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めぐる季節  作者: 恵奈
7/12

秋。の後日談




「ただいま」

「おかえり~っ、パパ出張から帰ってるわよ?」

「はーい」


 靴を脱いでいると、パタパタとスリッパの音が近づいてきた。

 めずらしい、ママがあたしのお出迎えなんて。


「美咲」

「?」


 ぐっと顔を近づけて、じーっと至近距離でママが顔を見つめる。

 なんだろうと思ってそのままジーっと見つめ返す。

 どれぐらいの時間だったかわからないけど、気の済んだママがにっこりと笑いながら距離を通常値に戻した。


「ねえ、今の何?」


 訳がわからない。

 くすくすと笑いながら、ママが指で大きなマルを作った。


「安藤さんて本当に文句のつけようもないくらい理想的なお相手ね」

「どういうこと?」

「美咲ちゃん、まだ乙女のままでしょう」


 こっそりと耳打ちされる。


「え?……えっ、えええっ?」


 一瞬あとにその言葉の意味に気づいて声を上げた。

 なんでわかったんだろう。

 乙女のまま。

 つまりママ的に未経験だと指摘されて、一気に顔が赤くなる。


「マ、ママ、なんで?」

「だってやっぱり娘をそう簡単にどうぞ、なんて差し出せないもの。安藤さんにもさり気なーく釘刺しておいて正解だったわぁ」

「安藤さんに?なにそれ知らないよ、いつの間に?」

「気づかなかったのね、美咲も横にいたわよ?」

「知らないよ、わかんないって。そもそもなんでそういうことわかっちゃうの?」

「あら。もし何かがあったとして、あなたママの視線をさっきみたいにそらさずにいられる?」

「あ…今のってそれのチェックなわけ?」


 確かに。もし昨日の夜に何かがあったとしたら、後ろめたくて視線そらせちゃうかもしれない。

 一大決心だったのに。……だからこそママにも相談したのに。

 まだまだあたしは手のひらの上にちょこんと乗っていたんだと、むなしい気分。


「まあほかにもいろいろあるけどね。ふふん、母親をなめちゃダメよ~?」


 勝ち誇る母親の顔を呆然と見つめる。

 思ってたよりも険しいかもしれない。理解ある協力者は、強力なストッパーでもあったわけで。


「……降参です」


 そう言って両手を挙げた。

 安藤さんの言ってた「いろんなこと」って。

 こういうこと? 



 後日、真亜子さんに会いに遊びに行ったら、件のママとのやりとりとまったく同じようなことがあって。

 自分がしたことを棚に上げながら。

 かわいそう……。

 苦笑いしていた安藤さんの姿を思い浮かべた。





安藤氏の訴え。


ったく。

一体僕に何ができたんでしょうね。

「どうぞどうぞ」と言いながら、

僕には「手を出せるものなら出してみろ」としか聞こえませんでした。

にこにこと微笑みながらのこの仕打ち。

はぁ・・・・・・・・・っ。

ひどいですよ、まったく。

この限界値まで引き伸ばされた理性の糸、

涙ぐましい忍耐力に対して

それ相応のご褒美を頂きたいものですが。

冬には報われるんでしょうね。


とにかく。


かならず僕の期待にこたえてください。

絶対ですよ。約束しましたからね。

もし約束が果たせないときは……

どうなるかわかってますよね……?


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