EP.02 《混沌への入り口》
EP.02 《混沌への入り口》
01
Cオライオンが深大寺らと対峙する同時刻。
自衛隊基地。そこは戦車などの兵器の死骸が散漫としていた。
……にも関わらず、激しい戦闘音はまだ響いていた。
空間を飛び交うボロ戦車!
念力で戦車を振り回す少年の仰いだ指示の下、戦車は急落下!
その先には……。
Cオライオン同様の人型ロボット=TDの存在を確認。
こちらは騎士を髣髴させるデザイン。
メインカラー・メタリックシルバー、サブカラー・イエロー、クリアーブルーのセンサーを持つ。
装備は巨大なキャリバーをメイン武器に、Cオライオン同様肩や脚部にビームソードを先端に出現させるマニュピュレーターが折り畳まれている。
「可愛いねこの攻撃……。けどこの、【リュミエルシュヴァリエ】には通用しないのさっ!」
Lシュヴァリエはキャリバーを大きく振りかぶり、目の前へ迫る戦車を両断!
戦車爆散! 騎士自身の左右に火球を作るのだった。
岩鉄高校旧校舎階段にて、携帯ゲーム機のようなものを操作している5人の高校生。
そのうち1人=ヨシヒロは貴公子を演じる舞台役者の如く、高らかに叫ぶ。
「フフッ、素晴らしい切れ味だ。さぁて、Lシュヴァリエ! 畳み掛けようじゃないかっ!」
ヨシヒロはTDを遠隔操作する装置=Sボードのキーボードに自身の指を舞踊させた。
自衛隊基地にて、石化するエスパーはそのまま弾丸の如く特攻!
Lシュヴァリエに激突を試みる。
「次は石化能力か……。超能力は実に多種多様だねぇ~」
ヨシヒロはSボードの液晶画面に表示されている2つあるアタックモードを〔デス・アタックモード〕から、〔コンバート・アタックモード〕へ切り替える。
そのコマンド入力を受け、彼の愛機=Lシュヴァリエはゴーレムエスパーへ向って、キャリバーで切り込む!
剣と騎士の織り成すハーモニー。
吹き起こる乱舞! 空間に斬撃音が響いた!
……だが、岩石の肉体を持つエスパーは戦車のように真っ二つにされるのではなく、0と1の羅列で形成された切り傷を刻まれた!
「グァ、何だこれは……」
「フフ、コンバートスラッシュさ………」
妖艶に微笑む美男子ヨシヒロ。
次第に刻まれた0と1の切り傷は身体に広がっていき、遂には0と1で彩られた人影となった!
――その周辺で、また別の戦闘が行われている。
ズン! と、バズーカを構えるTD。
カラーリングはメタリックグリーン&ダークブルー、クリアーオレンジのセンサーを持つ、海賊型TD、その名は【グランデバンディッタ】である。
装備は右肩に背負ったバズーカ、両腕に内蔵されたアンカー、両脚にはアリゲーターハングキャノンを持つ。
Gバンディッタは電撃を操る小学生エスパー2人へ肩に背負ったバズーカを放つ!
巨大な光弾にあっという間に呑み込まれる2人はそのまま0と1になり、直後に飛来したメモリーカードに吸収・保存されるのだった。
「へへ~ん、大漁、大漁ぉ!」
鼻と口の間を指で擦る男。
Gバンディッタを操るコウスケである。
「調子に乗るなよ!」
「お前の動きは見切った! バズーカブッ放つだけの鈍重ロボだろ!? だったら!」
Gバンディッタの真横より、新たに2人のエスパーが挟み撃ちに来る!
2人は瞬間移動し、突如Gバンディッタの目の前に出現したのだ!
腕をガトリング砲に変換する超能力を使い、海賊ロボへ弾丸の雨を放つ!
「ハッ、嘗め過ぎだぜ!」
不敵に笑むコウスケ。
豆鉄砲攻撃など特殊装甲を持つGバンディッタには効かない。
Gバンディッタはバズーカの砲身で片方を叩き飛ばし、もう片方を開いた手で鷲掴みし、小さな玩具を捨てるかの如く、放り飛ばした!
しかし、一息着くのも束の間、今度は腕をハンマー化したエスパー3人が3方向から切り掛かる!
「ハン、やられっかよ!」
コウスケが叫んだ後、Gバンディッタの両脚からワニの口のようなキャノン砲=アリゲーターハングキャノンが展開!
獰猛な口を開き、相手3人へ口内にある砲身から砲撃をお見舞い!
2人は回避するが、1人はコンバートキャノンの餌食になり、データ化していく。
その上で両腕に搭載されたアンカーをシュート!
ワイヤーに繋がれたアンカーが残り2人の超能力者を巻きつけ、捕え、そこからエスパー同士を激突させる。
相手が衝突に苦悶する今がチャンス! Gバンディッタがバズーカの銃口を回す。
巨大な砲身より放たれる極太の熱線!
コンバートバズーカを喰らった超能力者残り2名はその変換熱線の餌食となった!
受け持ちの戦闘終了。
Gバンディッタはバズーカを背中のランドセルへ連結させ、背部へ畳み、両腰スカートにあるカードケースから薄いメモリーカードを射出!
0と1に分解されていく3人分のデータへ差し込んだ!
3人のデータはメモリーカードへと吸い込まれていったのだった。
そのメモリーカードはブーメランの如く、Gバンディッタの手元へ戻り、その手に握られるのだった。
「ワリィな……。事が落ち着くまで眠って貰うな………」
フッと力を抜く緑の海賊型TD。
「そういやヒデノリの奴、どうしてるんだろうな………」
何処か儚げにGバンディッタの電子音声は呟いた……。
所変わって、警察庁本庁。
捻じ曲げられ、使い物にならない拳銃や防具――。
死には至っていないが、打撲痕が造られた警察の身体が横たわる周辺。
パールパープル&ワインレッドのボディ、クリアーイエローのセンサーを持つ人型ロボットの脚部のカードホルダーから巨大なカードが8枚ほど発射される!
そこに縦横無尽に飛び交う巨大カードがあった。
これはデータ化したエスパーを保存するものとは異なり、こちらは大きく、淵がブレードのように鋭利になっている。
その自立遊撃マシンのカードが空中に待機している超能力者達を翻弄。
「く、くっそぉ~。何だよこれ……」
身構えている間に飛び交うカード1枚の側面が1人の異能者を切りつけた!
「ぐあ!」
操っているかのように、鋼の指がくいくいと動く紫のTD。
「ふふん、どぉん? ウィザースロットのカードビットは?」
超能力者連中を翻弄するカードビットを操る魔術師型TD、【ウィザースロット】が燦然と立っていた。
操る楠ノリカはニタリと舌舐めずりをする。
「くそっ! こうなったら!」
飛び交うカードビットに、逃げ惑う一方のエスパー連中は一斉にテレポーテーション。
ウィザースロットの周囲に出現した! 接近戦に切り替えた。
「こんのぉ!」
「俺達の邪魔すんなぁ!」
囲んだ5人は拳を金属化させ、紫のTDへ殴りかかる。
ウィザースロットは両腕を広げ、袖から光の針=ビームニードルが飛び出す!
次に上半身を回転させ、押し寄せる拳に応戦!
回転しながら、針攻撃が吹き荒れる!!
“特殊な”針殺を受けた異能者は悶え、0と1の羅列と化していった。
ウィザースロットはニードルを袖内に戻し、脚部から扇状のカードコンテナをオープン。カードビットを回収した。
「ま、コンバートスティングってトコね。さっきのは……」
同場所にて、異能者を射抜く、電光弓矢が降り注ぐ!
白い装甲の右腕に固定された、弓矢型キャノン砲が光の矢を発射していく。
この腕の持ち主……パールホワイト&ピンク、クリアーグリーンのセンサーといった配色のボディを持つ、唯一の飛行型・天使型のTD、【エンゼクロス】だ。
トリッキーに動き回るそのエンゼクロスは同じく空中を動き回るエスパーテロ集団の仲間を撃破していった!
「ふん、だったらこれならどうだ!」
残る4人の異能テロリストは姿を消した。
……とは言っても、今回のはテレポーテーションでなく、存在はしているが見えなくなる=透明化能力を使ったのである。
「テレポーテーションだったら別の場所へ出現する筈……周辺に現われないって事は……」
エンゼクロスを操る鳳ミヤは戦術を立て、キーボードを叩く。
天使型TDの顔横のある、イヤホンのようなウイング状パーツが前方に回り込みをし、目元へ覆い被さる。ゴーグルとなった。
Cオライオンのゴーグルと同様、通常では見えぬ念力の波動や透明化した物質を捕捉出来るものである。
周辺を見回すエンゼクロス……居た!
右斜め30度と、左斜め25度の位置より、透明化したエスパーが2人ずつ襲来して来る!
これに対し、エンゼクロスの細い両脚のコンテナからリング状の物体を発進!
これはリングビットと称される自立遊撃武器である。
その、まるで天使の輪のようなリングは伸展していき、透明の敵へと駆ける!
アクロバティックに動くそのリングは透明の超能力者を輪の中へ入れるや否や、輪の直径を縮めていく!
ガシッ! と、鋼鉄の巨大リングに捕らえられる透明エスパー4人。
更に拘束されたまま、意図しない方向へ移動させられる!
リングビットに捕獲された透明化超能力者はそのまま縦一列に並べられた!
捉えられたエスパー一同は鳥肌を形成し、悪寒を察知。
自分達の目前に電光の弓矢を向けている白いTDが構えている!
放たれた! ビームアローが!
4人のエスパーが逃げようと思った矢先に葬られたのだった。
「ふぅ、ちゃんと戦えたぁ……」
ミヤはほっと胸を撫で下ろす。無事、初陣を遂行した故。
02
官邸内。喉を唸らす深大寺が居た。
「貴様の仲間が我々の仲間と対峙しているという事か……」
「そうだ」
冷然と立つCオライオンが銃口を向けながら、深大寺・倉岡へ闊歩していく。
「Cオライオン、2つ聴きたい事がある」
「何だ?」
「データ化された我々の味方は今、どういう状況にあるんだ?」
「簡単に言えば、脱出不可能の監獄に収監されている状態だ。データに身体が変換されているので、空腹・便意などは発生しない。死にはせん。不老不死の状態でヴァーチャル世界の無人島生活をするようなものだな」
「ほう……ではもう1つ、お前は我々の仲間は殺された訳では無いのだな? 復活させようと思えばさせられる………」
「正解だ。だが、貴様らの力では無理だな」
Cオライオンはそう告げた直後にトリガーを絞った。
データ化プログラムを撃ち込まんと、コンバートショットを放ったのである。
「ひぃいいいっ!」
涙をちびり、情け無い叫びを上げる倉岡。
しかし、深大寺はうろたえる事は無く、強気な顔をする。
「今はな……。だが!」
深大寺は倉岡を連れて姿を消した。
「お、俺達も逃げるぞ!」
と、残る数人も消え去った。
「逃げたか……ま、牽制しただけでも十分か」
脅威は去った。
存命している、血祭りにされた政治家達は安堵に浸る。
「ふぅ、助かったぁ」
Cオライオン、政治家連中の方を見やり、全員存命を確認。次いで、歩み寄る。
「さて……ここからが本番だ」
静寂な空気に金属の足音が響く。
5秒ほどで政治家達の密集地帯に到着。
「あぁ、ロボット君。助かったよ。君が来なかったらあやうく殺されるところだったよ」
政治家達は完全に安心し切っていた。
彼らは賢い。
だが、彼らも所詮弱き人間。絶対的な恐怖から救ってくれた存在に安心してしまう。というか、警戒したところで、まともに歩けないほどボコボコになった状態ゆえ、抵抗など出来ない。
しかし、ハッと思い起こす。
この青いロボットは「わざと自分達をエスパーにボコボコにさせた」とのたまった事を。
思い出した頃には既にビームマグナムの銃口が自分らに向いていた。
「1つ言っておこう。奴らを作り出した原因はあんたら政治家にもあると」
「ど、どういう意味だね?」
政治家のうち、1人が怪訝な顔で問う。
「世の中、不公平があるのは仕方のない事かもしれない。だが、ある程度の是正は出来なくもないハズだ。奴らに殺されたくなければどうしたらいいか、分かるよな? ま、頑張ってくれ。あんたらの仕事だろ?」
Cオライオンを通したテツトの主張。
電子加工音声なので、特定など不可能な声でそう促した後、Cオライオンは0と1になり、姿を消す=データ化回収された。
政治家達は唖然となり、暫し沈黙に溺れたのであった。
同時刻、自衛隊基地のLシュヴァリエとGバンディッタも同様に消え去る。
警察庁のウィザースロットとエンゼクロスも同じく。
官邸・警察庁・自衛隊基地に待機していた無色の衛星機も飛び去り、退却。
これらはTD同様、テツトらの保有物・ステルス衛星機で、敵の監視追跡や、戦闘における視点をテツトらTDコマンダーへ与え、補助する役割などを持つ優れものである。
――5機のTDは帰還した。
テツト達5人の持つ端末機=Sボードによって……。
ミヤが持つ、シルバー&ピンクのSボード画面にエンゼクロス。
ノリカが持つ、シルバー&パープルのSボード画面にウィザースロット。
コウスケが持つ、シルバー&グリーンのSボード画面にGバンディッタ。
ヨシヒロが持つ、シルバー&イエローのSボード画面にLシュヴァリエ。
そして、テツトの持つ、シルバー&ブルーのSボードにはCオライオンの画面。
現在のTDはデジタルデータとして、このSボード内に保存格納されている状態であった。
戦いは一旦幕を閉じた。
旧校舎階段に居る5人=テツト達は一息つく。
「ふぅ、取り敢えず戦闘終了ね。あ~チカれたチカれた~ぁ」
ノリカはおっさん臭く首を鳴らす。
威風堂々と両腕を汲んでいるテツトが場を〆んとする。
「ま、実戦でこのぐらいやれれば上出来だろう。……これから徐々に潰していくぞ!」
4人は凛とした顔で首肯。
「おうよ!」
片方の掌へ豪快に拳を撃ち付けるコウスケ。
「格好よく、イケメンヒーローの僕が成敗していくさ」
モデル立ちをし、白い歯を輝かせるヨシヒロ。
「エスパーが支配する世の中なんて冗談じゃないっつーの! 絶対、潰すし!」
爺臭く、面倒そうな顔で首を鳴らすノリカ。
「うん……頑張ろうね!」
最後に、ミヤは皆へ向って、内向きにガッツポーズをとった。
03
――TDとエスパーが戦いを繰り広げたその日の夕方。
夕陽に染まる廃工場。
ここには深大寺達エスパーテロ集団・RPが集っていた。
負傷している彼らは回復能力を持つ女性エスパーからヒーリングを受け、休養を取っていたのだった。
「大丈夫ですか? 深大寺様?」
「あぁ、根本君、君のヒーリングのお陰でな」
ほっと安堵する椹木という名の回復超能力を持つ女性構成員。
「……で、どうしますよん? 奴らTDを……合計5機あるようですけど……」
しけた顔で倉岡は指導者へ今後の事を問う。
深大寺は顎を摘み、深刻な面持ちとなる。
「ふむ。そうだな……奴らは我々の障壁となる存在……だが、強い。我々は既に出向いた舞台の大半を奴らに滅ぼされたのだからな……」
「もしかして、諦めるとか言わないですよねん? 冗談じゃないですよん! 恵まれた環境でエリートになった坊ちゃん共の惨めな姿を見るまでは消えられませんよぉ!」
倉岡は激昂しながら、思い起こす。
自身が金持ちエリートを妬む所以を……。
倉岡は現在26歳。
エスパーになる前は大手商社で営業マンをしていた。
彼はごく普通の家庭に生まれ、3流大学を出て、数々の就職試験に挑み、ようやく採用された1つの企業で一所懸命働いていた。
……しかし、努力虚しく、彼は冷遇されていた。
同年代の高偏差値大学出身の社員からは「お前、低偏差値クソ大学出身の癖に、よくこの会社に就職出来たなぁ」とイジメ=所謂アカデミックハラスメントを受けていた。
彼は芸達者な性格で、口の巧さを駆使して学歴差別をする連中を見返そうと思った。
結果として、彼らに負けない営業実績を積み立てていった。
しかしそれでも、差別・苛めは無くならなかった。
社員として納めている成績は大差ないのに……。
それだけならまだしも、高学歴の同年代社員との出世競争にも負けてしまう始末。
成績に大差は無い。寧ろ若干倉岡の方が秀でている。なのに、この仕打ち。
理由は分っていた。出世競争に勝った相手は会社重役や取引先などのと血縁関係=癒着コネ持ちであった。
倉岡は理不尽を叫んだ。
くっそぉ、何がコネだよぉ~。
ムキキのキー! 冗談じゃないよん……。私が彼らより社員として劣っている所なんて無いのに。
と、何度も吐露。……倉岡は屈辱にのた打ち回ったのだった。
そういった経緯ゆえ、エリート潰しを実現せずにはいられないのである。
―――現在……。
倉岡は地面を憎き相手と見立て、チンケながらも、蹴り続けている。
「安心しろ。断念という文字は私の脳裏に存在しない」
「ですよねぇ~ん。その言葉を信じてましたよん!」
満面な笑顔で揉み手を繰り返す倉岡。
「しかし、奴等は強い。ゆっくり弱点を探っていく事にする。戦う場合、流石に拙いと思った時は逃げることを念頭に置け!」
残り・合計900人ほどいる、エスパー一味は無言で指導者の命令に御意した。
04
一方、テツト達5人は自転車で学校から帰っている途中であった。
「あ~、チカれた、チカれた~」
首を鳴らすノリカの目にある店舗を捉える。
メイドカフェを発見。全員自転車のブレーキをかける。
「あ、メイドカフェ! ちょっと寄ってかな~い?」
コウスケは嬉々と指を鳴らした。
「お、いいねぇ~。初陣の疲れをメイドに癒して貰うってか?」
ミヤも笑顔で頷いた。
「うん! 行こ行こ! カオリに会いたいし! 今日、働いてる日だもん」
「悪いけど、僕は水しか飲まないよ。無駄にカロリーは摂取したくないんだ」
ヨシヒロは鬱陶しい長髪を弄りながら主張。
「俺も水で十分だ……」
両目を閉じ、両腕を組んでいるテツトは歩きながら前以て言っておく。
「あ、そ。まぁいいわ。決まりっ! 『メイド・にゃんころ♪』へレッツらゴォー!」
5人はメイドカフェ・入り口へと向う。
が、入り口前の段差に、ミヤは躓き、転倒。
ミニスカートからパンツが捲れ上がってしまう。
「んぎゃっ! ……痛たた………」
ニンマリと笑うノリカ。
「わお♪ ミヤったら、セクシー」
「うぉおおっ!?」
コウスケは思わず赤面。
見てはならぬが、見たいものを目にしたのだった。
彼は普通に下心を持っている男のようで、こっそりと、内心悪いなと思いつつも、ミヤの薄ピンク色のパンツ及び、むっちりとした尻肉を脳内保存しておくのだった。
「フ、僕は空を見上げている……。今日の空は僕の次に美しいね……」
さらっと、紳士的に、「自分はパンツを見ていない」と、主張するヨシヒロ。
「この事態は短いスカートを履いていた点及び、足元への不注意が招いた。……ま、自己責任だな……」
しれっと箴言し、両眼を閉じているテツトは淡々と入口へ歩いていった。
「ご尤もだねぇ~。こういうので、『いや~ん、見ないでエッチィ~』と暴力振るわれたりするのは不条理だしねぇ……」
ヨシヒロは爽やかな冷笑し、テツトの後に続いた。
ハの字になる眉毛。しょげた顔で唇を尖らせるミヤ。
「……いや、あたし別にパンツ見られても暴力は振るわないんだけど……」
怪訝な表情でスカした仲間の男2人を凝視するノリカとコウスケ。
ノリカは眉を捻り、首を傾ける。
「我らがリーダーさんは何が言いたい訳?」
「あれじゃね? パンツ見られても怒るなっつーか」
「え? そういう解読?」
「間違いねーって」
コウスケとノリカ、ぐだぐだ喋りながら、店内に進むのであった。
客入りの少ない現在の店内の、大きなテーブル席へ腰を落とす5人。
そこへメイド=ノリカとミヤの友人=川元カオリが注文を取りに来る。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「うむ、只今帰ったぞカオリ君!」
ノリカは男装の麗人のような、低音の声音を作り、“ご主人様”を演じる。
「すっかり板に付いてるね、カオリ」
ミヤが柔和にアルバイト中の友人に話しかける。
「まぁね♪」
ストレートロングヘアーのメイド、カオリはにっこり笑み、
「では、ご注文をお伺いますが……」と、注文に入った。
―――10分程度の時間が経過。
テーブルにはパフェなどの食べ終わった、食器のみが並ぶ。
試着室のカーテンが開き、チャイナメイド姿のノリカとミヤが登場!
「ふっふ~ん! どぉん!?」
「に、似合うかな?」
自信満々に胸を突き出し、モデルポーズを採るノリカに、嬉しそうな赤面でもじもじするミヤ。2人の太股がチャイナドレススリットからチラリと覗かせる。
「わ~、2人共、似合ってる~」
ノリカとミヤに予備のメイド服を借用させたカオリが嬉々とカメラで写真を撮る。
「ふふん、このノリカ様は何着ても似合うに決まってんじゃん? 男子達、どぉ、これ?」
只ならぬ自信を持つノリカは豊満な胸を突き出し、連れの男子3名に評価を仰ぐ。
テーブル席に座っているコウスケは恍惚な表情で2人を見つめていた。
胸の谷間ときわどいラインまで見える太股……。
健全な男子高校生にとって、あまりにも刺激的であった。
「お、おぅ……。イ、イイんじゃね?」
コウスケはちゃっかり、脳内保存し、今夜のオカズにしようとこっそり決意するのだった。
「ふふん、当然っしょ! ……って、残り2人の反応は?」
「無いと思うよノリカちゃん、あれ見てよ……」
「んんっ!?」
ミヤの言う事を確かめるべく、ノリカは残り2人=ヨシヒロ・テツトを散策した。
ヨシヒロは写真撮影場の鏡に映る美麗な自分自身を凝視し、次々とヒーローポーズを行っている。
実に熱心だ。無駄に思えるほど……。
「う~ん、あのポーズも、このポーズもどれも素晴らしい……。しかし、ヒーローポーズは欲張るものじゃない……。どれかを取捨選択しなくては……。あぁ、悩ましいよ全く」
唖然と顔を引き攣らせるノリカ・ミヤ・カオリ。
次にテツトへ目を向ける。
テツトは淡々と先程の戦闘映像を凝視していた……。
黙々と戦闘を振り返り、今後の戦闘の為にも分析を行っていた。
あぁ、こちらもですか……と、言わんばかりの呆れた反応を示す女子3人。
「な、何やってんの、アレ?」
唯一事情の知らないカオリは素朴な疑問を呟く。
「ロボットの設計……かな? 次のロボットコンテストの……」
ミヤは何とかそれっぽい言い訳を捻出。苦笑いを交え誤魔化しに入った。
「あぁ、成程ね~。連覇を狙うって事ね」
言われてみればそうだな。と、しっくり頷くカオリ。
――今日は初陣も終わった事だし、後はゆったりするつもりであった………。
……しかし、そうもいかなかった。
テツトのSボードがエマージェンシーコールを受ける。
他、4人のモノも鳴り始める。
ヨシヒロ、ノリカ、ミヤは即座にテーブルへ集合。
「む、ステルスカメラが察知したか……」
テツトはステルス衛星カメラから送られて来た映像を見やる。
すると先程、テレビを賑わせた深大寺の部下のエスパー集団の仲間が出現し、パーティ会場らしき所で大暴れし出すではないか。
「エスパーなら何やっても許される世界になるのも時間の問題だ!」
「俺達の恐ろしさを教えてやる!」
……と、盛大に鬱憤晴らしを始めた。
テーブルに集まり、その映像を見終えたテツト達5人。
「成程……。牽制といったところか……。ヤツラの行動原理を察するにこのパーティ会場は丁度ボンボン共の集まりなんだろう」
「ちょっと、ヤバいじゃんこれ!」
「今すぐ止めにいこうぜ!」
ノリカとコウスケは出動を急かす。
真摯な表情で首肯するテツト。
「あぁ。流石にこの場合はな……。行くぞ!」
司令塔の命令を受け、真摯な表情の4人は御意。各々のSボードを構え、操作すべく、手を動かす。
「……にしても、何かシュールよねコレ。遠隔操作式だから移動しなくていいから、こうなるんだけど……」
アクション創作物では一斉に駆け出すなどするのが通例。
ではあるが、この5人の持つTDには不要。
そのズレた行動な為、ノリカは寒い笑いを浮かべてしまうのだった。
「シュール? 便利と言え。便利と。こいつは都内限定でならどんなに離れていても遠隔操作は可能だからな」
テツトは厳然と訂正を述べる。
「はいはい、そうですね~」
苦笑いを交えノリカは流れを濁す―――。
―――辺り一面に念力や火炎・電撃放射の、超能力が吹き荒れる。
パーティ会場に破壊の嵐を巻き起こすエスパー一味。
掌から火炎放射させて、狂乱的な笑いを上げる幹部。
外見的に地味でひ弱そうな男ばかりである。
「ヒャッハッハハ! 最高の気分だぁ! こうも、本格的な破壊が楽しいとは思わなかった! 次は殺戮フェイズだぜっ! 見せしめに数人ほどは殺しておかないとな!」
高級ドレスを着用した女性へ火炎弾を発射するエスパー。
そこへ閃光の弾丸が乱入し、火炎弾を相殺する。
背筋がビクつき、反応するエスパー一同。
一斉に向いた視線の先=5つの機影・TDがあった!
「来たな! TD!」
中央の青いTD・Cオライオンは一歩歩み、言葉を続ける。
「お前らとは直接会うのは初対面だな。なので、言っておく。俺達はお前達全てを否定しない。憎き相手を多少甚振るぐらいなら許容する」
「何……?」
「つまり、無闇な破壊・牽制活動は止めて貰おう」
エスパー一同は「ああ言ってるけど、どうする?」と、1か所に集まり、談合する。
信用出来ねーよ。
いやでも、あいつら、政治家をボコってるのを止めなかった実例があるぜ?
確かに……。
そうは言っても、俺らエスパーの楽園国家作りを邪魔する存在だ。戦うべきだろ。
それもそうだな。
ようし、殺ろうぜ?
……と、談合終了。
即座に5つの機影へ攻撃を開始!
Cオライオン、Lシュヴァリエ、Gバンディッタ、ウィザースロット、エンゼクロスは戦闘態勢に入る。
それぞれ、同数ずつの敵と応戦開始!
「やれやれ、悲しいよ全く。彼らはチンケな欝憤晴らし程度に留まってはくれないのか……」
迫り来る適を相手に、Lシュヴァリエは剣術を駆使!
次々とコンバートスラッシュで敵をデータへ誘った。
……しかし、真横のエスパーが姿を消し、騎士TDの真正面へ移動。真正面から透明化したエスパーが襲来!
Lシュヴァリエ、額の左端から左斜め上へ伸びているカッターのようなツノが折り畳まれていき、フェイスを覆う甲冑的マスクバイザーとなる。
Cオライオンのゴーグル同様、これにより、見えないものを可視化させる!
「学習が足りないなぁ。味方から聴かなかったのかい? サーチング機能を!」
キャリバーで敵の透明の拳を受け止め、その隙に脚部のマニュピュレーターを広げ、ビームソードを発生!
突っ込んできた相手を下から弧を描くように、コンバートスラッシュした!
「ずぅおりゃああっ!」
Gバンディッタは右腕のワイヤーで繋がれた腕部アンカーを発射!
その攻撃は残念ながら回避される。
続いてもう片腕のアンカーを放つ。
こちらも並外れたジャンプにより、かわされる。
「おし! 掛った!」
上空へ飛んだ相手に応じ、バズーカの向きを上30度に修正。コンバートバズーカ、発射!!
極太の光の一閃にエスパー勢は飲み込まれ、0と1になった!
Wアンカーの陽動作戦成功である。
両腕を突き出すウィザースロット!
腕シリンダーが回転し、ガトリングモードに切り替える。
腕周りの裾リングからビームガトリングが掃射される!
攻撃を喰らい、吹っ飛ばされていくエスパー戦闘兵一同。
「テレポーテーションして囲むぞ!」
「おう!」
現場リーダーエスパーの指示の下、一同は姿を消し、ウィザースロットの周辺に出現した。
「喰らえ!」
囲んだ6人の超能力者は火炎・電撃をパールパープルの魔術師ロボへ放射!
「ふふん、喰らわないっての! カードビットッ!」
脚部から扇状のカードケースがオープン! カードビットが発進する!
それらは表面を向き、火炎と電撃の〔盾〕となった!
瞳孔を開き、衝撃に誘われるエスパー勢。
「んなっ!? こいつは切り裂く武器だけじゃなかったのか!?」
「ふふん、その通りっ!」
ウィザースロットはジャンプし、エスパーの作った円から出る。
次いで、腕シリンダーを回し、今度はビームニードルを出現させる。
「はい、コンバートスティング!」
電光の針に貫かれた標的はデータ化のプログラムを打ち込まれ、0と1に分解されていった!
唸り上げ、超能力者達5人はそれぞれ、蛇・牛・ゴリラ・豹・鷲になる。
ビースト化能力を発動させた!
5匹の動物は天使型TD・エンゼクロスへ飛び掛る!
足の裏と翼先端のブースター、噴出!
エンゼクロスは軽快な身のこなしで、回避していく。
回避出来るのはいいもの、ちょこまか動く相手に照準を定め難い状況でもあった。
「う~んと、こういう時は……!」
ミヤは策を閃き、キーボードを叩く。
脚部装甲に収納されてある、拘束サポートアイテム・リングビットを発進させる!
捕獲を試みる!
巨大な輪っ渦が飛び込んでくる牛を通過させ、即座に直径を縮ませ。動きの鈍い牛をまずは拘束! 続いてゴリラも同じように捕らえた!
……しかし、残る蛇、豹、鷲は素早しっこく、中々捕まらない。
―――かに思えたが、何時の間にか3匹の真横を取ったエンゼクロスがアローユニットの弧=弓部を前方へ倒し、シザーモードにして一気に3匹をガッシリ挟む!
そしてそのまま、ゼロ距離コンバートアローを贈呈した!!
「ふぅ……」
データコンバートされた相手を見て、ミヤは安堵の息を捨てた。
折り畳まれた砲身が広がっていく=ショルダーマシンガン&レッグミドルライフルの銃身が光の反射で輝く。
更に、両手に構えるマグナム&胸部ベルト状のライフルが前方へ立ち上がる!
「一斉掃射だ!」
Cオライオンは身に纏う銃器を展開し、一斉にビーム弾を射出!
対峙するエスパー達へ放った!
もはや、逃げ道の無い程、空間を埋め尽くす乱射であった。
それはまるで、虚空に星座を描くかのような広大なショット……。
抵抗する間もなく、標的はデータへ“変換”されていくのであった。
―――戦闘終了である。5機は淡々と姿を消した。
メイドカフェ店内で、先程の戦闘を終え、一息を落とすテツト以外の4人。
「あ~疲れた」
「まさか、連戦するとは思わなかったよ俺」
げっそりとするノリカとコウスケ。
顔が一瞬、老化する程に。
「そうだな。それだけに、回復は小マメにな」
テツトはSボードの裏蓋を外し、単3電池2本を新しいものに交換し、Sボードを操作。
オートリカバリーを選択し、画面を〔 NOW RECOVERING 〕と表示させる。
「それもそうだねぇ~。んじゃ、僕も」
ヨシヒロ、ミヤはテツトと同様、バッテリー交換をし、各々のデータとなっている状態の愛機の回復を実行。
「じーっ……」
と、メイド店員、カオリがジトっと5人の所作を眺める。
その事に気付き、テツト以外の4人は仰天。
「わぁあっ! カ、カオリ!?」
「ノリカァ~、あんたら何やってんの?」
「ゲ、ゲームだよぉ……5人揃って戦うヤツ……」
苦し紛れに、ミヤはゲームだと言い張る。
コウスケも焦燥しながら、作り笑顔で頷く。
「そうそう、ゲーム、ゲーム!」
「僕達の、マイブゥームなのさっ!」
無駄に爽やかなイケメンスマイルを送るヨシヒロ。
「ふぅん、ま、いいけど、あくまでココはメイドカフェ、メイドで楽しんで下さいね、ご主人様♪」
快活な表情でウインクし、カオリはテーブルの空食器をお盆に乗せ、調理場へと、去って行った。
マイペースにSボードで、今回のまた新たな戦闘を振り返るテツトを余所に、4人は「誤魔化せたか……」と、萎むように脱力するのだった。