表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/13

プロローグ 世界は、救われた。

魔王が討たれ、空を覆っていた黒雲は晴れ、街道には再び商人の列が戻った。

吟遊詩人たちは広場で歌う。勇者の剣、聖女の祈り、賢者の知恵。

物語はそこで終わったことになっている。


だが、石畳の裏に残された血の染みや、戻らぬ兵の名を刻んだ木札は、歌にはならない。


王都西門の倉庫で、俺――エイルは帳簿を閉じた。

魔王討伐遠征の最終報告書。

英雄たちの名前は金文字で記され、その末尾に、細い字でこう添えられている。


「補給係 一名」


それが、俺の役割だった。


剣は振れない。魔法も使えない。

できるのは数を数え、道を覚え、言葉を選ぶことだけだ。

だが遠征中、食料が一日でも遅れれば全滅していたし、地図が一枚間違っていれば勇者はここにいなかった。


それでも、解散式で俺の名は呼ばれなかった。

勇者は笑い、民は喝采し、世界は前へ進んでいく。


式の翌日、勇者パーティは正式に解散した。

残されたのは、未回収の物資、未払いの契約金、放置された約束、そして――救われたはずの世界が抱える、数え切れない歪み。


「これ、誰が片付けるんだ?」


倉庫の奥で、腐りかけた保存食を前に、俺は独りごちた。

答える者はいない。


英雄譚は終わった。

だが、後始末は始まってすらいない。


俺は剣を持たない。

名も称号もない。

それでも帳簿を抱え、外套を羽織り、王都を出る。


――物語は、ここから始まる。

勇者のいない場所で、脇役だった俺から。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ