表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

EP.06 《真の敵とは?》

EP.06  《真の敵とは?》


01


 両腕をクロスし、深大寺は唸り始める。

「最初から全力でいかせて貰おう……。ぬぅっ! おぉぉぉぉ……!」

 身構えるCオライオン。

 深大寺から只ならぬオーラを察知する。

「む……これは……?」

 変貌していく……。

変体していく………。

 人肌から爬虫類的肌へ……。

 肌だけではない。骨格・筋肉・神経……あらゆる身体部位が変異する。

「………ほう。これが例のパワーアップか」

 青い狩人TDは〔見上げた〕。

 深大寺の新たな姿=魔竜形態を。

 全長5メートル。周辺のビルと同じぐらいの高さ。

 車道・4車分を軽々と独占する横幅……。

 主にティラノレックスをベースにし、プテラノドンの翼を背中に持ち合わせ、更に剣のようなツノを頭部に3本装備。

 ゲームに出てきそうな巨大モンスターそのものである。

 その魔竜、獣らしい咆哮を上げ、口から火炎を放射した!

 人間形態のエスパーが掌から放っていたそれとは比にならぬ、巨大な火球!

 メテオの如きそれがCオライオンへと迫る!

 両手のマグナムを構え、発射!

 まずは敵攻撃の威力分析を試みる!

 マグナムのビーム弾2発程度では巨象と小動物との差と同様、呆気なく弾き飛ばされる。

 ……今までにない高威力の攻撃だ。

 ならば! と、ショルダーマシンガン・レッグミドルライフルを加え、総射!

 複数の光が1直線に駆け抜ける!

 どちらも流星の如く、激突! 

今度は相殺!

 威力の程度が判明したのだった。

 しかし、敵のデータが1つ分かったのも束の間、空中へ羽ばたく魔竜は上空から火炎の弾丸を次々と吐き飛ばす!

 まさに、流星群である。

「チッ!」

 斜め上へ照準を回すメタリックブルーの狩人型ロボット!

 今度は胸部に巻きついたベルトライフルも動員し、乱れ撃つ!

 火球が町・建造物を呑み込まぬよう、空中にある内に粉砕していく!

 爆発! 激突! 激しい音と攻撃の相殺合戦! 

その末、全てが空中爆散!

 と、同時に魔竜が足を突き出し、急落下! Cオライオンを踏み付けに来た!

 そう、易々潰されるほど、反応に鈍いテツトではない。

 星の狩人・Cオライオンはコンクリートを蹴り上げ、後退! 

 更に念を押して、両脚部のライフルを棒高跳びの如く、コンクリートを弾かせ、後退する勢い・距離を稼ぐ!

 魔竜は道路を踏み付け、巨大な足型を作った!

 獰猛に唸る魔竜=踏み潰そうとした対象に逃げられたからである。

 Cオライオンは後方へ飛ぶまま、各種銃口を魔竜本体へと向ける!

 一斉総射! 魔竜全身へオリオン座を刻まんと、光弾の豪雨を見舞う!

 魔竜のボディに直撃!

「さて…。どれほどのダメージを負ったか……」

 テツトは敵本体の強度を確かめた。

 爆煙が退いていく……。

 その中央に無傷の魔竜・深大寺の姿を確認。

「……頑丈だな……。あの鱗、相当なようだ。だが、策が無い訳ではない!」

 Cオライオンは各種銃器を折り畳み、突進!

「ンガァァーーッ!!」

 ヨダレを垂らし、雄叫びを上げる魔竜。

 鋭利な爪を持つ腕を振るう!

 その腕は大きく、勢いもある!

 しかし、小さいボディのCオライオンに回避は決して難しい訳でもない。

 寸前で、体躯を反り、小さな隙間に潜り、回避。

次いで、マグナム砲身下に畳まれた隠し武器=アーミーナイフを飛び出させる!

 ハンドマグナムの先へ伸びたナイフを、自身の真横に位置する魔竜の手の甲へ突き刺す!

 だが、鱗は堅く、ナイフも浅くしか入っていない。

 しかし、逆に言えば“浅くは入った”。

ならばと、Cオライオンは更に力を加え、完全に突き刺した!

「さて……。内部への攻撃はどうだ?」

 魔竜は悲痛の雄叫びを空間に響かせた。効果アリ。

相手が苦悶中である隙に、突き刺したまま、真っすぐCオライオンは駆け抜ける!

 魚を捌くかの如く、魔竜の鱗を抉っていく!

 魔竜は悶え、苦しみの咆哮を響かせる。

 ある程度は抉り進んでいく……。

しかし、腕間接部でつっかえる。

筋肉が緊張しており、硬くなっている部分な為、切り裂く事に限界があったようだ。

「チ、ここまでか……」

 魔竜の腕を蹴り、突き刺したナイフを引っこ抜く!

 次いで、今まで使っていなかった武装の、右腕シールド=折り畳まれたスナイパーライフルを展開していき、ゴーグルを目元にセット!

 右腕部スナイパーライフルの反対の左手に持つマグナムを連結させ、射撃準備完了!

 ……ターゲット、ロック・オン!

抉り開かれた内筋肉部へ精密射撃を放つ!

 一閃の光弾が飛翔!

 ピンポイントヒット!=内部攻撃を成功させた。

「グゥォアーッ! グォーン!」

 尻尾をバタバタさせ、悶える魔竜。

 着地するメタリックブルー&ブラックグレーの狩人型TD。

「よし……。内部から攻撃は効果的だ」

 手応えのある攻撃=突破口を掴んだ。

 敵が痛みに悶えている間にスナイパーライフルの精密射撃を露出された筋肉へ容赦なく撃ち込んでいく!

 更なる痛み!

 唸りを上げ、更にもがく魔竜!

 その挙動は激しく、大きくなり、長い尻尾を周辺に振り回し、ビルを叩き潰していく!

 Cオライオンにも荒ぶる魔竜の尾が迫る!

「クッ」

足の裏と下へ伸展した脚部ライフルでコンクリートを蹴り上げ、襲来する尾を飛び越える。

Cオライオンはそのまま、魔竜の抉られた筋肉へ射撃を見舞う!

一気に攻め込むCオライオン!

コンバートショットを相手に完全に撃ち込むまで、遠くから精密射撃を続けるほうが堅実のようではあるが、悶え、動きまくる相手な為、その戦術は続きそうにない。

その為、やや接近しての乱射攻撃を試みた。

が! 相手=魔竜は鱗を裂かれていない、もう片方の腕を伸ばし、Cオライオンを捕らえんと掌を向ける!

そうはいくか!

空中待機中のCオライオン、胸部のベルトライフルを展開! 

ヌンチャクの如く、魔竜の掌へ叩く! 

双方弾かれる! が、魔竜の指2本がベルトライフルの先端を摘む!

捕まる訳にはいかない。Cオライオンはベルトライフルを胸部からパージする!

更にベルトライフルを自爆させ、その間に2丁のマグナムで相手の眉間へ牽制乱射!

 目元と掌に負ったダメージに、悶え狂う深大寺魔竜!

カウンター攻撃をくれてやったCオライオンは誰も居ない道路へ着地。

 無言で新たな策を思案するテツト……。

 Cオライオンを退却させる。

 真っ直ぐ道路を、ひたすら逃げるCオライオン……。

 テツトはチラと、後方を確認。

 理性を取り戻し、魔竜は追撃して来る!

「……よし!」

 テツトの意図通り、敵竜は追尾して来た!

 走りながら、次の手=右腕に固定されたシールドをライフルモードにし、ゴーグルをツインアイにセット! 進展したライフルからトリガーグリップが出現し、それを掴む。

 スナイパーモードに!

 一方、追撃しながら、口内に火炎を充満させる魔竜・深大寺!

 真っ直ぐ逃げる青いロボットをピンポイントで狙わんとする!

 そして、火球放出!

 青い機影目掛け、猛進降下!

「これを待っていた!」

 Cオライオンは急ブレーキをかけ、真後ろへ向く!

 長く伸びたスナイパーライフルの砲身が火球中央へ狙いを定める!

 が、そのスナイパーライフルを放射する訳ではなく、レフト&ライトの、ショルダーマシンガンとレッグミドルライフルをスナイパーライフルと同方向へ伸展!

 こちらの4つの銃口が電光を放つ!

 4つの砲身からの連射が火球と対決!

 只ならぬ勢いの総射が数秒足らずで、火炎の弾丸を打ち消した!

 消滅した火球の先にはガッツリ口を開いた魔竜の姿を確認!

 ―――今だ!!!

 Cオライオンのゴーグルモニター……魔竜の口内に狙いを定める!

「……フィニッシュだ!」

 ズン! 射撃がぶれぬよう、一層強く踏み込む青い鋼鉄の足。

 上斜め25度!

 計算された射撃が駆け上がった!

 ……しかし、標的=魔竜は次弾を作らんと、口内に火炎を溜めていく……。

 間に合うか……!?

 間に合う?

 それは違う。

 結果として、内部へ攻撃を与える事が狙いだ。

 ビーム弾は魔竜の開いた口へ突撃!

 蓄積されていく火球へと飛び込む!

 しかし、ド真ん中へは進まない光弾……。サーチングゴーグルで判明した、最も強力なエネルギー中心部の中央を避け、まだ中央に比べ微弱な側面の火球を貫き、喉へ突き刺さる!

「ングォォォーッ!!!」

 クリティカルヒット!

 今まで以上に激しく悶える魔竜! 

 しかし、念の為、Cオライオンは可能な限り、魔竜の口内へ射撃の雨を放つ!

 攻撃を喰らう一方の魔竜は次第に身体が縮まっていく………。

 鱗が人肌になっていく……。

 吐血し、片腕に切り傷を負った深大寺が、膝をついた。

「く……」

 彼の身体は徐々に0と1に崩壊していく……。

 抵抗プログラムを打ち込まれていたのか、データ化の進行速度は通常よりも遅い。

 しかし、負傷&データ化進行と、苦しい状況に変わらなかった。

「戦略で俺に勝てると思うな」

 Cオライオンがスナイパーライフルを構えたまま、深大寺の前に冷然と立つ。

 言うまでも無く、チェックメイトである。

「ふむ、やられたよ……」

 今にも消滅しそうな、しけた顔で深大寺は座り込んだ。

 戦意などナノ単位にも無い様子。

「嫌なものだな……。何をやっても、結局恵まれし者が優位に立つのは……」

 Cオライオンは蒼天の空を見上げ、冷然と呟く。

「? ……まぁそうだな。我々RPが勝利しても、優位に立つ人間が代わるだけだ。かといって、他に現状良化するアイディアは私には浮かばない……。恵まれなかった人間がルールを作る立場に回れば、少しはマシになると賭けてみたんだ」

「……そうか。中々良策は浮かばなかったか。ならば、少し休んでみればいいさ。データの世界=ヴァーチャル無人島生活は孤独ではあるが、意外と楽しいかもしれんぞ」

「ほう、ならば、快く向おうかな?」

「そこでじっくり考えればいいさ。自分がどうするべきかを……。答えを導き出すのはあんた自身だ……」

「……だが、最後に1つ、言わせてくれ」

 深大寺は最後に問う。

 所有者の顔も年齢も分からぬ青色の鉄機へ。

「何だ?」

「現実は恵まれた者勝ちだ。私は死んでもこの事実を許す気は無い」

「奇遇だな。俺も“肯定は”しない……」

 枯葉が散るかのように、深大寺は失笑した。しかし、何処か爽やかでもあった。

「フ、君は最後まで誰の味方なのか分からん奴だな……」

「俺は誰の味方でもない。不条理や最悪の事態を潰す……それだけだ。特定の人間など、救う価値など無い……」

「フハハ、君はこれから何をしでかすんだろうな……」

 もはや原型など留めていない、0と1の全身タイツを着込んだ人影のような姿の、深大寺に突き刺さるメモリーカード。

 ヴァーチャル無人島と称されし場へ誘われた………。


 ―――深大寺は目を覚ます。

 聴こえる漣。肌が認識しているもの=砂浜。

 海辺に深大寺は寝そべっていた。……どうやら、ここがデータの世界らしい。

 ふと、腕を見ると、完全に修復されている。

 原理は分からない。深大寺は理系の知識には疎い。

 それでも、これから暫く無人島暮らしのようなことをする事だけは分かる。

 取り敢えずは砂浜で昼寝することにした。

 今、この世界では昼かどうかは知らないが。

 そもそも、朝昼夜という概念がココにあるのかすらも不明だが。

 深大寺は今迄に積もりに積もった疲れを睡眠という形で破棄し始めるのであった……。


 コンクリート上に落ちた深大寺の眠るメモリーカードを凝視するCオライオン。

「疑似無人島暮らしを楽しむか否かは本人次第……か」

 青&黒のTDはメモリーカードを掴もうと、両手に握るマグナムをホルスターに収納しようとする。

が、亀裂が走り、マグナムのナイフとレッグミドルライフルが割れ落ちる。

……戦闘で負担を掛け過ぎ、限界を来したようだ。 


02


 場所を移し、森林公園で戦闘を繰り広げるLシュヴァリエとウィザースロット。

 ゾンビの如く、次から次へと湧いて来る超能力者の刺客相手に、長期戦を強いられていた。

 最も回復値が高い2機を持ってしても、しんどいものがあった。

 ヨシヒロは挑発的に人差し指を内側へ踊らす。

「来なよ! このヒーロー、相馬ヨシヒロとその愛機、Lシュヴァリエが君らの怒りの捌け口になってあげようじゃないかっ!」

 閃光の騎士は屈辱・無念・怨念を浄化せんと聖剣を振るった……。

 バッタバッタと斬られていくエスパー達……。

 ノリカ、ウィザースロットへ襲来する敵陣。

「俺達は勝ち組共を貶めないと気が済まないんだよ!」

「恵まれた環境だけのヤツラを潰して何が悪い!」

 彼ら、異能復讐者は修羅の形相で、攻撃……。

 カードビットとニードル攻撃を駆使して、応戦するウィザースロット。

「あ~もう! あたしだって恵まれた奴に潰された事、あるっての! でも、気にしないようにしてるっつーの! 忘れるしかないじゃん! いつまでも妬み・恨みと、グジグジ言ってんじゃないっての! 前向け! 前へ!」

 ノリカはいい加減ブチ切れ、手早くキーボードを叩く!

 カードビットは陣形を作り、今回は巨大蛇のような形となる!

「カードフォーメーション、カードバイパー!」

 真っ直ぐ一列になったカードはそのまま、直進! 敵の攻撃を大蛇の如く、唸りながら、回避し、高速で巻きつくように相手を切りつけていき、あっと言う間にデータ化という名の毒を噛み与えた!

 次々と、周辺の敵をメモリーカードへと拘留していく。


 戦っているのはこの2名の操る2機のみ……。

 居ないのである。

 居たハズの味方機、エンゼクロスが………。


03


 Dr毒島は自身の研究室で、失望の真っ只中に居た。

「やれやれ、まさか、深大寺君まで……」

 Dr毒島、椅子に腰を降ろし、コーヒーを啜る。

 彼の目はまだ曇っていなく、舌舐めずりを行う。

「……しかし、まだ全滅した訳ではない。たった5機で、どこまで踏ん張れるかな? そろそろ疲弊の色が見えるハズだが……」

 Dr毒島製の衛星カメラ……。それぞれの戦闘を撮影している。

 部屋にある巨大なモニターにて、全ての戦況を眺めているのであった。


「いえ、“全滅する前に”勝ちます」


 ―――この部屋にはDr毒島しか居ない。

 その筈だが、謎の電子音声が耳に入った事実。

 Dr毒島はコーヒーカップを机に戻し、不機嫌な顔を形成。

 エンゼクロスが目の前に出現していた!

 Dr毒島はいきなりゆっくりと哂い出す。

「アッハッハ! 君は何を考えているのかね? こんなトコに来てどうする? 仲間と共に戦わなくていいのかい?」

「大丈夫です。王手を掛けに来ましたから」

 Dr毒島は怪訝な顔をしてみせた。

「……どういう意味だね?」

 眩しい純白なボディを持つ天使型ロボットは穏やかながらも、核心めいた口ぶりで返答。

「ここにあるからです……。超能力を遮断する装置が」

「何を根拠に……」

 Dr毒島は頬に皺を増やし、失笑。

 エンゼクロスは首を左右へ1回ずつ移動させる。

「……それはあり得ません。だって、それが無いと貴方は飼い犬のエスパーに噛まれますから……。頭のいい人がそんな配慮が出来ない訳がありません……」

 ミヤはテツトの作戦指示を受け、今、ここに愛機を投入させた。


 ……それはヨシヒロとノリカの正体を散策部隊が発見した時のである。

 鳳ラボラトリにて、その事を知るテツト・コウスケ・ミヤの3人。

「大変! 助太刀しなきゃ!」

 ミヤはキーボードを叩こうとする。が、

「待て!」

 テツトの強い声色の指示にビクッとなり、愛機の出陣を止めるミヤ。

「これはヤツラを全滅させる又とない機会だ……」

「えっ?」

「どういう事だよ?」

 ミヤとコウスケは意味の言及を求めた。

 テツトは全て語った。

 ヨシヒロ・ノリカの姿を敵に発見された場合、敵は全戦力を駆使して、ヨシヒロ・ノリカを捕らえんとし、王手を掛ける事を。

 テツトは逆にこれを利用した策を述べた。


 1、ギリギリのところでヨシヒロとノリカを助ける。

 2、暫し、執拗に現われ続ける敵兵と戦う。

3、しかし、手数の少ないこちらは持久戦になると不利。

 4、なので、ある程度のところから敵を倒さずして、勝利する必要がある。


「って、倒さず勝つって、どうやるんだよ!」

「至ってシンプルだ。Dr毒島の持つ、エスパー達の能力停止装置を奪う事だ……。ステルス衛星機を通し、その存在は確認してある」

「ホントかよ!?」

「でも、それをどうやって奪えば……」

「忘れたか。これからヤツラがヨシヒロ達を執拗に攻めて来る事を」

 コウスケ、ミヤはきょとんと沈黙。

「敵は総動員でこっちへ潰しに来るという事は、逆にDr毒島の方が無防備になるという事だ……。チャンスなんだよ、これは」

 ナルホド! と、コウスケとミヤは脳に衝撃を受けるのだった。


 ……そして、現在。Dr毒島研究所内。

 エンゼクロスはアローをDr毒島へ構える。

「ンフッフッフ……アッハッハッハ!」

 唐突に背中を曲げ、笑い悶えるDr毒島。

「そうだねぇ~。正解だよ。持っているとも。キャンセラーを! Dr鳳君の孫娘さん!」

「!!」

 “自分自身を特定された”。ミヤは背筋が凍った。

 全滅を防ぐ為に、念の為散開する指示を受け、公園の女子トイレ内に潜伏してエンゼクロスを操作していたミヤ。

そんな彼女の居るトイレのドア前にDr毒島がテレポーテーションした。

 彼はドアをサイコキネシスで粉砕し、ミヤと無理矢理対面した。

「ひゃっ! やはりあなたも……。超能力を……」

 ニタリと不気味な笑顔を浮かべ、舌舐めずりをするDr毒島。

「自分の造ったものを、自分に使わないなんてオカシイだろ?」

「で、ですね……」

「そして……更に強力な能力を……自身に注ぎ込むのだよ!」

 Dr毒島の身体が膨張していく。

 深大寺の魔竜化に似た現象……Drの場合は機械的な軟体動物のような存在へと変化していく!

 膨張・変貌していくDr毒島の身体はやがて、トイレそのものを破壊するのだった。

 その衝撃にミヤは吹っ飛ばされる。

 地面に叩き落され、痛みに耐えながら、上半身を起こしていくミヤ。

「……ったたた……。あれは!!」

 衝撃の物体を目にするミヤ!

 機械化された蛸……というよりは、インベーダーのような存在が触手をくねくね動かせ、上空に浮遊している。

 これがDr毒島の変身体である。

「驚いたかね。孫娘さん。これが私のもう1つの姿、ゲノ・ベーダーだよ……」

 呆然と変わり果てた科学者の姿を見上げるミヤ。

「ゲノ……ベーダー………」

 驚いているのも束の間、ゲノ・ベーダーの触手が襲来!

 ミヤの身体を拘束した!

 強く縛られ、悶えるミヤ……。肉感溢れる太股・肢体が激しく攻め立てられる!

「んぐっ……あぁっ!」

「ふっふっふ、詰めが甘いよ孫娘さん……」

「い、いつから……私の正体を分かっていたんですか……?」

 ミヤ、苦しみながらも、ゲノ・ベーダーへ問う。

「簡単さ。私は君のお爺さんと知り合いだからねぇ。君のお爺さんが作れそうなものぐらいお見通しなのだよ」

「も、もう一つ。どうして、正体を掴んでも今の今まで攻めて来なかったのですか……?」

「ふむ……君は勘違いしているようだ……。私は深大寺君達にチャンスを与える〔提供者〕であって、〔仲間〕ではないのだよ……。彼らの戦いは彼らで決めなくてはならないのだ」

 複数の触手に絡み着かれ、身動きの取れそうに無いミヤは無言で聞き入る。

「……しかし、私の大事な防犯グッズを奪おうとなれば、話は別となる……。つまりは、そういう事なのだよ」

 縛り上げる痛みに耐えるミヤ……。

 傍から見ればそうだろう。

 しかし、実は逆転する為の抵抗をしている。

 彼女は咄嗟に両腕をクロスし、Sボードを抱きしめた。

 そして、現在は触手の縛り上げに歯を食い縛り、抵抗しながら、Sボードの操作に乗り出しているのであった……。

 狭い空間内でミヤの小さな指が逆転すべく、あくせく動く。

 ―――そして!

エンゼクロスはDr毒島研究所から姿を消し、触手の真横に颯爽登場!

アームアローを前方に畳み、シザーモードにして、一気にバッサリ触手を切断!!

コンクリートへ落下するミヤ。

触手がクッションとなり、痛手は負わなかった。

即座にミヤは纏わりついた拘束力の無い触手の先端部を払い除け、立ち上がる。

 切断され、一気に半分ぐらいの短さになった触手をうねうね動かすゲノ・ベーダー。

「ふむ……やるではないか。流石Dr鳳の孫娘……」

「あの……」

 ミヤは穏やかながらも、メカインベーダー化した科学者を睨み上げる。

「何だね?」

「お爺ちゃんと比べるの、止めて貰えます?」

「何故だね? 高スペックロボットを作った博士の孫なんて誇らしい事じゃないか。君はその恩恵を享受しているのに、比較されるのを拒むとは……。随分と贅沢な話だ。深大寺君達はそういった優れた血統を羨んでいるというのに……」

「私はお爺ちゃんが嫌いな訳じゃありません……」

「では何故?」

 ギョロっと見開くゲノ・ベーダーの8つの目。

高圧的にゲノ・ベーダーは詳細を追求した。

「科学者の血縁関係に生れなかったけど、私よりも優秀な技術力・頭脳を持つ人が居ます。その人と自分を比べて見ると、“科学者の孫のくせに……”って思っちゃいました。……でも、生れた環境と本人の資質が都合よく合致する事など、殆どないので、周りの人間と比べて卑屈になるのは止めようと思ったんです」

「ほう……偉大なお爺さんの事など忘れるというのかね?」

 ミヤは真摯な眼力を持って、凛と主張する。

「違います……。私は私だという事です……。誰かの比較対象ではないんです」

「フッハハハ……」

 巨大なインベーダーは触手を奇怪に踊らせ、おどろどろしく笑い狂う。

「クハハハハッ! それは逃げというモノだよ。人間は比較され、競争して生きていく。そんな考えは通用しないのだよ!」

 切り取った箇所から、にゅるにゅると新たに触手が生え出す!

 触手を再生させ、再び、触手が強襲!

 エンゼクロス、純白に塗装された鋼鉄の翼を広げ、再飛翔!

 高機動力を駆使し、触手を回避しては、切断! 回避しては切断! 

 と、いう動作を繰り返す!

 Dr毒島の主張……。

 ミヤは一理あるとは思う。

(こんな時、星渡君ならどう言うかな? 色んな屁理屈捏ねて、言い返すんだろうな。……でも、あたしは星渡君じゃない。お爺ちゃんでもない。……だから、あたしの言葉で!)

 ミヤは大きく潤んだ瞳を強く閉じ、顔を赤化!

「あ……あたしは! ……5位でも1位になったと思い込みますっ! それでいいんですっ!!」

 はわわわ……。

自分は何を言っているんだろう?

 更に顔を真っ赤にし、あたふたするミヤ。

 そうしている間に、触手がエンゼクロスを掻い潜り、ミヤへと再び押し寄せる!

「しまったっ!」

 ミヤは身体を縮こめる! 

 ……だが、それじゃいけない。

皆戦っている。誰も助けに来る余裕はない。

 自分がエスパーキャンセラー装置を奪う為の活路・陽動となっているから当然だ。

 だから、自力で勝たなければならない! 

 仲間の為にも! 祖父の為にも!

 ミヤは大きく潤んだ瞳を、凛と開眼!

「エンゼクロスッ!」

 エンゼクロスのツインアイカメラが発光!

 ウイングハッチミサイルとリングミットを同時発射!

 まずはミサイルを触手の群へ撃ち込み、威嚇混乱へ誘い、その隙にリングビットで破壊されなかった触手を拘束! 触手攻撃を封じた!

 一気に畳み掛け、エンゼクロス本体は猛ダッシュ!

 ゲノ・イーバーへ飛び込む!

 ………触手はもう動かせない。

 無防備なゲノ・イーバー本体へと飛び込む!

「ぬぬ、こう来たか。だが、詰めが甘いよ孫娘さん!」

 頭部ハッチが反転し、キャプチャーが出現。先端から紫電が駆ける!

 ゲノ・イーバーは射撃手段もやはり用意していた。

 ……しかし、苦手なりにも1年みっちり訓練して来たミヤの敵ではない。

 左右ジグザグに動き、敵の攻撃をすり抜けていく! 

「ぐ、おのれ……」

 ゲノ・イーバー、自分の攻撃を事如く回避さる現状――焦燥に駆られる。

 終いにはキャプチャーがビームアローに貫かれた!

 この破壊により、キャプチャーの中=内部メカを露出させる。

 ―――もはや、チェックメイトまでのカウントダウンが迫った状態。

エンゼクロスは小刻みよく、閃光の弓矢を連続で撃ち放った!


 ……同時刻。森林公園。

 多勢に無勢の相手にそろそろ疲弊の色が見えていくLシュヴァリエとウィザースロット!

 Lシュヴァリエはキャリバー・ライフルモードのトリガーを絞った!

 数発発射! 的確に3人のエスパーを0と1に分解!

 そして、騎士TDの真横から攻め入る新たに4人のエスパーが!

 彼らは腕を剣やノコギリに変え、斬撃を試みる!

 ヨシヒロはキャリバーをライフルモードにしているので、そのまま射撃で応戦しようと考える。

 鉄鋼の指がトリガーを引く。……が、ビームの弾丸が放射されない……。

 エネルギー切れである。

「んなっ!? 参ったね、もうエネルギー切れか……。参ったね。もう手持ちのバッテリーは1~2本しか無いというのに……」

 言葉の通り、ヨシヒロの手の中にはバッテリーが1~2本握られている………。

 ウィザースロットも同様、両腕のバルカンがカラ吹き=エネルギー切れ。

 そんな事お構いなしに、まだまだ沢山居るエスパー共が飛び掛る!

 ……その時である。

 崩壊していく……剣やノコギリと化したエスパー連中の腕が。

 戻っていく……鋼や鉱物のボディが人肌に………。

 エスパーであった人物達はこの突然現象に困惑。

「どうなっているんだ?」

「あれ? もう1度やっているのに、腕が剣にならねぇ~」

 混乱の泥沼に溺れるエスパー一同。戦いどころではなくなった。

 きょとんとした顔で見合わせるヨシヒロとノリカ。

「これって、まさか……」

「やったようだね。君の親友……」

 2人はニカッと笑み合う。


 時を同じくして、港。

 ヨシヒロ達側のエスパーと同様、能力が発動出来なくなった事に違和感を覚え、悶える超能力者達の姿があった。

「おっしゃ! 鳳の奴、成功したようだな!」

 廃工場壁の小さな穴から苦悩するエスパー勢の様子を確認するコウスケ、ニカッとガッツポーズをする!


 リモコン=超能力沙遮断装置をDr毒島研究室内で、押し終わるエンゼクロス……。

 ミヤは重い安堵の息を降ろした。任務を無事、全うした故に。

 〔全エスパー〕は能力を失い、〔只の人〕となった………。

 ぐったり横たわるDr毒島。

 彼の身体は無傷である。

――どうやら、変身後のダメージを元の体に比例させないよう設計されたもののようだ。

 しかし、老体を使っての戦闘……。

相当くたびれたようで、暫く身体が動かぬほどの疲弊を持ったようだ。

「参ったよ……。やはり、罪滅ぼしもエゴだと、神に嘲笑されたか……」

 大の字に伏しているDr毒島へゆっくりと歩むミヤ。

「どういう意味です? それ」

「私は金持ち生れのエリートで、順風満帆に生きてきた。しかし、相対的に自分より恵まれない人間を蹴落として来た……。歳を取ってようやく、彼らへ申し訳なく思ったのだよ」

「それで、恵まれない人達に超能力を……」

「そうだよ。だが、殴る側と殴られる側が代わっただけ。善行にはならんかったよ……。それでも、彼らが満足してくれるのなら……。と、思ったのだがね……」

 ミヤは黙り込んだ。

Drの言葉に肯定も否定もし辛かったからだ。

「えっと、ところで君、名前は何だったかね?」

「ミヤです……鳳ミヤ」

「ミヤ君か……。しかし、この作戦、君が企てたモノではないのだろう」

「はい。それが何か?」

「その人物と対面したかったものだ……」

 そよ風のような失笑をDr毒島は寝そべったまま、溢した。


 縄で縛られた〔元〕エスパーの群集。

 Lシュヴァリエらの手によって、拘束されたのだった。

 大多数とはいえ、異能の力を失った只の人間を捕らえる程度、TDには造作もなかった。

例え、エネルギー消耗が激しい状態であってもである。


04


 ―――ズシン、ズシンと鈍重な音を立て、鋼の巨人が歩き進む。

 その機影がある場所へゆったりと歩んでいく。

 その先……それは日本の大学でトップを誇る、大学の1つである。

そのキャンパス内の人間達は突如襲来した巨大機影に恐れおののき、学内から逃げていく。

 ベンチに座って雑談に弾んでいる男子生徒2名のみを除いて……。

「……で、兄さんも選挙に出馬する事になったのさ」

「菅田君のお兄さん、凄いなぁ。尊敬しちゃうよ」

「いやぁ、尊敬する程の事じゃないよ。政治家家系の金・コネを有効活用しているだけさ。ま、僕も大学卒業したら兄さん同様、金とコネで楽々と政治家コースだけどね」

「菅田君、羨ましいなぁ」

「光井君、航空会社社長の息子の君がそれを言うかい?」

「言うよ。大企業だって、何時潰れるか分からない御時世なんだし」

「とか言いながら、沢山の資産はあるんだろ?」

 ニヤケ顔で菅田は光井を肘で小突く。

「まぁね。ぶっちゃけ、ウチには働かなくても一生遊べる資産はあるかな? アハハハ!」

 政治家一族の1人=菅田と、航空会社社長の息子=光井の、超お坊ちゃま2人がゲラゲラと笑い、手に握っている缶ジュースを飲もうとする。

 ――が、この2人の背後に襲来する1つの巨大な影!

 全長4メートルそこらの巨大なロボット1機と、その機体の肩に乗っかり、コントローラーらしきものを持っている人物を確認。

 突如、巨大ロボットが来たという、とんでもない状態を目の当たりにし、ジュースを溢し、咄嗟にベンチから離脱する2人。

「うぉあ!?」

「ロ、ロボット!? こんなモン、ウチの工学部、造ってたっけ?」

「いや、流石に学生の立場で、こんな巨大な物を作るのは無理だよ菅田君」

「じゃ、じゃぁ、何これ?」

「教えてあっげるですよぉ~ん!」

 巨大ロボットの肩に乗り、コンローラーを持つ男……。ド派手なゴールドのリクルートスーツを身に纏った胡散臭そうな男がいやらしく口を開く。

「こ~れぞ、私目の傑作、クラオカ丸ですよぉ~ん! お前らにはぁ~、エスパー仲間解放の為にぃ~、人質になって貰うのですよ~んだ!」

 菅田と光井を覆う影が大きくなっていき……。

「うわぁーっ!!」

 エリート育ちの大学生・菅田と光井は巨大な鉄鋼の手に握り締められた!

「ぐふふのふ~。私、エスパーの力を失いましたが、失うだ~いぶ前からクラオカ丸を造っていたのですよぉ~ん。超能力でチャチャーッとね! でもって、この大学の近くの廃墟にコイツを隠しておいてたんですよ~ん!」

「エ、エスパー……?」

 ハッと菅田は思い出した。

 政府を襲撃したり、スポーツエリートに暴虐を加えようとしたり、最近話題の厄介者。

 エスパーテロ軍団の一味。

 しかも、ジャックしたテレビ映像に映っていた1人ではないか!

「そうか! お前はジャックされたテレビで、えげつない紙芝居やってた奴!」

「そんの通りぃ~! 私、倉岡と申しま~す」

 にたにたした顔で自己紹介する倉岡。

 位置的に彼の顔は影となっており、一層不気味であった。

「……にしても~。お前ら~。さっきの話、聴いちゃいましたよ~ん。祖先の金で一生遊んで暮らせるとか、コネで楽々就職とか、いい御身分だよん……」

 突如、何を言い出すんだこの人は?

 クラオカ丸に握り締められた菅田と光井は怪訝な顔をする。

「わったくしはねぇ~、金持ちや世襲のエリートに対し、悔しい思いをした事があるんですよねぇ~。あ~、今思い起こすだけでも、腹立たしいったりゃありゃしませんよん!」

 途端にクラオカ丸の肩に座っている倉岡は表情の読めない顔で、立ち上がる。

「かー! 冗談じゃないですよん! 業績に大差無いのに、学歴エリートやコネ持ちの方が出世するんだよん! こいつらも、社会に出たら自分より不利な条件の奴を見下し、ずけずけと良い席座るのかぁよ~ん。あ~ヤダヤダッ!! 私はねぇ、純粋に努力して功績を残した人は尊敬するよん。けど、優位に立って功績残すのは許せないよぉん!」

 すると、いきなり菅田達へ倉岡は唾を吐き始めた!

「カーペペペ! 唾ペペペのペー! お前らなんか、唾塗れにしてやるもんねーだ!」

 唾液の豪雨を顔に放射され続ける菅田と光井。

 唾を掛けられて嬉しい人間など、普通は存在しない。

 嫌悪100%を顔で表示する2人であった。

「うわ……。小学生でもこんな事しないぞ!」

「俺達があんたを蹴落とした訳じゃないだろ! 言い掛かりも大概にしてくれ!」

 正論と言えば正論である。

 カチンと来た倉岡は更に激昂する。

「何ですとぉ~! さっきからずけずけとぉ~。立場全然分かってないよん! お~前らな~んか、ここの校舎に顔を引きずらせてぇ~、顔面崩壊させちゃうよぉ~んだ! 皮膚が抉られ捲くった血塗れの顔……。た~のしみですね~ん!」

 クラオカ丸の2人を掴んで腕が上がっていく。

 壁に引き摺られ、顔面皮膚が引ん剥かれ、血塗れのグロテスクな顔にさせられる………。

 想像するだけで、おぞましい。極端に青褪める菅田と光井。

「うわぁー! 止めてくれーっ!」

「金なら幾らでもパパに出させる! それか、ウチの社員にして、好待遇な環境を与えるよ! だから!」

 恐怖の渦中……。裏返った声で抵抗を訴える菅田と光井!

「む~だ、無駄ぁ! 私はねぇ~、お前らなんかに飼い馴らされたくないんだよ~ん! 寧ろ、お前らを支配するんだよ~ん! 深大寺さんの分までお前らを討伐しちゃうモンね~だ!」

クラオカ丸、校舎の壁目掛け、2人を握った腕をスゥイング!


が、その時………輝く一閃が駆けた!


電光の弾丸が横一列に並び、クラオカ丸の腕を通過!

菅田&光井の握る手が切り離された!

更にややオールバック気味に髪を逆立てた青少年が、鋼鉄の巨大な手に捕らえられた2人を蹴り飛ばす。元々、ゴロゴロと転がって行っているのだが、蹴りを入れる事で菅田と光井をこの場から、より遠ざけた。

倉岡は頭を掻き、ショックを受けた。

「ムキキのキー! おんのれぇ~」

 クラオカ丸から降りた倉岡は鼻息を荒くし、歯軋りする。見やったその先……。

 破損跡のあるメタリックブルーのメインボディーが光の反射で輝く。

 威風堂々とマグナムを向けたCオライオンが立ち構えていた!!

「お前は世襲エリートが嫌いだからな……。こういった所へ来ると容易に予想出来た……」

「むむ? 人間の声? まぁさか……!」

 真横から響いた声に、うねった眉毛の顔を向けた倉岡。

 両腕を組み、仁王立ちしたテツトの姿がそこにあった!!

「お前1人だけ、一度も確認出来なかったからな……深大寺を倒した後、探してみたのさ」

「くぅぅ……お見通しですかよん……。んんっ? チミはそういやどっかで……?」

 脳内の記憶を逆再生していく倉岡。

 ……あった! 

以前、自分はこの男=Cオライオンの操縦者に相当する人物を勧誘していたのだった!

「ぬぬぬのぬー。星渡テツト君でしたか……。こんな事になるなら、踏ん張って勧誘しておきゃ良かったですよん……」

 テツトはアンニュイなフェイスで、失笑。

「無理だな。他人の感情は戦略程度で制覇出来ん……」

 苛立ち、歯軋りする倉岡は自慢の愛機、クラオカ丸の肩から飛び降りた。

「こうなったら、勝負ですよん!」

「最初からそのつもりだ……」

 ……と、言った割に、何故かCオライオンは消え、データとなって、テツトのSボードへと帰還される。

「ちょ! 言ってる事とやってる事が違いますよん! お前、私を舐めてんのかですよん!」

 テツト、スカした笑みを持っている………。

「戦うさ……但し、相手は……」

 テツトの持つSボードからデータの信号が放出される。

 何だ、一旦戻しただけか。

 と、思われたが、違う………。

 Cオライオンとは似てはいるが、異なるシルエット……。

 そのシルエットが0と1から、実体となっていく!

「こいつ、テンペストオライオンだ……」

 【Tオライオン】……Cオライオン同様、メタリックブルー&ブラックグレーのボディカラー、クリアーブラックのセンサーパーツを持つ、後継機に該当する機体。

 武装は従来のマグナムを強化した、三連銃・デルタマグナム。

ショルダーには背中からバインダーが伸びており、その先にシールドライフルⅡがマントの如く、垂れ下がっている。頭部にイヤホンのような形の小型ピストルを装備。

 更に、胸部は巻き付いているベルトライフルではなく、チョッキのようにピストル2丁を左右対称に羽織ったような造形となっている。

脚部の折り畳み式ミドルライフルも、銃口を二連銃口=ツインライフルとなり、総じてグレードアップされたTDである。

 ムンクの叫びの如く、両頬を押し、絶叫する倉岡。

「ゲッゲッゲーッ! ここに来てニューマシンですかよん! 最悪だよんホント……」

 テツトは自信たっぷりの顔でTオライオンに親指を向ける。

「こいつは俺〔だけ〕で作ったマシンだ。予備戦力及び、他人の手を借りたマシンを使いっぱなしというのが癪なので造っておいたモノだ。さて……お互い、自分の造ったマシンで勝負といこうじゃないか」

「な、成程……そういう演出ですかよん………。よくもまぁ、造ったですよん」

「丁寧に説明してやるよ。こいつ、Sボードは物体をデジタルデータにしたり、その逆も出来る。つまり、他の金属を取り込み、修復や製造が可能だ。それの応用で、新たに作成した設計図を基にあらゆる金属を取り込み、新たなマシンを造ったという事だ」

 余裕綽綽の顔で説明するテツト。

恐れ驚く倉岡は、思わず、1歩2歩、後ずさりする。

「ななな、なんつー裏技だよん。こいつ頭回り過ぎるよん。……けど、私負けませんよーん」

「勝負だっ!」 

 Tオライオンとクラオカ丸=テツトと倉岡の対峙……。

 クラオカ丸、先手必勝と言わんばかりに突進!

 Tオライオン、操縦者同様、落ち着き払いながら、デルタマグナム、ツインレッグミドルライフル、ショルダーバインダーシールドライフルを一斉総射!

 速攻! クラオカ丸の片脚を滅砕! 

まともに歩けなくした!

 こちらの方が先手必勝をもぎ取った!

「んげげのげーっ!?」

 倉岡、げっそりと青褪める。

……かと、思いきや、舌を出し、おどける。

「な~んちゃってね! 足なんか只のカッザリだよ~ん! ハイ、フーット・パ~ジ!」

 もう片方の鋼鉄脚部を切り離し、その切り離された箇所からバーニアーが噴出!

 クラオカ丸は飛翔した!

「ほう……」

 Tオライオン、射撃角度修正/上斜め30度。再度一斉総射!

「同じ手は2度も喰らいませんよん! おりゃ!」

 今度は両腕をパージ! 切り離された箇所にはキャノン砲が!

「喰らえですよん! はい、ポチっとドカーン!」

 倉岡は勢い良くコントローラーのボタンを突いた!

 クラオカ丸、上空よりアームキャノン2問を発射!

 熱光球がニューマシン・Tオライオンへと押し寄せる!

「うりゃ、うりゃ、うりゃーっ!」

 興奮しながら操作する倉岡。

 止む事なき、連続ビーム球攻撃!

 Tオライオンはデルタマグナム2丁を突き出し、1つの四角形を3つの三角形に=デルタマグナムの三連砲身を外側へ稼動させた!

 そして、チタンシルバーの指がトリガーを絞る!

 デルタマグナムの銃口より、無数の閃光弾丸が飛翔!

 敵の攻撃を全て撃ち砕いた!

「ぬぬぬ~、おんにょれぇ~!」

 脳から憤慨に包まれる倉岡は無造作にコントローラーを弄る!

 クラオカ丸の胸部ハッチがオープン!

 ガトリングが唸りを上げ、無数のミサイルが降り注ぐ!

「フッ、俺達に早撃ち勝負を挑むとは……。魅せてやれ! Tオライオン!」

 テツトは余裕綽々のまま、Tオライオンを操る。

デルタマグナムを構え直す嵐の星狩人!

度重なる弾丸の激突! 激しい銃声音・爆発音が空間を支配する……。

爆煙が晴天を汚す……。

「や、やったかよん……? とか言っちゃうとやってなかったりするのかよん……?」

 巨大な煙が邪魔をし、Tオライオンを確認出来ない倉岡は煙内中央を凝視。

 時間の経過に連れ、爆煙は引いて行く……。

 そこには悠然と立つ、無傷の新鋭オライオンの姿を確認してしまった!

「んげっ! あれだけ撃って、ノノノ、ノーダメージッ!?」

 驚愕! 眼を疑う倉岡。

「違うな。全て撃ち落としたんだ……」

 テツトは無表情で倉岡の間違った解釈を訂正。

「おんにょれぇ~! こうなったらぁ!」

 怒り狂う倉岡は新たな操作を実行!

 クラオカ丸はTオライオン目掛け、急降下!

「はいー、自爆スイッチ・オーン! こうなりゃ、道連れにしてやるよ~ん!」

 クラオカ丸のコンデンサの色がグリーンからレッドへ変わる。

自爆モードになった!

 Tオライオンは一歩も動かず、待機……。

 テツトは操作を一旦止め、沈黙する。

 そうしている間に、Tオライオンの目前に自爆寸前のクラオカ丸が襲来!

 そんな時だった。

 片方の三連銃・デルタマグナム外側砲身にある、3つのアーミーナイフが展開!

 更に砲身がフレキシブルに広がっていき、実質、3つの爪=デルタクローとなる!

 そのデルタクローがクラオカ丸のアームを掴み……空中へ放り投げる!

 次いで、両手に握るデルタマグナム、ショルダーバインダーシールドとレッグミドルライフルⅡをライフル展開! 頭部イヤホン&バストアーマーのピストルも銃口を向ける。

 最後に額のゴーグルをツインアイにセット! 確実に照準を定めた!

 ターゲット………ロック、オン!

 フィニッシュを決めるべく、ネオ・オリオンショットが発進! 

目標場所=敵機全身にオリオン座を刻み、貫いた!


 大 爆 散 ! ! !


 虚空にて、敵機クラオカ丸は跡形もなく散華した……。

 画鋲に刺され、空気の抜けた風船の如く、表情がしおれていく・萎えていく倉岡。

 土下座体勢になる。

「あぁ~、儚い夢だったですよん……」

「ま、流石にやり過ぎだからな、お前らは」

 土下座体勢の倉岡を見下ろす2つの影。

 Tオライオンとテツトである。

 倉岡、体勢を変え、コンクリートへ座り込む。

「……でもやっぱり、恵まれた奴か勝つなんて納得いかないよん……。正直裏切られた気分だよん。チミも実は恵まれし存在。TDなんてモンを造る環境に居たねんてねぇ」

「俺は……まぁ、スカウトされたようなものだ。Dr毒島を止めようとして半ばで死んだ科学者の孫から未完成のTDを作ってくれってな。実質は殆ど俺がデザインし直したもので、Tオライオンに至っては完全自作だ」

「スカウトされた事は尊敬するよん。血筋だったら、ブン殴ってやるトコだったよん」

 テツトは両腕を組み、両眼を閉じた。

「……まぁ確かに、環境・他者など、あらゆる方面で生まれながらの恵まれし者ばかりが、あらゆる頂点にのさぼるのは迷惑ではあるな。夢も希望もない……。ある連中が言っていた。『英才教育で幸福になるのは教育者・教育分野との相性が良かった極一部だけで、相性の悪い英才教育を押し付けられた者や、英才教育を享受出来なかった者を苦しめるだけ』だとな。これなら英才教育の無い中の競争の方がまだ気楽で、公平だ。敗北にも納得しやすいだろう。それか、本人がやりたい教育を全員に提供出来ればいいんだけどな」

「言えてるよん……」

「………まぁ、仮に英才教育を享受出来るエリートを皆殺しにしたとしよう。だが、そうしたら、また別の連中がエリートになるだけだ。……いっその事、全ての子供を親元から切り離し、施設で教育させれば、チャンスは平等にはなる。だが、今度は実施する期間と対象者の年齢における世代間格差が生じる。結局何やっても格差なんてもんは湧いてくる……。ムナクソ悪いがな……」

「そうかよん……。チミはかなり考えているんだなぁ」

 倉岡は物憂げに橙へとなる空を見上げた。

「まぁな……。生まれながらの恵まれし者を全員殺して良い社会になるのなら、とっくに殺しているさ………。TDの力を手にしようとした時、考えたんだ。この力を何かしら有効活用出来るんじゃないかってな」

 テツトは不条理・鬱憤を嘲笑う。

 哀愁を加味するかのように、鴉の鳴き声が木霊する……。

「しかし、チミ自身は悔しくないのかよん? 私は君を優秀な人間だと思う。だけど、社会に出たら金持ち・コネ持ちの連中より冷遇や搾取されるかもよん。君は私や深大寺さんと同じような結末があるかもだよん……」

「……そうかもしれんな。俺には今のところ誇れるものとして、ロボット開発がある……。それが、撃ち砕かれる事があるかもしれん………」

 倉岡は真剣に、テツトの語りを聞き入る。

「だが……俺は恵まれた環境で優位に立つ、ズルして勝ったセコイ奴ら如きに負けたとは思わん! 俺の勝負も勝利も俺が勝手に決めるまでだ!」

 テツト……彼は猟奇的で、勇猛な笑顔を惜しみなく示していた。

 彼はまだ社会に出てもなければ、最終学歴も決定していない。

 しかし、自分はエリートにはなれないだろうとは予想出来る。

 だからといって失望して生きていくのも癪だ。

 ならば、何にも屈しないでいよう……。

 他者程度の向かい風などに、揺らぐ事などないでいよう………。

 全てを嘲笑い、己に誇りを持つ。

 ―――それが、星渡テツトなのである。

「皆、勝手にほざけばイイんだ……。自分の事をカッコイイだの、賢いだの。主張は自由さ。〔不利な環境の割に自分はここまでやれた〕と、胸張れる事だけあれば十分じゃないか」

 テツトの溢した爽快な表情に呼応してか、気持ちのいい風がそっと吹く。

「そうかよん……。私、“チミみたいに生きてみたい”よん……」

倉岡はしけた面で溜め息し、重い腰を上げ、ゆっくりと立ち上がった。

「それじゃ、出頭でもしますかよん。どうせ逃げても無駄だし」

「そうか……。じゃあな……」

 テツトはそう言い残し、夕暮れに消え去る倉岡を見送った。


 ―――その遠くでクラオカ丸の手に握られたままの菅田と光井。

2人はそろそろ脱出したく思い、この場に居る唯一助けてくれそうな存在=Tオライオンの使い手へ声を上げる。

「あ、あのー! すいませ~ん!」

 この声は……? と、反応するテツト。

クラオカ丸の手部に握られたまま寝そべっている政治家一家の1員=菅田と航空会社社長の息子=光井であった。未だに身動きの取れない彼ら。

 そこへ、テツトとTオライオンが淡白に歩み寄る。

「あ! 助けて下さい!」

「僕達、抜け出せないんです!」

「見れば分かる……」

 テツトは冷然と現状の感想を呟いた。

「ですよねぇ~。だから、助けてくださいよぉ~」

 菅田が媚び諂うような口調で頼む。

 ……しかし、テツトの顔に親切心的な柔和さは微塵にも感じられない。

 無言でSボードを操作。威力微調整を開始。

 Tオライオンはデルタマグナム2丁を構え、菅田&光井に銃口3×2=6門を向ける。

休む間も無き乱射!

 自分達へ放たれた射撃の嵐=テンペストに怯え、バイブレーションといい勝負の震え行う菅田と光井であった。

 こ、こここ殺される……。

かと、思いきや、破壊されたのは自分らを拘束していた巨大ロボットの手のみであった。

「あ……。巨大ロボットの手を壊してくれたんだ……」

 途端に気が抜ける2人。

 風船が萎むかのように、緊張・恐怖が解き解されるのだった。

「な~んだ、そうするんなら、最初から言ってくれれば……」

 にやけながら、菅田と光井は上半身を起こす。

 が、2人の額にTオライオンのデルタマグナム2丁の銃口がピタリと触れた。

「え……?」

 硬い笑顔ながらも、焦燥・畏怖の汗を垂らす2人。

「あのー、拳銃、仕舞い忘れていますが……?」

「わざと仕舞っていないんだ」

 テツトは高圧的に向こうの勘違いを訂正した。

 菅田と光井、無理のある笑顔を振るわせたまま、その意味を問うた。

「……そ、それはど、どどどういう意味でしょうが……」

「お前達は勘違いをしている。俺はエスパーが蹂躙する社会を潰すのが目的であって、お前らエリートを救う為に戦っていた訳ではない……」

 Tオライオンの腕の向きが、移動し、トリガーが絞られた!

 轟音……銃声音が轟く!

 菅田と光井の間を三連ビーム弾×2が通過し、コンクリートに巨穴を穿った!

 奇声を発し、2人は腰を抜かした!

 遂には小便までも漏らしてしまう。

じわじわ湿る股間……。

 20歳になったばかりの彼らにとってトラウマレベルの羞恥となった。

「エスパーテロ発生の元凶は、お前ら生まれながらに恵まれし者だという事を忘れるな……。お前らは祖先の恩恵で生きる以上、妬まれる覚悟を背負わなくてはならない」

「は、はい~っ!」

「そ、そそそその通りで御座いますっ!」

 2人はバグったロボットの如く、何度も何度も身を振るわせ頷いた。

「だが……」

 テツトは高い鼻を突き上げ、話を続ける。

「お前らが妬まれる覚悟を背負っても、妬まれる要素を破棄しても、苦しめる敵が現われるなら……。迷惑なだけの存在があるなら、俺がそいつを潰す」

 放心状態。

 菅田と光井は丸く口を開け、呆気に囚われた。

 無音の空気が漂う………。

 ようやく、デルタマグナムを腰ホルスターへ収納するTオライオン。

 テツトは愛機・Tオライオンを回収し、それ以上何も言わず、夕陽へ消え入った……。


05


 自首した倉岡ら以外=深大寺らはしばらくの間、データ内で過ごし、改めて考えた結果、彼らも自首して刑務所生活を選んだ。

 超能力を失った彼らは囚人としての生活を始めた。

 テツトらはTDを自分らが所持・使用していると民間にバレるのは面倒だと考え、自分たちは直接警察へ通報しなかった。

 自分達の素顔を見た人物全てには釘を刺しておき、口封じ。

当面は謎のヒーローロボット・TDがエスパーテロ組織を成敗したという事に落ち着くのであった。

 その後、テツトらはTDを操って世襲や英才教育の撤廃=チャンスの平等化を働きかける運動の協力を仰ぐ。

 テレビ・インターネットを通してその旨を発信した。

 

 ……しかし、この程度の事で社会が良化するかは分からない。

 何らかの効力があるかは疑わしい。

無駄かもしれない。

 だが、何か一矢報いる事が出来るかもしれない。

無駄じゃないかもしれない。

どうせ世の中は不公平だ。

どうせ同じ結果を平等に与える事は出来ない。

だけど、競争自体はゆるやかになってもいいハズだ。

英才教育という重荷ぐらいは破棄してもいいだろう。

少なくとも、英才教育をプレッシャーに感じ、苦しむ人・英才教育を受けられず、不利な状況の人間をなくせるだろう。

誰かが言ったように、気楽に・お遊び感覚の競争……。

青臭い事この上ない理想ではある。

 だが、あるべき……かもしれない社会像への訴えに一役買えると思い、やらないよりマシな、〔働きかけ〕をしてみた………。


                               E N D


ここまでで、話は一段落終了します。

ご感想・質問など、お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ