深まる、秋。2
次の日曜日、あたしは安藤さんの自宅の最寄り駅のロータリーに立っていた。
たぶんもうすぐ迎えに来てくれる。
これは初デートにカウントしてもいいのかなぁ?
キョロキョロと辺りを見回したあと、小さな鏡を出して最終チェック。
期間限定だったあのお店がクローズして、安藤さんは山の手にある自宅で本格的な工房を構えて活動する予定だと聞いている。
あたしがぜひ覗いてみたい、と言って。
片付ける時間さえくれたら、と。昨日の夜ようやくOKの返事が聞けた。
お店をやる前は港のほうの倉庫を何人かで共同で借りてたらしい。
そこを引き払った理由はいろいろあるらしいけど、少し足の不自由なお母さんが一人で住んでるのが心配だから、っていうのがたぶん一番の理由。
たぶん、安藤さんはかなりのお母さん思い。
お父さんは小さいころに亡くなってるらしくて。
それ以来母一人子一人だったっていうから当然かもしれない。話を聞いてる限り、優しそうなおっとりしたお母様を思い浮かべてる。
今日、そのお母様にも会えるかもしれないから、その辺もちょっとどきどき。
安藤さんに会えるのは3日ぶりだった。
今まで毎日会えてたことを思い出すとちょっとさびしかったけど、恋愛してる今は会える嬉しさが3倍にはなってる気がするから帳消し。
今日も髪ははねてるのかな。
そういう些細なことを考えるだけでも、すごい幸せだったり。
今回初めてお仕事なしのデート。
服も昨日よりもかわいさ優先。白の刺繍入りチュニックにデニムのスカートを合わせてきた。少し丈が短くてちょっと足元が気になる。いつもジーンズだったし。
安藤さん、可愛いね、とか言ってくれるかなぁ。
そんなことを考えてたら、思い切り油断した。
心がうきうきしてる証拠。
こっそりと背後に回った安藤さんに声をかけられて、思わず飛び上がった。
「一人で楽しそうにして笑ってたから。つい」
くすくすと笑われてしまう。失敗した。
「たとえば。……安藤さんのことを考えていたから、とか。そう思いません?」
「そうなの?」
わざとらしいくらいに作られた表情は、言ったこっちのほうが恥ずかしくて。
「う……」
たぶん何もかも見透かされているのに、素直にうんと言えなくて口ごもってしまった。。
駅前から5分ちょっと歩いて案内されたのは。
この街に似合いの少し古くて、だけど雰囲気たっぷりの洋館。
小さいけどきちんと両開きの門があって、その横はシャッターつきのガレージ。門から玄関の扉まで続く小道は英国風ガーデンの装い。
さりげなく置かれたシャビーなジョウロや木箱がまたイイ感じ。
「これは安藤さんのお母さんの趣味?」
「そう。足が痛いなんて言いながらも暇を見つけては手入れしてるよ。代わりにするといっても僕には触らせてくれない」
そう言って安藤さんが肩をすくめる。
「そうなんだ。……すごい素敵」
「うん。春になるともっと色鮮やかになるよ」
「うちもママが庭弄りが好きでやってるけど、全然違う。ここはどこから見ても絵になるって言うか、どこを見てもキレイなんだけど、全体でひとつの作品みたいで。ママもこんなふうにステキにやってくれるんだったらいいのに」
ないものねだりというか。安藤さんのお母さんみたいなセンスがうちのママにもあれば、ってどうしても思っちゃう。それぐらいステキなお庭。
「気に入っていただけた?」
見とれて言葉も出ないあたしの耳に届いたのは優しい声。
「母さん」
安藤さんの呼びかける声もすごく優しくて。
いつの間にか開いていた玄関の扉から姿を現していたのは、うちのママよりもう少し年齢を重ねていそうなマダム。
マダムなんて言い方変かもしれないけど、あたしがイメージするとそんな感じ。
白のゆったりとしたワンピースに小花柄のショール。ふんわりした髪と優しそうな表情に、安藤さんの面影が見て取れて、間違いなくお母さん似だと感じた。
「は、はじめまして。小野原美咲です」
安藤さんの自宅訪問ということで、一応昨日からいろいろとシュミレーションしたのに、出だしからとちるし。あわててぺこんと頭を下げた。
「こんにちは、美咲ちゃん。彰人が話してたとおり、かわいらしいお嬢さんね」
そう言って、くすくすと可愛い笑い声が続く。
「母さん」
軽くいさめるような口調。
っていうか、安藤さんあたしのことをちゃんと話しててくれたんだ。ちょっと内容も気になるけど。
「はいはい、お邪魔はしません。美咲ちゃんどうぞごゆっくりね。褒めていただいたお礼に少しだけどお花をお分けするから帰りに声をかけてもらえるかしら。お部屋に飾っていただけると嬉しいわ」
「あ、ありがとうございますっ」
にっこりと。柔らかな印象だけを残してゆく。
「美咲ちゃん?」
ほっと息をついた安藤さんがあたしを振り返る。
「ちょっと余韻が……」
なんていうんだろう、うちのママとは本当に違いすぎ。
今までに会った友達のお母さんたちとも違いすぎる。
とてもじゃないけど、おばさん、なんて呼びかけられない。
「安藤さんのお母さん……お名前なんておっしゃるんですか?」
「どうしたの突然。真亜子だけど」
「まあこ…サン。えと、安藤さんのお母さんのこと、真亜子さんってあたしが呼んだら失礼になっちゃいますか?」
「いや。どっちかというと喜ぶとは思うけど。どうして?」
「なんとなく…」
「いいよ、好きに呼んで。おばさんでもおばちゃんでも」
「いやいやいや、そんな風にはとても呼べる感じじゃないからですっ」
「気にしなくていいのに」
「そんなわけには行きませんから」
あたしがこだわってしまう理由はどうしても安藤さんには理解しづらいようで。一応認めてもらえたわけだからと、説得をあきらめた。
「えっと、安藤さんのアトリエって」
「ああ、それはこっち」
玄関に入るわけじゃなく、反対側の庭の一部かと思っていた木製の扉を指差した。
「母屋から行けなくもないんだけど一応別棟かな。小さいときに死んだ父親が絵を描くために作った建物だから古いんだけど僕が仕事するにはちょうど良くて。母屋にも一応僕の部屋はあるけど、寝る時間とかずれてちょっと気を使うから、夏の間にこっちに住めるようにリフォームしといたんだ」
先ほどの英国風ガーデンとは違ってごくシンプルに芝生の中庭。
白いガーデンテーブルのセットが真ん中にあってその左と右に建物があった。
左手にあるのが母屋。レースのカーテンがかかった大きな窓からはリビングでくつろいでる真亜子さんの後姿が見える。
右側に見えるのは母屋とは少し趣の違うモダンでシンプルな一階建て。母屋の外装のレンガと同じ色の壁で、屋根は黒。大きな掃き出し窓が3枚あって、内側の様子がここからでも少しわかる。
そして安藤さんの言うとおり、正面の板塀に見えるようにつくられているのが母屋とつなぐ通路になってるみたい。
「せまいけど、ね。すごしやすいよ」
「お邪魔、します」
濃い色の大きな扉を開けるとそこは安藤さんの世界。
真亜子さんとは違う趣味だけど、やっぱり親子。安藤さんのセンスってすごい。
彫金デザイナーなんだからその辺当たり前なのかもしれないけど、私にしたらほんとに雑誌やテレビで見て憧れるだけだったお洒落な雰囲気。
20畳ほどのワンフロア。
プライベートになる部分とアトリエになる部分を分けているのは私の背ぐらいのパーテーション。
こちら側には見慣れた彫金の道具が並んでいて、オープンなアトリエスペースになっている。
玄関に面して作られてるカウンター部分はパソコンスペース。
一緒に撤退作業していたBOXやトランクはきちんと背の高い収納棚に収まっていて、テーブルに作業中のアイテムがあるにもかかわらずすっきりと広い空間になっていた。
見上げれば、高い天井。壁はしっくいで真っ白、むき出しになった天井と梁や柱、床は全部濃い茶系色。
ポイントはステンレス?使ってるライトとか、備品は全部シルバー。そういうのがいちいちお洒落で。
「どう?トイレもあるし、ミニキッチンとシャワールームも設置したから実質ワンルームマンションと同じ。つくづく思ったよ、アトリエと住居が一緒って便利」
やさしく促してくれる安藤さんの手に押されてゆっくりとアトリエを見回す。
「美咲ちゃんならどう言うかな」
「はい?」
めずらしく得意げな表情をしてる安藤さんが手のひらで示したのは、プライベート空間を守ってる安藤さんと同じくらいの高さの仕切り壁。アトリエ側のその壁一面全部、ショーケースが設置されていて完成された作品が綺麗にディスプレイしてあった。
ちょうど正面にある窓からの光を受けてきらきらと反射している。
「~~~~~っ!」
言葉どころか、声にもならない。
並んでるもののほとんどがすでに見たことがあるものとはいえ、限定オープンのお店とは違って専用にセッティングされたショーケース。
見事としか言えない。
「ああああああ、こんなの見せられたら、あれもこれもほしくなるじゃないですかっ」
「あはは、じゃあ在庫処分するときは一番に美咲ちゃんに選んでもらおうかな」
在庫処分なんてする必要がないくらい次から次へと売れていったのを知っているだけに、そう言われても喜べない。
ここにあるのだって、ネットショップに並べたら1週間後にはSOLDOUTに決まってる。
「いいです、コレクションするのも好きだけど本当は身につけるのが一番好き。どんなにたくさん持ってたって飾る身体はたった一つで限界があるもん」
「そういうとこがいいんだよね、本当」
ふっと光がさえぎられたかと思うと後ろからぎゅっと抱きしめられてしまった。
「こんなふうに身に着けてもらえるのが僕の本望で、大事に宝石箱の中にしまいこまれてるのはいやなんだよね、正直」
安藤さんの手があたしの左手を光の中に差し出した。
初めて自分で買ったピンキーリングと、初めて安藤さんにもらったラピスラズリのステディリングが光をともす。
「これも」
【LINE】シリーズのピアスをつけた耳に、かすめるように唇が触れた。
「……っ」
胸の奥に何かが刺さるような、期待と不安が一挙に押し寄せて。
いったいどうリアクションすればいいか考えた瞬間に、安藤さんの腕が解けた。
「何か飲もうか?」
見上げれば、いつもの穏やかな笑顔。
あたしはとたんに恥ずかしくなってこくんと黙ってうなずいた。
「と言っても。ここにはコーヒーぐらいしかなくて。かまわないかな」
「は、はい」
キッチンに安藤さんの姿が隠れたのを確認してから、大きく息を吐き出す。
耳たぶに触れた熱い息の余波。
どきどきと最高スピードで打つ心臓をゆっくりとペースダウンさせていく。
安藤さんにしてみれば何気ない動作だったのかもしれないけど。あたしにとっては穏やかでいられない。
たぶん、その辺の事情も見透かされてるとは思うけど。
何も言わなくてもテーブルに用意してくれたお砂糖とミルクがちょっと嬉しい。
安藤さんはブラック党。あたしは両方。
ちゃんと覚えてくれてる。
心臓がようやくいつものリズムを取り戻したのを確認してテーブルに向った。
「このあとどうしようか」
彫金の作業台とは別のテーブル。
緑のきれいな中庭を眺められるように角をはさんで並んで腰掛ける。
ときおりコーヒーの湯気が揺れて安藤さんの眼鏡がうっすら曇るのを見つめた。
とりあえずあたしが希望していたアトリエ見学は終了したわけで。
まだ時刻は昼にもなってない。
「美咲ちゃんはどこか出かけたいところある?」
「あたしは……」
正直安藤さんと一緒にいられればそれだけでいいんだけど。
こくりとコーヒーを一口。
迷った末にゆっくりと首を横に振った。
「それなら。せまくて悪いんだけど、僕の部屋に招待しようかな」
そう言ってにっこり笑うと立ち上がって、パーテーションのほうに歩み寄る。
「こっちへどうぞ。ずっとくつろげるから」
見たい、って。
どうしても自分からは言い出せなかった空間。
もし、ダメって言われたらへこんじゃいそうだったし。
にこりと誘うような笑顔のあと、安藤さんの姿はその奥に消えて。
そのあと空間全体に響くように軽快なジャズ音楽が聞こえてきた。
ゆっくりと立ち上がり、恐る恐る安藤さんのプライベートな部分に踏み込む。
だって、アトリエっていうのはある意味パブリックスペースで。
雰囲気はまるで違うけど、位置的にお店をやっていた場所と同じレベル。
だけど、この先は。
あたしが安藤さんの『彼女』だから入れる場所。なんだと思う。
マットレスだけの大きなベッド、ふかふかのファーマット、ローテーブルにテレビ、ステレオ、スチールラック。くつろぐのに必要なものだけがおいてあるような空間。
「ようこそ、僕の部屋へ」
遠慮がちなあたしの手を引いて、多分いつも安藤さんがくつろいでる場所に座らせてくれる。
コーヒーを取りに行った安藤さんの背中を見送ってから上を見上げると、天井の真ん中に細長い天窓。
そこからの光だけでこの空間の中は充分に明るかった。
居心地がいい。
確かに安藤さんの言うとおりくつろげるスペースなんだけど。
戻ってくる安藤さんの顔をまともに見られないほど、胸がどきどきして痛かった。
安藤さんはテーブルの上にコーヒーカップを並べると、すぐ隣に腰を下ろした。
その拍子に軽く触れただけの腕がピリッと痛んで、思わず身体がこわばる。
「緊張してる?」
優しい声が隣から振ってきて、あたしは迷った末正直にうなずいた。
「しなくてもいいよ、って言ってもきっとムリだろうね。だから……」
一度糸を切っちゃおうか、って。
そのまま一瞬で抱き上げられて。
安藤さんのひざの上、すっぽりと抱きしめられていた。
ぎゅーっと丸められるみたいに強く抱きしめられたあと、腕だけが開放されて放置される。
どうしようか迷って、ゆっくりと安藤さんの身体を抱きしめ返す。
「落ち着くまでこうしてるから、身体預けていいよ」
そう言われてはいそうですかとできるものですか。
少しずつ身体を動かして、少しずつ安藤さんに身体を預けて。
同じくらいの力でお互いの身体を抱きしている、と思えたところでそっと息を吐き出した。
深い深呼吸を何度かしてからおそるそる声をかけた。
「あの。……呆れてません?」
「ぜんぜん。むしろ意識されてる、って思って僕はうれしいかも」
ああ、やっぱり見抜かれてる。
ちょっと油断してたから、あたし。
前に付き合ってた男の子の部屋とこんなにも違うのか、と驚いた。
ベッドのほかに勉強机や本棚があるだけで、その空間は少し幼くなってあたしを安心させた。
だけどこの部屋に入ってみると、ワンルームなのにアトリエときちんと切り離されていて。
大好きな男性のプライベート空間だと思うと、場違いのような恥ずかしさがこみ上げてきてしまった。
まだあたしが知らない安藤さんの違う部分が伺えて、戸惑ってしまう。
オトナのオトコなんだと。
そう思ってるのを知ってか知らずか、大きな手のひらがあやすようにあたしの頭をなでる。
「ダイジョウブだよ、って言ってあげたいんだけど。やっぱりこうして抱きしめたいし、キスぐらいしてもいいかなと、僕も考えてしまうので」
「それは……あたしも一緒、かも」
安藤さんのぬくもりと私のぬくもりが混じっていく。
どきどきしてる胸の音はちっともペースダウンしないけど、もう痛くはない。
「良かった」
そう言って、身体を少し離して顔を覗き込まれる。
ああ、この距離って恥ずかしくてたまらない。
安藤さんのほうには余裕があって、あたしにはなくて。
見てしまうのは、形のいい鼻とか唇とか。とてもじゃないけどすんなり見つめ返すことがなかなかできなくて。
しばらくそうやってると流れてる音楽が次の曲に変わった。
そこでようやく安藤さんが私のどこを見てるんだろうと気になって視線を上げた。
思ってたとおり、ばっちり視線が絡んじゃって固まる。
反対に、安藤さんの表情は崩れた。
「そこで固まっちゃったら、食べられちゃうって」
それは嬉しいときの表情でしょうか。
ゆっくりと距離が近づいていくけど、まばたきすら止まったあたしは目を閉じることもできなくて。
眼鏡のフレームが間近になるまで、安藤さんのまぶたに釘付けになっていた。
「美咲ちゃん……」
触れた唇が、あたしの名前をつぶやく。
ああ。声も、この唇も、大好き。
ようやく目を閉じたあたしを確認するように離れて。
また、触れる。
唇同士が弾んでるように、なんども触れては離れて。
また、触れる。
ふんわりとコーヒーの香りがするのは、あたしの唇?それとも安藤さんの唇?
少し角度を変えて、安藤さんの唇が私の唇を挟み込んで。また違うところを甘く食んでいく。
今までのキスは触れて離れて。それで終わりだったけど今度は違う。
こんなにもゆっくり安藤さんの呼吸を感じながらするキスは、初めて。
あたしはそれをうっとりと受け止めていた。
安藤さんのキスは、すごく気持ちがいい。
「かわいい」
大きく息を吐く気配がして目を開けると、安藤さんが唇を目いっぱい横に広げて笑っていた。
「止まらなくなりそうなので、この辺で」
ほとんど止めていた状態の息をそろそろと吐き出して。
顔を見られなくても済むようにもう一度安藤さんの方に顔をうずめた。
「キスまでで、イイですか?」
キスに続きがあることは知ってる。今はまだあたしにとって未知の領域だけど。
絞り出した声をちゃんと受け止めてくれた安藤さんの、ふっと笑う気配。
「そう簡単に進めるものじゃないからね」
「あたしが。その……初めてだから?」
「それも少しは、ね」
「?」
「僕とそういうことをしたいなと思ってくれてるのだとしたら、それはとても嬉しいけど。心配もある。無理に背伸びをする必要はないよと言ってあげたい。それとも好奇心かな」
そうかもしれない。
ちょっと冷静になれた自分がいて、肩から力が抜けた。
「……」
ポンポン。大きな手のひらがあやすように背中をたたく。
「あせらなくていいし、急ぐ必要もないと思うよ。こういうことは」
「安藤さんは…それで平気?」
「ボクの心配?大丈夫。こういう時間も楽しいと思うから」
「うん。でもね…好奇心もあるけど……不安や怖さもあって。それでも安藤さんとならそうなってもいいかなって思う」
うん、ありがとう。
音になりきれない言葉が聞こえた気がした。
だけど次の瞬間には顔を覗き込まれてて、いつもとちょっと違う安藤さんの表情が見えた。
「もしかして、さっきのキスじゃご不満ですか?」
「えっ、そ、そんなことは……」
たぶん必死で弁解なんかしなくても、わかってるんだろうけど。
「もう少し本気でキスしてみようか?」
「え?……あっ……あのっ」
ほ、本気のキス!?
って。
これぐらいのことでうろたえてるようじゃ、まだダメってコト。
安藤さんが軽く笑ってあたしをしっかりと抱きしめた。
「心配しないで。キミは充分魅力的だし、僕の我慢にも限界はある。だけどもうしばらくこのままで。不安や恐怖が消えてしまうまで」
「……ハイ」
まだまだお子様なあたしで。……ゴメンナサイ。思わず心の中で謝った。




