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EP.04 《デートとはいかない》

EP.04  《デートとはいかない》


01


 淀んだ空の下に廃工場があった。

 いつもの通り、ラボには収まらない数のエスパーテロ集団・RPがこの広い場所に屯していた。

「むむ……やはり、TD5機は厄介だな……」

 額を指数本で支え、深大寺は頭を痛める。

「うっす。それに何だかんだで敵対する存在っす。ヤツラは」

 唯一帰還したヒデノリは強く首肯した。

「ある程度、こちらの憂さ晴らしは放任するとはいえ、結局我々がやりたいトドメは差させない! 美味しい飯の匂いを嗅がせてくれても食わせてはくれないようなモンですよ~ん! 余計にフラストレーション溜まりますよ~ん! ムキキのキー!」

 眉間に皺を集中させ、倉岡は地団太を踏みながら、不満・怒りを吐露。

「ふむ……報告によれば、まだ新たなギミックを持っているというし、何とも邪魔なロボットさんだ……」

「深大寺さ~ん、ヤツラがいる限り、我々がこの国を蹂躙し、恵まれし者共を没落させることなんて出来やしませんよ~ん!」

 倉岡はお絵かき帳に書かれたCオライオンの自作絵を何度も踏み続けながら、自分らのボスへ現状打破を求める。

深大寺らは黙然と対策を講じる……。

「……仮にあれが遠隔操作式だったとしよう。その場合、あれを操っている持ち主を探してみよう。取り敢えず戦闘を起こし、その間、他のメンバーが持ち主を探のだ」

「でも遠隔操作式って、現時点では憶測っすよね?」

 ヒデノリは怪訝な表情で首領へ確認を取る。

「あぁ。だが、博士が言ってたんだ。遠隔操作式ロボットを開発していた知り合いの話を」

「! まさかその博士が作ったものだと?」

 メンバー一同、ハッとなる。

「恐らく……としか言っていなかったけどな。まぁ、とにかく1回やってみよう。そして、必ずやデータ化された仲間を解放し、我らが理想郷、エスパー格差社会を創設するのだ!」

 倉岡・ヒデノリを含む一味は無言で御意した。


02


 その後も、戦闘を重ねるTD5機と超能力者達―――。

 徐々に減少していくエスパー連中。

 仲間を減らしつつも、戦いを辞めない。

敵の正体さえ掴めば、一気に逆転出来ると信じて、彼らは戦い続けていた……。


 ―――ある土曜日。

ラボ内の風呂場にて、ミヤは若き柔肌にシャワーを浴びせていた。

 バスローブを豊満な胸に引っ掛け、肢体に巻きつけ、台所へ。

「ふぁ~、さっぱり、さっぱりぃ~」

 火照った頬。ミヤはボディソープ・シャンプー関連の香りを漂わせる。

冷蔵庫からパックの紅茶と牛乳を取り出し、ミヤは3つのコップそれぞれへ注いだ。

「……にしても、ホントここ、何でもあるよねぇ~」

 ぼんやりとコップに注がれた牛乳を飲みながら、このラボ内を見渡すミヤ。

 彼女言う通り、ここには何でもある。

 冷蔵庫・厨房・冷暖房・テレビ・パソコン・風呂・居間などなど……。

 5人で暮らしても丁度いいほどの環境である。

「お爺ちゃん、いつの間に用意してたんだろ、こんなの」

 うとうととミヤは祖父・Dr鳳の事を思い出す。

 

 ――13年ほど前だろうか?

 両親を事故で失ったミヤは祖父のDr鳳に引き取られた。

 祖父であるDrとミヤはマンションの1角に住んでいた。

 Dr鳳は面倒見もいい祖父であったが、研究熱心でもあった。

「ミヤや。お爺ちゃんと研究所へ行くかい?」

 幼き日のミヤはいつも熊のぬいぐるみを抱きしめて、祖父の誘いに対し、こう返していた。

「ヤダ。ミヤ、ロボット嫌~い。くーたんと一緒に“マジカル乙女ユーナ”を見たいもん」

 熊のぬいぐるみ=くーたんを抱きしめるミヤは頬を膨らませ、拒否。

 ……しかし、Dr鳳は怒る様子もなく、そっと小さな孫娘の頭を撫でた。

「そうか、そうか。ロボットは嫌いかぁ。うん、それならしょうがない。家で大人しくしていなさい。夜7時には弁当買って帰るから」

「うん。分ったぁ。ミヤ、待ってるぅ」

「うん。じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃーい」

 また別の日。

 マンション。祖父=Dr鳳の書斎。

 彼はパソコンのデザインソフトウェアで、TDの原型を設計していた。

 エンゼクロスと似ているが、現在の完成品と比べ、芋臭い。

 まだまだ、原案段階のようだ。

 そこへ小学生低学年ほどのミヤが絵本を持ってやって来る。

「お爺ちゃん~、えほん読んでぇ~」

「ごめんよ。保存したいものがあるんで、保存するまでちょっと待っておくれ」

「うん」

 パソコン画面。新たなファイルの中へ設計図を保存する。

「いっつも思うんだけど、何作ってるのぉ~。どうでもいいモノなら今直ぐ止めて、ミヤと遊んでぇ~」

「う~ん、ごめんよミヤ。それだけは出来ないんだ」

 Dr鳳は優しく諭す。

「どうしてぇ~?」

「それはね。ミヤとミヤ以外の皆を守る為さ。だけど、大丈夫」

 Drは椅子から立ち上がり、用上記のミヤの隣へ腰を降ろした。

「ミヤと遊ぶ事もちゃんとやるよ。そう、誰かを救う為に他の誰かを傷付けては本末転倒なのだからね」

 この時のミヤには何を言っているのか良く分らなかった。

 とは言っても、寛容な祖父である事に違いはなかった。


 ふっと我に帰る女子高生の・現在のミヤ。物憂げな顔をしていた。

「……ゴメンねお爺ちゃん。機械の好きな子にならなくて……」

 申し訳なかった。

 本当は機械好きな孫娘の方が、祖父にとっては嬉しかったのではないだろうか?

 そう思うと、今は亡き祖父に対し、居た堪れない心境となってしまうのだった。


 訓練ルーム内。

リフティングしているコウスケ。現在、友人との対立で複雑な心境である……。

 そんな時、ドアを叩く音。

 次いで、ミヤの「入るよー」という声が。

「んあ? どうぞー?」

 サッと開く自動ドア。

 そこへ普段着を着直したミヤが紅茶の入ったカップを乗せたお盆を持って来た。

「瀬戸君。はい、紅茶。テーブルに置いておくね」

 ミヤはお盆ごとテーブルに置き、自分は近くの椅子に腰を落とす。

「お、サンキュ! いっただきま~す!」

 カップへ手を伸ばしたコウスケは紅茶を口にした。

「……ねぇ、ヒデノリ君の事、気になる?」

 ピクリと耳を動かし、紅茶飲みを一旦休むコウスケ。

「言うまでもねぇよ」

「……だよね」

「あいつの考えも分かるだけに、全否定出来ネェんだよなぁ~。けど、さすがにやり過ぎってのも間違いない訳で」

「……そうだね………」

 コウスケは懐かし気な涼しい顔になり、言葉を続けた。

「俺、小学生の時、コンパクトフォーミュラーっつー、車の玩具を競争させるトイホビーが好きでさ。これイイんだよな。生まれ持った体格なんて関係ないし、スポーツや勉強に比べ、親・大人の介入・恩恵が殆ど存在しない。金掛けて沢山パーツ付けても重たくなって遅いから、金掛けりゃイイってモンでもねぇ。ある意味正々堂々に近い競技なんだ。……だけど、スポーツや人生はそうはいかねぇのは何でなんだろうな?」

「うん……」

 ミヤは男児向けトイホビーというものは知らない。見た事が無い。

だが、何となく『正々堂々気楽に勝負する事が素晴らしい』と言いたい事は分かった。

 ふと、コウスケはミヤが持って来たお盆に目が行く。

 カップは自分のと合わせ、3つ。

「あれ? 残り1個、テツトに持っていく奴じゃね? いいのかぁ?」

 ハッと立ち上がるミヤ。

「あ! そうだった! じゃ、行って来るね!」

 いそいそとお盆を再び持ち、ミヤはテツトの居るパソコン室へと向った。

 その、小動物がちょこまか動くような画に、思わず笑い噴くコウスケ。

「タハハ! あれが科学者の孫娘かよ。普通なら、5人の中で一番仕切るべき立ち居地だろうによぉ。……ま、必ずしも能力は遺伝するとは限らないって事かねぇ~」


 パソコンルームにて、テツトは黙々とパソコンを弄っている。

 画面にはCオライオンと類似しているが、それよりも先鋭的なデザインの設計図が……。

 その机の横へカップがミヤの手より、置かれる。

「紅茶、隣に置いておくよー」

「無駄にご苦労だな」

 きょとんとなるミヤ。

「気遣いなど無用って事だ。このラボを提供するだけで十分な貢献だろ」

「そうなのかな……?」

 首を傾け、悄然とするミヤはお盆を抱き、ソファーへ腰掛けた。

「あたし、何も出来ない事に情けなく思っちゃって……。だからせめて気配りでもと……」

 ミヤはテツトが集中している先=パソコンの画面を覗き込んだ。

 画面には現在どのTDも使用・搭載していない謎の武器=三角型の銃身3つが四角形に組み合わさるよう設計された三連銃の図面が。

 更にその三連銃は左右下3方向へ展開する動きを見せる。

 所謂アニメーションによるギミックシュミュレーションである。

「……凄いね星渡君……。1人で何もかも出来て……」

 長い睫毛を下ろし、儚げな顔を作るミヤ。

「お爺ちゃんの孫に相応しいのは星渡君みたいなタイプなのかも……」

 テツトは無言のまま、パソコンのキードを弄る。

「だってあたし、TDとか作っちゃう天才科学者のお爺ちゃんの孫なのに、ぜ~んぜん、機械とか工業とか疎くて……。というか、好きになれなくて。今迄お世話になってた癖に、それ相当の恩返しも何も出来ないなんて」

「フハハハハッ!」

「!?」

 高く整った鼻を突き上げ、テツトは高笑いをした。

「血筋に翻弄されるとは下らんな。遺伝など絶対的なものではない。親・祖先と関係ない仕事をする人間など幾らで居る。寧ろそちらの方が多い位だ」

 つくづくこの男は良くも悪くもの事実を論破する。

 ミヤの表情が緩み、ほっこりした。

「そ、そうだねっ! 自分は自分、って奴だよね!」

 元気着いたのか、ミヤは小さく細い腕を使ってガッツポーズしてみた。

 そんな時、ステルス衛星カメラから緊急通信が。

「む!」

「あ、反応が! 一体何だろう?」

 2人は各々のSボードを開き、確認に入る。

 深大寺らが重大な会話をしている映像……。

「ほう、トップの裏会話か……。重要度が高いと衛星機が判断したのだろうな」

様子をSボード越しに見るテツト、ミヤ。


 上半身裸の深大寺はトレーニングルームからDr毒島の部屋に来る。

「どうだね? 新たな能力は」

「最高です博士。一段と漲るこの力……。これなら、TDに勝てる」

「そうかね。嬉しいよ」

テツトらに傍受されている事など知らず、深大寺とDr毒島の会話は続く。

 ニタリと口でU字を描くDr毒島は、机に置いているコーヒーを啜る。

「いやぁ、今の私が居るのはDr毒島、貴方のお陰です」

「何だね。深大寺君、今更」

 深大寺は物寂しい顔を形成。

 鼻息を緩やかに溢す。

「昨日、夢に出たんですよ……。エスパーになる前の悪夢の時代を」

「そうかね。可哀想に。あの頃がよほど君の心を傷付けたようだね」

「そのようです……」

 深大寺は過去を振り返った。

 ――それは遡る事、20年近く前になる。

 深大寺は極普通な家庭に生まれ、学生生活でも積極的に学級委員・生徒会を務めたりと、リーダーシップ溢れる男であった。

 また、正義感も強く、苛めに止めに入るような男でもあった。

 その正義感の延長上からか、彼は学生時代から、様々な所業・失態により国民に野次を飛ばされる日本政治に対し、批判的考えを持っていた。

日本の政治は腐っている。自分がこの腐った日本政治を改変させて魅せる。

世襲のお坊ちゃまなんかに、庶民が大半の国民に応えられる政治など出来る訳がない。というか、出来ていない。庶民の自分なら国民の気持ち・需要を汲み取れる政治家になって、素晴らしい国家を創れるハズだ。だから、絶対に政治家になるんだ!

……と、意気込み、政治家になるべく日夜勉学に励んでいた。

 食事睡眠以外はひたすら勉強と言っても過言では無い程、勉強に勤しむ。

 自身の志す日本良化へと導く政治家への夢、果たさんと。

 血反吐吐き続けるほどの努力の末、高偏差値大学入試・国家公務員試験までは何とか合格に滑り込んだ。

 ……しかし、政治家として働き続ける事は出来なかった。

 幾ら努力しても手に入らない、政治家必須の3バン=ジバン(後援組織)・カンバン(知名度)・カバン(選挙資金)は深大寺にはない。

 彼の持つ、人柄・リーダーシップ・信頼性で支援金やある程度の知名度を調達したものの、結局、多額の借金を無碍にしてしまった。

無謀な挑戦の末の、無残な敗退を喫する深大寺であった……。

 この敗退……納得がいかなかった。

 憎い………。恵まれた環境におんぶに抱っこの人間が。

 そんな人間が優位に立ち続け、不利な立場の人間の夢を奪い、劣等感・理不尽を味あわす現実が許せない……。

 それを変えようと働きかける事すら出来ない。

 深大寺は悪鬼羅刹の顔で怒り狂った。

 そこへ例の如く、派手な色のスーツの営業マンらしき男=後に味方となる倉岡が現われる。

 そして、悪魔の囁きを深大寺の耳元へ贈呈した。

 深大寺は倉岡に連れられ、ある研究室へと足を運んだ。

 目前には、笑顔で歓迎するDr毒島の姿が。

 ペロリと不気味に舌舐めずりをする白衣の老人・その影が深大寺を包む。

「私はDr毒島。不幸な人間を救う、正義の科学者だよ」

「本当に、私を無償で超能力者にしてくれるんですか?」

「勿論だとも! 私は人々を……特に恵まれない人々を救うべく、無償で技術を提供するのだからねぇ」


 黙然とテツトは映像を閲覧中。

「ほう、向こうのパワーアップの知らせか……」

「それなりの動機があの人らにもあるんだね……」

 ハッと、ミヤは祖父の言葉を思い出す。

〔誰かを救う為に他の誰かを傷付けては本末転倒なのだよ〕と、いう言葉を。

「悔しい思いをしてきた人を救うコンセプト自体はいいけど、だからといって他の人を苦しめるのは違う気がする……」

 呟くように主張するミヤ。

「俺も同意見だぁ」

 コウスケが入室。彼は真摯な表情をしていた。

「世襲のエリートらを懲らしめても、結局不利な立場を味わう対象が変わるだけだ。それどころか、もっと酷い格差を生むかもしんねぇ。それを許す訳にはいかねぇ。……けど、それを阻止する事しか出来ねぇのかな、俺ら」

 3人の脳裏に、以前面識したサッカーエリートになり損ねた連中の悲哀/テツト・コウスケにはプレッシャーに呪われている球城の姿が交錯する。

「何か気の毒だったよね。あの人ら。親の言う通り頑張ったらしいのに……」

「ふむ。そうだな……。改めて考えてみようか……」

「あぁ……考えようぜ」

 テツト、コウスケ、ミヤは黙々と思案の海に潜る。


03


 一方、ラボに貯蔵しておきたい食べ物・飲み物の買出しに出ているヨシヒロとノリカ。

 2人は現在デパートに居る。

 お菓子売り場にて、どの菓子を買おうか選んでいるノリカ。

「え~っと、ミヤはイチゴ味、あたしがブドウ味っと」

 ノリカは籠にチョコレート2つを放り入れた。

 ふと、気付くノリカ。

 一緒に来たハズの人物=ヨシヒロの姿が見当たらない。

「あれ? 相馬君は……」

 周囲を見回すも、それらしき存在は確認出来ない。

「奇遇だねぇ。僕もベルセルクジャー、好きなんだぁ」

「へぇ、お兄さんもなんだ」

「特に5話で5人の心が1つになるのが良いんだよねぇ」

 男児と青少年らしき会話の声。ひくひくと動くノリカの眉毛と耳。

 青少年の方の声に聞き覚えが物凄~くある。

 ノリカは声の発生源=向かい側へと渡った。

「やっぱり!」

 ノリカが向かい側へ移動してみると、食玩コーナーで、ヨシヒロと見知らぬ男児が嬉々と剣王戦隊ベルセルクジャーのプラモ入りラムネを見ならが、トークに弾んでいた。

「うんうん」

 男児は渋く両腕を組み、何度も頷く。

「あと、11話も素晴らしい話だったね。自分の事を棚に上げ、被害者面する一般人らにブラックがビシッと説教かますトコとか」

「お兄さん、渋いねぇ~。まぁあのカタルシスは相当だからね」

「少年君、君とはいいジュース飲みが出来そうだよ全く」

「嬉しいですねぇ、いつか飲みましょうよお兄さん」

「って、何やっとんじゃー!」

 ノリカの怒鳴り声に男児は驚き、脱兎の如く、逃げてしまう。

「うわぁ、怪人ガミガミババアだー! 逃げろー!」

 両腕を翳し、鼻息を荒げて大憤慨するノリカ。

「だ~れがババアじゃー! あたしゃ正真正銘の現役女子高生じゃー!」

 ヨシヒロは呆れ、冷笑。

「ふぅ、大人げないなぁ……」

「戦隊モノで喜んでいるあんたに言われたくないわー!」

 この人は分かっていないな……と、ヨシヒロは失望感溢れる目線を送り、鼻で笑う。

「やれやれ……。君、古いタイプの人間だね。ヒーローに感動する心に対象年齢など無いんだよ。そんな事も分らないのかい? だから、ババアなんて言われるんだよ」

 歯軋りし、苛立つノリカ。脳も沸騰していく。

 だが、ヨシヒロは寸前で、沈静の一斬を見舞った。

「おっと、ヒステリックに怒るのは止めたまえよ。ここはデパートなんだ。迷惑になる」

「チッ……覚えてろよ、特オタナルシストめ………」

 ノリカは般若の顔で歯軋りを繰り返すのだった。


 ―――道路。買い物袋を持って歩くノリカ。

 その後方、ベルセルクジャーの主題歌を口ずさみながら、飄々と歩くヨシヒロ。

「希望のツルギは僕らの胸に~♪ 剣・王・戦・隊ッ、ベルセルクジャーッ♪ ノーブレス・オブ・リュージュッ!♪」

 突如、止まる女性の方の足。

 ふと、ノリカの視野に入ったもの……。

 小さな映画館だった。

 その看板の中にノリカは自分の好きな恋愛ドラマ「どろぬウーマン」の映画版があった。

「へぇ~。どろぬウーマン、映画化されてたんだ。今度見に行こっかな?」

「なんだ、不愉快の垂れ流し、泥沼茶番劇かぁ。僕、ああいうの、苦手だな」

 ヨシヒロは小さく嗤い吹くのだった。

 ギロリと蛇のような目でヨシヒロを睨み付ける!

「あぁん!? 今なんつった!?」

 ヨシヒロは恐れる事など微塵にもなく、主張を華麗に謳い上げた。

「恋愛なんて独占欲によるエゴじゃないか。そんな下衆な人間の茶番劇は、僕は苦手だね」

「はぁん? 随分とヒネた事言うじゃない。何かトラウマでもある訳?」

 ノリカは酸っぱい表情で真相を探りに入った。

「トラウマ……というと、ちょっと違うかな? そうだねぇ~」

 ヨシヒロはノリカに恋愛を疎む理由を話した。

 ヨシヒロの両親は彼が幼い頃より、ケンカの耐えない夫婦であった。

 美男子のヨシヒロの親という事もあって父も母も相当な美男美女で、その為か、結婚後でもやたらと異性に好かれ、互いに浮気まがいの行動をしょっちゅうやっていた。

流石に現在では色恋に枯れ、大人しく夫婦をしているが、ゴタゴタ・ドロドロの色恋沙汰を毎日のように見てはうんざりしない訳がないヨシヒロ。

 そういう経緯により、ヨシヒロは恋愛を毛嫌いするようになった。

 反対に面倒な親を無視出来る絶好の暇潰し手段としてヨシヒロは幼い時からずっと特撮ヒーロー番組を見ていた。

 エゴと色欲塗れの両親とは逆に、世の為人の為に戦うヒーローに感動を覚えた。

 今でもその感動を持ち続けている。

 それが相馬ヨシヒロなのである。

「へぇ~。色々あるんだねぇ~。悪い事、言っちゃったかなあたし」

「気にしないでくれたまえ。僕の心は狭くないよ」

「ってか、あんた俳優志望じゃなかったっけ? 恋愛モノ嫌がってちゃ、食っていけないんじゃないのぉ?」

 眉毛を歪に動かし、ノリカは首を傾けながら睨んだ。

「フ、苦手な者・共感出来ないものでも演じきるよ。大体、経験なんて必要でもないと思うよ。例に犯罪したことない人間が犯罪者を演じる事なんてザラだし……」

 ヨシヒロは美顔を斜へ向け、鼻で哂って魅せた。

 まぁ、ご尤もといえばご尤も。

 ノリカは呆れ、両肩の力を抜いた。

「はぁん。ナルシストと特撮オタクのハイブリッド……忙しいキャラね、あんたは」

 ヨシヒロは突如、バク転をし、本人がカッコイイと思っているポーズを取る!

「ヒーローは世の為人の為に動ける素晴らしい人間だよ………実に健全で、人類の指標となるものさ。いや、教科書と言ってもいい……」

「はん、随分言ってくれるじゃない……」

 ノリカ、虚勢を張りつつも言い返せず、言葉を詰まらせる。

「僕は恋人1人のみを守る心の狭い人間よりも、なるべく多くの人間を守るカッコイイ人間になりたいものだね……。まぁでも、クズへは鉄槌を下された後に助ける主義だけど……」

 ヨシヒロは本人にとってカッコイイと思うポーズを新たにとり、美麗に語った。

「それが、あんたのヒイロイズムねぇ~。ムカツクけど、立派ジャン……」

「君はどうなんだい? 戦いに参加しているって事は、それなりに正義感があるんじゃないかい?」

 見透かしたかのような笑いを交え、ヨシヒロは核心を突いた。

 本人も認めたのか、釣られて笑い出す。

「ふふ、そうね……あたしはただ、ミヤの役に立ちたいだけよ……。そりゃ、エスパーが支配する社会になって欲しくないのもあるけどさ……」

「へぇ……」

「あの子、どっちかっつーと、引っ込み思案だからさ……。あたしが居ないとあんたらを仲間に出来なかっただろうしね」

「フフッ、確かに……」

 目を閉じ、美男子は風に靡かれた。


そこへ突如、見知らぬ女性の悲鳴とSボードのエマージェンシーサウンドが同時に響く。

「な、何?」

「悲鳴と反応が同時に……? 確かめて見ようか」

 ヨシヒロはSボードを開き、確認。

 電撃や火炎を放射する人間=エスパー連中に襲撃され、逃げ惑うカップルらしき男女の何組かの映像を芽にする2人。

 しかもその場所はここから近くである。

「間違いないよ。悲鳴とセンサーが反応した場所は同じ……」

 ヨシヒロの予想的中。ステルス衛星機の知らせと悲鳴は同じ事象であった。


04


 Sボード画面で放映される映像……。

噴水や洒落たカフェのある場所にて、カップルらしき存在が、容姿が微妙なエスパー連中が繰り出す念力や火炎・電撃放射に苦しめられていた。カップル達は必死で逃げ惑う。

「いやーっ! 止めてーっ!」

「俺達カップルが君らに何をしたと言うんだ! 止めてくれ!」

 うち1組のカップルは一方的な暴虐に意義を呈した。

 しかし、エスパー勢の表情は悪鬼羅刹と化しており、「止めてくれ」という安い言葉程度で止まるとは到底思えない怨念を纏っていた。

「ムッカツクなぁ、わざわざ人前でいちゃつきやがってぇ!」

「リア充爆発しろぉ!!」

「存在そのものが腹立つんだよ! まるで自分達がいちゃつく事が神聖であるかのように振舞いやがって! お陰で恋人持たない人間が否定された気分にさせられるんだよ!!」

「寂しい気分にさせられるんだよ! どうにかしやがれ!」

「そうだ、そうだ! いちゃつくんなら家の中でこっそりやれ! 人前でやんな!」

 只ならぬ熱量と怨念のオーラで放たれた激昂!

火球や雷の矢を発射し、憎きリア充カップル共を消さんと暴れるエスパー達。

「お、横暴だーっ!」

 彼氏の方が不条理を叫びながら、爆発に吹っ飛ばされ、空中へ抛り飛ばされた。

 まるで、ペットボトルロケットのように軽い飛びっぷりだった。


壁に背中を預けるヨシヒロ&ノリカ。

 近くのビルの壁に隠れ、その様子をSボードを通して閲覧。

「今回はそう来たか……やはり、恋愛は下らないエゴだなぁ~。この世に恋人など居なければ、こんな事件など起きなかったのかもしれないねぇ~」

「まだ言うかあんたは……」

「事実だからね」

 ノリカは無言で呆れ、肩の力を抜いた。

「……しかし、僕ら、現場の近くに居るけど、このまま戦って大丈夫かな? エスパー連中に僕らがTD操ってんのバレるのは拙いような……」

 ヨシヒロは現状分析し、危険・リスクを危惧する。

「あんた、ヒイロイズムはどうしたの? ここから離れている間に死者出るかもよ?」

反対に、ノリカは挑発的にヨシヒロに次に如何なる行動を取るか選択を強いる。

 確かに呑気に隠れ場を探してから戦うのも拙い。

「……そうだねぇ。引き下がる訳にはいかないかイケメンヒーローとして………」

「はん、そうこなくっちゃ!」

 両者、不敵に唇を動かし、Sボードを構える。


05


「君達っ! 待ちたまえっ!」

 気取った口調で閃光騎士=Lシュヴァリエが舞台の主役と言わんばかりに、光臨!

「ハン、見苦しい八つ当たりは止めな!」

 その隣に紫の魔術師、ウィザースロットが出現!

「やっぱり来たな!」

「ふへへ、狙い通り……」

 ハッと、眉を顰めるヨシヒロは「狙い通り」という言葉を脳内にしっかりと引っ掛ける!

 ――何か裏がある。

 そう察知するも、現状を放っておく訳にはいかない。

 このエスパー連中はこれから本気でカップル共を殺す気のようなので。

故に……戦闘スタート!

 Lシュヴァリエは5人の超能力者との対戦を受け持つ。

 降り注ぐ火炎放射! 

 それを左腕に固定されたシールドで防御!

 散開し、Lシュヴァリエを囲み、残り4人は火炎・電撃を放出!

 対するLシュヴァリエは両肩・両脚のマニュピュレーターを進展させ、今回は先端からビームソードではなく、ビームバルカンを発射する!

 迫り来る攻撃を相殺した!

 直接戦うのは初めてではあるが、深大寺らから強敵であると知らせを受けている一同。

 改めて手強さを痛感する。

「やれやれ、君達、哀れだねぇ」

 Lシュヴァリエはキャリバーを下ろし、呆れ出す。

 恋人を持たぬ自分らを惨めに思ったのだと判断し、エスパー一同は憤る。

「んだと!? テメェもしかしてモテる人間か! その面出しやがれ! 異性がドン引きする位にぐしゃぐしゃな顔にしてやる!」

 ガイコツに皮が張り付いただけのような外見の男、本田が血眼になって憤慨!

 見えぬ攻撃=念力波を放つ!

「それは勘弁して欲しいなぁ。僕、俳優志望なんだよねぇ~」

 騎士TD・Lシュヴァリエ、額左端のカッターホーンを畳み、マスクバイザーに変形!

 サーチングモードに!

 バイザーを通して見える映像……。

念力の流れを捉え、Lシュヴァリエは華麗な足さばきで念力波を回避。

そのまま駆け出し、キャリバーで本田を叩き飛ばす!

ドボン! と、散る水飛沫。本田は噴水へと落ちた。

 額を触れ、呆れるヨシヒロ。

「そもそも、僕は君らが恋人を持たない事を哀れんでいるんじゃないんだよ……」

「何ィ!?」

 どうやら自分らが思っていた感想と違う意味合いで憐れんでいたらしい。

 真意を聞かんと、一同は動きを一旦停めた。

「哀れんでいるのは都合のいい他人に縋り着こうとする弱き心に対してさ!」

「弱い心……?」

「そうさっ! 都合のいい他人なんか存在しないんだ! 求めたところで虚しいだけじゃないかっ!」

 Lシュヴァリエはキャリバーを後ろへ放り、両腕を広げ、高らかに謳った!

 まるで舞台の主役かのように振舞う。

 ロボットがやっている為、何とも珍妙な光景だ。

 この機体はまたもや舞台俳優の如く、台詞を紡ぐ!

「そんな心捨てて、皆、ヒーローの心を持とうじゃないか! 見返りなど、都合のいい他人など求めず、世の為、他人の為! 素晴らしいと思わないかーい!? 大丈夫! 恋人なんか居なくても生きていけるよっ!」

 おいおい、いきなり何を言い出すんだこいつは?

 ……と、首を傾げたり間抜けに口を開けるエスパー一味。

「ヒ、ヒーロー……?」

 Lシュヴァリエは強く首肯。

「そうさ! ヒーローのように強い心を持とう! ヒーローは時に孤独でも、味方より敵が多くても戦う……見習ってみないかーい?」

 しけた目でエスパーテロ組織の一味は「どうするよ?」と、顔を見合わせる。

「……む、無理だな……」

「そうそう、無理無理……って……」

 うっかり釣られ、頷くも、迎合でないと今気付き、ヨシヒロは目を点にした。

「え……」

 ヨシヒロの希望に反した痛烈な返事がマシンガンの如く、押し寄せて来る。

「俺はお前ほど心が強くない! つーか、出来ていたら現実と向かい合って、エスパーになんてならねーよ!」

「つか、お前脳みそ何歳だよ! ヒーローなんてテレビやマンガの世界だけだ! 現実にはエゴイストしか居ないんだよぉ!」

「現実の人間は弱いんだ! だから傷を嘗め合う相手を欲しがるんだよ! 悪いか!」

 Lシュヴァリエは圧倒され、半歩下がる。

 無念……。

 訴え虚しく、一蹴された。

「あぁ……。そうなのかぁ……悲しいよ全く。弱き心は悪だなぁ……」

 落胆するLシュヴェリエの隙を窺い、敵連中の1人がこっそりとテレポーテーションし、投げ捨てられたLシュヴァリエのメイン武器、キャリバーを手に取った!

「ヒーロースピリッツを共有出来ないとは……。嫌だなぁ、多種多様な人間って……」

 ヨシヒロはLシュヴァリエ共々、悄然と頭を落とす。

 そういる間に、キャリバーを突きの構えにし、エスパーが猛進!

「うぉー! 自分の武器で潰れろー!」

 その声でようやく己へ来る攻撃の存在及び、武器が奪われた事に気付くLシュヴァリエ。

「うわ……。いつの間かキャリバー盗られてるよ………」

 応戦すべく、残る武器=各装甲のマニュピュレーターの展開を試みる。

 ……これもいつの間にか残りのエスパーがLシュヴァリエのボディにしがみついており、ギミック稼動を邪魔しているではないか!

 絶句するヨシヒロ!

「んな!? 落ち込んでいる間に! 参ったねこれは……」

 キャリバーを持つエスパーは飛翔し、Lシュヴァリエの真上に! 

 続いて、垂直落下! 確実に頭から体躯を真っ二つにする作戦に出る!

「く、くそ……」

 Lシュヴァリエは身動きがもう取れな……。

「……とでも言うと思ったかい?」

 ……い訳でもなかった。

 額部のカッターホーンからビームカッターを飛び出させ、巨大な電光刃を額に構える!

敵のキャリバー垂直降下をビームカッターで受け止め、即座に弾き飛ばす!

 次いで、わざと身体を傾け、寝そべるような体勢を取り、Lシュヴァリエは地面に叩き落ちた!

「ぐあぁぁっ!」

 落下激突の衝撃でLシュヴァリエから放り飛ばされる4人のエスパー。

 今だ!

 Lシュヴァリエは両肩・両脚のマニュピュレーターを今度こそ広げ、ビームソードを先端から噴出さす!

「纏めて……コンバートスラッシュ!」

 地面に叩きつけられた4人の超能力者は起き上がろうとするが、起き上がる前に変換プログラムを打ち込む斬撃=コンバートスラッシュの餌食となった!

 4人を撃破はしたが、一息する暇もなく、キャリバーで切り掛かる最後の1名が襲来!

「仲間のぉ……仇だぁ!」

 大剣は振り下ろされた!

「なんの!」

 ヨシヒロは瞬時にキーボードを叩き、対応指令を愛機へ送った!

 掴んだ!! 真剣白刃取り!!

 寝そべったLシュヴァリエは〔両足の裏〕でキャリバーを絶妙なタイミングで挟んだ!

 まさかの神業。

 衝撃を脳に走らせるエスパー!

「白刃取りだとぉっ!?」

 更にLシュヴァリエは両手を地面に着け、上半身を起き上がらせ、そのままブレイクダンスするかのように脚部を捻る!

 相手そのものを回転させ、地面に叩き落した!

 パラソルへ放り落とされた最後の1人。

「ハハハ……。今度からは容赦なく倒そう……」

 失笑を交え、反省するLシュヴァリエは起き上がり、キャリバーへ手を伸ばす。

「くっそぉ! せめてのせめてだ!」

 パラソルを下敷きにしているエスパーは念力波を放ち、キャリバーを粉砕した!

 ブレード部分右半分が動物に齧られたかのように滅却されてしまう……。

「うわぁ……。壊されちゃったか……」

 ヨシヒロは顔を酸っぱくし、溜め息を捨てた。

 どうだ! と、悪ガキのような笑みになるエスパー。

 ……しかし、彼の前に甲冑らしきものの影が被さる。

「悪いけど、武器がある限り、データコンバート出来るんだよねぇ~」

 轟く斬激音! 

脚部のマニュピュレーター先にある電光の剣が目標を切り裂いた!


06


 同場所にて、ウィザースロットVSエスパー復讐鬼。

 腕をリボルバーやガトリング、バズーカなど、銃器に変身させ、敵一同は紫の魔術師TDへ一斉掃射!

 対して、広がっていくカードビット!

 縦横無尽に動き回り、周辺に被害を出さぬよう、怒涛の防御を魅せるカードの表面!

「も~、こいつら、器物破損させる気満々でやんの……。鬱陶しいったらありゃしないっ!」

 苛立ちつつも、ノリカは複雑に指を動かし、カードビットに防御を託す!

 ……しかし、負担は大きく、1~2枚ほど破壊されてしまう!

 いつもなら5体で戦うところを今回は2体で受け持っている為か、必然的に1体1体の戦闘負担が加味される………。

 そういう状況下であっても、このままではいられない。

 そう判断したノリカはカードビット操作をオートモードに切り替え、ウィザースロット本体を動かす!

 腕のシリンダーがカチカチと音を立て、回転。

 バルカンモードに!

 両腕を上30度ほど上げ、閃光小弾を豪雨の如く、発射!

 と、同時にサポートアイテム、カードビットを即座に退却させる!

 敵の動きを固定させ、こちらが防御一辺倒となっている。と、思わせて、防御キャンセルと攻撃を同時に行い、極端な攻撃へ転じるのだった!

 ノリカの戦略にしてやられた敵陣はデータ化する弾丸を撃ち込まれていった。

 前衛が攻撃を集中して葬られる一方で、後衛は散開!

 空中に緩やかな曲線を描き、ウィザースロットの真上に移動!

 真上からの一斉掃射……逃げる道など地下へ潜らない限り、存在しない、至高の攻撃場所である。

 味方を無駄死に〔正確には死ではなく、拘留だが〕を無駄にしない為にも、容赦なく各々の持つ重火器をブッ放つ!!

「フハハッ! 逃げ道はないぞっ!」

 勝った! そう悟るエスパー勢。

「はぁん、こう来た訳ねぇ~。だったらコッチはこうするまでよぉ!」

 ノリカの指がキーボード上でタップダンス!

 散開していたカードビット6枚がウィザースロットとエスパー達の攻撃の間に割って入る!

 只単に防御をするのかと思いきや、カードビットはそれぞれ均等な位置で停止。

 更にそれらを光の線らしきものが繋いでいく。

 真上・真下から見れば一目瞭然なのだが、陣形……というよりも、魔法陣を描いたようなものになる!

 カードビットが描く魔方陣のようなものは光輝き、上方へ毀れんばかりの光円柱を伸ばし飛ばす!

「カードフォーメーション! ゲート・オブ・ノヴァッ!!」

 そのビームタワーは降り注ぐ銃撃・砲撃を呑み込み、相殺した!

 しかし、相殺した為、更に上に位置するエスパー勢へは攻撃を届ける事は出来なかった。

「あちゃぁ~、8枚全部じゃなかったから、このまま倒せなかったかぁ」

 相殺出来た事自体は嬉しいが、本来の効力を発揮出来なかった為、ノリカは少々残念がる。

「……まぁいいわぁ! まだまだ戦えるし!」

 エスパーらは魔方陣形成の、広範囲攻撃に恐れを抱き、新たな戦法に出る!

「接近戦に切り替えるぞ! それならカードフォーメーションも使えまい!」

「ラジャー!」

 5人の超能力者はテレポーテーションでウィザースロットの周辺に出現!

 今度は両腕を剣やチャーンソウなど、近接戦武器にチェンジ!

 一心不乱に切り掛かった!

 応戦すべく、ウィザースロットは袖からビームニードルを取り出す!

 チャンバラ合戦となる!

 しっかり防御は出来るが、中々攻撃に転じ難い状況……。

 ノリカは眉をひくひく上下させ、苛立つ……。

「あ~、何か腹立って来たわぁ~。そもそも、こいつらにはモテる努力本当にしたのかって説教したいんだけどなぁ………」

 ニードルで攻撃を受け止めては弾き飛ばすの繰り返しを行う紫のTD。

 敵勢の1人、このチンタラした状況に激昂。

「くそ! しつけぇんだよ!」

「こっちの台詞だっつーの! あんたらの不満なんか、他人にゃ知ったこっちゃないんだっつーの! ホント、腹立つんだけど!」

 ウィザースロットは憤慨と同時に右腕のニードルを収納し、バルカンモードへ切り替え、目前の敵へブッ放つ!

 鉄鋼の剣とチェーンソウ=両腕をクロスし、防御を取るが、相手は遠く吹っ飛ばされる!

「そもそも何だよ! ある程度の復讐は許してくれるんじゃなかったのかよ!」

 背後から腕バズーカを撃つエスパーが疑問もついでに投げる。

 その答えをノリカは愛機を通し、伝える。

「いや、あんたら明らかに殺す気だったっしょ!? 流石に殺しは放任出来ないっての!」

「うるせぇ! リア充実を爆発させて何が悪い!」

 と、吼えながらチェーンソウの腕を振るう相手をウィザースロットは身体を反転させ、回避。同時にニードルで突き飛ばす!

 相手は肩を突き刺され、差された部分が0と1にさせられる。

 身構えるウィザースロット。

 今度は姿を消す敵……。

 ウィザースロットはそのまま、待機。

 クリアーイエローの魔術師らしい造形の1つとなっている、口元のマスクローブが上=目元へ上がり、バイザーとなる! サーチングモードとなり、見えぬ敵を捉える!

 無色の敵一同は標的=紫の魔術師型ロボットへソード・チェーンソウを振り翳した!

「よし今だっ!」

 斬られる……ギリギリのトコでジャンプ! 相手同士を激突させる。

 更にカードビットの表面を前にし、エスパー勢を押し競饅頭状態にさせた!

「カードフォーメーション、プリズンド・デス!」

 エスパー連中を押し当てたカードビットは一旦離脱し、表面からビームを一斉掃射!

 身動きがようやく取れるようになったかと思ったら、トドメの集中攻撃。

 何も言い残す間もなく、データとしてエスパーは葬られた。

 やっと終わった……。

 ノリカはオバサン臭く安堵の息を抜く。

「……にしても、悔しいけど、相馬君の言う通り、恋愛って醜いエゴなのかねぇ~。あたし、ドラマの綺麗な恋愛、見過ぎだったのかも……。自分自身、経験もないしなぁ……」

 もやもやするノリカは葛藤の中、脳が噴火し、キレる。

「あ~もう、知るか知るか! あんたらの理想の人間なんて現実いねぇよ! 恋なら2次元にでもしておけー! 萌えアニメで萌え~とか、ブヒィーとか言っておけー! 他人に八つ当たりすんなやーっ!!」

 思いの丈を吐き飛ばし、我に帰るノリカは失笑・自虐した。

「……って、相手葬った後に何言ってんだろあたしゃ……。まぁでも、戦いながら説得なんて呑気過ぎるかぁ~。そこまで技術ないし」

 ノリカ、脱力し、コンクリートへ尻を落とした。

 

07


 敵を全て電脳の世界へ封印した。

 事件を落ち着かせた。

「あ~疲れたぁ~。精神的に……」

 ノリカは買い物袋から先程購入したペットボトルの炭酸グレープジュースを豪快に飲んだ。

「お疲れさま」

 隣のヨシヒロは淡白に労い、自身は己の顎を摘み、思案に浸る。

ヨシヒロは妙に引っ掛かっていた。

「……にしても、妙だ。恋人潰しが、奴らの目指すエスパー格差社会作りに関連するのだろうか……。それに、テツト達3人が今回戦いに現われなかった……。まぁ、こちらに関しては僕らだけで十分だと思ったのかな?」

 

 ……見ている。

観られている。

 そんなヨシヒロとノリカの姿を。何者かが……。

「……見ていたか?」

「あぁ、間違いない。奴らは“戦っていたTDと同じ事”を喋っていた”」

「うむ。博士の言う通り、一般人が遠隔操作していたものだったか……」

「よし……」

 ヨシヒロ・ノリカを覗く面妖な影……複数の影。

 それが動き出し……。

 

 何かが迫っている事も知らず、休息に浸るノリカとヨシヒロ。

「んじゃ、僕もスポーツドリンクでも飲もうかな?」

 ジュースを飲むノリカを見て、ヨシヒロも飲みたくなり、買い物袋へ手を伸ばす。

 その時! Sボードが警告音を発する!

「!!」

 ヨシヒロは即座にSボードの液晶画面へ目を送る。

 ノリカは慌てて、ペットボトルから口を離し、ヨシヒロに何が起こったか訊ねる。

「ちょ、何? また敵!?」

 ヨシヒロは目が凍結し、絶句。

「そうか……そういう事だったのか……」

 ヨシヒロの言葉が理解出来ないノリカは具体的な内容を問う。

「はぁん!? どういう事?」


「ヒャーハッハッハァ! こういう事だぁ!」


 挑発的な口調……。どう考えても味方ではない。

 考えられる事はただ1つ。………新たな敵。

 狭いビルとビルの両隙間からエスパーテロ組織・RPの仲間が到来!

 エスパー連中は空中を浮遊し、上下の空間を占有。

逃げ場を完全に封鎖している。


……つまりは、散策部隊にヨシヒロとノリカを発見され、囲まれてしまったのであった!

 詰まるところのピンチである。

 互いの背中を合わせ、険しい表情をする2人のTD使い。

「う、嘘でしょ……しかも囲まれちゃってるし……」

「成程ねぇ……。さっきの戦いは僕らを探す為のものだったか」

 美男子の方は爽やかに呆れ笑いを溢す。

「って、笑ってる場合じゃないし!」

2人を囲んだ猛獣の如しエスパー達が……雄叫びを上げ、飛び掛った!!




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