EP.01 《ロボットVSエスパー》 前編
プロローグ
――それはある日行われたロボットコンテストの事だった。
出場選手準備室。
自分が創意工夫込めて作ったロボットの最終調整に入っている。
その中の1人【星渡徹人=テツト】。
ややオールバック気味に頭髪を逆立てた端整なフェイスの持ち主の彼は、全長30センチほどの格闘ロボットを一旦分解し、最終確認を行っている。
「おやおや、埃臭い模型店で売っている安物のパーツばかりだねぇ~」
テツトの隣から嫌味ったらしい口調が割り込む。
無言でテツトは反応。
邪魔臭そうな前髪が真っ直ぐ前に飛び跳ねた小物臭そうな少年であった。
「可哀想に、良質なパーツを購入するお金が無いんだねぇ~。その点、僕は海外製の高級パーツを使用しているんだよ! 見たまへっ!!」
自分はお坊ちゃまであると言い切ったこの男は自分の机に置いてあるエントリーロボットを見せ付けた。
ティラノサウルスを模したロボットであった。
大きさは40センチそこらである。
輝く金属フレーム……。薫る良質金属の匂い………。
しかも、装飾も派手で、ゴールドメッキを牙や爪に塗装されてある。
「今更分解するのも面倒だから、出来ないけどモーターなんて、定価2万のハイブリッドモーターなんだよ? どうだい? 凄いだろう」
彼の自慢と裏腹にテツトは無視しており、無言で愛機を組み立て直している。
そのスカした態度に坊ちゃまは眉毛を歪ます。
「く……。フン、まぁせいぜい強がりたまえ。どうせ、優勝は僕だからね! ここに居る諸君! 今ここでハッキリ言おう! 今回のコンテストで優勝するのはこの僕だ! 敗北して惨めな思いをしたくなければ、すぐに辞退したまえ! 恥をかかさぬよう、エリートの配慮を受取るのだっ!」
他の出場選出は険悪な表情を示す。
何だこいつ……。敵意の視線が飛び進む。
「偉そうにしたければ、結果を出してからにしろ」
テツトはマシンを組み立てなおし終え、しれっと口を開いた。
「何っ……?」
「結果が全てを語るさ……」
そう言い残し、テツトは背を向け、出場ロボット&ツールボックスを持って退出。
坊ちゃまは歯軋りを奏でた。
「庶民の分際で生意気な……。だけど、吼え面掻くのは絶対あいつだ。僕は大手自動車メーカー・トヨハラ幹部の息子なんだぞ……。初出場・初優勝という栄誉は揺ぎ無いんだ……」
大会が始まった。
お坊ちゃまのエントリーした恐竜ロボットは高機動で動き、更には尻尾を発射し、飛んだ先のダンボール箱を突き刺す。
高評価が多く、優勝候補ではないかと会場内はざわつく。
しかし、テツトの人型ロボットは何と器用にも腰のホルスターから玩具の銃を取り出し、ガン=カタを採る。
終いにはバク転までもやってのけた。
まるでアクション映画俳優さながらの動きのキレであった。
会場はこのガンマンロボットに心奪われ、絶句―――。
評価が纏まり、結果発表の時間となった。
優勝=坊ちゃま、準優勝=テツトという結果に終わる。
観客やその他出場者は納得行かない様子だった。
恐竜ロボットも確かに凄かったが、ガンアクションヲスルロボットの方がレベルが上だろ?
おかしくね?
と、ざわめく。
反対にお坊ちゃまは満面の笑みで、優勝トロフィーを手にする。
その際、観客席に居る1人の老年男性が優勝した坊ちゃまへサムズアップを送る。
この爺さんは坊ちゃんの祖父にして、大手機械産業メーカーのCEOである。
早い話、この爺さんの根回しによって、孫の優勝が決定したのである。
自分の祖父へ勝利の笑顔を返す坊ちゃま。
彼はロボ発表前から・ハナから勝利を確信していた。
「ふふん。勝つ奴は最初から決まっているのだ。最初から恵まれていて、その上で努力する奴だ」
表彰台にて、テツトを見下ろし、一瞥する坊ちゃま。
「嬉しいか? セコイ手段で勝って」
怒りも尊敬も窺えぬ顔をしたテツトは淡々とそう話し返す。
「楽しいね。どんな手段でも勝てば正義なのさ」
「下らん……」
呆れ、溜め息を落とすテツトはそのまま、表彰式が終わるのを待つのであった。
この様子をピンク色の派手なスーツの男はじっくりと見ており、
「ふふ~ん。やはり、世襲エリートはクズだよ~ん」
と、呟き、そのまま会場を後にする。
―――夕方。会場近くの公園ベンチに座っているテツト。
小腹に菓子パンを食べていた。
そんなテツトに人影が被さる。
誰かが彼の元へ来た。
「いやぁ~、気の毒ですよん君は」
パンを食い終え、テツトは冷然とその声の主へ目を向けた。
「何がだ?」
「私、ロボットコンテストを観戦していて、偶然見たのですが、マスコミは優勝した君より、準優勝のお坊ちゃまの方を大々的に取り上げるそうですよん」
「下らん。マスコミなどどうでもいい。俺はロボット作りが楽しいから腕試ししただけだ」
意外に思ったのか、ピンクスーツの男は目を丸くする。
「ほほう、そうですかよん。……ところで、生まれながらに優位に立っている奴ってムカツキませんかぁ?」
ピンク色スーツのド派手な服装の男がいやらしく囁く。
「ほらぁ~、恵まれた環境なんてぇ~、本人の努力で得たものではない訳じゃないですか? それにおんぶに抱っこの人間ばかりがイイ思いをし、反対に我々庶民が不利な立場を味遭わなきゃいけないなんて、オカシイと思いません?」
曲芸師や昔のお笑い芸人の如く、派手な色の服を着たその男が、悪徳商人めいたマシンガントークを展開し、胡散臭い笑顔でそう問うた。
「確かにそうだな……。否定はせん」
その反応ににんまりと不気味に顔を歪めるスーツの男。
コテコテな揉み手を始め出す。
「ですよねぇ~ん。今や、学歴エリートは金持ち生まれが独占! スポーツ選手も幼い時に親に英才教育を叩き込まれたような人間以外なれいアリサマッ! 未だに根強く残るコネ! 何ともまぁ、夢の無い社会ですよぉ~。嘆かわしや、嘆かわしや……」
男は表情をわざとらしく酸っぱくし、道化師の曲芸の如く、不気味にダンスしながらそう、謳い上げた。
「――だ~けど、そんなのは努力不足の甘えとか思われちゃうんですよねぇ~。でも、そうだとしたら、な~んで、ここ最近居ないのでしょう。金持ち生まれじゃないのに、エリートに昇りつめられた人間・親にスポーツ叩き込まれなかったのにスポーツ選手になれた人間が。オカシイですよねぇ」
「そういった類の公式調査は見たことがある。……少し前までは少なからず居たらしいけどな……。確かに、去年=西暦2060年に入ってからは全くそういった人物は聞かない。全ての人間が不利な立場だからといって、諦めるとは限らんしな」
「これは〔囲い込み〕らしいですよん。金コネ持ち同士の癒着。同族がつるんで、席を独占し、下剋上を完全封鎖。んでもって、金コネ持ってない人を馬鹿にする。あ~、ヤダヤダ!」
「……で、結局何が言いたいんだ? 愚痴を言うだけではあるまい」
ややオールバック気味に髪を逆立てた青少年・テツトは冷然と答えを促した。
「察しがいいですねぇ~。流石、星渡テツト君、庶民生れながらも、卓越した技術力と頭脳を誇る存在です。先程の全国ロボットコンテスト優勝者が何よりの証拠です。……ですが、残念ですよん。貴方は素晴らしい技術力と知恵を持っていらっしゃいますが、社会は家柄やコネで評価して、貴方のような存在を過小評価する。汚~い、大人の社会ではロボットコンテストのようにはいきませ~ん……」
テツトはさぞ興味なさ気に、冷然と鼻で笑った。
「フン、御託はいい。結論を言え」
「ふふふ、そうでした、そうでしたぁ~。このコンタクトの目的……エリート共に復讐するチャンスを与えに来ましたよん。超能力を与えてねぇ!」
テツトは驚く事も嘲笑う事もせず、淡々と真偽を問う。
「ほう、それは凄いな……だが、勧誘は断る。興味が無い……」
「おや? 君は悔しくないのですか? 金コネ持ちが有意な世の中に」
「下らん。優位な立場に居ないと勝てない連中なんぞに劣等感は抱かん」
「本当ですかぁ~? 意地張ってるだけじゃないですかぁ~?」
「……あぁ、その通りだ。だが、俺はそれでいい……。自力で優位に立っている連中をブチのめす快感が味わえる。ロボットコンテストでは実際味わったしな」
淡白にテツトは一瞥を送り、背を向け、足を進めた。
「え~? これ、本当に参加しないんですかー! 勿体無いですよーん!」
後ろから響く男の声など、聞く耳持たぬテツト。
涼しい顔して公園から消え去った。
極自然にテツトは住宅街の道路を歩んでいく。
テツトはふと、ミッドナイトブルーの空を見上げた……。
「奴らが目指すのはエスパーが天下を取り、世襲エリートをこき下ろす……。優位に立つ存在を入れ替えた、エスパー格差社会とでも言うものか……」
テツトはノートパットのようなデヴァイス=スマートボードを手にし、画面を開く。
画面には左右に分割されたタイプのゴーグルを装着した頭部、胸部にタスキ状に左上から右下へ斜めに巻かれたライフルを持つロボットの設計図面のようなものが……。
その図面の上部に、
〔TECHNODOLL 001 COMMAND ORION 〕
と、表記されている。
ふわりと、夜風が吹いて来た。
周辺の木枯しを踊らせ、テツトの髪や服を揺らす。
テツトはエッジの利いた眼を細める。
「……悪いが、エスパー格差社会は撃破だ……」
テツトは自身の持つSボードを手元でクルリと回し、ガッシリそのデヴァイスを掴み直す。
EP.01 《ロボットVSエスパー》
01
テツトはある廃墟内にある、極秘裏に造られたラボラトリへ入室。
「何だ、皆ここに居たのか」
室内には各々フリーダムに過ごしている4人(2人の男・2人の女)の姿が。
「あ、星渡君。何か飲む? 持って来ようか?」
一番に気付いたセミロングヘアーにカチューシャを乗せた美少女【鳳御矢(=ミヤ)】は声を掛ける。
「そうだな。アイスコーヒーでも貰うか」
「いいよ。待ってて」
ちょこちょこと小動物的にミヤは小柄な身体で冷蔵庫へと向った。
「まぁ、一応僕達の秘密基地なものだからね。暇さえあれば、皆ここへ来るよ」
長髪の美男子【相馬美博=ヨシヒロ】が鏡を見てヒーローポーズの練習をしながら、応答する。
「ってか、お前ロボットコンテストどうだった? 俺、ゲームに集中するあまり、大会中継見るの、忘れててよぉ」
後頂部を束ね、チョンマゲを持つ青少年【瀬戸航助=コウスケ】はサッカーの形態ゲームをプレイしながら質問する。
「念願の優勝……だな」
「おっ! 遂にか。やったじゃんか」
クロスするスレンダー美脚。
爪を赤紫色に塗っている、艶やかな唇・大人びた顔立ちのポニーテール美少女【楠法華=ノリカ】は息を爪に吹きかけ、ネイルを乾かそうとする。
「へぇ~。まぁ開発途中のTDを全部作り上げる星渡君ならそんぐらい出来て当然かぁ」
「全ては結果論さ……」
テツトはそのままラボの居間内を歩み、空いているソファーへ腰を落とした。
「皆、聞いてくれ。今日、俺は奴らにスカウトされた。勿論断ったがな」
ピタリとビデオを停止するヨシヒロは、穏やかな口調でテツトを見やる。
「おやおや、そんな事が……」
足を滑らせ、思わずずっこけるコウスケ。
「どわ!? ……ててて、マジでか!?」
ヨシヒロ・コウスケ・ノリカはテツトに注目する。
「断ってもあっさり向こうは逃がした……。つまり、既に必要な人員は整っているようだ」
「だからそろそろ敵は動くかもって事?」
アイスコーヒーの入ったグラスを持って来た長い髪を揺らし、ミヤが機微を傾げる。
「そっか、いよいよ戦うんだな、俺ら!」
「フフフ、待ちわびたよ全く……」
「せっかく、訓練したんだもんねぇ~。暴れなきゃ損だわぁ」
ゴクリと息を呑み、じわじわと高揚するコウスケにヨシヒロ、ノリカ。
「……そうだな、準備も長かったからな」
5人は結集までの経緯を回想する……。
02
―――遡る事、それは1年ほど前。
学内休憩時間。とある教室。
「はぁ、微妙な点数……。まぁ、酷過ぎでもないんだけど」
そう落胆するのはコウスケ。
微妙な点数のテストを取ったようだ。
「奇遇だねぁ。僕もそんなトコさ」
無駄に爽やかな口調でヨシヒロがコウスケの隣にぬっと現われる。
「お、ヨシヒロもかぁ」
「まぁね!」
ヨシヒロはカッコ付けた感満載の珍妙なポージングを披露し、首肯。
「な、何だよそのポーズ……」
コウスケは白けた表情でヨシヒロのポージングの意味を問う。
「これはイケメンヒーローポーズの練習さ。僕は将来アクションモノ中心に活躍するイケメン俳優になる予定だからね」
「へぇ、俳優かぁ」
「そう、例えば……」
ヨシヒロ、空いている教室後部へ移動し、助走を付け、駆け出す。
次いで、ジャンプ! そのまま特撮ヒーローチックなカッコ付けた感じの飛び蹴りの形を取った。
「イケメンヒーローキーック!」
そう叫び、虚空へ飛び蹴りし、そのままスタッと着地。
両腕を広げ、体操選手よろしく、直立着地をした。
コウスケ、思わず拍手。
「おぉ、やるなぁ。流石新体操部」
「ま、来年からは演劇部をやるつもりだけどね」
「……でも、なれるかどうかは分かんないんだよなぁ。嫌なこと言っちゃうけど」
コウスケは悄然と呟く。
「俺のサッカー部では今、スポーツエリートをブッ潰そうと猛特訓してんだ。だけど、勝てる気はしないんだよなぁ」
「スポーツエリート?」
「ほら、ココ最近のスポーツ選手になれたり、学生のスポーツ大会で功績を残す奴って幼い頃から親にスポーツ叩き込まれた奴ばっかじゃん?」
「ふむ、そういう話、よく訊くねぇ」
「でもそれって、夢ねぇじゃんか。親に恵まれないとなれないなんてさ。だから、そのスポーツエリートに勝って、スポーツに夢を与える為に猛特訓してる訳。けど……」
「現実問題、手強い。だから、諦めモードって訳かい?」
「そういう事。この前も、聖アスリート学園の連中にボロ負けしたんだよな」
「あぁ、プロスポーツ選手を最も多く排出している学校だね?」
「だから夢なんか持っても辛いだけだと思って来出したんだよなぁ。お前の目指す俳優業界も他人事じゃないぜ? ああいうトコも金コネ持ちの方が有利とか言うじゃんか」
「そうだねぇ。最近二世タレントが増えているらしいし………」
「ほ~んと、こういう現実あると嫌になるよなぁ。恵まれない環境に生れた奴はどうすりゃいいんだよって話。しょうがないと思うしかねぇのかねぇ~」
コウスケは更に表情を萎えさせ、思い溜め息を落とした。
「……だからといって、努力をしなかったらもっと悲惨だろうな」
そこへ新たに男の声が参入。
オールバック気味に髪を逆立てた、クールな印象の生徒=テツトである。
「お、テツトかぁ。ロボットコンテスト上位保持者は言う事が違うねぇ~。金持ち出場者をも打ちのめしたんだって?」
「あれは何とかギリギリってトコだ。だが、それ以外は何も勝っていないけどな」
テツトは乾いた笑いを受かべた。
「そっかぁ、でもあれだよなぁ。不利な立場にいると諦めたくなるし、優位な立場の奴を妬みたくなる。そんな事しても無意味ってのは分かっているけど……」
ぼんやりとコウスケは天井を眺める。
「でも、卑屈にはなりたくないよねぇ~。って、トコだよねぇ」
左右上へひょいと両手を上げ、ヨシヒロは失笑を漏らす。
「……そうだな。仮にテロを起こして、金コネ持ちを虐殺しても、残った人間の中での格差が出来る。だから、抵抗は無意味だろう。……だから、庶民は諦めるか、一矢報いるべく、野心燃やすしかない……。俺はある程度は諦めて、勝てそうなベクトルへ一矢報いるけどな」
端整な顔を歪ませ、テツトは不敵に笑んだ。
それもそうだな。と、ヨシヒロとコウスケは釣られて笑って魅せた。
「ねぇ、ちょっとぉ」
そこへ割り込んで来た新たな声。
それは一転して女子の声。張りのある活発な声であった。
それはモデル体系のすらっとした美女=ノリカと、彼女より小柄な少女=ミヤ。
「楠に鳳、何の用だよ?」
コウスケは頭部を傾け、質問。
「あぁ、ゴメン瀬戸君じゃなくて、星渡君に」
「俺にか?」
「う、うん……」
フランクに話しかけて来たノリカとは違って緊張した様子で口を開くミヤ。
「実はね………」
02
放課後、この5人=テツト・ヨシヒロ・コウスケ・ノリカ・ミヤはある研究所へ足を運んだ。その研究所とは鳳ラボラトリ。
鳳ミヤの祖父の研究室である。
その研究所まで街中を歩く5人。
「……にしても、突拍子も無い話だなぁ。鳳のじーさんロボット開発者で、そのじーさんの知り合いの科学者が作ったエスパー開発薬を使って良からぬ事をしようとしている連中が動き出しているので、鳳のじーさんは対エスパーロボを作っていた……とはなぁ」
「だが、完成に間に合わず、鳳の祖父は逝去。なので、技術力のある俺にそのロボットを完成させて欲しいという訳か……」
テツトに向って、ミヤはこくりと頷く。
「うん……。遺言にあったの。敵に感付かれないようにしないといけないから、警察や有名な人へは伝えちゃいけないって……。だから、ロボットコンテストで上位の星渡君に頼もうかなって……」
「フ、実に面白い話だ。どんなロボットが待っているのか、楽しみだ……」
獲物を前にした狩人の如く、生き生きとテツトは高揚。
「……で、何であんた達も来てんの?」
ノリカは渋い顔でついて来ているヨシヒロ&コウスケへ話を振る。
「バーカ、そんな厄介な話、無視出来るかよ。敵とされるエスパーってのが俺達を苦しめるかもなんだろ? むざむざやられるのを待つより、立ち向かう方がいいと思ったんだよ」
「瀬戸君……。相馬君は?」
「僕はイケメンヒーロー俳優に憧れている。だから、本物のヒーローになる又と無い経験をしたいと思ってね」
「はぁん、ナルホドねぇ……」
「つーかよ、鳳自身で何とか出来ねぇの? だって、科学者の孫だろ?」
「無理だよ……。あたし、全然機械弄りとか出来ないし。そもそも、お爺ちゃんはあたしに手伝えって無理強いしなかったから……。研究所もお爺ちゃんが死んでから初めて見に行ったぐらいだし」
「そうだったのかぁ」
「んで、研究所を見に行ったら、エスパーと戦う事に備えていたと分かったんだよね?」
ノリカの顔を見て、ミヤは頷く。
「うん……。お爺ちゃんはあたしに手伝えとも戦えとも言わなかったけど、知った以上は放っておけないから……」
だらだらと話しながら、目的地へ到着。
住宅街より離れた湾岸地域にポツンと聳え立つ研究所。
ミヤが鍵を開け、小汚い研究所のドアが開かれた。
少々古びた設備だが、パソコンや製造機など、充実した設備がそこにあった。
入室した5人は部屋を見回る。
「うっひゃぁ、スゲェな」
「う~ん、まるで秘密基地みたいだねぇ」
コウスケにヨシヒロは感慨耽る。
「どぉん? ビックリした? これ、ミヤのお爺ちゃんの研究室なんだよぉ」
……と、会話しながら奥の部屋へと歩き進んでいく。
先頭のミヤがスイッチを押し、到着したドアを開く。
「皆、ここだよ」
「ほう……」
両腕を組んでいるテツトが淡々と感心しながら目線を持っていった先………。
そこには5つの人型ロボットが確認出来た。
どれも、素体フレームは完成しているが、装甲の取り付け具合がまちまちで、装着されていない部分に相当するパーツも見当たらない。
紛れも無い未完成品である。
「おぉ……」
「これだね?」
ヨシヒロの問いにミヤは無言で首肯。
テツトはいつの間にか、近くのデスクにある紙束=企画書を閲覧している。
「『機種名・テクノドゥル〔TD〕……遠隔操作式ロボット。エスパーと戦い、相手をデジタルデータに変換させる〔データコンバート〕という、形で鎮圧するマシンである』……だそうだ」
そう資料の最初のページを読んだテツトはページを捲り、詳細を知っていく……。
「どう? 星渡君、残り作れそう?」
テツトへ不安そうな表情でミヤは訊ねた。
幾らロボットコンテスト優勝者といえど、兵器レベルのものを造れるというのは無謀だろうか? と、改まって思い、実際どうテツトは判断したのか気になるミヤ。
テツトは厳然と、それでいて黙々と企画書を閲覧………。
暫し緊張の沈黙が続く。
ミヤに、ヨシヒロ、コウスケ、ノリカは返事を黙々と待った。
「ふむ……」
「ど、どうなんだよ……?」
息を飲む一同……。
テツトは4人の緊張などいざ知らず、マイペースにもデスクの引き出しを開けていき、物色をし出す。
〔何か〕を探している………。
「お、あったか」
4人は〔何か〕を発見したテツトへ注目する。
「こいつだ」
テツトはノートパットのようなもの=Sボードを取り出した。
「これがどうかしたの?」
「TDを遠隔操作するコントローラーだ。そしてこれは……」
テツトは企画書にあるテキストを読みながら、淡々とSボードを操作する。
「動かすのかい? どう見ても完成していないと思うんだけど……」
ヨシヒロは顔を渋くし、華奢な素体フレーム剥き出しの未完成品5機を見つめる。
「いや……動かす訳じゃないさ」
ミヤ達4人は意図が汲み取れず、脳裏に[?]を浮かべる。
テツトの持つSボードから赤外線のようなものが照射され、その光は未完成TDのうち、1機に注がれる。
すると、その光を浴びた素体フレームは0と1の羅列と化し、光に吸い込まれるかのように消えてしまった。
思わず、目を大きく開け、衝撃する4人。
「ちょ、おい!」
「消えちゃったじゃない? どうすんの?」
慌てるコウスケとノリカ。
「大丈夫だ」
反対に落ち着き払っているテツトは再び操作し、再度赤外線のようなものを照射。
今度はその光から人型の0と1の羅列が形成されていき、先程消滅されたかと思われた未完成TD1機が〔再召喚〕された。
唖然。4人は目を疑った。
「これがデータコンバートシステムか……。要するに対象を自由にデジタルデータ化出来るという事だ。更に他の金属などを取り込む事で修復・パーツ開発も可能……だそうだ」
「よ、よく分かんないけど、とにかくスゴイメカなのね?」
ノリカなりに何とか解釈。
テツトは「量子変換力学が云々……」と小難しい解説をしてみてもいいところだったが、「まぁ、そんな解釈でいいだろう」と、無言で首肯。
「……で、結局残りを完成させられるの?」
ミヤは一番気になる真相をおろおろしながら問う。
「完成させられる。それどころか、自分で設計開発して新たなパーツも造れる。余裕だ」
ほっと胸をなで下ろし、ミヤは安堵した。
「良かったぁ~」
取り敢えず、ほっとした5人は居間へ移動し、ソファーに座ってくつろぐ。
「いやぁ、良かった、良かったぁ~」
ノリカがおっさん臭く首をコキコキ鳴らす。
「……けど、敵がどんな連中が分かってねぇんだよな?」
「気掛かりだねぇ~」
コウスケとヨシヒロはふと気になり、考え込む。
テツトだけは黙々と企画書を見ながらSボードを操作中。
「おい、敵が分かったぞ」
「マジでか? 一体どうやってだ?」
「実は探索用ステルス衛星機もあり、それもこいつで遠隔操作出来た。そいつを通して以前撮影された映像の中にそれらしきものを発見した。皆のSボードからでも再生出来るからそれぞれ見てくれ」
4人はテツトの言うとおり、映像再生コマンドを入力した。
その映像……。
30代そこらの男、深大寺正十郎がベッドから起き上がる。
これはある研究室で行われた映像。
「どうかね? 深大寺クン。身体が完全に超能力に馴染んだ、生まれ変わった肉体は?」
そう声をかけるのは白衣を着た老人Dr毒島。
この姿にミヤは覚えがあった。
「あ! この人!」
「知ってるの、ミヤ?」
「うん、お爺ちゃんの葬式に来ていた……」
「成程。知人の計画ゆえに知り得たのか博士は。だが、口で言っても無駄だと思い、独自で対策に動いていた……。とでもいう経緯だったのだろうな」
「多分ね……」
ヨシヒロは整った己の顎をなぞる。
5人は映像の続きに集中する。
映像の人物2人のうち、若い方の男=深大寺。
彼は高揚感に満ちていた。
「……感じます。力が満ち溢れるのを」
「そうかそうか、それは良かったよ。では手始めにこいつでも!」
Dr毒島は近くのビーカーを掴み、深大寺へ投げ飛ばす。
深大寺は逃げる素振りなど見せず、平手を翳す。彼は開眼し、篤く拳を握る!
すると! 突如ビーカーが盛大に粉々になる!
まるで、“握り潰す力をビーカーに飛ばした”かのように。
そう、これが“念力=超能力の1つ”である。
「ふむ。いいウォーミングアップだねぇ」
「えぇ。これも博士のお陰です」
「いやいや、人として当然の事をしたまでだよ」
「ところで、Dr毒島。同士は現在何人集まりました?」
「現在542人……もう少し集めるかね? それとも、このまま侵略しちゃうかね?」
「いえ……1000人ほどは集めなくては。まだ、待つ時期ですよ。我らが理想、恵まれし者に鉄槌を下す、エスパー格差社会の遂行は……」
深大寺の脳内に5枚の写真が1枚1枚、順番に散らばった。
1枚目=悪政に憤慨し、自らの手で悪政駆逐すべく政治家を目指し、勉学に勤しんだ学生時代の深大寺の写真。
2枚目=努力の成果あってか、一流大学合格を決めた写真。
3枚目=同様に国家公務員試験合格=政治家になった写真。
4枚目=しかし、金コネの無い彼は選挙で劣勢を強いられ、大敗した写真。
5枚目=多額の借金を抱え、政界から速効で消えた惨めな深大寺の姿の写真……。
その写真を脳内で踏み付ける深大寺。
憎き悪………世襲エリートへ逆襲出来る。
深大寺は過去の無念を思い起こし、再度闘志滾るのであった。
「フフ、そうかね……」
深大寺とDr毒島は互いに不気味な笑顔を送った。
テツトは黙々と映像を別のものに切り替え、4人にまた新たな映像を見せる。
同施設内で、血気立った他の超能力者達が戦闘トレーニングをしている部屋を捉える。
獣化したエスパー同士の取っ組み合いや、物体操作訓練に明け暮れている連中……。
「ぐふふのふー、この力で世襲エリート共をズンドコに落っことしてやりますよ~ん!」
興奮するド派手なスーツの男を中心に、総じて異常・怨念めいたテンションであった。
まさか、本当に超能力を披露されるとは……。
テツトが見せた、信じ難い事実を目にしたヨシヒロ達4人は絶句。
黙々とテツトは考えた。
30代の男には覚えがあった。
確か、若手政治家〔だった〕男。深大寺正十郎。
「金持ち生まれが得する世の中であっていけない!」と真摯に訴えていた様子を以前テレビで見ていた。しかも、一時期メディアでは「非世襲・非富裕層育ちの政治家が日本を変革させるか?」とも謳われた逸材だった。
なので、テツトにとっては印象の深い男であった。
テツト自身も昔は政治家時代の深大寺と同じ意見を持っていた。しかし、金コネの無い深大寺が政界から敗れ去ったことを受け、一時絶望する。
が、しょうもない事でも一矢報いたい・得意なことなら勝ってみせると意気込んでロボットコンテストに挑み続け、ようやく勝利したテツト。
しかし、世の中、自分のように一矢報いた人間ばかりではない。
努力の末、這い上がったが、諦めざるを得ない苦汁を味わった深大寺が復讐・テロへと踏み込むには相当な思いがあったのであろう。
ならば、自分が、深大寺たちが納得出来そうな落とし所は何所かと考え、テツトは口を開く。
「……とまぁ、敵はこういった連中だ。こちらは訓練しつつ、奴らが本格的・大々的なテロ活動を行い次第、成敗する」
「え? なぁテツト。今のうちにチビチビと敵さん潰しといた方が良くね?」
コウスケ、案を提示し、テツトの策に異議を唱える。
「そうよねぇ~。確かに早いうちから潰しておく方がいいかも」
ノリカも深々と頷く。
「……いや……。奴らの行動は巧く利用するべきだ」
「ん? どういう意味?」
髪と顔をだらりと横へ傾け、ミヤは疑問をぶつけた。
「わざと事件を未然に防がず、ある程度はエスパー共を好き勝手にやらせる。教えてやるのさ。エリート共に、恐ろしい存在に妬まれてしまったって事をな……。一種の警告だ。格差の酷さを大々的に示そう」
4人は圧倒されつも、意図を理解する。
「流石に見殺しや人生を脅かす程の負傷を負わさせないが、ちょっと位は復讐鬼に甚振られて貰おう。多少の怨み辛みは晴らさせてやれ」
顔が引き攣るコウスケ。
「え、えげつないなお前……」
「憎しみを発散させる事のないまま、葬られる方がえげつないと思うが?」
「ま、まぁ、そうだけど……」
「俺達はエスパー軍団の味方でも、エリート共の味方でもない。ただ、エスパーの野望、エスパー以外迷惑を被るエスパー格差社会を防ぐ……。ついでに、世の中の人間に考えて貰う。どうせ、変わってくれなくてもな。ただ、それだけの話だ。お前らだって、決して世襲エリート共といったセコイ連中を支持している訳ではあるまい」
「まぁ、支持も糾弾もしても現実、意味ないしね~……」
ノリカは飄々と表情を酸っぱくする。
「いいよ。僕もそれに賛成さ! やっぱり、ヒーローは古典的なピンチの時に現れないと!」
ヨシヒロはパチン、と指を鳴らし、爽やかに迎合の意を唱えた。
それ以降、TDの完成をさせていった。
5人の嗜好と戦いに必要とされる武装を考慮し、デザインを練り直したテツト。
その後半年程度で完成させ、5人は操作訓練をしつつ、敵が本格的に動くのを待った。
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