幸せな奴ってどこにいるんだ?
テツトとヨシヒロは夜6時半頃、定食屋で晩飯を取っていた。食事を終え、帰宅すべく歩き出す2人。
それぞれ家は別々だが、途中までの進路は同じなのでしばし共に歩く状態となっている。
「僕ら、味覚においては幸せな体質をしているねぇ~」
「B級料理で満足できるからか?」
「そうとも。高級料理しか口に合わなかったら、食事のたびに苦痛を味遭わなければならなかっただろうからね」
「ふん。高級料理など金持ち共が金持ちである事に浸るためだけのものさ」
「そうとも言えるかもね……」
のんびりと、何事もなく本日は帰宅するのだろうなと思っていた。しかし、違った。
突如、ドサッと不穏な音が前からした。気になってテツト&ヨシヒロは駆けつけると、胸押さえ苦しんでいる中年男性を発見した。
「どうやら、突然発作でも起きたようだな……」
ヨシヒロは携帯電話を取り出し、
「救急車呼んだ方がいいね」
「そうだな。医療知識の乏しい俺たちじゃあ対処法は分からん。それぐらいしか出来ん」
ヨシヒロは119番通報をし、患者および現在地の説明をした。
一方、テツトはコンクリート上に散らばっている名刺を発見。1枚拾う。
「この会社員のもののようだな。ほぅ。株式会社グレイオ。かなりの大企業の社員ではないか。相当なエリートでないとなれないと聞くほどに……。だが、そんなエリートが病気だと? ブラック企業社員なら身体がいつ壊れても不思議はないが……。まぁ、どんなに優良な企業でも病人が出る場合はあるか」
苦痛のあまり、黙り込んでいた男がここで残る力を振り絞って口を動かし出す。
「びょ、病院は……止めてくれ。明日も仕事が……あるんだ。働かないと私は……。うぐっ!」
「何を言っているんだあんたは。明日働けるような状態だと思っているのか?」
通話を終えたヨシヒロもテツトに続く。
「そうですよ。救急車がすぐに来るから、大人しく乗りましょうよ」
「仕事を……休むワケにはいかないんだ……」
しかし再び痛みが強まり、スーツ姿の中年男性はふさぎ込む。
「そこまで仕事がしたいというのか……」
ランプ音が聞こえて来て、それがだんだん大きくなっていく。救急車が急行して来た。
テツトたちは会社員の男と何のゆかりもないので、共に救急車には乗らなかった。会社員の男の持ち物の中に家族の連絡先が有るので、家族への連絡は病院側に任せることにし、2人は救急車を見送った。
「やれやれ。人騒がせだねぇ」
「あの男、グレイオの社員で、中間管理職らしき人物らしい」
「えっ?」
「落ちていた名刺を見てな。それで分かった」
「へぇ。じゃあ、大企業のエリートさんなのかぁ。裕福かつ健康に暮らせてそうな環境だと思うんだけどぁ」
「だがそうではないらしい。少なくとも、明日仕事を休むことをためらってしまうような環境ではあるようだからな」
「う~ん。仕事大好き人間なのか、身体ボロボロになるまで働かされている環境なのか……。どっちなのやら。いやはや、新事実発見だねぇ。ほら、エリートってさ楽な仕事をして稼いで、低賃金重労働に耐えている庶民や無職を見下しているような感じがするじゃない?」
「エリートも過労に追い込まれている場合もある……という話だな」
ヨシヒロは呆れ笑い交じりに首肯。
「では勝ち組とは一体どこの誰のことを言うんだ? 幸福な人間などこの日本に存在するのだろうか……?」
静寂な怒りの籠った瞳でテツトは月夜を見上げ――。