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EP.07 《龍帝の目覚め》

エスパーテロ組織の野望を阻止したテツト達は日常へ戻る。

しかし、行き過ぎたこの時代の格差はなくなる事はない。

ある日、エリートお坊ちゃまの【辰巳ガセイ】がテツトの前に来る。

彼はTD1つを高値で買い取り、エスパーから己の身を守った男である。

そんなガセイはテツトに提案する。


「若者が不遇なこの時代を変えるべく、上の世代を一掃しませんか?」

……と。

プロローグ


 深大寺率いるエスパーテロ組織による、エスパー格差化計画は謎の人型ロボット・TD5機によって阻止された。

 あれから1週間が経過。

 そのTDを密かに遠隔操作していた高校生・テツト、ヨシヒロ、コウスケ、ノリカ、ミヤの5人はいつもの日常=学生生活へと戻った。

 

「あぁ……。イイなぁ……」

 コウスケが教室の窓からうっとりとした……何処か色ボケた感じの表情で下=グラウンドを眺めていた。

「な~にがっ?」

 ハキハキとした耳に残る声。

 ノリカがドン、とコウスケの肩を叩き、コウスケの隣へ割り込んだ。

「うぉ、楠かよ……」

「何見ていたの?」

 勢い良くコウスケの左側へやって来たノリカとは反対にミヤがひょっこりと顔を突き出し、コウスケの右側へ立つ。

「んあ……。まぁその、何っつーか……」

 途端に頬を紅潮させるコウスケ。

 ニタリと胡散臭い魔女のような笑みを浮かべるノリカ。

 ノリカに勘が働いた。

 間違いないわ。好きな娘を見ていたのだ。と。

「ぶっちゃけな。誰に惚れてんの?」

「んなっ!?」

 図星だった為、思わずよろけるコウスケ。

「え? そうなのノリカちゃん?」

「いやぁ、このリアクションが何よりもの証拠じゃん? ま、あたしの勘に間違いはないし。さぁ、大人しくぶっちゃけな! 誰? 誰に見とれてたの?」

 ノリカは顔を近づけ、尋問という猛進をした。

 この勢いに圧倒され、コウスケは恥ずかしそうに・もじもじしながら自白する。

「今……。バドミントンやってる……泉谷美野里さん……」

 生きのイイ魚を釣り上げた開放感がノリカとミヤの脳を満たす。

 面白いものみ~つけたと言わんばかりに2人はにやける。

「へぇ、泉谷さんかぁ~」

 ミヤはその泉谷美野里なる人物が居るとされるバトミントンコートへと目線を飛ばす。

 細過ぎずも、太過ぎずもない健康的な身体に、外側へ撥ねたショートヘアーの、少女。快活にラケットを振るい、スマッシュを決める。

実に眩い笑顔だった……。

その姿は太陽光の如く、他者へ元気を与えるような印象があった。

「あの子、バトミントン部なんだよね。別にエースって訳じゃないけど、部を明るくする元気な子って聴くよね……」

 ぼんやりと、ミヤは校内評判を呟いてみた。

「そうそう、あの笑顔がイイんだよなぁ~」

「ふ~ん、確かあの子彼氏は居なかったと思うけど……」

 ピクリと耳を立て、コウスケは即座に首をノリカの方へ回す。

「何!? 本当かそれ?」

 ノリカは自信満々に鼻息を噴出し、親指を突き上げ、サムズアップ。

「モチ! ノリカ様の情報網舐ないでよぉ~。この学校の同級生女子・全ての彼氏持ち云々は知ってんだから!」

「な、何故……?」

 コウスケとミヤは疑問で寒くなった。

「……まぁとにかく、このノリカ様に任せな! あんたの恋、成就も玉砕もさせてやんよ!」

 ドン! ノリカは両脚を大開きし、両腕を組む。

 己が神と言わんばかりの上から目線態度だ。

「玉砕は勘弁してくれ……」

 じとっとした目でコウスケは慎ましく訴えた。


 そう、わいわい騒ぐ3人を遠くで大人びた目線で眺めているのが、イケメンと美男子の2人。

 テツトとヨシヒロである。

「……だってさ。ま、痛い目見なきゃいいけど……」

 ヨシヒロは軽く息を捨て、その場でサクッと宙返り。

「イケメンヒーローッ、宙返りっ! ……っとぉ」

 テツトは両目を閉じ、両腕を組んで、冷笑。

「下らんな……。他人に幻想を持つなど………」

「へぇ、ご尤もだねぇ~。でもそれは……他人そのものを信じるべきではないという事かな?」

 ヨシヒロはわざとテツトと目線を合わせず、天井へ呟くように問いを口にした。

「……他人に任せるべき時は他人に任せるべきだ。だが、その場合他人が失敗する事を覚悟しなくてはならない。そして、他人の失敗を委託した人間が補うようにする……それが、巧いチームワークというものだ。だからこそ、他人に依存・幻想を持つべきではない。その場合だと他人の失敗・自分の思い通りにならなかった点を許せなくなる……」

「フッ、ナルホドね……。僕と楠さんの失態から相手を一気に畳み込むようにしたのも、そういう考えから出たものなのかぁ~。いやはや、参ったねぇ~」

「……フッ………。頭の回る奴にしか勝利はないさ……」

「だといいけどねぇ~」

 ふと、テツトは窓の外へ視線を持っていく。

「……そう言えば、【ヤツ】はどうなったどろうな?」

「あぁ、№000を買い取った【彼】かぁ。調べてみるかい?」

「……いや、調べるまでも無い。なーに、ふとヤツを思い出しただけさ……」

 晴天だった空が段々と淀んでいく―――。
















EP.07


01  [龍帝の目覚め]


 ここは西洋の何処かか?

 いや、日本の敷地だ。

 高貴な洋風の巨大な建造物――ーそれは学校。

 それも、有名私立ボンボン校に相当するソレである。

 そこの体育館。

 平均的なものよりも、大きく無駄に綺麗な体育館内。


 ヒュッ!

 バスケットボールが緩やかな弧を描き、バスケットゴールの網を揺らし、通過。

「く……、くそ……」

 歯を食い縛り、無念に短髪の男=バスケットボール部エースの児島は顔いっぱいの汗を床に落とし、敗北を認めた。

 目の前に居る、涼しい顔をして立っている少年に。

 年齢は児島と同じの高2だが、年齢の割に童顔な部類。

 しかし、背は175センチそこらで、幼い印象でもない。

 その童顔美少年はクスリと唇を歪める。

「あ~あ、だから言ったじゃないですか。僕と戦うと屈辱を味わうだけだって……」

 嘲笑をわざと堪えてやっていますよ。と、云わんばかりに胡散臭い笑い堪えを交え、この童顔男子高校生は膝を付き、雪辱に凍結した児島を見下ろす。

 彼は児島とは対称にあまり汗を掻いていない。

 よほど児島より上の実力でバスケ勝負に勝ったと、試合を見なかった者でも分かる様子である。

「う~ん、僕、その気になればプロスポーツ選手になれる実力あるんですよねぇ~。でも、スポーツ以外に取り柄のない人達が可哀想だからスポーツは嗜み程度にしているんですよ。では、ここで失礼します。二度とスカウトも勝負も申し込まないで下さいね。貴重な時間を取られたくないので」

 トドメに鼻での笑い・一瞥を贈呈し、童顔美少年は体育館を後にした。

 そして、広大な校舎内を歩んでいく。

 途中、スーツ姿の中年男=本校教諭と遭遇。

「おぉ、辰巳君かぁ。聴いたぞぉ、この前の試験全て最高点だって? いやぁ、教師として鼻が高いよぉ~」

「いえいえ、僕は幼い頃から勉学・スポーツ・幻術においての英才教育を受けていた身ですから、この位の結果当然ですよ……。それではさようなら」

「おぉ……さようなら」

 テキパキと澄んだ声での物言いに思わず圧倒された教師はそのまま、【辰巳我正(タツミガセイ)】を見送った。

「ふむ……。辰巳ガセイ……。世界を股に掛ける大企業の一族だけの事はある……か。成績優秀・スポーツ万能・爽やか美男子……。まさに完璧超人だな。彼は今まで何人に嫉妬された事だろうか?」

 教諭が脳裏で呟くうちに、ガセイの姿は縮小。

 関係者駐車場へと到着した。

「坊ちゃま」

 この時代の最も高級車であるとされるシュトラールという車前に20代前半そこらのメイドが淑然と待機しており、ガセイが到着するや否や、丁寧に挨拶をし、後部ドアを開け、ガセイを車内へ乗せた。

 メイドはシートベルトをセットし、ハンドルを握った。

 高級車=シュトラールは動き出し、この学園を後にした。


「坊ちゃま、今日は如何でしたか?」

 運転しながらメイドが後部座席で眠たそうな顔をしているガセイへ話題を振る。

 ガセイは退屈そうな表情のまま口を動かす。

「いつも通りだよ……。あらゆるものに勝利する日常。まぁこんな事恵まれた環境に居れば出来て当たり前。呼吸のように簡単な話です」

「そうですか……。そんな日々は退屈でいらっしゃいますか?」

「うん。そうですね。だけど……」

「だけど?」

「そろそろ、退屈では居られない事をやる時になりました……。そう、大革命です……。そうですよね?」

「は、はぁ……」

 意味がよく分からないが、仕える主人の言葉。迎合しなくてはと頷いてみるメイド。

「アケミさん、貴方には言っていません。【彼】に言ったのです」

 ガセイが問い掛けた先はメイドのアケミではなく、電子端末。

 その電子端末―――。

それはSボードと全く同種のものであった。

 こちらはシルバー&レッドのカラーリング。

 テツト達5人の誰も所持していないタイプだ。

 そのノートパット画面には竜人ロボットのようなものがあり……。

 

02


 一方その頃。岩鉄高校では部活動を行う時間となっていた。

 ノリカとミヤは家庭科部で菓子を作り、その菓子を食している。

 料理の腕を磨きたいとか、真面目な理由はなく、ただ単にお菓子が食べられるという理由をだけで入部したこの2人は残る部員と共にのんびりと所謂〔スイーツタイム〕を満喫していた。

 ――コウスケの恋愛手助けをするとか言って置きながら、それを忘れて……。

 

 コウスケもその事は忘却していて、彼もサッカー部に励んでいた。

 友、ヒデノリは自首し、刑務所へと離れた。

 ヒデノリの居ない部活をココ最近は送っている。

 正直、サッカーで秀でる事など不可能である事は重々承知であるコウスケ。

 ではあるが、退部したいとは思わなかった。

 別にヒデノリの分までやらなくてはと気負っている訳ではない。

 ただ、サッカー自体は好きなので続けたい。

 それだけの理由であった。


 体育館舞台では演劇部が芝居衣装を身に纏い、演劇を行っていた。

 物語はギャング強盗モノ。

 ヨシヒロは強盗団の一員を演じる。

「僕、警察役が良かったんだけどなぁ~。でも、強盗役もいい経験。まぁいいや」

 と、さっぱり決断し、ヨシヒロは体当たりで強盗を演じている。

 実に楽しそうに演技をしているヨシヒロ。

 気楽に物事を考えられ、何事にも楽しむ。

 〔こういう人間が生きていく上で得なのかもしれない一例〕であった。


 そしてテツトはというと、彼は実は技術部に一応所属している。

 理由としては部活に所属しておいた方が色々なロボット大会に出場出来るし、他者と切磋琢磨出来るからである。

 ……しかし、本校の技術部は名ばかりの実質帰宅部のようなもので、各自勝手に好きなマシン作りに励めという放任的な体制。

 その為、テツトは今日部室へは足を運ばない。

 鳳研究所でやりたい事があったからだ。

 テツトは通学鞄を肩へ回し、下駄箱へと向っていた。

 その途中の通り道。

 進路相談室がある。

 そこで張り出されている求人票を閲覧している学生2人。スリッパの色が緑なので3年生と思しき2人が求人票を見終え、絶望的な溜め息を振り下ろす。

「あ~あ、何処もヒデェな」

「何処も激務薄給の上、採用枠マジ少ねー」

「やっぱ進学だよなぁ。それも少しでも偏差値高めの」

「だな」

「……でも、どの道就職はしないとダメなんだけどな」

「嫌だなぁ。俺、今大学4年で就職活動している姉ちゃんが居るんだけど、メッサ大変そうでさぁ。もう百社ぐらい応募してんだけど内定1個しか貰えねぇってさ。その1個の会社もな~んか、ヤバそうなトコらしいし」

「うわぁ~。そういうの訊くと一生学生でいたくなるなぁ」

「まぁな。でも今思ったんだけど、今って少子化じゃん? 何で就職の競争率、高けーんだろ?」

「! 言われてみれば……。同年代の人間の数が少ないほど、ライバルが少なく、競争率下がりそうなのになぁ」


「上の世代が降りないだけさ。まだ働かないと生きていけなかったりするからな。大人数の上の世代が席を譲ってくれないから、その分、若者の席が無い。それだけの話っすよ」


 テツトは思わず、2人の会話に聞き入って、ぼそっと話に割り込んだ。

 高校3年生2人はテツトに注目。

「スリッパが青、お前2年かぁ」

「ナルホド、上の世代がつっかえているのかぁ。お前よく知っているなぁ」

「知っておきたくない現実ではあるが……。まぁ他にも産業機械化により、必要な人材が減っている

のもあるだろうが。何にせよ、生きていける分の金を手にして生きて生きたいものだ」

「そうだなぁ」

 3年らは苦い顔で失笑。

 どうしようもない事なので、笑う以外無かったのである。


「話割り込んですんません。んじゃ……」

 テツトは会釈にも届かぬ微小な頭下げをし、淡々と足を動かした。

 物思いに浸りながら、テツトは歩む。

 ――やはり、格差というものは付き纏うか。

 英才教育撤廃を謳っても何も変わらなかったこの世の中。

 ――いや、この程度で何も変わらないのは分かっていた。

 かといって、暴虐的な……テロ活動的に訴えても意味が無いと看破している。

 桁違いの戦闘能力を誇るTDを駆使し、無理矢理力ずくで国民を従わせたとしよう。

 ある程度は従ったとしても、拒絶する存在は確実に出る。

 英才教育の撤廃を突き詰めれば、家族破壊・全人類施設などで血縁を完全別離した制度にし、教育機会完全均等化するしかない。

 テツト自身はそういうシステムにしたいのは山々だが、従来の生態系を大きく逸脱する事から、反対派が多数出ると予想。

 結局、国民が受け入れなければ如何なる施策も無意味。

 無意味な事はやってもしょうがない。

 だから、諦めるしかない。

 ……しかし、そうは言っても格差はあるより無いに越したことは無い。

 生まれ育つ環境も、世代間も……。

 ダメモトでも何か出来ないだろうか? と、考えるのを破棄まではしたくないテツトであった。


 浮かない顔で歩んだ後、鳳研究所へ到着。

 ここの鍵を所持しているのはテツトとミヤ。

 ミヤは無論、親族ゆえの理由だが、テツトはここの開発設備が気に入った為、ミヤが

「別にいいよ。せっかくのお爺ちゃんの研究所、使ってあげて」

と、予備鍵をテツトに譲渡。

以後、テツトは自由にココへ出入りしている。

室内に入り、一旦ジュースでも飲んで休憩でもしようとテツトは思った。


ピンポーン!

 

妙なタイミングで鳴った呼び出し。

ヨシヒロかコウスケだろうか?

……いや違う。

2人はまだ部活の時間だ。

ノリカとミヤでもないだろう。

ミヤは鍵を持っているのだから、勝手に鍵を開けるだろう。

俺がここで機械弄りに熱中していると承知している為、鍵を自分らで開けず、呼び出す可能性は極めて低い。

ならば、残る選択肢は……“アイツ”だ。

あまり会いたくないアイツ。

インターホン前へとテツトは少し歩む。

ゴクリ、と息を飲む。

これは恐れではない。

緊張と警戒。

 それらを持ってピンポンを鳴らした人間とのコンタクトを図る。

「やぁ、お久しぶりです」

 サラサラな髪に幼さ残る顔立ち……。

 超エリート学校・学応高等学校の制服を着た、如何にも育ちの良さそうなこの青少年。

 ――それは。

「……辰巳ガセイ……」

「いやぁ、助かりました。貴方が売ってくれたこの……」

 スッとポケットより、シルバー&レッドのSボードを取り出すガセイ。

「TD№000、【リンドヴルムカイザー】をお陰でエスパーさん達からこの身を守れました。因みに彼らはきつーくお灸を据えさせた後、刑務所へ送りましたけど」

「そうか……。だが報告感謝しに来ただけではあるまい。用件を言え」

「察しがいいですねぇ。……ではズバリお答えしましょう」

 テツト、無言で目元を厳然と構える。

 ガセイはニタリと口が裂けそうなほど、魔物の如く、唇を歪ませる。


「僕ら若者の敵、上の世代を一掃しませんか?」


「何……?」

 テツトは驚愕に凍った。

「それはつまり……勝ち逃げ既得権者や年金生活者をデータの世界へ送るという事か?」

「ご名答。彼らが存在し、席を譲らない限り、若者には不遇な未来しかありません。そう、つまり金持ち・エリート・庶民・バカ、どの若者にも共通する敵です」

 黙考するテツト………。


03


 立ち話も何なので、近場の喫茶店へと移る。

ガセイとテツトは同じテーブル席へ向かい合い座った。

「僕の奢りです。好きなものをどうぞ」

「カフェオレにでもしておくか」

「そうですか。では僕はアイスレモンティーを1つ。以上をお願いします」

「畏まりました」

 ウエイトレスは注文メモを記入し、調理場へと去った。

 注文の飲み物を待つ間となる。

 ガセイはサラサラな揉み上げを指で巻いて遊び出す。

「いやぁ~、不憫でならないんですよねぇ。僕の家系がやっている辰巳コンツェルンの若手社員が」

「大企業の社員……一般的に見ればイイ御身分に思えるが……?」

「そうでもありませんよ。年々激務薄給となっています。ウチの会社だけじゃなく、どこの企業にも言える事です。それだけでなく、今のご時世での若者冷遇と来たらありません。採用枠を狭められ、就職そのものが、難しく、例えなれたとしても地獄の激務が待っている。これはよろしくありません……」

「成程。だから上の世代を一掃すると。……だが、貴様のようなエリート様には関係ない話じゃないのか? 貴様の場合、辰巳コンツェルンを次いで、貴様の実力で楽々と業務をこなせるだろうに」

「いいえ。僕一人が上手くいっても無意味です」

「どういう意味だ?」

「正直邪魔なんですよ……。爺様・父様らトップを牛耳る存在がね。屈辱なんですよ。いつまでも、祖先の支配下に置かれるのは……頭角を現せられないのはね」

 ガセイは全指を交差させた手に口を隠し、不気味な笑みを交え、そう述べた。

「僕にはコンツェルンで働く兄や姉がいます。彼らは優秀ですが、その価値に見合った評価を受けていません。それが居た堪れないのです」

 額に指をあて、悩まし気な所作をするガセイ。

 やや大げさな素振にも見え、テツトには胡散臭く思えた。

 ――しかし、ガセイの云う事は一理ある。

 現に不遇な若者は多く存在している。

「だからこそ、“この”技術がうってつけなのです。……そう、データコンバートシステム。人間をデータで造られた擬似空間へ転送・転換させるシステム。要するに無人島創って移民させ、人口の均衡を測る訳ですよね。如何です?」

「悪くない……と、言いたいが問題がある。どう世に促すかだ。受け入れさせるかだ…………」

「問題ありませんよ。僕達の持つ……貴方が僕に売ってくれたTDがあればね」

「恐怖政治か? それで巧くいけば苦労は無いが……」

 皮肉めいた笑みでテツトは両腕を組む。

 動じる事はなく、ふふふと、気品のある笑いを溢すガセイ。

「いいえ。もっと……別の手段ですよそれはまさにブロックバスター的な……」

 余裕綽々。ガセイに渾身の策がある。

「ブロックバスター……。沢山の意味を持つ言葉だが、この場合、街一つ消し飛ばす爆弾のようなという意味合いか……。いいだろう。見せて貰おうか?」

 ガセイの策を見物せんと、テツトは背もたれに背を預けた。


04


 賢い奴は二度と同じ失敗はしない。

 必ず対策を考えるものだ。

 あらゆる業界の頂点に立つ存在なら尚更。

 ―――とある高級料亭にて、辰巳会長と城戸総理が豪華和料理を食しながら、重要な会話を行っていた。

「いやぁ、総理。上手くいきましたなぁ」

 ほろ酔いしている総理は洒落たこの店専用のおちょこにある酒を啜った。

「うむ。例のエスパーテロの片棒を担いだDr毒島……彼を逮捕し、彼の残したエスパー化プログラムを我々は入手した……。これで如何なる敵が現われても悪阻るるの足りんだろう。一応はエスパー共の野望を潰してくれたあの謎のロボット・TDも我々世襲エリートをわざと甚振られるのを放置した……。100%我々の味方とは思えん」

「うむ。警戒するに越した事はありません」

「……しかし、幼稚ながらも試してみたくなるものだな……。己の身体に搭載した“超能力”を」

「ほぉ、総理はまだ使っていなかったのですか。私は使っていますよ早速。歯車……いや、社員に喝を入れる為にね……」

「それは素晴らしい。特に若い奴はしごくべきですからなぁ。あいつらは甘ったれている上に無能だからいかん。一日でも早く上の世代の為に身を粉にする歯車として完成されねば」

「当然ですとも。個性も感情もこの世に必要ない。ただ、ベルトコンベアーのように繰り返すだけでいいのだ。人生というのは……」

「ハハハッ、そうですなぁ~。ですが、辰巳会長、あなたの考えは少し狭量だ。歯車は若い男だ。そして……」

「若い女は愛玩奴隷……ですかな?」

 皺の多い頬を笑いにより、更に皺を追加する辰巳会長。

 その通りだ。と、云わんばかりに城戸総理は嬉しそうに首肯する。

 【辰巳会長】……。

辰巳コンツェルン最高責任者にして、ガセイの祖父に相当する。

 年齢もとっくに定年退職してもいい頃合なのだが、自分より下の人間があてにならない・権力放棄などしてはつまらない為、今も尚、居座り続けいている。

 【城戸総理】……。

総理とは言っても、数週間前に退陣して1政治家になっているが、愛称として総理と呼ばれている。

 辰巳会長と城戸総理は学生時代からの仲で、互いが困った時助け合って生きてきた盟友である。

 世間一般として非合法な方法であっても助け合って来た………。

 彼らは居座り続けるつもりだ。

 支配し続けるつもりだ。

 自分より上がいない。下しかいない。

 この“イイご身分”は辞められない。気分が良い。

 それに長年エリートとして生きて来た2人は自分より若い人間など、全てにおいて劣って見える。

 馬鹿にしてしまう・自分が作り上げてきた政権・企業を任せたくない。

 故に、 彼らは居座り続けるつもりだ。


05


 夜7時ごろ。

 多くの人間は適当にテレビを見ながら夕食を行う時間帯。

 そう、日本各地の殆どが様々なチャンネルのうちから選んだ番組を暇潰しや、日課的な感覚で視聴している……ハズだった。

 その画面から唐突に“機械的な龍の咆哮”が響き渡った!

 多くの視聴者は夕飯を吐くなど、仰天する。

 現在、この夜7時に龍の咆哮が聴こえるような番組などどの局も放送していない。

 しょうもないクイズ番組や歌番組・バラエティ番組しか存在しない。

 ――そう、場違いなのである。

 この龍の咆哮が。

 日本全国のテレビ画面が鉄鋼の龍人に支配された。

 メタリックレッドのメインボディに、ゴールドのアーマー装飾、ダークグレーのボディフレームを持つ、成人男性ほどの前兆を誇るこの機影。

「初めまして。僕は未来の世界からやって来たロボット、【リンドヴルムカイザー】です。僕は歴史的に義務付けられた輝かしい未来への導きをしにここへ光臨しました」


 何じゃこりゃ?

 龍のロボット? 特撮番組なんてこの時間帯にやってないだろ?

 ……などと、困惑する視聴者達。

 テレビ局は大荒れ。

 あらゆる機器がジャックされ、放送中断状態とされている為、苦悩の沼でもがくしかない状態。

 

 そんな事など、無視し、某所スタジオをジャックした竜人型TD・Rカイザーは流暢に電子音声を発した。

「皆さん、僕の仲間をご存知ですよね? そう、エスパーテロリストの野望を打ち砕いたヒーロー、Cオライオンをはじめとした5機のTDです。僕はその同種に当ります」


「ちょ! 何これ!?」

 晩飯を吹き飛ばし、向かいの父親へ吐いた飯を付着させてしまったノリカはテレビへ急接近。まじまじと見入る。

 

 同様にコウスケも目を疑った。

「こ、こいつは………」


 食卓へ箸を置き、食事を中断するヨシヒロ。

「Rカイザー……。(やはり、彼が……)」


 ミヤは思わず、茶碗を手から滑らせ落としてしまう。

「ど、どうして……?」


「今の世の中って大変窮屈ですよねぇ~。そう思いませんか、お爺さん?」

 Rカイザーが顔を向けた先へカメラは走る。

 椅子に座った庶民的な服装・風貌の爺さんがそこに居た。

「そうじゃのぉ~」

「具体的な要因は何だと思いますか?」

「そうじゃのぉ~。1つは年金が少ない事かのぉ。もう1つは孫が就職で苦労している事かのぉ~」

「それを解決手段……実はあるんです」

「ほぉ、それは何かのぉ?」

「あなた方高齢者が別世界へ旅立つ事です。年金など必要としない楽園の世界へ……」

「何を戯言を。そんな世界ある訳……」

「ありますよ。まずは体験して見て下さい」

 そう言うや否や、Rカイザーは鉄鋼で出来た獰猛な口を開き、口内のジェネレーターブレスキャノンを爺さんへ直撃放射した!

 強大な熱線に飲み込まれる爺さん。

 この熱線を浴びた爺の身体が0と1に分解しれていき、Rカイザーが投げた携帯電話のようなものへと吸い込まれていった。

 これだけ見れば竜人型TDが老人を殺害したかに見える。

 だが、現実は違う……。

 Rカイザーは器用に翁を吸い込んだ端末を操作し、端末の画面をテレビカメラへと近づけ向ける。

 ――そこには先程消失したと思われた爺さんの姿があった。

 彼は旅館らしき場所におり、館内を徘徊している。

 誰もいない。

 困惑に包まれるが、これが竜人ロボットの云った〔楽園〕なのか? と、判断し、マサージチェアーでくつろいで魅せる。

 現実世界に居た時の不安そうな顔とはうって違って、開放感に満ちた表情をしている。

「ま、お試しはここまでにしておきますか……」

 Rカイザーは端末機のある1つのスイッチを押し、端末機を横へ向ける。

 その端末機から光が放射され、0と1の人影が形成されていく。

 その人影が段々と翁の姿となっていく。

 突如の強制送還。

 爺さんは尻餅ついてちょとんとする。

「あ、あれ? わしは誰もいない旅館でくつろいでおったのにのぉ~」

「すいません。お試しですからさっきのは……。で、どうでした? さっき居た世界は?」

「いやぁ、最高じゃッたよ。飯も食べ放題で、マッサージチェアーもある。至れり付くせりじゃよ」

「気に入ってくれましたか」

「モチロンじゃよ! あれがお主の言っておった楽園でいいんかの?」

「そうですよ?」

「お金は発生せんのんじゃの?」

「モチロンです」

 改めて驚きに震える爺。

 こんなオイシイ話あっていいのか?

 困惑に回る脳であった。

 そんなサンプル爺さんを放置し、Rカイザーはテレビへと再度向く。

「彼のように高齢者の皆様には年金生活を辞めて、こちらの世界で自由に極楽生活して貰います。大移民です。そうする事で、若者の就職座席の増加・年金負担破棄と、誰に取っても幸せな日本にします。それをこれから開始しようと思います。詳しい場所・日時はまた後程お知らせします。では……」

 光反射し、眩く誇張するメタリックレッドのボディを持つ、Rカイザーはそう言い残し、姿を消した。

 ――実質、ガセイのSボードへデータ化帰還した。


 日本全国が驚愕の嵐に包まれた。

 テツトは自分の部屋に入室し、インカムを耳へ装着。

 これでヨシヒロ達と通信可能にする。

 案の定、ヨシヒロ達の通信が来た。

「ちょ、これどーなってんの?」

「何で辰巳ガセイが……。テツト、理由知ってんのか?」

 ノリカ・コウスケからの通信。

「あぁ、俺は今日奴と会った。奴は今放送した内容の計画を俺に伝えた……」

「あのお坊ちゃま、大胆な事するねぇ~」

「あたし達はどうするの?」

 ヨシヒロが呟き、ミヤはリーダー=テツトに今後の動向を尋ねる。

「反響次第だ……。国民が許可肯定すれば、俺達はこの計画に加担するつもりだ。つまり、まだどうとも言えん」

「そっか……」

「まぁ、大勢がそうしてくれって言ったらそうするかもだモンなぁ~」

「細かい話はまた明日、学校でしよう」

 テツトがそう纏め、4人は納得し、通信を切り、各自インカムを耳から外す。

 眉を顰めるテツトは顎を摘み、思案に耽る。

「辰巳ガセイ……」


 豪勢な洋館―――辰巳家屋敷。

 ワイングラスをカーペットへ投げ捨て、辰巳会長は憤慨する。

「何だこれは!? ふざけた話だ! 姨捨山かっ!」

 メイドが「落ち着いて下さい、ご主人様」となだめながら、飛び散ったワイングラスの回収作業をする。

「おやおや、どうされましたお爺様?」

 ひょっこりと不自然な程爽やかな笑顔を持ってガセイが祖父の部屋へと入室。

 彼の後ろポケットにはSボードがある……。

「おぉ、我が孫ガセイよ。下らん戯言が公共電波に乗っていたのだよ」

「へぇ、知りませんでした。僕、ずーっと勉強していたもので……。お爺様の会社で役立つ為に」

「おぉ! 感動的な事を言ってくれる。しかし、今私は機嫌が悪い。勉強に戻りなさい。我が社の未来の担い手になるべく」

「えぇ。お任せを……」

(よくもまぁ、言えたものです。誰にも担わせないクセに……)

 表情と内面で正反対の態度を取るガセイは祖父に礼をし、退出した。

 わなわなと震える辰巳会長。

 感情の高ぶりで、肩腕が白骨竜に一瞬変化し―――。


 パタンとドアを閉め、ガセイは自分の部屋へ戻った。

「ふふふ、知ってますよ爺様。Dr毒島から奪った薬品で肉体改造した事を………。楽しみです。爺様と戦うのが………」

 ガセイは愛機が眠るシルバー&レッドの端末=Sボード№000を握り締め、空間をも歪ませそうな邪悪な笑顔を形成した!




新展開です。

新たなキャラクターを迎え、ストーリーはヒートアップします。

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