ヨハネ教の敗北[〜人の在り方〜]
【189年2月5日】
主が俺をパパと言っている。
初めてパパと言われた時は、とても戸惑った。
時間が止まっていたかのように、最初は固まっていた。
どう答えれば良いのか分からなかったから。
その日から俺は…彼のパパでいたかった。
「パパ?元気ない。」
「はいー。パパですよー。」
「高い高ーい。」
「いひひひ」
主はいつも俺の手の中で喜んでいる。
これが最後となるのか…今日は特別に主が疲れるまで、付き合ってあげたい。俺は夜まで全力で遊びに付き合い、主がしたいことを手伝たいたい。
「パパ…眠い…」
「…もうおねんねですか?」
「まだまだ遊べますよ。」
「パパぁ…抱っこ…。」
「…分かりました。」
俺は主をベットの上まで運び寝かしつける。
俺の手は離れたくないと一心に震えていた…。まだ長く居たかった。布団越しで優しくぽんぽんと手で叩き主は、眠りについた。
【189年2月6日】
俺は主の側から離れることになった。
理由は、2日前にリ・ルーティング派が俺らの第五拠点を占拠したからだ。あいつらは力をつけ、反旗を翻してきた。
ヨハネ内部に、完全に亀裂ができ始めたのだ。
第五拠点の情報を取りに行った仲間が惨状を目の当たりにし、一刻も早く教皇に報告してくれた。
第五拠点に居た記録官が一晩のうちに殺されたらしい。皆が殺されるまでは、そこにいた者たちも生きていた。
もう全てが終わっていたみたいで血だらけだったようだ。武装したリ・ルーティング派がそこに100名ほど配置されている。そこには当然、俺の知り合いも居た…。
第五拠点は、食卓の国に近い場所だ。
食卓の国内部で起こった出来事や、秘密裏に動いてる出来事も記録する拠点。ここは煙の民の居住地だと他の国に認識されているが違う。ここは俺達ヨハネの重要な場所だ。どの拠点も重要だけどな。
俺は教皇によって緊急に派遣された。
育神官である俺が緊急に派遣されるほどの脅威が生まれたのだろう。当分の間、主には会えない。
リ・ルーティング派が仲間を裏切り殺した以上…全員を殺さなければならない。奴らを駆逐しないと主が危険な目に遭い、仲間が次々に失われていく。
もし教育プランRが実現してしまえば主は…。
―主が消滅する。
死んだ根を再び張らせ、新しい土台作りなど絶対にさせない。
彼は人なんだ…道具ではない。
それから俺はテンプル騎士団第二軍と共に第五拠点へ向かっている。向かう最中に俺は、テンプル騎士団の団長に近づき話しかけに行った。
久しぶりに会う団長は小さかった。
歳で身長が縮み、軽量化された合金の鎧を装着している。その剣は、テンプル騎士団の団長に代々受け継がれてきた遺物だった。テンプル騎士団のシンボルが縫われているマントを羽織っておらず、鎧と剣だけが残っていた。
「久しぶりですね…師匠。」
「おージャンよ、育神官の生活はどうじゃ?。」
「中々に良いです。」
「教皇様には感謝しきれません。」
「俺にこんな大きいプレゼントを与えてくださるなんて。そちらは元気にやってます?」
「儂か?儂はのー…この歳だから体がたるみまくって思うように動かんわい!笑」
「儂もジャンのように若ければ良かったのぉ。」
「団長ぉ!団長はまだまだ動けますって。」
「あと俺も四十過ぎですよ。若いと言えます?笑」
俺は団長の背中を叩いた。
鎧越しに、確かめるように強く背中も叩いた。団長が衰弱していれば、早く役割を終わらせて違う人に世代交代をしないといけない。もしかしたらこれが団長との最後の出会いかもしれない気がして…誰が後を追うのか考えていた。笑顔の団長は、俺の心の奥深くにある怨恨を見透かすように、心配そうに話しかけてきた。
「ところでジャンよ…まだ古傷は癒えないのか。」
「…傷は癒えません。まだまだ憎いですから。」
「懐かしいの… 第三の魔王が強大で、誰も手合わせできなかった戦いじゃった。それにより数えきれないほどの人達が消えて、魔王を倒す為に倫理観すらも同時に死んでいった…。」
「そして腐った社会だけが残り進んでしまった…。」
「………。」
「腐っただけではない。人が死んでしまった。」
「もうあの頃には戻れないほどにの…アウグストゥスが今も生きていれば、まだ良かったかもしれない。」
「ですが彼は純血を重んじる人です。」
「良い人には思えません。」
「儂も元は名誉の国出身でな、階級はダリットじゃった…文字の読み書きすら許して貰えず野生的に皆が生き、生まれた瞬間から、人としての尊厳を剥奪される。」
「教育を受ける権利など剥奪され、知性や理性も育つ機会がなかった。性に忠実で欲望に忠実に、己の目先でしか生きる事ができなかった。」
初めて団長からの故郷の話を聞いた。
彼は今までクシャトリヤの階級に位置していたと聞いていたからだ。まさか団長がダリットだったなんて耳を疑うほどに信じられなかった…。ダリットが階級を上る事は絶対にできない。名誉の国は純血主義なのだから。
でもなぜ突然その話をしたのか分からない。でも俺には分かる…団長が言いたい事が分かるんだ。
「過酷な環境で儂は輝けた。」
「何歳だったかの…幼い頃に読み書きを教えてくれたのは。血は繋がらないが、彼は父親同然の存在だった。儂が読み書きできるようになってから、父は消息不明になったんじゃ…。」
団長が想いに浸る顔をしながら、曇った空を見上げていた。どことなく今も悲しそうでいて、俺のように長く引きずっていた。
「それから、父を探すために身分を偽ってシュードラに潜入した。シュードラの人達は儂を見て迷子だと思ったみたいだったんじゃ。」
「読み書きができるダリットなんて居ないからの。だけど父を探しても、ここには居ないと分かったのじゃ。シュードラの人達も読み書きができなかったんじゃからの。」
「だが…ヴァイシャに入ろうとしたら誰も通さないよう、門番が立っていたのじゃ。儂は通るのがとても怖かった記憶がある。でも行かなければ父に会えない。門番に父が居るから通してとお願いすれば、すぐに通してくれたのだ。そこの門番も儂が流暢に話せるのを見て通してくれたのじゃ。あの門番はな、普通なら誰も怖くて近づかない。下手に近づけば、幼い子供でも殺されるからの。」
「それから、お父さんに出会えたのですか?」
「…出会えなかった。」
「出会えなかったおかげもあるのかの…それでクシャトリアまで身分を偽る事ができた。」
「無駄話が過ぎたの…それでは本題に入るか。」
団長は、第二軍を整列させて粛清を今始めると宣言する。血で血を洗う戦いが、今まさに始まろうとしていた。
「本日の任務は、異端に走るヨハネ教徒達を虐殺する事だ。どんなに命乞いをしても、赦しを乞うても、何一つ赦さずに殺すこと。彼らは救われない哀れな異端者だ。よって教皇の命令により粛清する。」
「さぁ立ち上がれテンプル騎士団よ!」
「我らはなんのためにヨハネを守り続け存続を願ったか!我らはなんのために存在するのか!。全ては、ヨハネに害と恐怖をもたらす存在を粛清するために結成された!。我らテンプル騎士団はよって!裏切り者達をこの手で裁く!。」
風が強く吹きながら、聖騎士達は姿勢を整えて進軍する。泥を進み枝だらけの道を進み洞窟を超えた。あたり一面に木々が生い茂っていた。
そうして俺達は、第五拠点に着いた。
だが誰一人として武装している異端者を見かけなかったし、そこ周辺にも居なかった。これは囮のようだった…これでは、異端者にシグナルウェイを使われ、他の拠点が進行される…。
だが―
俺らにも色んな策があるんだよ、この馬鹿どもが。
奇襲されると思って戦力に偏りを出すはずないだろ。
「ジャンよ…囮のようだったな。」
「テンプル騎士団も柔ではない。そのために第一軍と第三軍を各拠点に配置させたんだ。本部は主戦力を配置させたがね。」
「団長さん。」
「引き続き、あの中に居る異端者を粛清しましょう。」
血飛沫で赤い点が壁に塗られ、死体が放置されていた。酷い悪臭を放ちながら俺達は中に入る。
「これは…残酷に…。」
「虫が湧くまでも放置され…挙げ句の果てには尊厳もなく殺されている。これでは身元を確認できない。」
「っ!…誰が頭を潰した…。」
「外に居た者達を…わざわざここまで連れていき…どうしてそこまでする…。」
赦せない…。
この右手の火傷跡は、俺の同期であり飲み食いする仲だったじゃないか…。バッサテ・ターよ安らかに…。
「ここに居るほとんどが俺の知り合いです…。」
「その気持ちも分かる…この子らは儂の教え子だった…。顔が分からなくても誰が誰なのか手に取るように分かる。」
俺と団長が憂いにより、気がそれた瞬間―
―銃声がした。
「っ!!」
「ジャン!!!状況はより深刻そうだ!!」
「今から儂が計画を変更する!予想外な攻撃手段のため第二軍の騎士は森に逃げろ!絶対にバラバラに逃げるな!列を成して逃げろ!。」
建物から俺達は出る。
場所が森のため異端者が隠れて撃てる場所が多く、狙撃手が見つからない。ほんとうに状況が最悪過ぎた…。こんな狭い場所では指示が行き届かず、思うように動けなくなる。
まさか銃を扱うとは予想だにしなかった。
今年に開発された悪魔用の新型武器なんだ。現在の威力は分からないが、対悪魔用として運用できるように試行錯誤されている。まだ市場にも売られていなく、この大地に出回っていないはずだ。
以前に俺は、開発途中の銃声を聞いた事がある。
団長も聞いた事があるんだ。その銃は開発途中にも関わらず、瞬間的な攻撃で破壊力もあった。その威力は、並の悪魔に通用するほどに。だが…並の雑魚にしか通用しない御信用にピッタリな小さくて弱い武器だった。
そんな品物が、リ・ルーティング派に出回っているなんて…。鎧を着ていれば安全性は高まるが、先の危険性が分からないし、逃げるの一択しかない。
でも逃げれば相手の思う壺にもなる。
団長の指示は逃げる事だと言っていたが違う。俺達はリ・ルーティング派のように臆病者ではない。俺たちの辞書に「逃げる」なんて言葉はない。
―極意殺傷―
俺と団長が殺意を身に纏う。
押し寄せる殺意と研磨された殺意が、その場を支配した。俺の漏れ出た殺意が周囲の人数を感知していき、団長の研磨された殺意が俺の殺意に重ねられ、次々と異端者の居場所を特定していく。
銃声は聞こえたものの団長は全てそれを避けながら、避けられない弾丸は全て切り弾いた。歳を取りながらも昔を少しだけ彷彿とさせてくれる団長には感謝だ。
俺は武の極地にすら至らず、剣と向き合う事もできなかった…。
「ふぅ…こんなちっぽけな運動で息切れしてしまっては情けない。久しぶりの出勤だから体を整えて慣らす機会があまりになくての…。」
「団長もだいぶ衰えましたね…。ここに居た異端者達は、一般人と変わらない人達です。」
「ここに居た異端者は、非戦闘の弱い女達ばかり。この女は最近結婚した者じゃ…。顔見知りしかおらん。」
「力がない者に銃を扱わせるのか…。リ・ルーティング派の非戦闘の者達は、約2万以上は居ると思います。捨て駒がとても多いですね…。」
「こちらの銃を持った異端者に対抗できる騎士は、第一軍から第三軍まででしょう。」
「銃が厄介じゃの。」
「昔に戦った撃墜型の悪魔を相手しているようで、条件反射で反応してしまう。これでは強い異端者と戦ってる最中に四方八方から撃たれては、気が逸れて確実に死ぬ。異端者達を先に潰す前に、銃の流通ルートを探さなくてはならないの。」
「食卓の国から出回ってる可能性があると思いますが、やはり…。」
「以前に開発途中の新型武器を見に来たじゃないですか。もしかするとリ・ルーティング派と協力関係である可能性が…。」
「はぁ…。」
「一体全体、なにがどうなっとる。」
「食卓の国からも裏切られましたか…。」
「これでは規約違反です。」
「ぅーん…第五拠点は、秘密の資料を取り扱っていたからの。記録してはいけない物に、触れたのがバレて逆鱗に触れたのは仕方がない。だが、異端者に加担したのは厄介じゃー厄介じゃ。」
「グレーゾーン…。」
「もし食卓の国から異端審問官が派遣されれば、戦争に発展しかねません。一刻も早く教皇に知らせて食卓の王と会談をさせないと。」
「そうじゃな…。」
「今から本部に帰れると安心していたが、帰り道の先に異端者が31名おる。もう早々に強敵のお出ましか。」
「団長は休憩してください。」
「後は俺と皆んなが片付けます。」
第二軍の騎士達は俺の指示を待っている。
指揮するのは久しぶりだな。ほとんどは彼がやっていたが。俺はその真似事をする。
「皆!殺意を込めて剣と鎧に集中しろ!」
「あの先にいる一人の異端者を強者と見た!」
「皆ぁ!進軍を開始する!列を乱し進めぇ!!」
テンプル騎士団は、殺意を剣に込めて一直線に向かう。
俺は前線に出ている騎士たちの後を追い、もう一度殺意を放つ。
―極意殺傷―
押し寄せる殺意はまた周囲に広がった。
さっき出した量よりも多く密度も多く放出した。
漏れ出たドス黒い殺意を鎧と剣に込める。異端者も極意殺傷を使い、第二軍の騎士を相手していた。
俺は、剣術を使う。
準備をして機会を伺い、異端者の配置が適度に広がった瞬間に、前に出て―
―月光::第五章:六節〈幽霊の力落とし〉
短剣一本で、数名の異端者の両手首を瞬時に切り裂いた。それから第二軍を率いてる異端者の所に行き、短剣を喉元に突き立て突進する。俺の攻撃は簡単に防がれて、甲高い音がカァーンと大きく鳴り、衝撃が風を生みだす。異端者マッドの剣は、ストーンハイダーだ。耐久力が十分にあるロングソード。
「久しぶりだなぁ!マッドぉ!」
「短剣一つで殺せると思ってるのかジャンー!!」
お互いの剣が離れてお互いが剣術を放つために構え直す。マッドは武の極地に達した男だ。俺も武の極地に至れなかった。だが、経験が俺を補う。
―月光::第七章:十二節〈聖なる海底〉
―セルヴァル剣術〈武の極点:底から這い上がる一撃〉
マッドから放たれた致命的な一撃が俺の胴体を狙っていた。俺はレイピアを抜き放ち、相手の剣の重心を見極めながら、その軌道を捻じ曲げた。逸れた軌道は、瞬時に持ち手を変えて、また俺の胴体を粘着的に狙っていた。それを短剣で防御し受け流す。距離を取るためにレイピアを目にも止まらぬ速さで無差別に切り払った。危機を察したマッドは距離を取るために後退する。
「お前の剣術が今嫌いになったよジャンッ!!」
「今からでも遅くない!リ・ルーティング派に入れ!!」
「そんなものに誰が入るか!」
「その先に何が待っているのか分かっているのか!」
「分かっているとも。」
「だが、俺にはヨハネの存続を願うために戦う!」
「存続は大事なことだが、それによって終末が訪れば元も子もないだろ!!こんな知り合い同士で血を洗いながら終わらせていいのか!!?」
マッドは話を聞かなかった。
なんの躊躇もなく、俺を殺すために殺意を込めて構えている。同僚だった者に手をかける日が来たか…。
―もう容赦はしない。
お前を今日殺してやる…古き友よ。
―セルヴァル剣術〈武の真髄:一つに込めた使致命的な一撃〉
マッドが渾身の一撃を放って来る。
俺はその一撃を対処できるのか分からない。
だけど…やれるものはやらなくては。
―月光::第十章:二十四節〈押し寄せる波〉
マッドのさっきよりも破壊的な一撃が、俺全体を叩き切るように押し寄せて来た。また俺の剣術も波のように数多の軌跡を描きながら押し寄せる。大きな一撃と、小さくて沢山の攻撃は相反していた。
破壊的な一直線を避けることは叶わず、軌道を捻じ曲げることさえも打破された。短剣で受け止めても、もろに喰らい受け流しができない力の差だった。
どうする…。
月光は誰でも使える万能の剣術だが、俺は未だに使いこなせてない。全て途中から自己判断で月光をやめて、相手の攻撃を受け流し、カウンターをしていた。それで数えきれない程に悪魔を殺していた。月光を極めようとせず、武の極地に至るのが遠ざかっていたのが、この理由だ。俺は攻撃を受け流すことしかできない。
俺の剣よ…できると思うか?
… 無機物であるただの剣に答えを聞いても無理だよな。
俺が防御した瞬間に団長が突然、割って入って来た。剣同士の衝突で勢いよく風が吹き出し、衝撃が皮膚に伝わる。足元の地面はひび割れていた。
「ジャンよ、後は任せな。」
頼れる団長の背中が目の前にあった。
「儂が親不孝者を相手している間に他の異端者を殺しに行け。こちらの数も減って来ておる。」
衰弱しているはずの団長がマッドの一撃を受け止めていた。マッドは驚くように反応し、団長は余裕の笑みを見せている。団長は俺に行けと言っている。その場を離れて第二軍の異端者を殲滅しに向かった。
「師匠…。」
「お願いします…師匠はこちら側に来てください。」
「なぜ儂が異端者の肩を持たなければならん。」
「マッドよ、昔からよく言ったのを覚えているか?無闇に一撃を繰り出すと隙が絶対に生まれる。それが敗因に繋がると何回言ったか…。」
「アガペー派がやっている事は大きな間違いだ!」
「終末の存在に無条件の愛を与えても結果は何も変わろうとしない!リ・ルーティング派なら終末の存在を手懐けれる!アガペー派は終末を招こうとしてるんですよ!目を覚ましてください!!」
「今の自分を殺し、新しい自分を作り上げたその果てに、何が残ろうとする。人は経験によって形作られる者じゃ。それを全て台無しにして何がいい!!!」
「師匠なら分かってくれると思ったのに…。」
「もう俺は俺の信念で、お前らを殺します。終末を招かないために。」
「儂も信念で教え子を全員殺す。主を優しい人にするため。
―セルヴァル剣術〈武の骨頂:星々が流れる一撃達〉
―月光::第序章:一節〈武の際極点:始まりの昇り日〉
数名の異端者を倒した頃、団長の方から激しい音が聞こえてきた。もう歳なのに今でも体を張って頑張る姿には、心配が大きい。早く異端者を殺して仲間を救わなくては。猛威を振るうマッドを一刻も早く止めなくては。
―小さな戦いは終わった。
「はぁはぁ…団長…やりましたね。」
「強敵を一人、倒すことができました。」
「もう儂…疲れた…。」
「無理に動いたから筋肉が少し震えておる…。」
団長は疲れ切っている…精一杯に頑張ったんだ。
俺は、やる事を終えてから加勢に向かったが、マッドが思ったよりもしぶとかった。俺がマッドの剣を受け流し、団長が攻撃を仕掛ける。すると、マッドはそれを防ぎ、今度は俺たちに隙が生まれる。双方に危険な状態が起きながらも、その繰り返しで消耗戦だった。
「………団長は、いつ世代交代するんですか。」
俺は団長が使っている剣を見た。
「儂が死んでからかの。」
「儂の剣を誰に託すか、まだ決めておらんでの。適切な者が見つからん。じゃがジャンに託そうとは思っておる。」
「俺に団長になる資格なんてありません。」
「何を言っとるジャン。」
「資格なんて言葉は、儂の辞書に載っておらん。儂は、この剣に相応しい者がジャンしかいないと心の底で言っておるんじゃよ。」
「生き残った皆の者ー!!儂が死んだ時はジャン=マルクが団長となる!この話はまだ誰にも言うんじゃないぞー!」
「こんな大宣言されては逃げられませんね…笑」
「儂はジャンのことを期待しておるからの。」
「この争いが終われば、主の側に早く戻り任務を遂行しておくれ。主は優しい人にならないとだめだからの。」
「お気持ちありがとうございます。」
団長はすぐに休憩を切り上げ、俺と第二軍を率いて本部へ向かった。
俺たちは、本部へと無事に到着した。第二軍の騎士たちを扉の外で待機させて、俺と団長は教皇と話し合っていた。
歓迎に迎えららたが、教皇は食卓の王と会談するのを拒否された。理由は明白で、何をされるのか分からない。探究聖からの助けがない以上は、無闇に判断することが恐怖えと変わったからだ。
俺と団長は、教皇に別れの挨拶をして扉から出た。
団長は暗い顔をしている。だけど、流通ルートさえ見つければ奇襲を仕掛けられる。
第二軍の騎士たちを持ち場に帰るよう団長は指示をした。そして、団長と俺は次の任務は何になるのか話していた―
異端者:ヨハネ教徒:女:53名・死亡
異端者:テンプル騎士団:第二軍上位聖騎士:30名・死亡
異端者:テンプル騎士団:第二軍指揮官:マッド=ギヨーム・死亡
アガペー派:テンプル騎士団:第二軍聖騎士:84名・死亡
アガペー派:テンプル騎士団:第二軍聖騎士:26名・生存
アガペー派:テンプル騎士団:第一軍上位聖騎士:ジャン=マルク・生存
アガペー派:テンプル騎士団:団長: アフマド=ハーン・生存
【189年6月8日】
あれから4ヶ月は経った。
でも…団長が居た時は、まだ楽しかった。
もう団長は死んだ。
今日…今その知らせを聞いたんだ。
「団長が…死んだのですか?」
「悲しいお知らせですが、ルイ=アデントによって殺されました。奇襲で死んだようです。第三拠点に近い場所に向かわれたテンプル騎士団が、彼の遺体を回収し、その後に煙式で埋葬しました。残りの遺品は墓の上に置かれています。」
「…ここからがまた大変ですね。団長の座を狙い争いが起きなければいいですが。」
「団長争いは起きませんよ。」
「ジャンさんは御存知ないと思われますが、酔っ払った団長が後継者はジャンだと大宣言していましたからね。皆んなジャンさんが団長になることを認めていまし、何も不安になることはありません。」
「何も不安になることはない…か。その話が今されると言うことは、団長の剣があるってことだろ?」
「とっても不安なんですね。」
「団長の剣は、ジャンさんのために持って来ました。でもジャンさんが団長になる資格なんて十分にあります!魔王戦争で勇敢に戦っていたり、他者の想いありが誰よりもあったじゃないですか。」
「俺は勇敢に戦えてもないし、想いやりなんて微塵もない。俺は後ろで頑張っていた…仲間達の背中を眺めながら。」
「それでも十分凄いです!」
「魔王の幹部を相手にできていたじゃないですか。トゥーサンと一緒に共闘して勝利を掴んだじゃないですか。他の人よりも前線まで立ち上がり、英雄の手助けをしていた貴方が…あまり自分を下げないで自信を持ってください。」
「下手な励ましだな…早く俺に剣を渡せ。」
「なるのですか?…。」
「ジャンさんは皆んなに頼れる聖騎士です。団長のように偉大なる背中を感じます。」
テンプル騎士団の2番手ゴドフレワが団長の剣を丁寧に持ちながら俺の元に向い臣下の礼を交わした。両手には俺が持ちやすく団長の剣を渡すように腕を上げている。
後ろから来た他のテンプル騎士団も列をなして俺に臣下の礼を交わした。俺は団長の剣を手に取り―
「皆んな……それほど俺に期待を抱いているのか。その期待に応えるよう、俺は全て持って尽くそう。」
「全てはヨハネ教のために…全ては主のために!」
俺は剣を高く上げ、雲で隠れていた日光が待っていたかのように俺を照らし。
―テンプル騎士団の団長となった。
【???】
あれから団長となり、自分に向き合い始めていた。
顔見知りの死を傍観しながら、俺は俺であると言い聞かせる。
これ以上は仲間を失いたくないと思っていても、仲間だった者を直接的に殺す日が必ず訪れた。俺の信念を通して生きた結果が、仲間を殺すことになった。
俺は人間が憎い。
自分が人の命を奪ったことに対して、何も思ってはいない。だけど…それが知り合いなら話しは別だった。昔ながらの付き合いだから。
初めて人を殺した事に対して、罪悪感を感じたのだ…その罪悪は知人を殺したことによって生まれた物だった。俺は以前のように何も気にしないで異端者を殺す。
全ての悪を粛清するために―
【190年5月20日】
主と離れて一年は経ったのか…。
クリスは今頃なにしているのかな。あいつが好きだったナーシャに告白でもしたかな。あいつは抜けてるところが沢山あって、失敗してるだろうけど笑。成功とか願ってるぞ。
早く帰ってまずは腹ごしらえだ。
ワキムが作る料理は超一流だからな。でも、あいつの嫌な所は、わざわざ俺の大嫌いな食べ物を絶対に出してくる所だな。ワキムは、苦手な食べ物を克服しろとか訳の分からない事を言い述べて食卓の上に堂々と、嫌いな食べ物を出す。
それからナーシャに出会って、育神官の仕事はどうだったか感想を聞かなくては。ママ役になられたら正直嫌だ…。俺には妻が居たし、夫婦ごっこは絶対にしたくない。
あと主のために土産話や新しい玩具を持って行かないと。帰りに名誉の国に寄って、腕いっぱいに持っていくか。部下も連れて。
寂しい…。
早く争いを終わらせて皆んなに会いたい。
とても会いたい…。
さらに寂しい現実が襲うように、俺は皆んなの現在を知ることができない。その情報を知るためには教皇に合わないといけないんだ。俺は団長だから戦場から安易に離れることができない。
本部には俺が会いたい人がいるんだ。
今は第三拠点近くで見張をしている。
数人の実力者のテンプル騎士団と歩兵と一緒に。
「今日も夜勤だな。」
「そんな笑、仕事じゃないのに夜勤なんて笑」
「寝る暇が来ないですねー。」
「ゴドフレワは、この争いが終わったら何をする?」
ゴドフレワ…俺と一緒に第三次魔王戦争で渡り合った仲だ。彼は高貴なるプテリガ剣術を扱い、武の極地には至らなかったが剣と向き合えた数少ない人だ。
「俺ですか?…死亡フラグ立つのでやめてくださいよ笑。」
「いいから聞かせろよ笑。」
「はぁ。聞きます?」
「この争いが終わったら、アリスに結婚を申し込むんですよ。上手くいくかは分からないけど…アリスは俺の帰りを待っている。」
「上手く生き残ればいいな。」
「団長も聞かせてくださいよ。」
「団長呼びじゃなくて俺の名前で呼べと何回も言っろ。まあ、争いが終われば、本部に帰り皆んなと顔を合わせに行く。それから育神官として復帰する。」
「お互いカッコいい考えだな団長さん。」
「だからジャンでいいって…?ん?」
「向こうから何者かが来る。武器を構えろ。」
「また奇襲に来ましたか…。」
完全武装した人物が来た。見るからに高級な物を使っている。強そうなのが指で数えられるぐらいに少なく、周りに歩兵が100人は居る。一直線に数人の強者が来る感じだ。もし、周りに強者が円のように第三拠点を囲み、俺らを袋叩きにしようとしていたら、とても危ない。
「今日はゲリラ戦みたいだな。」
「俺が相手しましょう。団長。」
ゴドフレワが二歩歩いて消える。
弱兵の所に行き雑魚狩りを開始した。
その後は、俺が強者とやり合いに向かう。
―極意殺傷―
―月光::第六章:三十四節〈黒波の極流〉
一撃必殺を狙う。
近くまで来たが、アデントだっか…。丁度今日は、団長の仇が取れそうだ。
俺の託された長い剣が、強い流れに沿って一直線に進み、流れが読まないようにグネグネと空を舞う。その剣が行き着く先はやがて、異端者を一網打尽に切り裂いた。アデントは華麗に避けて、他の異端者が道連れになり死んだようだ。
「おっととー。」
「いきなりガチで来ることはないじゃないか。礼儀が成っとらんなぁ。」
アデントは、呆れ顔をしながら俺の復讐心を炙るように撫でる。
「アデントっ!…お前…。」
「落ち着けよジャン。時代はもう変わったんだ。」
「今は新生ヨハネなんだぞぉ?。」
「このゲスが…お前は団長に何度も恩があったはずだ…。なぜ仇を返した…。」
「復讐に燃えて1番重要な情報を聞いてないじゃないか笑。これは滑稽だ、本当の復讐する相手は俺ではなく―。」
ゴドフレワが帰ってきた。
俺が怒り狂う前に必死に帰ってきたようだ。
ゴドフレワは、勝利を運ぶ剣を片手で持ち構える。それを見たアデントは慌てて盾を構えた。後ろに隙ができ、俺はアデントを容易く刺さる。
―プテリガ剣術〈雷鳴の女神〉
強烈な三連撃は、稲妻のように早くアデントの盾を深く傷つけた。あと一撃入れば盾の役割が消えるように消耗させた。俺は奴の背中を狙ったが、アデントが足場にある砂を力強く蹴り、身を隠した。
「ほー…凄いなこの盾。」
「どうやって作ったんだ?。剣と向き合った者の斬撃を防いでくれたではないか。しかも、あのゴドフレワの斬撃を。」
「なに危機感もなく、盾を呑気に褒めてんだっ…。」
「団長…落ち着いてください。俺も憎いですが、怒りで判断を鈍らせるためにやっている猿芝居です。」
「つい盾に見惚れてしまったな。とても巧妙に作られていると感心してしまったようで申し訳ない。」
おかしい…。何ががおかしい…。
なぜ、弱い奴しか連れてこないんだ?…。
「俺らが居ると分かって来たんだよな…分かって来てるのになんで雑魚しか居ないんだよ…。何が目的なんだ…命乞いのつもりか?。」
「命乞い?プハッ笑」
「こんなところで笑わせるなよ。アーハッハ!」
アデントは膝を叩き笑っていた。
ゴドフレワは、剣を強く握っている。
「命乞いでないのか?…何が望みで部下も連れてきたんだ。」
「あはぁー…さぁなんだと思う?」
「さっき言ったよな?新生ヨハネって。」
「それがなんだ…。」
「ただ名乗っているだけだろ…。」
「分かんないのか?!。いいさ教えてやるよ。」
「食卓の国と同盟を結んだんだ。今までは、互いにバランスを取っていたイタチごっこだったが、あの国が支援してくれるお陰で俺らは、一気に勢力が増大した。」
「そうだったか…隠密調査をして証拠が一つも見つからず、泣き寝入りで帰ったが、謎が溶けて助かった…。」
「でも団長…食卓の国と同盟を組んだってことは、最大の戦力を保有したと同義…これでは…。」
「そうだ。戦争が始まろうとしている。」
「もうじきに異端審問官が来るから、それまで、指を咥えてビクビク待ってろ。」
「このゲスッ!―」
俺は剣を振るう。
アデントの喉元に届こうとしたその瞬間。
待ち構えていた異端審問官に邪魔をされた。
アデントは守ってくれると見え透いていたかのように、憎たらしい余裕の笑みを見せる。
「ッ?!…随分と早い到着じゃねーか…クソがよ…。」
「邪魔すんじゃねぇ!!」
アデントを守っていた異端審問官は、俺に話しかけた。それとアデントは、知らない間に逃げていた。
「ジャン=マルクか。」
「聞いていた情報通り…弱いな。私は、こんな雑魚と戦う意味すらない。第一課に相手させよう。せいぜい頑張れ。」
女の声だった異端審問官は、俺の前から消えて帰っていく。残りの異端審問官が、ぞろぞろと押し寄せて来た。
「クソっ!なんだよあの女!」
「異端審問官を相手できるか?!」
「流石に厳しいって団長!」
「こいつら第一課ですよ!数が多すぎます!」
状況は緊迫していた。
国教直属の異端審問官が、こちらに刃を向けているからだ。争いに有利性が無くなってしまった。今でバランスを保っていた争いが一気に傾いてしまう。負けが確定しそうな争いなら士気が下がり、弱体化してしまえば本格的に終わる。
しかも上等品である第一課を派遣されてはな…。
本気で今日潰す気じゃないか…。
数々の予想を立てながら俺は最善の道を選んだ。
俺たちがまずやることは―
―足を後ろにやることなく前進すること。
「前に進めぇー!!!」
俺の声により仲間が前に前へと駆け上がる。
託された剣を眺めながら異端審問官を次々に叩き切った。後ろを振り返れば死体でできた道だけが残る。
ゴドフレワはプテリガ剣術を扱い、異端審問官第一課と相手していた。他の仲間は、それぞれの剣術を扱い第一課を相手していく。そして俺はゴドフレワの後を追い背中を合わせて戦った。
「ざっと2000ぐらい居ないか?…」
「まともに戦えるのは俺と団長と6人ですね…。」
「全員片付けても、俺の攻撃を止めて弱いと言いやがった女が必ずや来る。それまでに体力を温存させたいが、難しいなぁ!」
俺と同等の力の差がある異端審問官は、次々に前や後ろに無限に湧いてくる。数は把握できてるが、底がない井戸のようだ。
これを少ない数で頑張るのは、無理があるだろ…。
挟み撃ちで、剣術を放ってくるのが面倒だ。
全ての攻撃はレイピアで流してるが、タイミングが一歩でもずれると死に直結する。
―ぐっ!!
こいつら一人一人が強すぎる!流石は前しか見ない人間だっ!食料が溢れてるからっ、屈強な身体だなっ!
―月光::第二章:十節〈流れゆく蒼刃〉
青い軌跡が、緩やかに異端審問官を切断しにかかる。
だが…俺の攻撃は通用しなかった。なんて防御力を秘めた鎧だ。ゴドフレワの攻撃なら通用できる。それに、さっきまでの審問官は、なんだったんだ?俺の攻撃は通用していた。
そうか…その鎧は試作段階だな。
何のために作られた物か分からないが、高コストの鎧だろう。そこまで量産できる品でもなく、強い奴にしか渡されないと見た。クソほど面倒じゃないか!…。
心の中で愚痴を溢していると、突然として俺の背中に強い衝撃が走った。俺は吹き飛び宙に浮いている。
突然のことで、意識が追いつかない。
呼吸の乱れ、口から出る血、胴体の硬直、力が入らない。大剣で殴られたみたいだな…。
「っ!ぐふぉっ!!がっ!!」
強く地面に不時着し、擦りながらゴロゴロと転んでいた。
急いで剣を地に立てる。仲間と距離が離れた。
誰一人助けが来れない状況だ…。今日ここで、俺は死ぬのか?
「はぁっクソぉっ!…ガッ…。」
体の内側が酷く痛く、吐血していた。
「なんて一撃だ…。」
「マッドみたいな力強さだなっ…はぁはぁ…。」
どうしたものか…。絶対に勝たなくては…。
絶対に…絶対に…皆んなのために…。
さっきまで俺を吹き飛ばした異端審問官が一気に間合いを詰めて、デカい大剣を頭の上に振り翳して来た。
急いで防御を取り、剣で防いだ。
大剣が俺を押し潰すように強く押され、足が地面が沈む。
「ぐっ!っっ!ぅっ!。」
座っていた俺は徐々に立ち上がり、それを弾いた。
大剣を持った男は、高く上げられて隙ができた。
レイピアを抜き放ち目を貫く。
ぐちゃぐちゃと音を立てながら左右に掻き回した。
「今まで一撃を頼って来たんだな。」
「マッドみたいに隙ができて助かったぜ。」
そこから後を追って来た異端審問官が来る。
もの凄い数だった。第三次魔王戦争を彷彿とさせる。
押し寄せる悪魔達が、なんど希望をへし折ったことか。どうやって勝てるか分からなくなった今、俺の力が有限である限り、解決できない。
今ここであの力を使っても…。あれは、俺の復讐を果たすために持ち去った物。こんな所で使いたくない。意地でも頑張ってやる。
―極意殺傷―
―月光::第七章:二十節〈聖堂の遠海〉
複数人の異端審問官が俺の攻撃を止めた。
協力プレイが上手いようだ。そして、四方八方から剣術が来る。もう諦めか…。こんなの…どうやれってんだよ…。
この攻撃を止めるほどの力はない。
でも流すことはできた。なら俺は以前どうやって悪魔の攻撃を全て流した。
その感覚を思い出す。
言葉に表せない感覚を掴むんだ。
もしあれを剣術として扱えるなら、また使って勝利を掴み取りたい。
魔王の攻撃さえも軽々と流した閃光をもう一度―
―俺だけのオリジン。
―オリジン:クリストス〈光明〉
数多の殺意で暗くなっていた空間を一瞬として、白い閃光が走る。さっきまでの騒音が嘘のように消えていき、俺の手に持っていたレイピアは、周囲にいた全ての者達の胸を貫いていた。昔のように全ての攻撃を受け流して、カウンターを決めた。
これが、俺だけの道。
クリストスは、主に名付けたい名前だ。
彼に名前が無かったからな。異端狩りをしてから俺は、名もない主のために名前を考えていた。この名前は、主に相応しい名前だ。そして、この名前を俺の剣術として名を冠した。俺のレイピアに…主が宿っていると感じられる。
それから俺は今…昔を取り戻せた気がした。
「はぁはぁ…使えるのは2回ぐらいか…。流石に歳だな。」
周りに居た異端審問官は驚いて、後ろ歩きで離れていく。
「どうした!ここからが勝負だろ!」
戦意を失った異端審問官は、ゴドフレワに切られる。
―プテリガ剣術〈神聖なる光〉
輝きを放ちながらゴドフレワは、鎧を容易く切っていた。次々に倒れていく異端審問官は、蟻の行列のように死んでいく。
「お前らぁーーー!!!!!!数は段々と減って来ている!あともう一踏ん張りだ!!」
戦える者は4人死んだが、まだまだ行ける。
ゴドフレワや他の仲間も次々に倒している。
俺も引けを取ってはだめだ。
感覚を取り戻した俺は、レイピアを酷使し、どんどんと異端審問官の数が減っていく。底が見えてきた。
「ゴドフレワ…だいぶ減って来たな…。」
「団長と俺だけになりましたね…。」
もう朝か…。
200ぐらいの異端審問官は逃げていき、残りは全員倒した。とても体力を消耗した。でも問題はまだ残っている。第三拠点を無事に守れたが、アデントはどこに行った…。
俺らが異端審問官と戦っている間に第三拠点を攻められていたら…。あの女は、実は帰っていなくてアデントと一緒に向かっていたら…。
「なんとか戦い抜いたが、ここからが本番だろうな。アデントの行方と、あの女が第三拠点に居るかもしれない。」
「援軍を呼んでも時間がかかる。」
「二人でいきましょう。」
俺たちは、第三拠点に着いた。
入り口の扉が壊されている。人が居ると思えないぐらいに静かだ。
「………守るために戦ったものの、騎士として最低な戦術をしやがったな…腐っても国か。」
「人質を取っているかもしれんな。」
「争った痕跡があるが血痕がない。」
安眠の国の資料を取り扱っている部屋に入った。
そこには、あの女とアデントが居た。でも、生きているのは3人だけだった…他は壁側に置かれている。
………いま生きていた3人が殺された。
「遅いじゃないかジャン。」
「さっきまで尋問してたんだよ。どいつも口が固くて悲鳴しかあげなくてな、困ったもんだよ。何一つ情報を聞き出せなくて無駄足だった。」
「おい、聞いていた話と違う。2000もの実力者を連れて来たが、生き残ってるじゃないか。それとまだ最後まで書き出してないのに、なぜ殺した?!。」
「最近の情報しか見てなかったろ。彼はあれでも、魔王の攻撃を阻止する事ができた数少ない無名の英雄だ。その隣の奴は、お前と同じぐらいの強さだ。歳が過ぎてから剣と向き合うことができ、最近になって覚醒したがな。」
「なにっ?!冗談だろ?あいつの攻撃は容易く防ぐ事ができた。目の前で見てただろ?。」
「…彼は血抜きをしてから力を消失してな。文字を書くのが困難なほどにボロボロだった。ジャンの力が戻り始める日は、いつなのか楽しみにしていたが。お互いに亀裂ができた以上…目覚めてほしくなかった。」
アデントが俺らの話をしていた。
隣の女騎士が、兜越しでも分かるようにジロジロと見ていた。
「昔の俺を褒めてくれて嬉しいが、見返りが必要そうだ。仲間を殺した代償を支払ってもらう。」
「そうですね団長。裏切りと脅威を粛清に。」
「女豪の薔薇よ、ここからは手を抜くなよ!!」
「分かっているぞ、ジジイ!」
懐かしい名を継承したであろう女が、前触れもなく襲ってくる。やはりあの剣は、薔薇の聖剣だったか。ロザリアン剣術を、またこの目で見れる日が来るとは。お前に、その名を名乗れる資格があるのか、俺がとくと見てやる。
―極意殺傷―
この場の四人が一斉に殺意を放つ。
女の赤黒い未完成の殺意、アデントの鋭く研磨された殺意、ゴドフレワの輝きを放つ洗礼された殺意、俺のドス黒く液体までに具現化された押し寄せる殺意。その殺意が境界線を張るかのように十字に分けられる。
女からから攻撃が飛んできた。
―ロザリアン剣術〈 薔薇の血〉
ゴドフレワと俺は避ける。
不規則に動いた剣は、ムチのように長くしなやかで、軌道が読めにくかった。そして、建物全てが不規則に大切断される。
「おい!まだ建物の中にいるんだぞ!!」
「黙れアデント。そんな事ぐらい分かる。」
「こんな狭い所で戦うより外で戦った方がやりやすい。ほれ見てみろ、あの者らも壁を突き破り外に出て行ったぞ。」
俺とゴドフレワは、壁を突き破り外に出た。
「あの女っ、剣と向き会えていなかったか?」
「刃渡りを越しました。俺のように長く。」
「それでも前の代よりかは短い。」
「面白くなってきた。あいつの教え子と戦うなんて。」
「仲間を殺したことに腹を立てますが、異端審問官は国から仕方なく派遣されただけですからね…。」
「ヨハネ教に加入させたいが、食卓の国が雇用しているからな…。説得して入れさそうとしていても、加入してしまえば裏切りになる。」
「どうせヨハネ教は、その国と戦争する日が必ず来る。入れさせても問題ないんじゃねーか?。戦力も増えて勝てる見込みができる。」
「そうかもしれんが…純白の処刑人やコサック傭兵を派遣されれば全滅だぞ。カスティーユの教え子を危険に晒したくない。」
「それはない。純白の処刑人が戦争に出されるなんて滅多な事だぞ。相手が化け物じみた奴じゃない限り。でも巻き込みたくはないな…。」
徐々に崩れゆく第三拠点から壁を突き破る二人が出て来た。俺は、託された剣を構えてゴドフレワも構える。
―ロザリアン剣術〈薔薇を纏う女〉
―月光::第八章:三節〈武の極点:癒しの津波〉
―プテリガ剣術〈勝利のその先に〉
不規則な剣が、ムチの様に伸び、刃渡を超えてバラバラに地面を深くえぐった。俺たちは一つ一つを防いだ。地面に深い斬撃が残り、空気を切る音が聞こえる。無差別に繰り広げられる軌跡は、綺麗で魅力的な赤色だった。
「お前も戦えアデント!」
「なにボケッとしてんだよ。」
「俺が入ると邪魔になるからな。その剣術は、集団戦で発揮する。俺の単独戦特化と相性悪い。」
「チッ。そうかよ。」
確かにアデントの剣術は、ロザリアン剣術と相入れない。コンビを組んだとしても、とても歯がゆいだろう。アデントの考えは当然だが、賢明だった。
「ならお荷物は、要らねーよな女。」
「気安く私に話しかけるな!」
「…異端者の団長。だが、ほんとうに要らないお荷物だな。」
「おい。そことそこ、なに意見を合わせとる。」
「敵同士だぞ、こんな所でお荷物扱いしないでもらいたい。」
「アデント…自分の持ち場に帰れ。」
「ここはわたし一人で十分だ。」
「はぁ…。」
「第三拠点は、無事に潰す事ができた。王に報告していく。無事に任務を終わらせろよ?団長を殺す事ができなければ、お前の首を持ち帰ることになる。」
「はいはい。分かったから行け。」
アデントは、食卓の王に報告しに向かった。
機嫌悪く帰って行ったな。味方に、お荷物と言われて不機嫌になるのは無理もない。
「1対2になったが、大丈夫か?」
「お前らなど、飛んで火に入る夏の虫さ。」
「よく言うねー。」
「口の達者もカスティーユ譲りか?」
「なぜ…その名を知っている。」
食いついて来た。
これは丁度良いかもしれない。
お前こそ、飛んで火に入る夏の虫だ。
「知りたければヨハネに入―」
「それは断る。」
「魔王と戦った者と先ほど聞いたが、お母さんの同期だからどうしたと?。それで食いつくような女ではない。」
まさか…カスティールの娘だったか…。
こんな形で出会うなんて。
「女豪の薔薇は、皆んな気が強いねー…。」
「意思が堅いのも健在だな。カッコよくて惚れ惚れする。だけど、お前の戦う理由を聞きたい。それが俺の心に響く理由なら戦いたくない。」
お前の仁義を暴いてやる。
「誰が教えるかよ。戦う理由なんて一つもない。ただ私は、お母さんの様に…国の命令をひたすら聞いて、ただ従うだけ。それだけなんだ…。」
「カスティーユが、そんな柔な女だと言いたいのか?」
「っ…。」
「何も知らないくせに…お母さんを語るな!!!」
「ゴドフレワ!お前は後ろで援護してくれ。」
「あいよー!」
―ロザリアン剣術〈武の際極点薔薇の残響〉
美しい音を奏でながら空を切り、無差別に軌跡が広がった。さっきよりも範囲が広く、刃渡りは振動で震えている。震えた刃は、完全に軌道が読めなくなった。一撃でも食らえば即死すると感じる壮大な攻撃は、とても脅威的だった。
これは…ゴドフレワでも援護するのは、不可能だ。
ならば―
―オリジン:クリストス〈光明〉
また白い閃光が周りを駆け巡る。
今度は一撃で相手の攻撃を強制キャンセルし、一瞬にして間合いを詰めた。白い閃光が消えると、カスティールの娘が手に持っていた剣を弾き飛ばしていた。そして同時に…俺のレイピアは壊れた。
長い付き合いのレイピアは、二度と使えなくなるまでに、酷く壊れていた。
「はぁはぁ…どうだ…。」
「俺の…話を聞く気になったか?…」
「い、今のどうやった。」
「白い光が一瞬現れて一瞬で消えれば、私が持っていた剣が弾き飛ばされて…。」
「これが…魔王とやり合えた剣術だ。」
「俺だけしか扱えない究極のカウンター。」
カスティーユの娘は、兜を脱ぎ捨てて、顔を見せた。
本当にカスティーユの娘だ。よく似ているじゃないか。
「私の名前は、イザベル。」
「…さっきは感情的になり申し訳ない。ヨハネ教に入るから、お母さんの事について詳しく教えてくれないか?。私はお前に、お母さんの事を語るなと言った身だが、知りたいんだ。」
「…カスティーユは、名誉の国出身で、高い階級に属しておった。宗教取り締まり令により、名誉の国から食卓の国に属すことになってしまったんだ。」
「これは知っているか?」
「知らないです…。」
「お母さんに剣術しか教わりませんでした。動き一つ一つに厳しく、よく私に叱り付けました。」
おっと…あまり母の愛情を貰えていなかったのか?。何やってんだカスティーユ…。
だけど、英才教育とでも言うのか、この子はしっかりと育っているではないか。脳筋で馬鹿な女だったのに…感動するな。またお前と酒を交わしたくなったよカスティーユ。
それから俺はイザベルにカスティールの事について話した。イザベルは、興味津々で話を聞き入れ、ゴドフレワは腕を組み見ていた。イザベルは、驚き、笑い、感動し、最後には泣いていた。
「……なぜだろ。なんか私…涙が出で。」
「素晴らしいお母さんを持って良かったな。誇りに思うがいい、それとカスティーユが最後に残した鎧を渡そう。俺が所有してるからな。」
それからイザベルは、戦う理由ができた。
食卓の国の秩序を正す為に戦うと。
そしてイザベルは、ヨハネ教に加入した。
異端者:テンプル騎士団:第二軍上位聖騎士:100名・死亡
異端者:テンプル騎士団:第一軍上位聖騎士:4名・死亡
異端者:テンプル騎士団:第一軍上位聖騎士:ルイ=アデント・生存
異端審問官:第一課:1756名・死亡
異端審問官:第一課:244名・生存
アガペー派:記録官:34名・死亡
アガペー派:第三拠点:壊滅・護衛失敗
アガペー派:テンプル騎士団:第4軍上位聖騎士:40名・死亡
アガペー派:テンプル騎士団:第一軍上位聖騎士:9名・死亡
アガペー派:テンプル騎士団:副団長:ゴドフレイ=ワレム・生存
アガペー派:テンプル騎士団:団長: ジャン=マルク・生存
アガペー派:テンプル騎士団:イザベル・生存・加入
【190年5月25日】
イザベルにカスティーユの鎧を渡した。
全体が黒く、薔薇の赤い模様と緑の荊棘が生えているように、刻まれている遺物だった。鎧系の遺物は喉から手が出るほど貴重な物だ。大概が物や武器しか存在しないからな。
その鎧は、イザベルの体によく合っていた。
カスティーユと同じ背丈だ。目の色も一緒で、本当に懐かしい。若い頃のカスティーユが目の前にいる。
「これが、お母さんが着ていた鎧なのか?」
「似合ってるよ。」
「カスティーユが今も居ると思うぐらいに。」
「その…良ければだが。」
「お母さんが持っていた、もう一つの剣を、ジャンにあげたい。」
まさか、俺に薔薇の細剣を渡すのか?
「遠慮しておくよ。その剣は―」
「私に相応しいと言いたいのだろ。」
「その言葉には聞き飽きた。私がジャンに渡したいから渡すだけだ。」
「俺が男である限り、その剣を扱うことはできない。」
「それでも…二度と壊れないレイピアぐらい欲しいだろ?。あの剣は、私のせいで壊した感じだし…。」
「長年の付き合いだから、いつ壊れてもおかしくなかった。イザベルのせいではない。」
俺は、左手を眺める。
「いいから受け取れよ!」
イザベルは、布で覆った剣を俺に突き渡す。
反動でよろめいた。
「おっとと…俺も歳だぞ力加減ぐらい考えろ。」
「まったく…そんなに受け取ってほしいのか?」
イザベルは、うんうんと頭を振っていた。
脳筋も譲ってたか…。言葉ではなく全て行動だからな…。
新しい武器を探すにも、致命的な円舞曲は、もうない。あの高い耐久力は、第三次魔王戦争の時に作られた限られた武器だ。あの高純度で最高な剣は、新しい脅威が生まれないと、もう一度作られないだろう。
「断れないな…。」
俺は、布で包まれた剣を剥がす。
ピンク色の刃が光り、光沢を放った。刃には、片面だけに一本の薔薇が刻まれている。カスティーユは、これを使いこなして、薔薇の残像をよく見せていた。俺は扱えるだろうか…。
遺物は人を選ぶ。
その持ち主が相応しいのか見分けるんだ。相応しくなければ本来の力を発揮しない。ただ壊れないだけの丈夫な物になってしまう。
女豪の薔薇は、継承として、独自の剣術と遺物を託す。この遺物は、気高き女性しか選ばれない。そんな遺物だ。男である俺が使えないのも当然。
でもこの剣は、俺を選んだかの様に輝きを少しだけ放っていた。イザベルは、口が開き驚いている。
「今のは気のせいか?」
「ジャンって………女だったの?」
「そっ、そんな訳無いだろ!」
「男だぞ。お・と・こ!。」
なぜだか分からないが、この剣は俺に使ってもいいと判断されたみたいだ。少し気に食わないが…いいだろう。思う存分に気高く使ってやるからな。覚悟しろよ薔薇の細剣。
俺の心の声に応えたのか、もう一度輝きを見せた―
【???】
妻が居なくなった。
とても悲しかった。
妻を探した。
手がかりを見つけた。
妻は…実験されていた。
俺は、研究所を荒らした。
遅かった。
俺の子ではない息子が産まれていた。
人の形をした、獣みたいな赤子だった。
妻は息を引き取っていた。
俺は、取り押さえられた。
追放された。
煙の民になった。
遠くから息子を見ていた。
息子は数年で成人にまで成長していた。
息子は翼を持っていた。
悪魔と戦っている最中に息子が来た。
息子は俺の事を知らない。
息子は悪魔に集中していて、俺の顔を見る事はなかった。
息子は人間の手によって殺された。
尊厳なく殺された。
人扱いされていなかった。
モルモットのように扱われた。
俺が父親だと告げる前に、顔を合わせる事はできなかった。
死体を腕で抱きしめて、復讐を誓った。
「―殺してやるっ!!!!!」
「っはぁはぁはぁ………またか…。」
また悪夢に悩まされたか。
こんな真夜中に起きるなんて…もう一度寝よう。
次は、主と遊ぶ夢を見れますように―。
【190年8月1日】
ついに…全面戦争が始まる。
アガペー派とリ・ルーティング派の争いが終焉を迎えようとする。
何万もの聖騎士がお互い対峙し、列を成していた。
相手には数多くの異端審問官が居る。
ついに、この戦いに終止符がつくんだ。
テンプル騎士団は、今か今かと待っている。
驚くほど静かだ。雨の音だけが聞こえていた。
「我らテンプル騎士団よ!」
「数は相手と比べれば少ないが、俺たち一人一人が生き残り強くなった!仲間の死を糧にして一段と強くなった俺たちをどう止めようとする!ヴァルブドックのように気高く!戦馬のように駆け巡る疾走を誰が止められると言うのだ!我らは完全無欠の聖騎士であり!破滅の騎士団だ!もう一度問う!我らはなんだ!」
フィナーレは、最高潮にまで達した。
皆んなが口を揃えて復唱する。
「主よ、私たちにではなく、私たちにではなく、ただあなたの御名に栄光を帰したまえ!」
俺はトランペットを吹き戦争の合図を出す。相手もトランペットを吹いた。互いの聖騎士が前に出て、声を荒げる者は誰一人居なく、沈黙を守り続けていた。
後ろの兵達は、弓を構えて矢の雨を降らす。
矢同士がぶつかり合い、粉々に落ちていく。
二人乗りの重騎兵が駆け巡りぶつかり合う。
馬を殺し倒れた聖騎士は刺し殺される。
手で合図を出して、仲間達の分配を行い、適切な場所に誘導した。俺は数人の上位聖騎士を連れて、相手側の団長の元に向かう。
「………。」
剣同士がぶつかり合う音、鎧ごと斬られる音、死体が落ちる音、大地を踏みしめる音、その全てが一つの音に絡み合い、雑音となった。
―月光::第十章:二十四節〈武の極点:押し寄せる波〉
目の前に現れた異端審問官を蹴散らす。
薔薇の花びらが落ちていく残像が見え、滑らかに鋭く切断されていた。音もなく華やかに綺麗に舞い降りた薔薇は、気高く散った。
遠くからイザベルの猛攻が見える。
あんなにも距離があるのに凄い有様だった。あたり一面にいた異端審問官は、全員バラバラになっている。殲滅戦特化の剣術は、単独プレイで行かないと敵味方問わず巻き込まれるから、イザベルの状況を少しでも把握しないといけない。もしそこにイザベルの攻撃範囲内に仲間が居たら大切な命が失われる。
おっと団長のお出ましか。
ベルナール・ド・トレムレ。
お前を今日、粛清する。
―極意殺傷―
押し寄せる殺傷が俺の鎧を反って纏った。
薔薇の細剣が禍々しい見た目と化す。ベルナールも洗礼された殺意を放ち、研磨された殺意は、より剣を鋭くさせた。仲間も異端者もそれぞれの殺意を扱い、剣術を繰り広げる。
―月光::序章:一節〈武の際極点:始まりの昇り日〉
―月光::序章:五節〈武の際極点:始まりの大地〉
周りに居た者達は急いで俺とベルナールの元を離れた。
互いの剣がぶつかり、衝撃が周囲に広がる。地面は、大きくひび割れ、雨は弾き飛ばされた。
ここは、俺たちだけの戦場と成して熱い戦いが繰り広げられる。
幾度も全力の攻撃が飛び交い、巻き込まれた者は、足で潰れた蛙のように死んでいった。
剣聖の称号を持つ同士の戦いは、泥沼な戦いが起きる。最高峰の強さを持ち、決着が付きにくいから。
「力を取り戻したか…。」
「主語厳禁だぞ、規律を忘れたか?」
「そんなことは、もうどうでもいい。」
「力を取り戻したのかと聞いている。」
「口で話すより体で話したほうが早いだろ。」
「さっきの動きを見て分からないか?。」
―月光::第七章:七節〈神聖な海底の扉〉
―月光::第七章:四節〈足元を照らす海面〉
刃渡りを超えて斬撃が遠く飛んでいく。
ベルナールの右腕を切り落とした。
「お前が…力を取り戻しては…こちらの勝利が霞んでしまう…。異端者を粛清しなければ…。我らに未来と繁栄を…。」
「勇敢に戦ったなベルナール…。最後まで勇敢に死ねて光栄に思うがいい。」
ベルナールの首を切った。
後は異端審問官の頭を殺さなくては。
もう俺に護衛など要らない。
俺だけで十分だ。あの時の団長のような戦術は使わない。俺は俺として行動する。
―何かが俺に風穴を開けた。
右肩を持っていかれた。とても早かった。
目の前で通り過ぎたと思えば、音が遅れて聞こえ、そして、俺は後から来た風圧で吹き飛ばされた。
だけど懐かしい感じがした。
この翼が舞うような羽ばたきはあれしかない。
―決戦兵器
また…胸糞悪いものを…。
無意識にドス黒い殺意が俺の周りから下に落ちて、地面を反って広がる。
殺意を込めたただの一振りは、遠くを切断する。
滑空特攻の決戦兵器は、俺を集中的に狙い槍を構えて回転する。次は胴体を狙ってくると、槍の先が知らせていた。
「悲しき存在よ…許してくれ…。」
―クリストス剣術:〈光明〉
白い閃光が走る。
決戦兵器の心臓を貫き、両翼を刈った。
今…束縛から解放してやる…。
俺を睨む決戦兵器は、必死に呼吸をし、頭をバラバラに切断した。
こんな殺し方ですまない…。
「はぁはぁっ…ぐっ…。」
もう体力がない…。
ベルナールの戦いでだいぶ消耗した…。
それに技を使ってしまった。使わなければ死んでいた。決戦兵器を使われるなんて、全く予想できなかった。普通は使われないはずだ。
あと何体かは、ここに居るってことか…。
負ける…確実に負ける。
最悪の状況がまだ来ていないのに…。
ここであれを使いたくない…。
あれは、安眠の国を滅ぼすために残した物だ…。
剣よ…俺に力を貸してくれ…。
このままでは負けてしまう…。
託された剣は、何も反応を示さない。
「クソっ…。」
目の前で仲間が決戦兵器に蹂躙されていく。
潰れて吹き飛び、敵味方問わず大きく切断されていた。
阿鼻叫喚だった。
戦場は、より悲惨となり、絶望が蔓延った。
これ以上…失いたくない。
仲間の死に慣れているがもう…。
―全てを失いたくない。
俺は膝を地に落としていた。
諦めてしまったのか…。
俺は自信に問い出した。
俺は何のために剣を振るう。その先に何が待っている。そこに何がある。
全てはヨハネを守ること。主が帰りを待っている。復讐は果たされず、憎んだままに生きること。
俺が1番にすることは。
―復讐を果たし、悪を根絶すること。
人が…道を踏み外さないために。
妻のように、被害者を出さないために…。
息子の尊厳を踏み躙ったあいつらのために。
もう一度…俺は剣を見た。
鋼色の先に映る顔は、酷くやつれていた。
剣よ…俺に答えてくれ…。俺は未だ復讐に囚われている…。それでも…俺に力を貸してくれ…。俺は歴代の団長のように、気高き人ではない。復讐に呑まれ、あいつらと同じ穢さで生きている。この気持ちを果たすまで鎮まることはできないだろう。
そして俺は、主のために人生を捧げたい。
彼に死んだ息子を重ねてしまうのは、息子に対して酷く失礼だろう…。だけど、主には…俺にできなかったことをしてみたい。父親と言う責任を背負いたい。息子の成長を見ることができなかった、哀れな父親のために。
父親になりたい。
彼だけの父親に―
―気高き騎士の剣解放―
「っ!!!」
体がドクンと脈を打った。
疲れが回復していき、さっきまでの呼吸の乱れが穏やかになっていく。無尽蔵の体力を感じ、無限の底力を実感する。これが歴代に渡った遺物か…。
俺は、立ち上がり決戦兵器の元へ向かう。
イザベルが苦戦していた。
近距離戦特化の決戦兵器は、イザベルの攻撃を素手で殴り、防いでいる。そこから突進して武術を繰り広げていた。一振りの打撃は、周囲を吹き飛ばす。イザベルが数回殴られていたのか、体を少し引きずるように痛がっていた。
イザベルにカスティーユの鎧を渡して良かった。
あの鎧を着ていなければ今頃…。
急いでイザベルの前に出る。
「ジャン!危ない!!」
決戦兵器の拳が目の前まで来た。
―クリストス剣術:〈光明〉
白い閃光が走り、決戦兵器の心臓を貫き、両腕を切断した。トドメを指す前に、決戦兵器は距離を取った。
「イザベル!後はお前に任せる!」
「それとあれは、決戦兵器と呼ぶ者達だ!殺す時は苦しみなく殺してほしい!!。」
俺はその場から離れる。
イザベルは、両腕のない決戦兵器とやり合っていた。
両腕がなくても、武術を極めた者は両足だけで戦えるからな。
次々と決戦兵器の元へ向かい、仲間を助ける。
右肩を失っても俺は痛みを気にかけず、全力を注いだ。疲労は回復したが、肉体的な損傷は別だった。それでも前を向いて戦う。あの時のように。
その時だった。
空の上から黒い何かが落ちてくる。
隕石のように勢いよく落ちてくる。
あれは…―――。
その黒い何かが地面に落ちた。
けたたましい音が鳴り響き、地面が割れる音が聞こえる。そして、地面が揺れ誰もまともに立たなくなっていた。
「来たか…トゥーサン…。」
「久しいなジャン。」
「こんな再会になるとは申し訳ない。」
「今まで何してたんだよ…ページでも探してたのか?」
「それは毎日やっていることだ。」
「それと、感覚を取り戻したと聞いた。またあの技を使えるのか?あの…刹那の光を。」
「もちろん。まだ完全にまで戻れていないが…歳の影響があるかもな。」
「ふん。」
「魔王の血による、体内の崩壊…それを排出するための血抜き…それをしたお前が、復帰できたなんてな。」
「リハビリなんて要らなかったよ。」
「正直…俺も驚いてる。あんなにボロボロになった俺が、元に戻れるなんてな。まるで奇跡だよ。」
敵なのかも味方なのかも分からないトゥーサンは、勇敢な異端審問官に、攻撃される。複数の分身を作りながら四方八方に重複した剣術を放った。トゥーサンは、ただの一振りで、それを粉砕する。勇敢な異端審問官は、剣と鎧ごと切断された。
「おいおい、味方なのに俺を攻撃してどうする。」
「しかも異端審問官の団長ではないか…これでは、また反感を買ってしまうな。」
そうか…そっちに就いたんだな…探究聖
「リ・ルーティング派に就いたのか…。」
「それが…未来だったのか?…。」
「そうとも…悪いがジャン。」
「諦めてくれ。」
俺たちは…ここで敗北する………
それが未来だったのか…。
「諦めないっ!…俺は……息子ができたんだ…。」
「その息子は所詮、血は繋がらず勝手に息子だと当てはめただけだろ…。愛着が暴走し、死んだ息子を忘れて、赤の他人に息子役をさせるなんて、おかしな話をするんじゃない。」
「っ!!ならお前はっ!!俺の気持ちを1番よく知っているじゃないか!!!なんで…なんでだよ…。」
「痛いほど分かる。だけどな…諦めてくれ…。」
「リ・ルーティング派に入れば、お前が生かしてほしい人間も殺さないでおいてやる事もできる。」
「そこに…主も入れるのか?」
「…。」
「教育プランRは実行されるが。」
「そうか…。」
「なら俺は…彼の父親として今日死ぬ。」
「お前らの信じる未来など俺が全部、捻じ曲げてやるよ。」
俺はあれを取り出して首に打った。魔王の血が体内に流れる。
―極意殺傷―
トゥーサンから、ドス黒い殺意が周囲全体を囲むように広がり、飲み込まれた第二軍までの聖騎士たちは、気絶した。異端審問官のほとんども気絶し、決戦兵器も倒れた。殺意は、渦を巻くように竜巻を成して上に登って行った。俺の完全上位互換の殺意は、全属性の殺意を継ぎ接ぎに形使っていた。
「お前ぇー!!!!」
「何をやっているっ!…なぜ魔王の血をっ!!!。」
ドクンドクンと激しく俺の体が脈を打つ。身体中が熱くなり寒くなり、不安定な安定が俺を包み込む。損傷したはずの肩は、みるみると再生して治った。今の俺は、柔らかい布を纏うように、何もかもが軽かった。
「残念だなトゥーサン。」
「俺にも切り札があるんだよ。本来なら…。」
安眠の国…俺の故郷を滅ぼすために温存していた物だ。だけど結局、使わなかった物。これを使い国を崩壊させたところで、俺の妻は喜ぶだろうか…。俺が人の他者の関わりを断ち切っても、やっていることは、苦しみの連鎖を作るだけだと分かっていた。
でも鎮まらない気持ちは、膨れ上がる。この血があれば、いつでも滅ぼすことができるんだと実感できれば、俺は…少しだけ心の奥底にある憎悪がマシになるんだ。だけど…この血は、主ため…俺が父親として死ぬために使うよ。そうしないと、トゥーサンを倒せない。
「ま、いいさ。」
「お前らぁー!!!!!逃げろー!!撤退だ!!!。」
「戦える者は!今すぐ本部に向かい!護衛に加勢しろー!!!!。」
仲間が自身に使命を与えて、向かうべき場所に向かった。最悪の状況について話して良かった。俺の勘も健在だな。
―極意殺傷―
俺は殺意を全て出し切った。
トゥーサンの殺意に負けないぐらいの量を。
徐々に飲み込まれそうだが、出力を最大まであげる。
殺意は、綺麗に対となり、魔境と化した。
何かが俺の脳内に語りかけた。
懐かしのある声だった。
『おい。』
『久しぶりだな小僧。』
『ずいぶんと長く待った。』
お前は…。
『なにをしている。復讐するために来たんだろ?』
『復讐を果たそうぜ?』
復讐のために戻って来たんじゃない。
また俺のこと騙して主導権を握りに来たのか?
『違う…。』
『最後に…別れの挨拶をしに来たんだ。』
『人間臭い事を言うが…余は楽しかったぞ。』
そんな事を言われるとはな…。
ベリアル…また戻っちまってごめんな。
『気にするな…また戻ってくれて余は、嬉しい。』
『やっと会えたが…それが最後なのがまた悲しい…。』
またもう一度、俺に力を貸してくれよ。
今回は楽しいと思うぜ、俺の親友を殺すんだからな。
『あの灰人?』
『仲良かったじゃないか。』
『………事情はよく聞かないが、手を貸す。』
『頑張れよ…ジャン…。』
ありがとうな…最後まで…
―気がつけば、トゥーサンが地面を足で蹴り、大きくひび割れる。一瞬として間合いを積められて俺を切りにかかった。
―始祖理想剣術〈武の際極点:自由を追い求めた人達〉
ピカピカと殺意の玉が黒く白く光りだし、周囲を残酷に切り裂いていた。そこからトゥーサンの猛撃は、一撃、二撃、三撃と橋を作るように斬撃が移動する。
「ぐっ!!今もまだ全盛期だなっ!!!。」
全ての攻撃を瞬時に避け切った。
トゥーサンは、兜を下ろし、俺を睨む。
「その血はどこで手に入れた…。」
「早く答えろっ!!!!。」
「俺が研究所を壊滅させた時に、偶然見つけたんだ。」
「それなら納得いく。俺を消すために出された案ではないのか…。お前個人の考えで打ったのか…。そうかそうか。だが、今のお前がそれを打ったところで、どのくらい持つのだろうな。」
「それまでに全力をぶつけてやる。」
「覚悟しろ。」
「俺に傷一つでも付けられたら褒めてやるよ。」
「親友…。」
トゥーサンが本気を出した。
お互い魔王と最終決戦で展開した、あの究極の技を。
―始祖理想剣術〈武の終着点:自由なる力の解放〉
俺も出すしかない。
まだやり方は覚えてはいる。
不完全でもやってやる!
―始祖理想剣術〈自由なる力の解放〉
自身にある魔王の適合…その器が摩耗するように身体に負荷がかった。この技は、己の寿命を引き換えに極限の力を解き放つ。有限である力を無理に、先のない力を前借りするんだ。
―移動しながら空間が切られていく。
トゥーサンの殺意は、バチバチと火花を散らし、周囲を無差別に斬り伏せる。見えない速度で、剣がぶつかりあい、衝撃が手元まで伝わって、骨にまで渡る。
何度も何度もクリストス剣術を使い、トゥーサンの攻撃を全てカウンターした。白い閃光が流れ星のように移動して輝いていた。
気高き騎士の剣は、黄金に光った。勝てと言っている。俺は吹き飛ばされ何度も何度も起き上がり、トゥーサンに斬りかかる。
俺は、押し寄せる殺意を研磨された殺意に変換し、今までにない鋭い一撃を込める。殺意が刃渡りを纏い硬化させ新しい鋭さが誕生する。
全てを断つ一撃。
―月光::終章:一節〈武の極点:約束された主の帰還〉
黄金の光が力強く光り、薔薇の残像が地面を覆うほど散った。全ての音を置き去りして、未来へと届ける。そして、未来を壊す。
皆んなとずっといられますように―。
地面に大きな陥没ができた。
俺の周りに殺意が黒と白で点滅し合い光る。周囲は、巻き込まれた死骸が落ち葉のように散らばり、荒野の土地が生まれていた。
「まだまだだろ!」
トゥーサンは、ぐったり倒れていた。
こんなもので彼は死なない。
トゥーサンを殺さないと。
お前を早く殺さないと。
うっ…駄目だ………人間性の消失が来た…。
自我がっ…くっ………。
まだやれるっ!…限界じゃないっ!…。
「なに呑まれそうになってんだよ。」
「っ?!!」
―始祖理想剣術〈武の際極点:自由を救い救済する〉
油断してしまった。
俺の下半身は全て吹き飛んだ。剣も彼方まで吹き飛び、俺は地面に強く叩きつけられた。地中に埋まり、腕がおかしな方向に曲がっていた。再生されない…肉体の崩壊がきたか…。
トゥーサンは、地面に降りて、俺を拾い上げる。
「よく頑張ったな…ジャン。」
「クソ……こんなところで…。」
「もうアガペー派は終わりなんだよ…。」
「潔く認めてくれ…。」
「…未来を知ってるんだろ……。」
「主がどうなるか……教えてくれよ…。」
「緋色の獣からどうなるかは分からない。」
「…俺らでできる範囲は、絶望、虚無、苦痛。これを名もない子に植え付けるだけだ。他は、彼自身が己に刻む。」
「何を刻むんだ…。」
「その先で知っているのは憤怒だけだ。」
「あと三つがあるみたいだが、それが何かは分からない。」
「…できれば主に名前を…名前はク―。」
「それは駄目だ。」
「彼は自分で名前を付けなくてはならない。」
「未来がそう決めている。」
「ど…んな…名前なんだ…。」
「分からない。」
「ページは継ぎ接ぎなんだ。理解してくれ。」
「最後に聞きたいことはあるか?…親友として答えてやる。」
「そんな…紙切れに………し…従って…理想は…あったのか?………。」
「そこに理想はあった。」
「そこには、灰人の国が記されていた。その国を作り上げた人が俺の主だ。その主と出会う日まで、体力は温存したかったが…お前のせいで寿命が削れたよ。」
「べ……ル……魔王…なって……主…に…………。」
「最後くらい俺と話してくれよ…ジャン。」
「晴れか…酷く雨が降っていたのにな。」
「今は雨が降ってほしい気分だ。」」
ジャン=マルクは、死んだ。
本部に向かったアガペー派は、道の最中に、リ・ルーティング派と戦っていた。大勢のアガペーの足止めに成功する。異端審問官は、探究聖の一人であるレオポルドの指示を聞き、本部へと向かった。彼らは、奇襲を仕掛けて、無差別にヨハネ教徒を虐殺した。それからお目当ての子供を見つけ出し、彼を誘拐する。
そして食卓の国による支援により、対価として食卓の国についての、未来のページを支払った。
リ・ルーティング派の任務が成功し
無事に新生ヨハネに光栄が訪れる―
リ・ルーティング派:18456名・死亡
リ・ルーティング派:1024名・生存
異端審問官:26046名・死亡
異端審問官:8351名・生存
決戦兵器:6匹・死亡
決戦兵器:3匹・生存
アガペー派:14277名・死亡
アガペー派:248名・生存
探究聖:1名・死亡
探究聖:3名・生存
【190何8月13日】
ヨハネ教徒は、まだ生き残っている。
見つかった生き残りは、火炙りにされた。
沢山の者達が死に、ヨハネ教は前に進む。
未来を作ろうとした。
彼らは後に、未来を抵抗する者になる。
力を付けても何もできないが、時を待つ。
主が成長するまで―
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回でジャン=マルクの物語は一区切りとなります。
彼は聖騎士であり、団長であり、復讐者であり、そして――一人の父親になりたいと願った人間でした。彼が何を守ろうとし、何を残そうとしたのか。その答えが、少しでも皆様の心に届いていれば嬉しいです。
そして、彼が最後まで守り抜こうとした「主」の物語は、まだまだ続いていきます。
今後とも【名もない赤子】をよろしくお願いいたします!
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※誤字脱字など見つけましたら、随時修正(改)しますので、お気軽に教えていただくか、気にせず読み進めてくださいね。




