表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

EP.03 《エリートデストロイヤー》

EP.03  《エリートデストロイヤー》


01


 旧校舎階段最上階にて、ラジカセからダンスミュージックが響く。

ノリカの指示の下、ヨシヒロとミヤがエアロビダンスをしていた。

「はいー、ワンツー、ワンツー……。って、相馬君あんたはテンポ早過ぎ!」

 ノリカはヨシヒロを指差し、一旦ダンスを止めた。

「う~む、難しいねぇダンスって。イケメンヒーローになる為に必要だと思い、楠さんに伝授して貰っているけど……。ダンス……実に奥深い」

 一方で、ミヤは息を切らし、目を回している。

「で、ミヤは所々遅い。一定のリズムでやらないとダイエットにならないよっ」

「う、うん……」

 階段に座り、ヨシヒロ、ノリカ、ミヤは汗ばんだ肌をタオルで拭う。

「……にしても、凄いねノリカちゃん、元子役バックダンサーだけの事はあるよぉ」

「色々あって中学で辞めたけどね~。でも、せっかく習ったモンだからたまには有効活用しないと、って感じ?」

 ノリカはニャハハと笑い、自身の巨乳を突き上げ、モデルポーズを決める。


 ――賑わう3人の一方で、テツトは淡々を思索にのめりこんでいる。

テツトはデータコンバートしたエスパーを拘留させているメモリーカードを凝視していた。

残る敵は3分の2以上。

まだまだ多い。どうしたものか……?

現状、情報面・固体のスペックはこちらが上。

だが、手数の多さと何か隠し持ってそうなDr毒島に警戒をしない訳にはいかなかった。

彼は幼き頃からマイペースで孤高な人間である。

 基本的に並ぶ事も、他人と同じ事をする事も、他人に仕切られる事も、他人といざこざで縺れる事も、他人に迷惑掛ける&掛けられる事も嫌う。

 彼は誰かの影響を受け、新しく何かを始める事は無い。

 結果として、自分で選んだ事しかしない。

 機械工作も自身が小学生の時、ぶらりと立ち寄った模型店で、自分で見つけた趣味である。

 親や友人・知人の薦めなどではない。

 ロボットコンテストも単純に勝算がある上で面白そうだからやった事だ。

 そんな彼は何より他人にペースを狂わされるのを嫌う。

 故に仕切る。故により合理的な手段で厄介事を駆除する性分なのである。

 そんな彼は何度も、より優れた戦略・解決手段をすべく、思案を重ねるのだった……。


 旧校舎階段の、テツトら4人より少し下。

 コウスケは1人、携帯電話を使用していた。

 コウスケのサッカー部仲間だったヒデノリはエスパーテロを行った日以来、連絡も取れず、学校に来ていない。

 何度も連絡しても通じない……コウスケは携帯電話を閉じ、落胆した。

「またかぁ~。ヒデノリの奴、家にも居ないとはな。ホント、あいつどうしてんだろ?」

 コウスケはヒデノリとの出会いを回想し始めた。

 あれは中学1年時、サッカー部新入部員が揃って自己紹介する時の事だ。

「三島ヒデノリっす! 野望は親にスポーツ叩き込まれただけの糞スポーツエリート共をブッ潰してプロサッカー選手になる事っす!」

 2年・3年の先輩陣もコウスケら他1年も、顧問もその突飛な言葉に目を丸くした。

「ほう、スゲェ野望じゃねぇか。理由は何だよ? テメェをそこまで掻き立てる理由」

 3年のキャプテン、村田がヒデノリを面白く思い、半笑いで訊ねた。

「それは……このままでは夢がないからっすよ。だって、悲しいじゃないっすか! 親にスポーツ叩き込まれないとスポーツ選手になれないなんて……。だから、親に英才教育を受けていない人間がプロになって夢を与えなきゃいけないと思うんっすよ!」

 コウスケは心臓から衝撃を受けた。

 ヒデノリの意見・信念に感銘を受けたのである。

「はぁ、そりゃ凄いな。……でも、無理だな。俺ら、超弱小だし」

「そうそう、だってスポーツエリートじゃねぇもん」

 キャプテンの村田をはじめとする先輩陣が失笑し、愚かな夢想だと告げる。

「そうかもしんないけど、悔しくないんっすか!?」

 ヒデノリは腹から声を張り上げた。

「そりゃ、悔しくないと言ったらウソになるけどさ……。無理なモンは無理だろ。現実見ろ」

 村田は本心と事実の狭間の結論をさらっと述べる。

 複雑な空気が周辺に渦巻いてしまう。

「お、俺も……エリート共に一矢報いたい! 親の力を借りて勝つセコイ奴に勝利する爽快感を味わってみたい……。マンガみたいにさ」

 ヒデノリの隣のコウスケが声を震わせながらも迎合。

「おぉ! 本当か!」

 ヒデノリは歓喜興奮し、コウスケと勝手に握手した。

「あぁ。スポーツは正々堂々であるべきだかんな! 英才教育なんか打ち砕こうぜ!」

 それ以降、打倒スポーツエリートを目指し、コウスケとヒデノリはサッカー練習に明け暮れた。

 今更努力したところで、追いつけるかは分からない。

 だが、次第とヒデノリのただならぬ執念に圧倒され、コウスケ以外も触発されて、打倒スポーツエリートへ燃えるサッカー部の面々。

 あらゆる時間を割いてサッカースキルの研鑽に研鑽を重ねた。

スポーツエリートに惨敗を喫し、自分らの努力が嘲笑されるまでは……。


 ――あれは聖アスリート学園との練習試合の事である。

 試合は前半の時点で0対3と圧倒されるコウスケ達、岩鉄高校サッカー部。

 コウスケ・ヒデノリ達はそれでも、諦めず挑んだ!

 自分達だって一生懸命キッツイ練習に打ち込み、試合に臨んだ故に。

 そして何より恵まれた環境で努力出来た憎たらしいスポーツエリートに一矢報いたくて、最後まで足掻いた。

 ……しかし、残念ながら少年漫画的な逆転展開はなく、リードを更に広げられ、0対4で無念の惨敗となった。

 挙句の果てには相手チームの1人、一段と憎たらしい顔をした球城ダイスケから屈辱的な言葉を送られた。

「なぁ、お前ら、この試合で俺らからボール取ったこと、あったっけ?」

 ダイスケを中心としたこの試合の勝者にして、全員親に英才教育を施されたサッカーエリート一同は侮蔑嘲笑を負け犬達に贈呈。

「んぷっくくく! 取った事、ねーよなぁ! コールドゲームだったモンなぁ~」

「つか、お前等体デカイだけの小学生じゃねぇの? レベル低過ぎ!」

「いやそれ、小学生に失礼だろ。あ、間違えた俺らのようなスポーツエリートの小学生に対してだったわ。ヒャッハッハ!」

 他人を馬鹿にする事に長けた一品の顔がそこに羅列されていた。

 ――流石にこの一言には憎悪を抱かざるを得なかったヒデノリ達だった……。

「このヤロ……。サッカー教えてくれる親の元に生れただけのクソが……」

「ハン! 運も実力のうちなんだよ! 生まれながらのま・け・い・ぬ!」

 中央のダイスケが悪態一杯の顔でヒデノリを更に煽る。

「そうそう、クズの親はクズ! 科学的に証明された遺伝だよなー」

 残りの面々も憎たらしさトップ争いに食い込める顔で侮蔑嘲笑の嵐を起こす………。


 ―――翌日の教室で愚痴るヒデノリ。

「あ~、クソムカツクぜ! 特にあの球城ダイスケって奴! 顔も言う事も全部カンに障りやがる!」

 コウスケは欠伸をしながら、机上のサッカー雑誌を手に取る。

 球城ダイスケが《プロ入り間違いなし! 元サッカー選手球城ダイサクの息子、唯我独尊のサラブレット、球城ダイスケ!》と大きな文字が羅列されたページを捲った。

「あいつ、親がプロだもんなぁ。上手くて当たり前かぁ~。お、次のページもこいつの話か」

「何!? コウスケ、どんな話だ?」

 眉をうねらせ、詠み進めるコウスケ。

「……何々? 父・ダイサクは語る。『僕はダイスケにサッカーを押し付けてはいません。僕が現役で活躍する姿を見て、3歳のダイスケはサッカー選手になりたいと思ってくれたようです。なので、そんな息子に応えるべく、自分がサッカーで培った全てを託そうと思いました。とは言っても、基本的な努力方法を教えただけなのですけどね(笑)。ですが、そのお陰か、サッカーだけでなく、学校の勉強も非常に優秀な成績を残してくれています。親としてこれほど嬉しい事はありませんね』……か……」

 ヒデノリ、髪の毛を乱雑に掻き、憤慨を爆発させた。

「カッ、いいご身分だ! 運良く教育上手な親の元に生れただけのクセしてよぉ~」

 愚痴々と吐露するヒデノリに、コウスケは苦笑いで諭す。

「まぁまぁ、ヒデノリ、その辺にしておこうぜ」

「わーってるよ。けど、納得いかねぇ。スポーツを知り、努力するチャンスが不平等なのはどうかと思うっての」

「まぁ、極端な経験差があるなんて、競技としてちょっとな………。つーか、そもそもスポーツって気楽に楽しむモンじぇねぇの? 大人の英才教育介入自体が邪魔な気がする」

「だろ? その上、エリートじゃないとプロになれないってのも、虚しいんだよな」

「ハハッ、まだ、あいつら全員がプロになるって決まった訳じゃねーじゃん」

「コウスケ……。そうだけどさ」

「それに、不安定で寿命の短いサッカー選手になっても苦しいだけだって。親にサッカー選手になるようプログラムされたサッカーエリートロボの哀れな末路を見て、馬鹿にしとこうじゃん? そう思ってた方が気分イイって!」

 コウスケはカラ元気な感じの笑顔を作った。

 本人なりにヒデノリを励ましているのであろう。

 しかし、肝心のヒデノリは釈然としない顔を形成していた……。

 

 回想を終了したコウスケはハッとなる。

 もしや……、と気になったコウスケはSボードが保存している全てのエスパー連中の映像を見てみた。

 まじまじと凝視し、改めて探った……。

 それは、まるで難易度の高いキャラクター探しゲームのようであった。

 暫し、その地味な作業を続けるコウスケ………。

 額から汗が一滴、流れ落ちた。

「!! マジかよ……」

 予想は的中。

友は今迄戦場に出向いていないだけで、RPの談合には参加していた。

「………なぁ皆、ちょっと!」

 コウスケは周辺に居るテツト達4人を呼び、4人のSボードへ映像をアップリンクさせた。

 

 ――Dr毒島の研究室のトレーニングルームを映した映像。

 そこでヒデノリが実にいきいきとした顔で、肉体武器化の超能力訓練を行っていた。

 ヒデノリの笑顔は非常に真っ直ぐに、歪んでいた。


「……成程、スポーツエリートに対する妬みから、あちらに入ったかもしれない……と」

 テツトが纏めた要約に首肯するコウスケ。

「あぁ。あいつ、スンゲェ悔しがってたからなぁ~。それに、幼い時に父親を亡くして、父親とキャッチボールしているような奴、羨んでいたらしいから」

 そよ風のような溜め息を落とすヨシヒロ。

「ま、ここ最近スポーツの上手い奴及び、プロスポーツ選手になるのは親に英才教育を施されたスポーツエリートばかりらしいからね。……う~ん、悲しいねぇ。先鋭化する代わりに公平性が失われるとは……」

「へぇ~、スポーツ界もそうなってたんだぁ。何か世襲政治家みたいだねぇ、そういうの」

 ノリカはそう、感想を呟き、飄々と紙コップジュースを飲んだ。

「英才教育愛けりゃ誰でもなれる訳じゃないけど、まず必要な条件っつーかな」

「ふぅん、そうなんだ……」

 呆気になるミヤ。ミヤは複雑な心境になった。

恵まれた環境・先鋭化された環境の影響を受け、大きな結果を残す人間の話はよく聞く。

 自分も、科学者の孫と言う、珍しい環境に生まれた存在である。

 ……しかし、ミヤ自身は祖父の影響を受け、工学・科学に興味を持つ事はなく、それどころか、理系科目・機械の苦手な少女として育った。

 他の人は祖先・環境の影響を受けたりしているのに、自分は一体何なのだろう?

 祖父の遺志を継ぐ、技術力の高い少女になるべきだったのだろうか?

 それとも、科学者の血縁に持たなかった人間に対し、優位に立つのは卑怯なのでならない方が良かったのだろうか?

 今更考えても不毛ながらも、ミヤは1人、悶々とするのだった。


 ――その時である。


 センサーキャッチ! エスパーが出現し、争いを始めたと知らされる。

 テツト達5人はSボードに目をやり、示された場所を把握する。

「場所は……む?」

 テツトが、その続きを言おうとした時、コウスケが先にその内容を叫んだ。

「聖アスリート学園だとっ!? あっこは俺達サッカー部が最もボコボコにやれれたトコじゃんか!」

「確か、スポーツ選手教育に特化した学校だったっけ?」

 ノリカは記憶を巡らし、呟く。

「よし、じゃ早速……」

 緊張し、出撃を試みるコウスケ。

「……いや、待て」

「テツト、何でだよ!」

「この映像、よく見てみろ……。試合しているだけだ……」

 コウスケ達4人はきょとんとなり、テツトの言葉を確かめるべく、再び目を液晶画面に向けてみた。


02


 サッカーグラウンドにて、テツトの言う通り、エスパーテロ組織の人間11人が聖アスリート学園のサッカー部1軍と試合を繰り広げていた。

 ―――確かに試合と言えば試合である。

 しかし、現在の得点は、エスパーチーム=10点、聖アスリート学園サッカー部=0点という、通常ではあり得ない点差……。

ゲーム展開はエスパー側が圧倒的。

 彼らはサッカーボールごとテレポーテーションして、ゴール手前に現われ、ボールをゴールネットに叩き込む・サッカーボールを念力で操り、相手とボールを遠ざけるなどと、トンデモないプレーをしていた。

要するに超能力を駆使して反則的に点を稼いでいるのだった。

「くっそぉ……。超能力なんて無茶苦茶だぁ……」

 元サッカー選手息子で、プロサッカー選手間違いなしと謳われたこの男、球城ダイスケは息切れを起こし、滅入っていた。

 通常なら、相手を息切れにさせて、自分は涼しい顔をして勝利を飾るというのに、真逆の立場を味わっていた。


「どうだ!? 一点も取れない処か、試合中ボールに触れられない気分はよぉ?」


 悠々とドリブルをするヒデノリが悪態を贈呈し、ダイスケを引き離した。

 目が氷結するダイスケ……自分らがやっていた事をやられる立場に立たされるとは……。

 その毒々しい言葉を見舞った相手を見やる。

 本人は負け犬の一匹如き覚えるような程、律儀では無い。

 故に、ダイスケ自身はヒデノリの事など、覚えていない。

 だが、平凡な環境に生まれ、特化したサッカー教育を受けられなかった者なのは分かる。

そんな雑兵風情が超能力を得て、自分達を完全駆逐する……。

「ざけんな! スポーツエリートであるこの俺様達がお前らクズなんかに!」

 不条理な試合展開に苛立つダイスケは奮起!

ドリブルするヒデノリを追走!

 ダイスケは併走する仲間2人と、3方向同時スライディングで奪おうと突っ込む!

 が、相手の超能力により、ボールが突如上昇し、ダイスケは無駄に滑るだけに終わった。

 ダイスケが立ち上がろうとしたその時! 

 ……には、既に11点目が決められてしまっていた。


 黙々とこのコールドゲームを視聴するテツト達5人。

「やっぱり来ていたか……。ヒデノリ」

 厳然と眉毛をV字にするコウスケ。

「ハハッ、……にしても、凄いねこれ。まるで、大人が子供を甚振っているようだよ」

 美男子・ヨシヒロは爽やかな苦笑いを溢した。

 ノリカは長い睫毛の瞳でぼんやりとコールドゲームを観戦しながら、コウスケに問う。

「ねぇ、これってヒドイものなの?」

「ヒドイ処か、ファンタジーだよ。サッカーは大抵1~3点取り合って決着するモンだ」

「ふぅん。無理ゲーって、奴? イヤなものねぇ……」

 ノリカのその言葉はこっそりと子役ダンサー時代の経験も含まれていた……。

 コウスケは再度、コールドゲームの映像を見やる。

 超能力で相手をあしらい、不気味な笑顔でボールシュートを決めるヒデノリの映像……。

「ヒデノリ……。お前、こんな事やって楽しいのか……?」

 コウスケは眉間を狭め、険しい表情で黙り込む。


 一方的な試合はその後も続いた。

 もはや、ゴールはボールのサンドバック状態。

 相手・聖アスリート学園側はのらりくらり走り回り、疲労するだけ。

 一瞬とて、相手のボールを奪えない有様。

 サッカーエリート連中に徹底的に屈辱を絶望・無力感を与え、ヒデノリ達エスパーイレブンは勝利を飾った。

 15対0の大大大圧勝であった!

 観客という形になっているベンチの控え選手達はひそひそと「ザマァみろ、レギュラーのカス共」と嘲笑に耽っていた。


「っだーーーーーーーーーーっ!」

 人一倍、己をサッカーエリートと自負するダイスケは怒り狂い、拳を地面に叩き落とした。

「くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! あり得ねぇ! 相手がエスパーではあっても、この俺様達が……親に英才教育を施された俺様達サッカーエリートが負けるだとぉっ!!?」

 ダイスケに呼応され、憤慨に悶えるサッカーエリートの面々。

 当然である。誇り・自信……今迄積み上げたものを崩壊させられたのだから。

 そんなダイスケ達を人型の影が覆う。

 ……勝者、エスパーチームの一同である。

 嘲笑堪えた、爆発しそうな憎たらしい顔のヒデノリ達が膝を地に着けた相手を見下す。

ヒデノリは以前自分らを侮辱した相手、球城ダイスケらを、ある言葉を悪辣な笑みを添えて、プレゼントする。

「なぁ、お前ら、この試合で俺らからボール取ったこと、あったっけ? ……あ! ゴメン、無かったよなぁ~。わざわざ聞いてゴメンなぁ~。ハハハハッ!」

 ヒデノリ達は馬鹿笑いを撒き散らし、更なる屈辱・不快感を送信。

 すると、食って掛かるかのように、ダイスケ達は吼えた。

「ざけんなクソがぁ! 超能力使えば勝てるの決まってんだろこのタコ!」

「そうだそうだ! 卑怯過ぎんだよ!」

「正々堂々と戦えー! インチキ軍団が!」

 聖アスリート学園サッカー部の面々は揃って、猛抗議に出た!

「はぁ!? 何言ってんのお前ら。テレポーテーションやサイコキネシスを使っちゃいけないルールなんて無いぜぇ~?」

 冷淡な顔を近づけ、刺殺するかのようにヒデノリはダイスケに反論を放射。

 確かにその通りではあるが……。と、口篭る一同。

 そうしている間に、ヒデノリに次の言葉=辛辣なトドメの一撃が強襲!

「つーか、お前らだけには言われたくないし。お前らだって卑怯って言えば卑怯だろ? 何せ、サッカーの英才教育を施して貰える環境に運よく生れたからなぁ」

「そうそう、正々堂々するんなら、スポーツ始める時や教育環境が同じじゃないとなぁ~」

「はいはい、ブーメラン、ブーメラン!」

「今月の“お前が言うな”大賞受賞作だなこりゃ、クハハハハッ!」

 最後に、中央のヒデノリが、一歩前に出て、惨めに膝を突いているダイスケの胸倉を掴み、捻る!

 咄嗟の事な為、ダイスケは怯え、ビクつく。

獰猛な眼をしたヒデノリらに……。

「俺達はお前らと違い、スポーツを知るのが遅かった……。スポーツをみっちり指導してくれる人と出会えなかった……。何もかも不利な条件……。分かったか! 努力でどうにも出来ない格差の悲惨さをなぁ!」

 

 ――ヒデノリ達は無念の日々を思い起こす。

 幼少期=父親とスポーツ出来る環境の同年代の少年を見て、指を咥えていた事。

 少年期=努力しても追いつけない。スポーツエリート相手に完敗される日々。

 青少年期=スポーツエリートに負けたままでは悔しいので、何度も挑むが、敗退する日々。

 ……特にヒデノリは幼い時に父を亡くしている為、余計に羨ましい・妬ましいのだった。


 今、そんなヒデノリがダイスケに頭突きをかまし、掴んだ胸倉からダイスケを投げ飛ばす!

 ダイスケは地面に叩き落された!

 痛みに唸りつも、再起していくダイスケ……。

 そこへ、ダイスケ達を囲み、木霊する侮蔑嘲笑のラッシュが飛び交う。

人生最初で最大の屈辱を痛感するダイスケ達であった。

「ち、ちきしょぉぉ……」

 喉を潰すかのように、屈辱にのたうち回るダイスケ達……。

ヒデノリ達エスパーは満面で、悪辣で、正直な、歪んだ笑顔に溢れていた。


 ……その時である。

「お前達、それで満足したか?」

 響く電子音声。

「こ、これはまさか……」

「深大寺さん達が言ってた……」

 警戒/身構えるエスパーアスリートの衆。

味方により、この声の正体は把握している。

 予想通り、Cオライオン、Gバンディッタ、Lシュヴァリエ、ウィザースロット、エンゼクロスが出現! 5機は燦然と並び立った!

「来たか……TD」

 ヒデノリは眉を捻り、ファイティングポーズを形成した。


03


 対峙する5つのTDと11人の超能力者。

 中央の緑のマシン、Gバンディッタが一歩前に出る。

「楽しかったか? お前ら。スポーツエリートをボコボコにして」

 Gバンディッタを通して、コウスケはエスパー達=ヒデノリ達に訊きたい事があった。

 だから、前以てテツト達に伝え、こうして主張を始めた。

 ヒデノリ達はニタリと邪悪な笑顔で応じる。

「おう! 楽しかったぜぇ!? そうれがどうかしたかぁ?」

「これでもう、満足出来たか……?」

「満足? 冗談だろ? まだ足りネェよ!」

 ヒデノリは歪んだ顔で空間へ叫んだ!

「ワリィけどよぉ。この程度じゃ全然気が晴れないんだよ!」

「そうだ! そうだ! 俺らが受けた怒りはこの程度で治まらねぇ!」

 エスパーチーム11人は不平不満を吐き散らす。

「そうだなぁ~。こいつらには2度とスポーツ出来な身体にでもしないとなぁ」

「そうそう、他人がスポーツ出来るのに、自分は出来ない悔しさ位、与えねーと!」

「リハビリさせて、その間スポーツ出来ない悔しさとブランクを与えるってのも面白れぇな。徹底的に凋落させてやる!」

 ヒデノリはくしゃくしゃに歪んだ笑顔で、鼻を突き上げた。

「つー訳で、足の1本・2本折らせて貰うぜ!」

 エスパーイレブンはダイスケ達目掛け、突進! 魔手を伸ばす!

 ヒデノリは右腕をキャノン砲に変換。エネルギー弾を放射する。

「う、うわぁああああっ!」

 ダイスケ達スポーツエリート連中は怖れおののき、咄嗟に両腕をクロスし、身構える。

「チッ……」

 Cオライオン、早撃ちガンマンの如く、瞬時にビームマグナムを構え、発砲。

 ビーム弾がダイスケ達へ襲来するエネルギー弾から真っ向激突し、相殺させた。

「やはりこうなったか……。柄にもない実験などするものではないな」

「全くだよ」

 隣にLシュヴァリエらが並ぶ。

「悪は所詮悪。改心する事などあり得ないのさ。あるとしたら、元来善人な存在が嫌々悪事をやっているような場合のみさ」

 ヨシヒロはLシュヴァリエを通し、自論を述べた。

「……そうだな。よし、戦闘だ! 流石に相手にとって取り返しの利かない致命傷を与える事は認められん!」

 テツトの指示の下、5機のTDは散開! 

今度こそ戦線に乗り出す!


04


「うぉりゃぁ!」

 コウスケの操作により、Gバンディッタは腕部に内蔵されたアンカーを発射!

 ヒデノリの右腕にアンカーのワイヤーが巻き付き、捉えた!

 そのまま、ワイヤーを引き戻し、ヒデノリを引き寄せるメタリックグリーンの海賊TD。

「く、このっ!」

 ヒデノリは左腕を突き出し、腕を日本刀に変身させる! 

 鋭利な刃と化した腕で、ワイヤーを切り落とす!

 が、これもGバンディッタ=コウスケの計算のうち。既に必要なまでに接近していたヒデノリの両脚を自身のから伸びたモノ=アリゲーターハングで掴み、両手でヒデノリの両腕を掴み、押さえつけた!

「なぁ!」

「何だよ!」

「お前、さっきの試合、楽しかったか? あんな勝ち方して楽しかったか!?」

 Gバンディッタは真摯な眼差しで、相手に疑問を投げた。

「楽しかったよ! 今迄勝てなかった相手をボコボコに出来たんだ! 楽しくない訳がねぇ!」

「……そっか。そうだよなぁ」

「だろ?」

「……でもなぁ」

 コウスケはわなわなと歯軋りをする。

「んあ?」

「ずっとそんな勝利ばっかだとどうだよ……? 飽きて来ねぇか? 競技は正々堂々同じ条件でやるべきものじゃねぇのかよ!」

「!!」

「他人にやられて嫌な事やってんじゃねぇよ! お前、憎んでる相手と同類になってんぞ!」

 コウスケ、キーボードを叩きながら思いの丈をぶつける!

 痛烈な針を受け、ヒデノリは黙り込む……。


 エンゼクロスはアクロバティックな空中浮遊をしながら、エスパー相手にヒット&アゥエーな攻撃を繰り広げていた。

「くっそぉ! 邪魔すんなゴルァ!」

 石化=ゴーレム形態となり、タックルしに来る敵勢。

 華奢なボディのエンゼクロスはブースターを噴出させ、∞字を描くように回避。

 石化している一同は互いにぶつかり、地面に転落。

 ミヤは非常に困った顔をしていた。

「あの~、お言葉なのですがぁ~、皆が皆、親の影響を受けて、技術を施される訳ではないんじゃぁ……?」

 科学者の孫娘ではあるが、全く科学的な知識も技術もない少女・科学へ興味を持つ事の無かった少女は疑問を投げかけてみた。

「はぁ!? 何が言いたいんだテメェ!」

「いや……その、恵まれた環境にいるからと言って、優秀な人間になるとは限らないと言いますか……。その……結局はその人次第と言いますか……」

「だから何だ!」

「恵まれたエリートが嫌いな感情は変わんねーよ!」

「そうだ! そうだ! 恵まれた環境の奴がイイ思いしている限り、俺達は不平を言い続ける!」

 聞く耳持たず。鉱物と化した自身らの肉体の如く、エンゼクロスの一論を弾く!

 岩石人間達は攻撃を再開した!

 執拗なまでのタックル・突進のラッシュ!

「あ~ん、この人らと会話出来な~い!」

 ミヤ、涙目になるも、現在は戦闘中。

 即、戦闘に集中し直す。

「う~ん、しょうがないなぁ……」

 エンゼクロスの腰から伸びたウイングのハッチが開き、超薄型で細長いミサイルが露出!

 それらが発射される!

 これらミサイルはホーミング機能を持ち、センサーが認識した標的=岩石人間と化した異能者を容赦なく爆撃! 

激しく飛び交う後、巨大な爆煙が散らばった。

 ……煙が退いていく。

 その中には人間の姿に解除され、気絶しているエスパーの面々が。

 まさに恰好の餌食でいる状態。

 輝く電光の弓矢!

エンゼクロスはトドメのコンバートアローを放った!

 全ての敵を射抜き終え、パールホワイトの天使型TDは地面にスッと降りた。

「う~ん、そんなにスポーツ選手になりたかったのかな、この人ら……。他に夢、無いのかな……?」

 ミヤはエンゼロスを通して、素朴な疑問を天へ飛ばした。

 反って来る事なき、疑問を……。


 Cオライオン、Lシュヴァリエ、ウィザースロットはそれぞれ背中を合わせ、自分達を囲むエスパー達に身構える。

「にしても、凄い殺気ね……いやぁ、圧倒されちゃうわぁ~」

「悲しいものだよ全く……。戦っても、彼らの怒りを消すまでのことは出来ない……ヒーロー番組みたく、ハッピーエンドに出来るかなこの一連は……?」

 ノリカとヨシヒロは只ならぬ殺気・怨念に、苦笑いながらも圧倒される。

 テツトだけは涼しい顔で策を思案……。

「よし、一気にデータコンバートだ! フォーメーション13!」

「OKぇ~!」

「フフ、あれだね。了解だよ」

 Cオライオンはそのまま待機し、Lシュヴァリエとウィザースロットは正反対方向に駆け出す!

 ウィザースロットは走りながら脚部ハッチを開き、カードビット8枚を射出!

 周囲へカードは広がって、飛び進む!

ちょこまか動き、敵の目を錯乱させる。

「くそ、鬱陶しいな……」

「潰せ! 切り裂かれるぞ!」

 うち1人の指示の下、腕をキャノン砲と化すエスパー連中はカードへ狙いを定め、発砲!

 しかし、カードビットは表面で完全防御・側面で弾丸を両断したりと、駆逐し、そのまま敵勢へ突き進む!

「やられるかよ!」

 気を昂ぶらせ、身構える超能力者ら。

「へ?」

 ……だったが、カードビットは自分達へ攻撃をするのではなく、通過するだけだった。

 どういう事か理解出来ない一同。

 呆気になる彼らは通り過ぎていったカードビットを「こいつ、何処へ行くんだ?」と、見送った。

 そんな彼らの背後には既に閃光の弾丸=コンバートショットが来客していた!

「あ……」

「クソ、フェイクかーっ!」

 彼らが連携作戦だったと知った、その時には既に0と1に変換されていたのだった。


 反対側の敵陣へ、果敢に飛び込む光の騎士=Lシュヴァリエ!

 キャリバーを構え、斬りかかる! 

……にしてはまだ距離がある。

 攻撃体勢を取っているだけだと思ったエスパー連中だった。

 ……しかし、Lシュヴァリエ=ヨシヒロはその予想に反する事をした。

 柄の部分が倒れ、キャリバーの半分が上下反転し、刃の代わりにビームパネルもとい、銃口らしきものが露出!

 まごう事なき銃=ライフルモードへと変形した!

「拙い! あいつ射撃するぞ!」

 1人の超能力者が看破したのはいいものの、既にトリガーは絞られていた。

 走りながら、射撃して来るLシュヴァリエ!

 慌てて、逃げ惑う敵陣であった。

「やられっぱなしでいられるか! 囲むぞ!」

 一同、テレポーテーションし、左右、後ろ、真上が無防備なメタリックシルバー&イエローの機影へ襲来する!

「フフ、来たね!」

 Lシュヴァリエは肩・脚のマニュピュレーターを展開!

 その先端からビームソードを噴き出す!

 キャノン砲の腕から放たれる実弾を切り裂く! 切り落とす!

「く、くそぉ……」

「ギミック、有り過ぎだろこいつら!」

「あぁ、まだ使っていないギミックも沢山ある」

 その声の発生主=テツト=Cオライオンのハンドマグナム、ショルダーマシンガン、レッグミドルライフルの総射が容赦なく出向いて来た!

 その乱射は虚空にオリオン座を描いた。

盛大に轟く銃撃音!

 10秒後、その周辺には3機のTDとグラウンドに散らばってあるメモリーカードのみが存在していた……。


05


 戦闘も残すトコ、Gバンディッタとヒデノリの1戦のみ。

 バズーカ砲撃や、アンカーを腕に固定したまま、ナックル攻撃をしたりと、近接戦闘と射撃の両方を行うGバンディッタ! 

 ヒデノリも左腕の電動ノコギリ、右腕のガトリングで接近戦&射撃線を披露。

 Gバンディッタが鋭い碇部を向け、殴りかかる!

 ヒデノリは寸前で回避! 

ガトリングの雨を至近距離で放つ!

 Gバンディッタ、上半身を横へ回し、潜水艦を着込んだような造形の胸部にある、前方中央のタービンを回転させる!

 ストームを巻き起こし、相手のミサイルを吹き飛ばす!

 そうしている間にヒデノリがGバンディッタの後ろへ回りこみ、電動ノコギリを振り被る!

 唸りを上げ、回転する刃!

 なんの! と、Gバンディッタは開いている腕を突き出し、腕内のアンカーをシュート!

 ヒデノリ諸共弾き飛ばす!

 ―――激しくぶつかり合うGバンディッタとヒデノリ。

 肉体強化はされているものの、サッカーの試合を、超能力を使った後での戦闘。

 流石に疲弊し、呼吸が荒くなる。

 ヒデノリは地面を蹴り、後退。一旦停止し、荒い呼吸を整え、休息。

「ハァ、ハァ……」

 Gバンディッタも有限な電力で動いているので、今後のペース・セービングを考え、相手と同様動きを止める。

「なぁ、お前」

「何だよ、しつけぇな」

「さっきの試合ははさぁ……あれだよ、いい年した大人が子供を甚振って勝ち誇ってるようなモンだぜ? 流石にみっともねぇだろ!」

 目元を歪ませ、ヒデノリは斜め下へと唾棄する。

「……あぁ、んな事は分かってるよ!」

「……何?」

「でもなぁ、あいつらスポーツエリートだって、同じ事やってるじゃねぇか! 自分らより経験値や教育環境の劣る相手、フルボッコにしてドヤ顔かましてんじゃねぇか! それでいて、“僕は天才じゃありません。努力の人間です”とか、のたまいやがる!!」

「それは……」

「あいつらは他の人より小さい時から、しかも親に本格的なスポーツ教育されてるズルイ立場のクセしてよぉ! スポーツマンなのに、正々堂々としてねぇじゃねぇか! ムカツクぜ!」

「確かに正々堂々じゃないのは分かるけど……」

 口篭るGバンディッタの電子音声……。

コウスケには言い返す言葉が見つからない。

「だからなぁ! 天罰を与えてやってんだよ! 今迄優位な立場から弱者を虐げた悪人共にな! その為にはなぁ、同じ穴のムジナになるしかねぇんだよぉ!!」

 猛獣の如く顔を歪ませ、ヒデノリはGバンディッタの背後へテレポート!

「く……」

「終わりだぁあああああっ!」

 ヒデノリの腕=電動ノコギリが空中へ登り……振り下ろされた!!

「んなろっ!」

 即座にGバンディッタは地面を蹴り、身体を回転! スレスレで回避!

 次いで、バズーカの砲身を棍棒のように使い、上から天誅を下した!

「ガハッ!」

 鈍重な鉄槌を受け、ヒデノリは地面に叩き落された!

 Gバンディッタ=コウスケはバズーカの砲身をヒデノリからゆっくりと放す。

「なぁ……虚しいだけだって、圧倒的に勝ち続けたって。優位な立場の奴らには、そいつら同士で高レベルのゲームさせりゃいいじゃんか。住み分けっつーかさ」

 柔和な口調で諭すGバンディッタを見上げるヒデノリ。

「お、お前……」

「でもって、プロの試合見て、『スポーツエリートの癖に情け無いぞ』とかって、文句言えばいいじゃんか。それも結構楽しいって……」

 ヒデノリは俯き、表情が見えなくなる………。

「うるせぇ………」

 口篭り、唸るヒデノリ。

 思わず、身構えるGバンディッタ。

「うるせーーーーーっ!!!」

 空間に響き渡る怒号!

 唖然。ピタリと動きを止めてしまうGバンディッタ。

「嫌だね! 俺は……俺は優位な立場に立ち続けたいんだ! 勝ち続けたいんだ! 弱い奴をボコり続けてぇんだ!」

 羅刹と化したヒデノリの顔は一瞥を吐き飛ばし、テレポーテーションで消え去った。

「ヒデノリ……」

 Gバンディッタは荒れたグラウンドを見渡す。

 ビームなどの焦げ跡……。所々に散在するクレーター。

 何とも酷い光景。

これがサッカーグラウンドだったとは思えない程、混沌と化していた。

「………俺だって、スポーツエリートはズリィと思うけどさ……。でもさ………」

 Gバンディッタの鋼の拳は握られた……。ゆっくりと、篤く。

 そこへ新たな声が来客。

「あ、あのー」

 ベンチに身を潜めていた控え選手らが恐る恐るCオライオンらに歩み寄る。

「んん? 何か用か?」

「ぶっちゃけ、『ザマァ見ろ!』って思っちゃいました。球城らがボコられんのを見て」

「君達は……。もしかして、ココの控え選手かい?」

 Lシュヴァリエの問いに、正解を伝えるべく、控え選手達は首肯。

「はい……。球城らよりヘッタクソな連中っす。……でまぁ、紹介はそこまでで、本題なんですけど……。どうにかして英才教育、潰せないっすかね?」

「ん? 何でお前らがそんな事を言うんだよ? 球城らよりも下手っつっても、スポーツエリート校の生徒だろ、お前ら?」

 Gバンディッタは素朴な疑問を投げかけた。

 控え選手勢の中央の1人が息を呑み、頷く。

「……確かに、俺らは親に小さい時からスポーツ叩き込まれてこの学校に通う事は出来たけど、そのスポーツエリート同士でも熾烈な競争があって……。でまぁ、俺らは負けて控え落ちっす。プロなんかマジ論外っす。だからその、今迄の事が全て無駄になってんっすよね」

「何つーか、撃ち砕かれたんっすよ」

「もう、サッカー部辞めてリーマンになる為に勉強しようかって程に」

「努力はしたんだ……。小学校上がる前から親父のスパルタ教育に嫌々ながらもずっと耐えて来たんだ。けど、弱い。……多分、才能の差なんだろうよ」

「いや、親の教育の巧みさかもな。如何に無理強いにならないようにサッカー選手になる努力を継続出来る人間に精神誘導する親の手腕っつーか、教育者と相性良かった運っつーか………」

 5つのTDは黙々と彼らの涙ぐましい独白を聴き入る。

「だから、内心呪っちゃってんすよ。スポーツ選手になれないような奴にスポーツを叩き込んだ親を……」

「要するに英才教育なんか極一部の人間だけを勝者にするだけで、殆どがミスマッチな英才教育押し付けられて人生狂わされたり、英才教育を受けられなかった人間を不利にさせる酷いモノなんっすよ! 殆どの人間を不幸にするだけなんっすよぉ………」

 辛気臭い顔を俯かせて、彼らは主張を終えた。

「あ~、分かる、分かる。中途半端に入り込んじゃうと余計に何とやらよねぇ~」

 ウィザースロット=ノリカも親に薦められたもの=子役バックダンサーで上手くいかなかった経験がある。その為、自分と重なる部分があり、しみじみと同意。

「……成程。ご尤もだな」

 Cオライオン達は悲劇のサッカーエリート崩れ達の叫んだ苦悩を、しかと受け入れた。

「どうにかなんないっすかね……」

「例えば、気楽に子供だけで、大人の介入無くスポーツで遊んで、その中からプロになるっつーにするのは無理なんっすかね……。これなら、以前よりも文句はないし、辛い思いもしないと思うけど」

「残念だけど、今は……無理だろうな。今は……」

 Gバンディッタが弱弱しい声音でムナクソ悪い現状を渋々吐露。

「あんたらなら、何かスゴイ事出来そうだと思って、勝手に色々とブチ撒けました……。すんません」

「いや、気にするな。主張は自由だ」

 Cオライオンはそう諭す。

「じゃあ……」

 軽く頭を下げる一同はそう言い残し、控え選手もとい、英才教育に呪われし若人達はグラウンドを後にするのだった。

 5機のTDの持ち主らは物思うところがあって、沈黙を続けた……。

 直後に雨が深々と降っていくにも関わらず。



 その日の夜。鳳ラボラトリに寝泊ったノリカ・ミヤは寝室で睡眠していた。

 ミヤは慎ましく縮こまって寝ているが、ノリカは布団を蹴り飛ばし、ネグリジェをだらしなく、着崩したまま身体をゴロゴロさせる。

 案の定、ごろりとベッドから落下。

 その音を聞き付け、ヨシヒロが入室。

 ドアの先=床に寝そべるノリカを見て、爽やかに呆れた。

「やれやれ、またかぁ。はしたないレディーだなぁ……」

 柔和な表情で彼女を抱え、ベッドへ戻そうと図るヨシヒロはノリカをお姫様抱っこする。

 そのまま、ベッドへそっと戻す。

 まさに貴公子的振る舞いであった。

「むにゃむにゃ……。恵まれた環境も、そうでない環境も全部ウザイっつーの! んにゃむにゃ……」

 突如叫ぶ寝言に、ヨシヒロは軽い驚きを見せる。

「寝言か……。ダンスやっていて、辞めた過去と、スポーツエリートについての寝言かな? 意外と話さないんだよねぇ、この娘は自分の事を。被害者面したくないのかな?」

「うん、そうだよ」

 ミヤがいつの間にか起きていた。

 ヨシヒロはミヤの声に反応し、ミヤに目線を持っていく。

 そっとヨシヒロの両手がノリカの身体に布団を被せた。

「おやおや、君の方が起きちゃとはね」

 ヨシヒロとミヤはぼんやりと話をし始める。

「成程、金や権力を使って我が愛娘をゴリ押しする親を持つライバルに負けて、嫌気が差し、業界から去ったのか……」

「うん……。まぁ、元々お母さんに薦められたものだったから、未練はないらしいけど」

 ミヤの口より話されたノリカの過去にヨシヒロは感慨耽った。

「ナルホド。だから控え選手達に共感したのか……」

「うん……」

「ん? でも、何故彼女は僕を止めないんだ? 僕は彼女が去った業界へと進もうとしているというのに」

……ノリカは自分の話題で話をしている2人など気付かぬ程、呑気そうな顔で爆睡中。

「多分、他人の夢を奪う権利はないからじゃないかな?」

 ミヤは難しい顔をして友の意図を推理してみた。

「へぇ~。意外と気遣い屋さんだな。……さて、そろそろ退出するか。長居し過ぎたよ」

「お休み……」

 柔和な笑顔でヨシヒロはそっとドアを閉め、女子2人の部屋から姿を消した。


 同じ頃、テツトとコウスケは近所の模型店で車型競技玩具・コンパクトフォーミュラーを店舗コースにて走らせていた。

 テツトの青いマシンとコウスケの緑のマシンがデッドヒートの真っ最中。

 テツトのマシンはコーナーやループなどのテクニカルな箇所で抜きん出る。

 反対にコウスケのマシンはストレートで稼ぐ。

 接戦の末、ミリ単位の差で青い方=テツトのフォーミュラーが先にゴールラインを通過。

 テツトのコンパクトフォーミュラー勝った。

「あちゃぁ~。俺の負けかぁ。今回のセッティング、自信あったんだけどなぁ」

 2人は各々のマシンを手に取り、走行スイッチをオフにした。

「フッ、技術力では負けられんさ」

「言うなぁ。でも、これで俺の3勝5敗。ボロ負けじゃねぇ。次は勝つぜ」

「あぁ。楽しみだ……」

 テツトとコウスケは互いに爽やかな笑みを交わした。

 2人はノリカが集めるまでは親しい訳でも不仲な訳でもない、只のクラスメイト程度の間柄だったが、共に戦う同士になった際、小学生時にコンパクトフォーミュラーに熱中した者同士であると判明。以降、定期的に懐かしのマシンを掘り出し、遊んでいるのであった。

 本日のは気晴らしが目的である。

 テツトとコウスケは自分のフォーミュラーをボックスへ収納し、もう1つのコースで繰り広げている若手サラリーマン同士のレースを観戦する。

 赤いマシンと黒いマシンの戦い。

 赤いマシンがスタートダッシュでリードする。

 が、黒いマシンは加速。赤いマシンとの差を縮めていく………。

「よし、行けーっ!」

「そうはいくか! 逃げ切れ!」

 と、サラリーマン2人は童心に帰り、熱中・没頭。

 奏でられる走行音。抜きつ抜かれつの接戦。

その様子を穏やかな目で観戦するコウスケとテツト。

「いいよなこういう、不公平の小さいゲームは」

「まぁな」

 が、コウスケはふと表情を物憂げにしてみた。

「……けど、何でスポーツや人生は不公平ありまくりなんだろうな……」

「ま、トイホビーやカードゲームと比べ、スポーツは生まれながらの体格なども付きまとうからな。その上、教育環境も大きく左右する。人生も同じで多種多様な環境=手持ちカードがあるからな……。全く、運任せの理不尽なゲームだ」

「ホントそれ、運が左右する事なんて納得し辛いんだよなぁ」

 テツトはSボードを開き、現在時刻を確認。午後9時30分近くを回っていた。

「そろそろ帰るか」と、テツトは帰りをコウスケへ仰いだ。

闇夜に照る街灯………。

テツトとコウスケは無気力的に夜道を歩く。

「なぁ、テツト……。夜風って涼しいな……」

「まぁな……。む!」

 テツトはあるものを発見し、すっと立ち止まる。コウスケも釣られて停止。

「おいおい、いきなりどうしたんだよ?」

「……あれを見ろ」

 テツトが放るように指差したその先を見やる2人……。

 やや遠くより走って来る人間=ジャージ姿でランニング中の球城ダイスケであった。

「球城ダイスケじゃねぇか……」

 だが、球城は水溜りに足を取られ、水を被って転倒。

 しかし、即座にむくりと彼は立ち上がる。

「ふ、ふへへへ……」

 球城は不気味に顔を歪ませ、嗤い出す。

「大した事はねぇな。何せ俺はスポーツエリートだ。そうだ、エスパー共は何だかんだでTDがそのうち全滅させる。俺がサッカー選手として輝く未来は揺るがねぇんだ……」

 すると、彼の腕時計のタイマーが鳴る。

 その音を聞くや否や、挙動不審に球城は震え出す。

「くそっ! タイマーが! 時間通りにトレーニングメニューをこなせなかったぁ!」

 上下左右不気味に動き回る目に、何者かに操られたかのように不気味に踊る両手指。

「ヤベェ……。プロへと遠のく堕落の第一歩じゃねぇか。こうなったら、さっさとトレーニング再開だ! 怠けた分、取り戻さねぇと! メディアや家族の期待に応えなければならねぇんだ………。俺には、プロサッカー選手以外の人生は許されていないんだ!」

 一心不乱に球城はぎこちない足取りで再度駆け出した。

 そう、既にサッカー雑誌などで注目されている彼にサッカーから逃げる選択行動・サッカーで突出しない事など、もはや万死に値する話なのである。

 進んでいくうち、やや遠方の工事中区域を横切る。

 そこにあった迂回指示を担うロボットと一瞬だけ重なった球城ダイスケ……。

 そんな球城の姿を無言で見入っているテツトとコウスケ。

「何か……呪われてるって感じだったな……。今思えば、横柄な態度もプレッシャーの捌け口だったのかもな……」

「知ってるか? 一流スポーツ選手の中で、勝利後に笑顔で緩む奴はそのうちの極僅からしい。球城の奴はどうだろうな……?」

「うへぇ、まさにスポーツするだけのロボットだな。つか、英才教育で幸せになっている奴って、誰なんだろうなホント……?」

 物憂げな表情のテツト・コウスケは再度歩き進み、夜道へ消え入った……。

「なぁ、テツト……。夜風って、寒いな……」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ