことに。
自分が鎖に繋がれ、檻に閉じ込められ、こともあろうか王の御前にいるだなんて。
夢と言わずしてなんと言おう?
そんなことを心の中でぼやきながら、トーラ・ケルンはここに来るまでの経過を思い返した。