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女性が怖い僕でも、君の手は怖くなかった  作者: パーカー


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8/8

今日を選ぶ

終わりは、

何かが解決する瞬間とは限りません。

怖さは残ったまま。

不器用さも、そのまま。

それでも、

「今日」を選び続けることができたなら、

それは十分な答えです。

これは、

完璧にならなかった二人の、

いちばん誠実な結末です。

図書館の奥の席。

それは、佐伯 恒一と水野 玲奈が出会った場所だった。

「……ここ、最初に話した場所ですよね」

玲奈が、少し懐かしそうに言う。

「……はい」

恒一は、周囲を見回した。

特別なことは何もない。

いつもと同じ机、同じ椅子、同じ静けさ。

でも——

もう、ここは「安全地帯」だけじゃなかった。

「恋人、って……」

玲奈が、ゆっくりと言葉を選ぶ。

「何か変えなきゃいけないのかなって、少し思ってました」

恒一は、正直に答えた。

「……僕もです」

「……キスとか、将来の話とか……」

そこで言葉を止めて、照れたように笑う。

「正直、全部ちょっと怖いです」

恒一は、その“怖い”に、強く頷いた。

「……僕も……同じです」

沈黙が落ちる。

でも、気まずくはなかった。

玲奈は、そっと言った。

「でも……」

指先で机をなぞりながら。

「今日、こうして隣にいられるのは……怖くないです」

その言葉が、胸に響く。

恒一は、深く息を吸った。

「……僕は……」

言葉にするのは、まだ慣れない。

「……先の約束は……できないかもしれません」

「……普通の恋人みたいにも……できないかもしれません」

玲奈は、黙って聞いている。

逃げない。

急かさない。

「……それでも」

恒一は、初めて自分から、彼女の手を取った。

「……今日、一緒にいることは……選べます」

小さな勇気。

でも、確かな意志。

玲奈は、目を見開いてから、

ゆっくり微笑んだ。

「……それで、十分です」

彼女は、その手を握り返す。

強くはない。

でも、離れない。

「未来は、怖くなったら考えましょう」

「今日は、今日で」

二人は、立ち上がった。

図書館を出て、夕暮れの道を歩く。

手は、自然に繋がっている。

「……好き、です」

不意に、玲奈が言った。

恒一は、立ち止まる。

心臓が跳ねる。

でも、逃げなかった。

「……僕も……好きです」

初めて、ちゃんと口にした。

それだけで、胸がいっぱいになる。

キスは、しなかった。

約束もしなかった。

でも——

今日を選んだ。

怖さを抱えたまま、

それでも隣を選んだ。

それが、

二人の恋のかたちだった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

この物語には、

劇的な変化も、

わかりやすいハッピーエンドもありません。

あるのは、

逃げなかったこと。

選び続けたこと。

隣にいたこと。

それだけで、

人は救われることもあるのだと思います。

怖さは、克服するものではなく、

理解しながら一緒に生きていくもの。

二人はきっと、

明日も同じように立ち止まり、

同じように悩みながら、

それでも隣を選ぶでしょう。

その「今日」の積み重ねが、

いつか未来と呼ばれる日まで。

この物語が、

あなたの心に、

静かな温度を残せていたなら、

それ以上の結末はありません。

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